逆観の楔
刃の背のように鋭い夜気が、頬をかすめる。
峠の仮本営を包む空気は、夜明け前がいちばん深く澄み、遠い焚き火の跡から、樹脂が焦げる甘い香りが微かに漂った。
隣に立つヴォルフの横顔が、黎明の光を弾き、冷たい彫像のように浮かび上がる。
その逞しい肩は、この世界のすべての重みを静かに担うかのようだ。
引き締まる空気の中、彼の存在だけが、確かな熱を孕んでいた。
「まず――プランB〈固有時制御〉は却下。これだけは、絶対にあり得ないわ」
思ったよりもずっと静かな声。
けれど、闇の大地へ揺るぎない柱を打つように、凛と響いた。
切り立った岩肌がその響きを孕み、夜の芯をわずかに震わせる。
ヴォルフはゆるやかに瞼を伏せ、短く息を吐いた。
霜を纏った呼気が闇に漂い、硝子細工のように砕けて散る。
「……ああ、完全に同意だ」
その声音に、もはや安堵の色はない。
深く、濃く沈んだ決意だけが宿り、わたしを映す瞳の奥には、岩盤のような信頼が静かに鎮座していた。
わたしはその視線を正面から受け止め、一度だけ深く瞬きを落とす。
冷たい静寂が、心の水面に波紋を置いていく。
「何かを得るために何かを諦める――そんな言葉は、もうわたしの辞書にはないの」
無意識に、そっと手が腹部へ降りる。
そこに宿る小さな命が精霊子を介して柔らかな熱を伝え、それがわたしの決意の刃をさらに強く、鋭く磨き上げた。
ふ、と彼の唇から、堪えきれないといったように短い息が漏れた。
深い夜の色を湛えた瞳に、微かな笑みが灯る。
「よく言った。
……欲張りであれ。お前が望むなら、愚かだと言う者はどこにもいない」
「……ありがとう」
胸の奥で温かな何かがふわりと膨らみ、わたしたちだけの半径を描いた。
視界の隅で、レシュトルの通信アイコンが脈動し、淡い蒼を強める。
ぴん、と緊張の糸が張り直り、心拍がひときわ高く跳ねた。
空気が頬を撫で、吐息が細くほどけてゆく。
《プランB排除を記録。代替案を要請します》
蒼いホログラムの文字列が瞬き、鼓膜の奥で低い脈動と重なり合う。
それが心臓の跳ねなのか、回線の同期音なのか、判別すら曖昧になるほどに。
無機質な声が頭蓋の内側で澄んだ鈴のように鳴り、夜の静寂をひときわ透明にした。
ヴォルフは腕を組み直し、胸板を通る深い呼吸で峠の冷気を押し返すと、低く、静かに口を開いた。
「であるならば、残るはプランAということか? だが、あれは既に否定したはずだ」
「そうね」とわたしは頷く。
声に触れるたび、東雲の薄光がかすかに揺れ、峠の影を静かに濃くしていった。
言葉より先に、喉がひくりと小さく震える。
冷え切った黙夜が、肺の奥の隅々まで満ちていく。
頬をかすめる風はわずかに湿り気を帯び、凍てた羊皮紙の乾きを運んでくる。
「理屈だけなら、あれは最適解だったわ。でも、その裏には……致命的な罠が潜んでいた」
隣でヴォルフの顎がわずかに強張り、視線が焚き火の跡へと流れた。
赤黒く残る炭を踏み砕くかのような、無言の圧力が、空気をわずかに重くした。
一拍遅れて、レシュトルのホログラムに淡い走査線が走る。
《プランAのリスクを要点三つ。300秒で盾が尽きる。巣窟化の恐れ。続戦は不可》
「つまり“長持ちしない盾・地獄の種・次はない”。握った」
わたしはマントの端を指先で抓み、鼓動の速さを布越しに確かめるように、きゅっと強く握った。
《以上のことから、プランAは敵がこちらの切り札を完全に把握している場合、我々を消耗させるためだけに仕掛けられた、最悪の“罠”になり得ると判断されます》
蒼光がぱっ、と闇に散った瞬間、刃の背で肌を撫でられたような鋭い緊張が、背筋を駆け上がる。
籠手の縫い目に凍気が入り、革が強ばる。
レシュトルの無慈悲な結論を受け、ヴォルフが低く唸る。
喉の奥でくぐもる怒りが鎧へと共鳴し、鈍い金属音が一拍だけ震えた。
「二次爆縮の力を受け止めれば、地下坑道に逃げ延びた人々への被害は抑えられる。だが結局、それと引き換えに――ハロエズ盆地が、人の住めない地獄と化すのは避けられんということか」
「そうなれば、汚染の活性度が下がるまでの永い歳月、盆地全体を軍勢で包囲し、封鎖するしかなくなる。……あの、ハムロ渓谷のようにね」
「……そうだな」
ヴォルフは肩越しに、闇に沈む盆地へと視線を投げる。
わずかに身じろぎすると、鎧が氷の粒を弾き、硬い音が夜気に溶けた。
胸の奥で押し殺した唸りが一度だけ脈を打ち、冷たい吐息となって吐き出される。
吐息は刃の薄さで切れ、寒空へと散った――まるで、いまだ癒えぬ大地の痛みを、そのまま映しているかのようだった。
彼の言葉が岩壁に反響し、峠の空気がひときわ冷たく引き締まる。
「これだけの規模となると、サニルとリーディスの二国だけではまるで手が足りない。周辺諸国を巻き込み、連合軍で対処する他なくなるだろう」
重い宣告の余韻が残る中、彼は指先で眉間を押さえた。
甲冑の小手が額の汗を拭い、細い月光が金属の縁を淡く撫でる。
視線は盆地の暗がりへと斜めに落ち、その底知れぬ闇を探るように滑っていく。
息は鋭くほどけ、宙で砕けて消えた。
「魔石の利権を巡って足並みが揃わず、すぐに綻びが生まれるのが目に見えている」
呟きに混じる、渇いた諦念。
口の端に薄い笑みが浮かぶが、蒼の眼差しは猛禽のように鋭く辺りを掃いている。
彼の肩甲がわずかに上下し、鎧の継ぎ目がきしむ。
「そうね。ろくなことにはならないわ。この時代にはまだ、あの《禁域資源・魔獣災禍収益分配条約(通称:銀環条約)》なんて、影も形もないのだから……」
言いながら、指先で空気を掬い取る。
手袋越しに触れた風は、魔素を孕んで棘のように冷たく、肌を刺した。
魔獣巣窟を巡る現在の国際慣例は、あまりに単純だ。
災厄は、見つけた国のもの。かの銀環条約は、その剥き出しの打算を覆す苦肉の妥協だった。
夜気の底で盆地をなぞるヴォルフの背が、微かな空鳴りとともに揺れる。
遠い稜線に、ほのかな暁光が滲み、結晶雲の縁を薄紅色に染め始めた――世界の境目が、静かに色を変えようとしていた。
短い沈黙を切り裂くように、ヴォルフが喉の奥で岩を転がすような低い唸りをもらし、「それについては盲点だったな」と呟いた。
声は淡い悔恨を帯び、甲冑の胸板を震わせる。
吐き出された白霧が刹那で粉々に砕け散り、薄闇にかすかな熱を残した。
わたしは彼の広い肩越しに闇の盆地をさらう、そっと首を振る。
マントの裾が薄氷を擦り、固い衣擦れの音が、二人の間の沈黙を縫い止めた。
「ええ……頭の隅にはあったのだけれど、完全に後回しになっていたわ」
自嘲交じりの笑いが喉の奥でかすれ、すぐに真剣な響きへと上書きされる。
獣の息遣いのような微かな風が耳元を掠め、空の暗さがひときわ濃く感じられた。
「それはひとまず置いておきましょう。レシュトル?」
《なんでしょうか?》
蒼いアイコンが闇の隅で脈打つ。
淡い光が霜の粒を照らし、まるで小さな星が地上に降りたかのように煌めいた。
わたしは深く呼吸をし、冷え切った指先で視界をなぞるように、空へと指を伸ばす。
凍てた空気が指の周囲で薄い霧を結び、すぐに溶けて消えた。
「現在の状況と、二次爆縮に至るまでの過程を、もう一度整理してちょうだい。再検討の参考にしたいの」
一拍。
張りつめた沈黙が、静電気のように髪を逆立たせる。
《了解いたしました》
レシュトルの声は澄んだ鐘の音のごとく夜を貫き、盆地の闇を少しだけ緩めた。
《現在はエネルギーの凝固と“心臓”形成の段階にあります。一次拡散で散逸した魔素が再び爆心地へと収束し、旧首都の上空に『結晶雲』を構成。その中心に、高密度のエネルギー核が存在しています》
ホログラムの走査線が闇を切り裂き、盆地の中央で脈動する雲の輪郭を、淡く浮かび上がらせる。
深い紫色に燐光が滲み、まるで大地そのものが脈打つ胎動のようだった。
「そして、本来進むはずだったカウントダウンが――18分で凍りついている」
《はい。敵対知性が意図的に解放を停止させています。こちらを誘い込むための罠である可能性が、極めて高いと判断されます》
「巫女と騎士が踏み込まない限り、爆縮は始まらない。まだ、猶予は残されている……ということね」
言い終えた瞬間、喉仏がかすかに跳ねた。
冷気が肺を満たし、吐いた息が刃のように白く揺れる――わずかに震える指先を、マントの影でそっと絡め直す。
薄闇は湿った鉄の味を帯び、氷の粒が頬を刺すたび、意識が研ぎ澄まされていく。
レシュトルの音声が、星屑を降らすように、淡く低く耳朶を打った。
《いずれは臨界を超え、第二次爆縮が開始されます。平均猶予は2日から4日。最長記録は7日です。
爆縮が開始された後、結晶雲から投下されたエネルギーは地表で圧潰を始め、『次元境界』に亀裂――すなわち“穿孔”を発生させます。そして、その中心点には、時空間の特異点〈渦心〉が形成されるでしょう》
「……そして、その渦心からの圧力が、首都の直下にある地下坑道を圧壊させる」
唇に触れた言葉が霧散する刹那、胸の奥で脈が重い鉄槌のように鳴り、霜を孕んだ風が頬を掠める。
間に合うかどうか――そのたった一行が、喉に苦い鉛を落とした。
同時に、ヴォルフが視線を上げた。
レシュトルへ、視界の共有を求めたのだろう。
蒼いホログラムが一瞬だけ強く脈を打ち、暗闇の地図に、細い光の点がいくつも浮かび上がる──地下の迷宮を縫うように進む救助隊の位置。
ゆっくりと脈動しながら進む、青い粒子の群れ。
その光はあまりにかすかだったが、闇の奥底で確かに息づく、命の瞬きのようだった。
ヴォルフの視界へと送られた戦況ホログラムが、夜気の中で蒼白い星図を描く。
沈んだ盆地の下層──迷路のような地下坑道に沿って、淡い青の点が、じわりと脈を打ちながら進んでいくのが見えた。
「ああ、確かに俺の視界にも青い点が動いている……これが救助部隊か。光の粒が闇を縫い、地下の迷宮をゆっくりと脈動しているのが、はっきりと見える」
鎧の縁がわずかに鳴り、彼の肩が緊張で張りつめる。
吐息は鋭い白霧となり、宙で砕けて消えていった。
《現在、サニル軍と銀翼騎士団右翼が、E17坑道の入り口より進行中です。生体モニターは可能域ですが、首都直下に接近した場合、高濃度の魔素により、通信が妨害・遮断される恐れがあります》
硬質な警告が降りるたび、籠手がきしむ。
こちらから手を伸ばす術はない。
その無力さが奥歯へと重く噛みつき、わたしは唇の裏に、微かな血の鉄味を覚えた。
「伝令役を坑道の途中途中に配置してはいるだろうが――カウントダウンが再開してしまえば、もうどうしようもないな」
内側に焼け付いた焦燥を押し隠す声。
それでも、言葉の端に、熾き火のような熱がちらりとのぞく。
夜が、深く息を吸い込むように静まった。
わたしは胸を開き、冷え切った空気を胸いっぱいに吸い込む。
氷水のように澄み切った冷気が肺を叩き、内側で、凛とした炎が灯る。
肩甲骨の奥で感じていた羽音めいた震えが消え、背筋が静かに、すっと伸びた。
吐いた息が白く弧を描き、足元の霜に淡い輪を落とす。
「前置きは、もう終わり。ここからが――わたしなりに見出した作戦なのだけれど、聞いてくれるかしら?」
声に滲んだ微かな震えを、山から降りる夜風がそっと攫っていく。
月光が吐息に絡みつき、小さな光の輪となって、空へと漂った。
「聞かせてくれ」
短いひと言。
だが、その音には槍の穂先のような確かな自信が宿っていた。
彼の瞳が、真一文字にわたしを射抜き、こめかみが微かに打つ。
わたしは胸いっぱいに冷気を吸い込み、肺の奥で氷が鳴る音を聞いた。
浅く頷いたあと、言葉を静かに、一つずつ押し出す。
「まずは――プランAに乗ったふりをして、二次爆縮のカウントが再び動き出すのを待つわ。いわば、我慢比べよ。
でも今は、向こうが砂時計を横倒しにしている。わたしたちは起き上がる瞬間を待つだけ」
語尾をゆっくりと落とせば、自分自身の迷いさえも、釘で打ち留められるような気がした。
耳の裏で、遠雷のような脈動が轟き、夜気がかすかに波打った。
「……つまり、盆地を見捨てる他にない、と?」
ヴォルフの声はあくまで平坦だったが、革の籠手の下で握られた拳が、鋼線を弾くように小さく、きしりと軋んだ。
「いいえ。まだ、そうと決まったわけじゃないわ」
「……ん? どういうことだ」
「待機が解除されたその瞬間にプランAを捨てて、プランCを選択するの」
言葉が落ちきるより早く、夜明け前の薄光が蒼く瞬き、ぱちりと火花を散らした。
峠の空気は弓弦のように張り詰め、あたりの闇が、一段、その濃さを増す。
ヴォルフの肩甲が硬くきしみ、ホログラムが一瞬、粒子を散らした。
「プランCだと!? ――そんな策が、まだ残されていたというのか!」
「ええ。名は〈逆観の楔〉。――内容はこうよ」
決意が声に宿る。
靴先で砕かれた霜の粒が鋭い音を立て、二人の間に小さな火花のように跳ねた。
彼の声音には、抑えきれない驚きと、微かな高揚が交じり合い、剣先のように研ぎ澄まされていた。
瞳が夜気を裂く光条となり、わたしの胸骨を深く射抜く。
その熱に頬の裏側がじんと焼け、わたしは瞬き一つ分だけ、息を詰めた。
「さっき言ったでしょう? わたしなりに、少し考えたって。レシュトルとも、それが可能かどうかずっと相談していたのよ」
「なるほど、ぶつぶつと何か考え込んでいるようには見えたが……」
ヴォルフは鼻先で短く息を鳴らし、腕を組みかけた手を中空で止めた。
数拍ののち、肩がわずかに緩み、胸の奥で収まった呼気が静かに漏れる。
薄明かりが頬を撫で、その頑強な輪郭に、人間味のある揺らぎを刻んだ。
「これはプランAと違って、渦心の投下を――その真下で受け止めることはしない」
わたしは硬く結んだ唇をほぐすようにひと呼吸置き、言葉の刃を磨ぐように、ゆっくりと言葉を繋げた。
冷気に震える声帯が澄んだ音を零し、空気は薄い氷膜のようにさざめく。
「受け止めない、だと? おいおい、じゃあ地下にいる者たちはどうなるんだ」
ヴォルフが一歩踏み込み、靴底が霜を噛んで乾いた音を立てる。
鉄の胸甲がわずかに鳴り、焦燥が低く唸る吐息となって鎧の隙間を震わせた。
肩に置いた左手が小刻みに震え、夜明け前の微光が、刃物のように甲冑を縁取る。
わたしは、そっと片方の手のひらを掲げ、凍てつく空気を押しとどめるように、静止を示した。
指先に絡んだ霧の糸が月光を吸い込み、幽かな銀色を灯す。
「ヴォルフ、早合点しないで。……わたしの説明を聞いてちょうだい」
ささやくような声で宥め、胸の奥へと冷たい息を送り込む。
鼓動が静かな韻律へと落ち着くまでの間、わたしは彼の目をまっすぐに見返し、確信を鋲のように打ち込んだ。
「お、おう。すまん……」
彼は顎を引き、握り締めていた拳を解く。
革の籠手がきしりと音を立て、霜気が刃のように宙を裂いた。
「前に言ったでしょう。虚無のゆりかごが生まれる時、小さな“窓”からわたしたちを覗いている姑息な奴がいるって――あの、敵意に満ちた声の主がね……」
言葉を吐くたびに、胸に溜まっていた凍気が白い煙となり、唇の先で砕ける。
遠くの積雲が、かすかな青い光を孕み、夜の肌理を細かく揺らした。
「ああ……」
ヴォルフが低く応じる。
頬の筋肉がきしりと動き、蒼い瞳の底に、鈍い火が宿った。
それは、刃を研ぎ澄ます前の、静かな煌めきだ。
「その向こう側――“窓”の奥でこちらを見張っている存在こそが、今回の黒幕ではないかって思ってる。だから、わたしたちの方から踏み込んで、その窓越しに――《挨拶》をしてやるのよ」
「……なんだと?」
ヴォルフは息を呑み、反射的に剣帯へと指をかけた。
革の鳴る微かな音が闇を裂き、鉄と焦げ草が混じった緊張の匂いが、刹那、肌を刺す。
その剣呑な気配を押さえ込むように、わたしは一歩だけ前へ出る。
霜を踏んだ靴底が鋭く鳴り、白い粉塵が月光をはじいて宙に舞った――合図のように、小さく、しかし確固として頷く。
「旧首都ハロエズ上空の結晶雲――その芯へと、直接突入する。これがプランCの骨子よ」
喉の奥に冷たい息を落とし込み、声帯を研ぎ澄ませる。
語尾が刃金のように澄み、夜気を鋭く震わせた。
「IVGシステムを〈モード1〉で開き、半径50メートルの絶対防御フィールドを展開。〈Z-Φ同調〉を外向きの双数位相へと切り替えて、“窓”を一点に固定する」
言葉を置くたびに、呼気が弧を描いて淡く光り、薄闇に溶けていく。
そのまま間髪を入れず、次の一手を叩きつけた。
「そこで〈観測逆侵入パケット〉を差し込み、あちら側の再起動アルゴリズムを――撹乱させるの。……レシュトル、理論値に齟齬はないわね?」
問いを投げた瞬間、胸に籠もっていた熱が冷たい硝子に変わり、呼気が細く、まっすぐに整う。
蒼いホログラムが脈動し、夜光虫のような粒子が視界を洗った。
瞬時に走査線が夜空を縫い、流れ出たデータ列が冷たい光を放ちながら奔り去る。
その煌めきが、わたしとヴォルフの睫を、同時にかすかに震わせた。
《解析完了。結晶雲内部の魔素圧・重力乱流はIVGフィールドで阻止可能。最大展開300秒》
《侵入→離脱、合計240秒》
《逆侵入パケットにより敵演算核は約7割でループエラーへ遷移。カウントは停止、または遅延》
「砂時計は倒せる、ということだな」
《爆縮が発生しても爆心は上空固定可能。地下坑道への衝撃は現行比40%まで減衰。崩落リスク9%》
闇に静けさが戻る――が、その静けさこそが、研ぎ澄まされた刃のようだ。
数値は希望と同時に、危険をも示している。
わたしは唇を固く閉ざし、瞼の裏で鼓動を4つ数えた。
隣のヴォルフが、鎧の袖口で喉元を一度だけ叩き、わずかな金属音を鳴らした。
彼は視線をホログラムからわたしへと戻し、その蒼い双眸で、問い掛けも咎めもせず、ただ「どうする」と静かに揺らしている。
わたしは小さく頷き、言葉を整えてから――
「……というわけなのだけれど、どうかしら?」
と、声を落ち着いた高さで投げかけた。
薄闇が震え、白い吐息が弓形を描きながら消えていく。
「なにが、“というわけなんだけど”だ。それじゃ、さっぱり分からん。俺に理解できるよう、きちんと説明してくれ」
ヴォルフが眉をひそめ、焚き火の残滓を軽く蹴った。
白粉がぱらりと舞い、薄光を散らす。
そのあまりに率直な物言いに、思わず、ふふっと喉から小さな笑いが零れた。
緊張で乾ききっていた空気に、ほんの一瞬だけ、ぬるい温度が宿った。
「――要するに、こういうことよ」
わたしは顎をわずかに上げ、冷え切った夜気を深く吸い込む。
吐く息が甘く冷え、喉の奥をさらりと通り過ぎていく。
「“待つ”のではなくて、こちらから“出向く”の。雪庇の一気落ちを受け止めるんじゃなく、わたしたちが先に、雲の芯へと飛び込む。そして、窓の向こうでこちらを覗いている奴に、真正面から“お話”をつけてくるのよ」
言い切ると同時に、遠い山並みで氷が裂けるような、微かな音がした。
ヴォルフの瞳に、剣先めいた光が宿り、唇の端がわずかに吊り上がる。
「殴り込み、か。そいつは面白い。こちらには“割れない盾”があるわけだしな」
彼の声は低く、しかし言葉の端に柔らかな熱を宿していた。
鎧どうしが微かに触れ、金属の縁が乾いた音を返す。
その音は弓なりに遠のき、峠の稜線へ薄く消えた。
「ええ。さっき言った“割れない盾”の内側にいれば、雲の嵐も、渦心の衝撃も、すべて無力化できるはずよ」
わたしは掌を前へと翳し、空気の厚みを測るように指先で撫でた。
霜の粒が風に溶け、月明かりに淡く瞬く。
「……ならば、問題ないな」
ヴォルフが、短く言い放つ。
その声は静かだったが、胸郭を満たす決意が、くっきりと伝わってきた。
「次に――“窓”に、楔を打つ」
「覗き穴の鞘口を塞げば、向こうは抜けない」
短く息を潜め、鋭い冷気を噛み砕く。
耳の奥で、脈がひとつ跳ねた。
遠い森で山鳥が羽ばたく気配が過ぎる。
夜はまだ深い。だが、夜明け前の闇ほど、行動を促すものはない。
わたしは夜気を撫でるように掌を返し、虚空へと円弧を描く。
甲冑の縁金が黎明の薄光を弾き、淡い稲光が指の輪郭を撫でて走った。
微かな金属音が漂い、峠を包む静寂に、細い綾を織り込む。
「レシュトルが示した要領で“窓”を一点に固定するの――いわば、向こうの覗き窓に、無理やり栓を押し込むようなものね」
指先が描いた軌跡に、白い吐息がやわらかく絡みつき、瞬きひとつでほどけて消える。
夜明け前の空は、相変わらず深い藍を抱え込んでいるが、雲の端には淡い桃色が、そっと忍び寄りはじめていた。
籠手がきしむ。
わたしは息を整え、視線を雲の果てへと送りながら、胸の奥で小さく火花を噛み砕く。
「奴らは、わたしたちを爆発に巻き込みたいはず。――だからこそ、こちらから窓へと踏み込み、逆に覗き返し、問いを突きつけて、揺さぶってやるの」
吐き出した声が、夜気を震わせる。
語尾を置いた瞬間、胸板に跳ね返った鼓動が甲冑の裏で乾いた金属音を返し、冷えた空気が、その震えをいっそう鮮やかに映し出した。
「ふふ、なんて剛毅なことを思いつくんだ」
ヴォルフが低く笑う。
肩の継ぎ目がわずかに鳴り、音は霜の下へ沈む。
わたしは顎をわずかに上げ、月明かりで淡く光る彼の横顔を捉える。
蒼い光が刃のように瞳を掠め、その瞬間、胸に灯る小さな火種まで、すべて照らされたような気がした。
心に宿った熱が静かに膨らみ、白い吐息となって夜空に溶けていく。
「同時に、その窓へ第二の楔を打ち込むわ。それがレシュトルの仕掛け――爆発のタイマーを、無限ループへと堕とす、毒の針よ」
脈拍にあわせて呼吸を整え、唇から細く息を吐く。
白い煙が針のように細まり、千切れて舞った。
胸腔で瞬いた火花が血流を駆け巡り、指先へと確かな熱を運んでくる。
霜を踏む足裏には、冷気よりも確かな、大地の鼓動が伝わってきた。
「理論上、7割を超える確率で、カウントをリセットし続けられる。地下の人たちは、その間に坑道を抜け、地表へと逃げられるはずよ。――仮に爆発が起きたとしても、それは上空で散るだけ。地下が押し潰される危険は、1割以下になるわ」
わたしは息を飲み込み、喉で微かな熱を嚥下した。
凍気が、言葉の残響をさらい、霜に薄く反射して、淡い光を跳ね返す。
「つまり――誰も捨てずに済む」
その宣言とともに、ヴォルフの瞳が、わずかに見開かれた。
黎明のかすかな光を宿した虹彩が深く揺らぎ、湖面に差す暁光のように、確かな希望の灯を映し出す。
彼の胸板が静かに上下し、冷気が弦のように震えた。
雪を孕んだ風が二人の間を吹き抜け、決意の匂いだけを、そこに鮮やかに残していった。
「……なるほど。“5分の傘を差して、相手の目を塞ぎ、砂時計を横倒しにして、その隙に爆弾の導火線を踏み潰す”。そういう作戦というわけだな?」
ヴォルフの呟きは、焚き火の灰が弾けるよりも低く、静かに響いた。
夜明け前の峠を撫でる風がその言葉を運び、霜の粒に、細い震えを刻んでいく。
「ええ、そんなところ。
絶対防御の傘を支え、対話の場を設けるのが、わたし。相手の鞘口へ楔を差し込みに行くのが、あなた。レシュトルが“毒薬”を送り込む。これを、5分で決める。――やれるかしら?」
返事の前に、金具がかすかに鳴る。
「上等だ」
短い返事。
けれど、その一語が夜気を押し開き、わたしの胸骨に、ずしりと重く響いた。
ヴォルフの頷きに合わせ、鎧の鋲がこすれ合う硬い音が、小さく弾ける。
わたしもつられて背筋を伸ばし、肺いっぱいに雪解け水のような冷たい空気を吸い込んだ。
「……それで、レシュトルよ?」
彼は顎を少しだけ上げ、黒い空を睨むように見据える。
仄かな黎明のベールがその横顔を浅く照らし、鎧の輪郭を、硬質な彫刻のように際立たせた。
「お前を信用しないわけではないが――この作戦で、メービスが背負う具体的なリスクを列挙してくれ」
蒼いホログラムが静かに揺らぎ、微細な光の粒が空気を震わせる。
鼓膜の奥で、風鈴のような電子音が重なり、冷えた夜気を、ほんのわずかに温ませた。
《残存リスクを報告いたします》
《フィールド飽和:魔素衝撃の吸収限界超過により、零化領域が崩壊する確率、14%》
《精神侵蝕:怨嗟通信による意識干渉、操者の耐性に依存しますが、11%》
《胎児への負荷:フィールド内のエネルギー流束が与える精霊子ノイズ――統計上、1パーミル未満》
ヴォルフは無言で、わたしの腹部へと視線を落とす。
「安心して。……数字は、上々よ」
白い息が淡くほどけ、月光の欠片をゆらりと孕んだ。
凍えた空気すら、わたしの言葉にやわらかく脈打った。
「“犠牲”を選ばずに済む確率が、7割を超えるというのなら――賭ける価値は、十分にあるわ。
いえ、そうじゃない。わたしたちが生き延びるには、これ以外の選択肢はないと思う……」
わたしは嘘のない弧を唇に描いた。
その、ほんのかすかな揺らぎを、彼は見逃さなかった。
「怯えてもいい――ただ、半分俺と分け合え」
「……ええ。ありがとう、ヴォルフ。その言葉で、もう十分よ」
短い静寂――それは、氷面に落ちた雫のように澄んでいて、どこか張り詰めた美しさがあった。
二人の呼吸が淡く重なり、薄氷が月明かりを静かに返し、世界が息を潜めた。
「要は――向こうが窓を開ける前にこちらからノックし、相手が戸惑ったその瞬間に、内側から閂を掛けてやる。それでいいんだな?」
ヴォルフの確認は、峻烈で、無駄がない。
瞳に宿る刃の光が闇を切り裂き、冷気が弦のように震えた。
「ええ。あなたは、わたしの“鍵”――そして、鋭く突き立てる“剣”として、動いてちょうだい」
言葉の最後で、わたしはそっと片手を差し出した。
掌を包む空気は冷たい。
それでも、その奥で燃える微かな炎だけは、どんな闇にも消せないと、もう知っている。
胸の奥で、確かな鼓動が鳴る。
「たとえ窓の向こうから、どんな声を浴びせられようとも、決して惑わされないで」
囁きは凍った空気にすっと吸い込まれ、松脂の甘さがかすかに揺らいだ。
語尾がほどける瞬間、胸の奥で、ひときわ鼓動が弾む。
「わたしが知りたいのは、ただ一つ。なぜ、この世界を“侵したい”のか――それだけだから」
宣告にも似た一節が夜気を切り、その余韻が、ふたりを静かに包み込む。
遠くで梟が低く啼き、霜に閉ざされた峠へ、わずかな湿度を落とした。
《当該因果は〈禁則事項〉につき開示不可。……しかし、マスターの問いに賛同いたします》
《作戦コード〈逆観の楔〉を最終確定。全システム、起動待機状態に移行します》
レシュトルの決裁が淡く降り、ホログラムの蒼が、小さく収束していく。
光子の残像は黒い天蓋に滲み、星の粒と溶け合った。
静寂が返事だった。
耳を澄ませば、つつ、と霜柱が割れる乾いた律動までもが、鮮やかに聞こえる。
ヴォルフが膝へと手を置き、ゆるやかに立ち上がった。
鎧の板が、月雫を払うように鳴り、伸びた影が焚き火の跡をそっと跨ぐ。
差し出された掌は、火の名残を受け、鉄の小手を朱く染めている――その色が、まるで彼自身の体温を映しているかのようだった。
「5分の傘。砂時計は倒す。導火線は踏み潰す。――それで行く」
わずかな音。
けれど、それは雪庇を貫く杭のように、決して揺るがない。
わたしは迷いなく――いいえ、誇らしく指を伸ばし、その大きく、熱い手を包み込むように握った。
甲冑の硬質な感触の奥に、力強く脈打つ血潮を感じ、胸の奥で、細い火がぱちりと跳ねた。
指先で、彼の脈を数える。
同時に、小さく息を吸い込んだ。
夜明け前の凍気と樹脂の匂いが肺に満ち、背骨を伝う熱が、ゆっくりと全身へと及んでいく。
わたしの鼓動は、やがて彼の鼓動と歩幅をそろえ、二つの心拍が、同じ律動で静かに重なり合った。
一つの呼吸――二つの心拍。
それだけで、凍てつく寒さは、もはや少しも恐ろしくなかった。
東の天幕が、淡い葡萄色を溶かし、結晶雲の輪郭をほのかに染め上げる。
わたしたちは無言で歩を揃え、肩と肩がわずかに触れ合ったまま、夜明け前の天空へと視線を投げた。
触れた鎧どうしがかすかに鳴り、誓いのように澄んだ余韻を残す。
暁は、すでに指先に触れる。
『黒髪のグロンダイル』巻末用語集
【基本概念】
精霊子
この世界にあまねく存在する、魂を記録する微粒子。単なるエネルギーではなく、生命が遺した情報や感情記憶そのものを保存し転移させる、媒体としての性質を持つ。いわば、魂の情報を記録する、超高密度の情報ストレージ。
魔石
魔獣の中核部分にのみ存在する結晶体。内部には「命の灯火」と呼ばれる狂気を内包した、負の感情エネルギーが渦巻いている。このエネルギーを引き出し制御することで魔術が発動される。
魔術
魔石に、秘められた、「命の灯火」に術者が働きかけ、「魔素」あるいは「魔力」と呼ばれるエネルギーを引き出し、現実世界の法則を書き換える技術体系。通常は、複雑な魔法陣や長大な呪文の詠唱が必要となる。
虚無のゆりかご(きょむのゆりかご)
異界からこの世界へと干渉する、大規模な次元災害。その発生プロセスは、一次爆縮、一次拡散、そして二次爆縮へと移行し、最終的には、「魔獣の巣窟」を形成する。今回の物語で観測されているのは、二次爆縮へのカウントが停止した、極めて異例な状態である。
【システム・技術関連】
〈巫女と騎士のシステム〉(Système de l'Épée Sacrée : Prêtresse et Chevalier)
デルワーズが遺した戦闘システム。巫女と騎士、二人の魂の「共鳴」を力の源泉とする。思考や五感を共有するだけでなく、互いの感情や意志が、直接相手の力へと変換される、究極の連携戦術を可能にする。
〈マウザーグレイル〉と〈ガイザルグレイル〉
巫女と騎士が、それぞれ手にする対の聖剣。単なる武器ではなく、巫女と騎士のシステムを、起動するための、制御核であり、膨大な情報を記録解析する、超高性能な情報端末でもある。
レシュトル
聖剣〈マウザーグレイル〉に搭載された管理AI。膨大なデータ解析、演算処理、そしてホログラム投影など、様々な機能で巫女をサポートする。その思考は極めて論理的で冷静沈着だが、時に人間的な皮肉や気遣いを見せることも。
IVGシステム (Interdimensional Vector Gravity Control System)
マウザーグレイルに搭載された、次元間ベクトルと重力を制御する、超高度なシステム。
Mode 1(モード1)
絶対防御フィールド
操者を中心に、球状のベクトル零化領域を展開。物理、魔術を問わず、あらゆる攻撃を無効化する。連続稼働限界は、300秒。
ストアエネルギー変換
吸収した攻撃エネルギーを変換、量子ストアし、自らの攻撃に転用することができる。
固有時制御 / 限定クロノ・コントロール:
プランBで検討された、禁忌の力。時間経過そのものを操作し、操者の体感速度を極限まで加速させる。しかし、その代償として、術者の魂と肉体に計り知れない負荷を与える。メービスが妊娠した今、その使用は胎児の生命に関わるため、固く禁じられている。
Z-Φ同調
巫女と騎士のシステムにおける、魂の同期レベルを示す、指標。プランC逆観の楔では、これを「外向き双数位相」に切り替えることで、敵からの「観測」を逆利用し、干渉するという、前代未聞の戦術が試みられようとしている。
観測逆侵入
プランCの核心となる戦術。敵がこちらを「観測」しているその「窓」そのものに、こちらから干渉し、偽の情報を送り込むことで、敵のアルゴリズムを混乱させ、行動を阻害する、高度な情報戦術。
プランA 絶対防御
概要
二次爆縮のエネルギーを、〈IVGフィールド〉(絶対防御障壁)で完全に覆い、封じ込める作戦。
目的
盆地への物理的・魔素的な被害を最小限に抑え、地下坑道にいる避難民の安全を確保すること。
リスク
敵がこちらの能力(フィールドの稼働限界300秒)を把握している場合、エネルギー放出を意図的に遅延させ、フィールドが強制解除された瞬間に無秩序な汚染を引き起こす「罠」である可能性が高い。これにより、盆地全域が永続的な魔獣の巣窟となる危険性があった。
プランB 固有時制御
概要
術者が「固有時制御」を発動し、体感時間を極限まで加速させ、二次爆縮で「渦心」が形成された直後に、零距離からこれを破壊する超短期決戦術。
目的
災厄の根源そのものを、発生と同時に完全に消滅させること。
リスク
術者の魂と肉体に計り知れない負荷をかける禁忌の力。メービスが妊娠している現在、実行すれば胎児の生存確率は9.4%という、あまりにも非人道的な代償を伴うため、即座に却下された。
プランC 逆観の楔
概要
敵がこちらを「観測」しているであろう「覗き窓」(結晶雲の中心)に、こちらから能動的に踏み込み、敵のシステムに直接干渉することで、二次爆縮そのものを遅延・あるいは阻止する作戦。
目的
「犠牲」を前提とせず、敵の意図の裏をかき、地下の避難民の救出時間を最大限に稼ぎ出すこと。そして、可能であれば、この事態を引き起こしている黒幕との「対話」を試みること。
キーワード
「挨拶に行く」「窓を内側から塞ぐ」「導火線を踏み潰す」
【関連技術・専門用語】
結晶雲
虚無のゆりかごの一次拡散後、魔素が再収束して形成される高密度のエネルギー塊。二次爆縮の「心臓部」であり、敵がこちらを「観測」するための「窓」の役割も果たしていると推測される。
渦心(かしん / Vortex Core)
二次爆縮の際に、エネルギーが無限大に圧縮される中心点に生じる、時空間の特異点。「世界を内側から穿つ、無形のドリル芯」と形容される。形成された場合、地下坑道網を壊滅させるほどの、壊滅的な物理破壊を引き起こす。
IVGシステム Mode 1(アイ・ブイ・ジー・システム・モードワン)
プランCの要となる、聖剣に搭載された防御システム。
絶対防御フィールド: 物理・魔術を問わず、あらゆる攻撃を300秒間完全に無効化する「割れない盾」。
ストアエネルギー変換
吸収した攻撃エネルギーを、反撃のための力へと転換できる。
観測逆侵入パケット(かんそくぎゃくしんにゅうパケット)
敵の「覗き窓」に、こちらから送り込む、特殊な情報データ。「爆発のタイマー」を狂わせ、無限ループに陥らせるための、「毒薬」に喩えられる。
禁則事項
聖剣の管理AIであるレシュトルが、その創造主によって、開示を固く禁じられている情報。虚無のゆりかごを引き起こしている敵の正体や、その真の目的など、物語の根幹に関わる謎が、この禁則の奥に隠されている。




