冬支度の偽装夫婦――王宮裏手から始まる極秘の旅
王宮の裏手にある小さな廊下を、侍従長コルデオが先導し、レオンとクリスが足早に進んでいた。
人影はまばら。訓練広間から遠く離れた、人目につきにくい一角だ。薄く積もった雪が足裏でしゃりと鳴るたび、背筋にひやりとした緊張が走る。石壁の冷えが袖口へ忍び込み、吐息は白く短い。
手袋の革が指に張りつく冷たさが、緊張の輪郭を細くなぞった。
「どうぞこちらへ。……今回は、極秘の出立ですので、公式な厩舎ではなく、こちらの離れにご用意してあります」
低く、しかし厳かな声。細長い回廊を抜けると、小さな扉の向こうに石畳の中庭が開けた。地味な旅装束、古びた木製の馬車。係員が数人、言葉少なに手を動かしている。炭の匂いと革の油の匂いがわずかに混じり、気配だけがせわしなく行き交うようだ。
「こんなところに……すごいよな。普段あんまり来ない場所だし、これなら人目を避けられる……。クリス、思ってたより徹底してるよな?」
「うん、びっくりした。王宮の裏手にこんな広い場所があるなんて知らなかったわ。……本当に完全極秘ってことなんだ」
レオンの小声に、クリスは周囲へ慎重な視線を巡らせる。扉の近くにも見張りの姿はない。静けさが、むしろ秘密の濃度を示していた。
「それにしても、妙に空気が薄い。わたしたち以外は、係員さんが少し動いてるだけだね。……レオン、なんか緊張しない?」
「そりゃ緊張するよ。任務でこんな変装するのも、夫婦なんて設定で旅するのも……。ああ、落ち着かないっていうか、そわそわしてる」
「それでいて……こんなに整然と準備が進んでいるなんて、凄い……」
クリスの声の端に、薄い震え。コルデオが静かに振り向くと、冬の光が銀糸のように瞳に差す。
「お二人が“夫婦”として旅立つ以上、あまり堂々と目立っては意味がありません。女王陛下のご意向で、この場を使って密かに出発していただきます。……馬車はこちらに。衣装もこちらに用意しておりますので、ご確認を」
示された卓上には、毛皮帽や地味なコート、擦れのあるローブ。小箱には染物の端切れ、革小物、乾燥ハーブ。布のざらりとした手触りが確かで、視覚も匂いも、庶民の行商へ温度が揃えられている。
薄灯のもとでも古びて見える木製の馬車が、いかにも平凡をまとって佇む。
「こいつは……ほんと地味だ。目立たないっていうか、誰が見ても『ただの行商だ』って思うだろうな」
「うん、服もコートも、騎士団の制服とは真逆な感じ。……けど、自分が何者なのか分からなくなりそう」
苦笑の余韻が、冷えた空気へ薄く溶けた。
「……正直不安だわ。でも、“任務”のためだし、しっかりやらないと。……レオン、頼むね」
喉の奥で小さく鳴る音が、自分の決意を確かめるみたいに跳ねた。
「おう」
指先の血が戻り、拳の内側がじんと熱い。
そこへ、コルデオが革のポーチを差し出す。掌に渡れば、縫い目の硬さが確かな重みを告げた。係員たちは視線を合わせず、車輪の釘を検め、馬の背帯を締め直す。ここだけが、小さな密談の温度を帯びる。
「こちらには女王陛下の書状の写し、ダビド班との連絡用符丁などが入っております。
……あと、陛下から“万が一のときに役立つかもしれない”とのことで、少し厚みがあるかもしれませんが……大切にお持ちください」
クリスはポーチを胸もとに抱き、レオンは横から覗き込む。薄暗い灯に、紙束の影が不自然にふくらんで見えた。
「え……これは、いったい何が……」
問いかけると、コルデオは言いにくそうに目を伏せる。
「私にも詳しいことは分かりません。ただ、女王陛下が“若いお二人が夫婦として旅立つ以上、間違いがあっては大変”と仰っていて……お気遣いというか、親切心かと」
「は、はあ……なるほど。わ、わかりました。あの、ありがとうございます、コルデオ様。大切に保管します」
肩へ落ちる雪が、白粉みたいに薄く積もる。コルデオは一礼し、距離をとった。長居は禁物という無言の合図。
紙の繊維が指腹にざらりと触れ、胸の真ん中へ冷えが落ちた。
二人は馬車の陰で、そっとポーチの中を改める。符丁の紙束の下で、何かが丸く巻かれていた。端の紙に、端正な文字。
『旅立つ二人のために、念の為用意しました。“もしも”のときは使ってください――メービス』
同時に、“薄膜のような腸状のもの”が目に入り、レオンは息を詰める。
「まさか……こ、これって……」
クリスは顔に布を当て、火照りを隠した。
「ま、間違い防止って……? なにそれ、どういうこと……? 陛下は……ええと、ほんとに色々心配しすぎじゃないの?」
「お、おい、こんなの、万が一でも使う機会ないだろ? 俺たちは真面目に任務に従事するだけ、するだけなのに……」
声量を抑えねばならない場所で、頬の内側だけが熱い。二人は慌てて品々をポーチの底へ押し戻す。ここで見咎められたら、誤解しか生まれない。
「……と、とにかく、こいつはしまっておこう。使うあては……あるわけ、ないよな?」
革紐を結ぶ指が、いつもより僅かに強く締まった。紙の端がかすかに鳴り、鼓膜裏をくすぐる。
レオンの囁きに、クリスはこくこくと首を縦に振る。視線は合わず、耳まで赤い。
「うん、ないない。……もう見なかったことにしよう。でも……ちょっと、しばらく落ち着かなそう……」
「俺も恥ずかしいっていうか……陛下は、いったいどういうつもりでこんなものを……」
「お、あの……馬車、そろそろ動かしますか? 準備は整ったみたいです」
係員の声で現実へ引き戻される。
「え、えっと……じゃあ、行こうか。早く城門のほうへ行かないと」
「うん……レオン、馬車の操作をよろしくね。私もできること手伝うから」
ローブの裾が風に鳴り、車輪が小さくきしむ。背後でコルデオが見守っていた。彼の表情にも、どこか複雑な影がよぎる。
「……行ってきます、コルデオ様。ほんといろいろ、ありがとうございます」
「お気をつけて。くれぐれも御身を大切に」
人目を避けた中庭での極秘準備は、最後まで赤面の余韻を残したまま幕を閉じる。ポーチの底に潜む“万が一の品”は、鼓膜裏を一拍だけ震わせる火種のまま。雪のちらつく通路の奥で、車輪がぎしりと鳴り、二人の冬の旅がひっそりと動き出した。
◇◇◇
王都の中心を離れるにつれ、往来はまばらになり、衛兵の巡回も張り詰めたものではなくなる。地味な馬車に荷を積んだレオンとクリスは、城壁沿いの大通りを静かに進んでいった。粉雪が帽子の縁へ淡く積もる。
「結構見られてるよな、俺たち。変に浮いてやしないか?」
手綱を握る指に冷えが刺す。視線の針は、意識するほど皮膚を刺す。
「わたしたち、本当に夫婦に見えてるのかな……?」
襟を整えるクリスの仕草に、騎士の凛々しさが少しだけ残っているのが、かえって可笑しい。
「うーん、夫婦に見えるかどうか以前に、わたしたちが妙にぎこちないからじゃないかな。もう少し自然に振る舞おうよ」
いつもより柔らかい声色。それでも落ち着ききれない呼吸が、言葉の隙間に揺れた。
「かもしれない。……しかし、この馬車、思ったより重い。動かすのに慣れてないから、ちょっと不安になってきたぞ」
レオンのぼやきに、クリスは肩をすくめて笑う。
「わたしも手伝うから大丈夫だよ。夫婦なら、お互いに支え合うって姿が自然でしょ?」
「おう、わかった。そうだな。……じゃ、頼む」
城壁を抜けると、雲の裂け目から淡い光。雪の粒が頬へ触れ、細く溶けた跡がひやりと残る。
「雪がまた降ってきそうだね。大通りとはいえ、道が凍ってたら馬車が滑らないか心配」
「馬には滑り止めの蹄鉄をつけてあるし、ゆっくり行けば大丈夫だろ。……でも、空気が硬くなってきたな。おまえ、ローブ一枚で平気か?」
「うん、大丈夫。表地は地味だけど、裏地が思ったより厚めだから。……レオンこそ、そのコート一枚で平気なの? 手、かじかんでない?」
「問題ないさ」
手綱を握り直す音が、革のきしみと一緒に耳へ届く。坂の手前で歩度を落とし、手綱を一穴分だけ絞る。
「ふう……本当に出発したんだな、って感じがするね」
クリスの呟きに、レオンは視線を道の先へ送る。
「今日のうちに隣街まで行って、そこで宿を取るとしよう。そこからさらに北の宿場町に向かえば、噂だって拾えるだろう。伯爵の行方に関する情報、あとは怪しい人物がうろついてないか……何かしら手がかりはあるはずなんだが」
「そうだね。行き交う旅人から話も聞けるだろうし。“夫婦”って設定を存分に利用して、どこまで入り込めるか。とにかく、試すしかないかな」
「騎士だってバレると、あっという間に相手の警戒を買う。おまえが話を広げてくれたら助かるよ。商売人っていえば、愛想だろ?」
レオンの薄い笑みに、手綱が一段だけ柔らかく動く。蹄が雪混じりの路面をたしかに踏んだ。
「そういうの、あんまり得意じゃないんだけどね。……レオンは力仕事担当ね?」
「おう。荷物運びとか、用心棒っぽい役割は任せとけ」
手袋越しの拳が軽く上がる。頬に刺す冷気と、胸に灯る熱の落差が拍を整えた。
「行商人なら、実際に物を売ってみないとね。できるか不安だけど、頑張ってみる。……やるしかないんだもん」
「頼む。俺は剣で脅すくらいしか能がないから。あ、まあ冗談だけど」
「そういうの絶対にやめてよね。騒ぎになったら、即アウトだよ」
「わかってるって。行商人らしく、温和にいこう」
微笑を交換し、粉雪の世界を進む。初々しさは、寒さだけのせいではない。
馬車が雪粒を巻き上げながら進むたび、軋む音が深い林へ吸い込まれていく。革手袋ごしの手綱はひんやりと硬く、指先の血がゆっくり戻るたびに小さな疼きを寄越した。
「あー……だけど、夫婦って、もうちょっと言葉遣い変えたほうがいいのかな? なんか俺ら、いつも通りでさ」
レオンが帽子の庇を指で押し、横目でクリスをうかがう。雪明かりに浮いた頬は、まだ緊張の朱を残している。
「確かに。“おまえ”とか“そっち行け”とか、騎士団ぽいよね。……でも、無理に変えても不自然かも」
クリスは胸元のローブを合わせ直し、白い息を細く吐く。言いながら足首を擦る仕草が、慣れない旅装束の硬さを物語った。
「そうだな。とりあえず、要所要所で『奥さん』とか『旦那さん』とか混ぜてみるか?」
言いながらレオンは手綱を軽く揺らす。馬の耳がぴくりと動き、鼻先から短い蒸気が立ちのぼる。
「うん、そうしよう。……変にかしこまったら、わたしたちらしくないし」
門を離れると、道は人影が薄くなる。荷台を覗くクリスの仕草が、外から見れば親密さの演出に映るだろう。革の匂いと乾いた藁の香りが混ざり、ふたりの呼吸に重ねて流れた。
「ねえレオン、もし途中の村とかでわたしたちの関係を聞かれたらどうしようか。新婚夫婦ってだけで通じる? 何かストーリーが必要かな」
雪を払った地図を広げたまま、レオンは顎先で北を示す。
「うーん、そうだな。設定としては、王都で結婚したばかりで、奥さんの実家が北方にあるから、挨拶も兼ねて行商してます――みたいな感じかな」
クリスは「実家」という言葉に小さく瞬きをし、雪の結晶を指先で弾く。
「それなら自然かも。……ちゃんと情報を拾えるように、こっちも好印象を与えなきゃね。あんまり仏頂面してると怪しまれちゃう」
「俺はひたすら笑顔で頑張るから、おまえも声のトーン上げて、優しく話すんだぞ?」
「わかった。やってみるよ。でも、愛嬌って……どうもね。わたしに一番欠けてるものな気もするけど?」
クリスは頬を指でつつき、目線を外す。
「そうか? 俺、クリスって愛嬌あると思うぞ?」
「どこらへんが? 言ってみて」
軽く弾む声に、レオンは肩をすくめ、視線を馬の背へ逃がす。
「いや、その……なんていうか、いろいろ」
「根拠ないじゃない」
雪面を打つ蹄鉄の音が、ふたりの沈黙を数拍ぶん延ばした。
「いや、あるってば。今だってその、すごく……自然だし。いいな、って思うし」
「な、な……なにいってるの」
クリスは顔をそむけ、耳まで紅潮させる。襟にかけた指がほんのわずか震え、ローブの内側にこもった体温が返って胸をくすぐった。
冬空は雲を抱えたまま、それでも遠くの山並みに淡い光を注いでいる。微かな暖色が、ふたりの頬の朱と交わり、粉雪の舞いをやさしく照らした。
◇◇◇
半刻ほど進むと、小さな商家の看板が見えてきた。道端に馬車を寄せ、商材を確認。染物の色合いと革の艶を、冬光が浅く撫でる。
「さて、この染物とか革小物、値段どうする? 安すぎると不審がられるし、高すぎると売れないし」
「そうだね……とりあえず見せて、向こうが欲しがったら交渉に応じる感じかな。そこまで利益重視じゃないし」
「俺たちの目的は情報収集だからな。適度に安く売って親切にしといたほうが、向こうも話してくれるだろ」
息を合わせ、車輪を再び回す。遠目には、若い新婚夫婦が仲睦まじく旅をしているように見えるだろう。内心の照れと不安は、粉雪の白へ紛れていった。
「よし。次の町に着いたら、とりあえず売り歩いてみよう」
「おう。そんときは手伝うから。……一応、話し相手になって、話を引き出すのも忘れんな」
「わかってるって、旦那さん」
呼ばれた名が耳殻を熱くし、吐く息が一拍だけ遅れた。
「え、おお……はい、奥さん」
上ずった声に、思わず笑いがこぼれる。頬の熱を、雪の冷たさがやわらげた。
山道へ続く小径に入ると、人の気配はさらに薄くなる。遠い川音が、白い景色の底でかすかに続いていた。レオンが地図を広げ、クリスが肩越しに覗く。
「たぶん夕方前には隣街に着くと思うけど……どうする? 寄り道するような村があったっけ?」
「地図だと、途中に小さな集落があるみたいだけど、宿があるかどうかは分かんないな」
「じゃあ、予定どおり隣街を目指そう。宿が確実にあるほうが安心だし」
「そうするか。……あんまり遅くなると雪道で苦労しそうだしな」
「うん。まだ馬車に慣れてないし、早めに落ち着きたいかも」
空は依然重い雲に覆われているが、時折のぞく光が路肩の氷粒が一瞬だけ光を返す。
「わたし、実はちょっと楽しみにしてるんだ。“夫婦の旅”って、いったいどんな感じになるのかって、いろんな想像しちゃって」
遠くを見やる横顔に、粉雪が淡く触れる。
「そりゃ楽しみ半分、心配半分だろな。それにしても……あんな妙な物まで持たされてるし、仲良し夫婦なんて言われたら、余計に恥ずかしくなりそうだ」
レオンは鼻先をかき、ちらとクリスを見た。外套の襟に白い粉雪がひと粒、溶けきらず残っている。戦地向きのふたりが、今は“新婚夫婦”を演じている――その齟齬が、胸の内側をくすぐった。
「陛下のあの“心遣い”にはびっくりしたよ。申し訳ないけど、笑えてきちゃう」
言いながら、息が白くほどける。指先のかじかみが、照れを少し和らげた。
「ほんと、とんでもない心配性というか、考えすぎな方だと思う。なにもそこまでって思う」
笑い合うと、冷えが少しだけやわらぐ。馬の鼻先から温い吐息がこぼれ、革の匂いがふっと立った。
「でもね、陛下はあの歳で女王を務めて、息が詰まるような王宮で、宰相とか大臣とかを相手に必死に渡り合って、寝る暇だってないはずなんだよ。
それでもわたしたちのことを心配して、こんなにも気を使って手を尽くしてくれたんだ、って思うと……わたし、頑張らなきゃって思うの」
クリスは胸もとをぎゅっと握る。手袋越しに鼓動が小さく返り、喉の奥がひとつ鳴った。レオンは襟を上げ、小さく頷く。
「そうだな。陛下のお気持ちを大切に、俺たちは俺たちなりにやれることをやるしかない。……そうだろ、俺の奥さん」
呼びかけの余韻に、粉雪が庇の縁でほどける。
「うん。やるだけやってみるよ、わたしの旦那さん」
帽子の庇を指で下ろして、照れを隠す。馬の首筋を撫でると、温い息が掌へかかった。
車輪はごとごとと、凍れた道の目を確かめるように進み出す。鉄のきしみが低く続き、曇天のひかりが荷台の縁をかすかに撫でた。
木々の枝先に小さな氷の雫が光り、遠くの川音が白い地平の底で細く揺れる。初めての“夫婦任務”はまだぎこちない。それでも、ふたりの歩みは確かに始まった。冷気と体温のあいだで呼吸を合わせながら、北へ向かう。
厚い雲から落ちる雪の帳の下、微かな笑顔は、これからの困難をひとつずつほどく火になるだろう。
王宮の裏手という人目のつかない場所で、若い騎士二人――レオンとクリス――が“夫婦”という偽装任務でひっそりと出立するシーンから始まります。最初の段階から舞台設定が厳かな王宮の「裏手」や「小さな廊下」という密やかな雰囲気で、ヒロインと相棒の旅の緊張感や期待感を自然に高めているのが特徴的です。
また、物語の導入として「女王メービスの思慮深すぎる親切心」が提示され、そこから微妙な空気が漂っています。偽装夫婦に「万が一」のための品(説明しません)が同梱されているというエピソードは、単にコミカルな描写ではなく、二人の照れや恥じらいを浮かび上がらせる仕掛けです。
女王の気遣いが二人を「照れ」によって煽る構図が、物語世界に柔らかなユーモアを添えていると同時に、若い二人の初々しさと関係の未熟さを強調していると言えます。
物語の後半では、王都を抜けてからの風景変化(人通りが減る、衛兵の見回りが形骸化するなど)がスムーズに描かれ、冬の冷たく静かな空気のなかで二人が「夫婦としての会話」を試行錯誤する場面が丁寧に描かれます。
●お互いの呼び方をどうするか(「奥さん/旦那さん」と呼び合おうとする照れや、馴染まない口調のぎこちなさ)
●「初めての“夫婦任務”」ゆえの恥ずかしさと、任務の重圧の狭間で落ち着かない心情
●行商人として物を売るにも慣れておらず、騎士然とした佇まいから抜けきれないもどかしさ
これらが自然に会話の流れで表現されます。会話文が多めに挟まれ、人物像の輪郭をはっきりさせます。
また、男女の照れや恥じらいを交えつつ“夫婦”のフリをする展開は、乙女小説らしい甘酸っぱさを演出しながらも、騎士や宰相の陰謀といったシリアス要素もしっかり存在しています。
総合的に
●序盤の厳かな雰囲気(王宮裏手の静寂・秘密めいた出立)
●若い騎士二人の初々しい“偽装夫婦”設定による照れや会話
●女王メービスの過剰な親切が引き起こす微笑ましい気まずさ
●冬の雪景色の情景描写と、二人の旅が始まるワクワク感
登場人物たちの初々しさ、どこかくすりと笑えるコミカルさ、騎士としての使命感がアクセントになっています。




