白銀の塔を出でし巫女
夜闇が王宮の長い回廊をやわらかな影で包みこみ、昼の喧騒が嘘のように沈んでいくころ。
高位の礼装に身を固め、“女王陛下”としての視線を背に受け続けた私も、ようやく仰々しい所作から解かれる。金糸の重みが肩からほどけ、襟の金具が肌に残した冷たさだけが、静けさの中で遅れて疼いた。
隣を歩くヴィル――今は“ヴォルフ殿下”と呼ばれることになってしまった彼は、見慣れない青年の容姿で、歩調を半歩だけ私に合わせる。布の擦れる音、浅い吐息。うつむき加減の横顔に、昔の面影がふっと重なり、胸の内側がやわらかく痛む。
白昼は、言葉ひとつ交わすにも障りが多い。私たちが“女王”と“王配”である限り、期待と不信は同じ濃度で絡み、要職の影がつねに視界を横切る。だから、この夜だけは小さな避難所だ。温度の届く範囲に二人で滞在し、呼吸の数を合わせ直す。
ランプの芯がかすかに脈を打ち、室内の時間だけが指先で数えられる。
火を囲んだ旅の夜を思い出す。あの頃のヴィルは屈強な大人の姿で、今は“ヴォルフ”という若々しさをまとう。違うのに、仕草の端々で同じ人が息をする。安心と戸惑いが、灯の明滅のように胸へ寄っては退く。
黒髪を隠すウィッグと、飾り立てられた礼服を外す。金具の外れる小さな音のあと、体温がゆっくり戻り、私は寝台へ腰を下ろした。
縫い目の粗さが指先に触れ、熱がじわりと戻る。
この“夫婦の寝室”は王宮の奥。夜になれば侍女でさえ足音をひそめ、扉の向こうの世界が遠のく。建前の夫婦であることが、皮肉にも夜の自由を与える。音の薄い気配のなかで、ただ彼と同じ空気を吸うことが許される。
視線の端に聖剣――ヴィルが「名無しの聖剣」と呼ぶそれ――が映る。ランプの灯に細く揺れ、鋼が冷えを吐き、薄い気配が漂う。ヴィルはその光の線をなぞるように寝台の端へ腰を下ろし、息を整えてから口を開いた。
「お疲れさま。……先王との面会も含めて、けっこう堪えたんじゃないか?」
低く抑えた声。張り詰めていた糸が、指の内側でほどけていく。私はシーツの端を握り、視線を落とした。
手元には“白きマウザーグレイル”。未来で触れた剣に似ているのに、どこか違う冷え方をしている。茉凛の気配を宿す剣とは異なる、無機の鋭さだけがある――その差異が、胸の奥で重しのように沈んだ。
視線を戻すと、整った青年の輪郭。見た目は別人でも、発される間と温度が、確かにヴィルのそれだ。言葉遣いや手の置き方に面影が立つたび、違和感と安堵が同時に波立つ。
「……うん。いろいろと考えすぎちゃって……もう頭の中がぐちゃぐちゃよ」
声にしてみれば、昼の残滓が喉もとへ滲み出す。先王のまなざし、咳のリズム、骨ばった指の温度――それらが一緒に戻ってくる。
舌の奥に薬草の苦みが残る。
「“メービス”としての心が痛むのかしら? 彼女の記憶なんて一欠片もないのに、私が抱いていい感情じゃないはずなのに……どうしてこんなに胸が苦しいんだろう」
ヴィルは言葉を挟まず、そっと距離を詰める。静かな沈黙が近づき、その存在だけが「ここにいる」と伝える。いつもと同じやさしさだ。
「無理もない。魂は違えど、重なるものはある。感じるものが同じになることはあるさ。特におまえは、祖父の病に真摯に向き合ってきたんだからな」
微笑の影が灯り、固まっていた胸筋がゆるくほどける。
「そう言ってもらえると助かるわ……でもね、やっぱり戸惑いが消えないの。何度も“本当はあなたの娘じゃないんです”って言い出しそうだった。――でも、そんなこと口にしたら、あの人の気持ちを傷つけてしまうし……」
苦笑が先に出る。ヴィルは「そうだな……」と目を伏せ、寝台のクッションを手繰り寄せて、そっと私の隣へ腰を寄せる。続けていい、という合図のように。
呼吸を合わせ直し、小さく頷く。
「……それでも、得るものはあったの。わたしたちが知っている“伝説”や、後世の資料じゃわからなかった、生の真実に近いものをつかめた気がして……。長くなるけど、ヴィル、聞いてもらえるかしら?」
布の擦れがひとつ、夜へ落ちる。
彼はゆっくり頷き、受け止める気配で視線をくれる。私はまぶたを閉じ、面会の場の匂いと温度を、頭の中にもう一度敷き詰めた。
◇◇◇
「まず、どうして“黒髪と緑の瞳”の巫女が不吉だって呼ばれているか、ヴィルは知ってる?」
「いや、はっきりとは知らん。生まれも育ちもリーディスじゃない俺には、馬鹿らしいとしか思えんが」
炎が微かにはぜ、油の匂いが息の奥に滲む。喉の渇きと、言葉に頼ろうとする癖が、胸の内で小さくぶつかった。
「そうね、リーディスだけが極端すぎるのよ。昔から『黒髪の巫女は災厄を呼ぶ』って言われてるし、王家の姫であろうと白銀の塔に追いやられるのが当たり前みたいに扱われてきた。それには大きく二つ理由があるの」
炎が細く身じろぎし、息継ぎの場所をつくる。
「ひとつ目は、『巫女は予言で災厄を言い当てるだけ』とされてて、実際に被害を防いでくれるわけじゃないって思われてるから。“言い当てるたびに怖い出来事が起きる”っていうのが事実上のイメージになっちゃって、“黒髪の巫女がいるから災いが確やって来る”みたいに勘違いされてるわけ。
二つ目は、『王家の血筋から周期的に瓜二つの黒髪の子が生まれてくる』っていう不気味さ。父親や母親の特徴を普通は継ぐのに、まるで先祖返りみたいに同じ黒い髪と緑の瞳を持つ娘が生まれる。これが説明不可能な分だけ“呪いだ”って恐れられて、いつの間にか“黒髪の娘は塔に閉じこめよう”って慣習が生まれたのね」
ヴィルの眉がわずかに寄り、呼吸が一拍だけ浅くなる。
布の裾が揺れ、夜気が足首に触れる。
「結果として、『黒髪なんて不吉だから表に出すな』『巫女がいると災厄が決定的になる』なんていう、根強い因習がはびこってしまっているわけ。
……まとめると、“黒髪の姫”は“まったく父親や母親に似ていない”、“災いばかり当てる”。王家としてもどうにも厄介者で、不気味で、民衆の間に動揺を招くだけだし、公的な場面から遠ざけるしかなかった。
私なんて父さまと似ても似つかないし、初めて会った時、あなたが『本当にユベルの娘なのか』って疑ってしまったのも無理ないわ」
言葉が尽きた瞬間、胸骨の内側がぴくりと縮む。視線を上げると、ヴィルの眉間に浅い皺。灯りを受けて、睫毛の影が細く揺れた。
「確かに、そんな由来があれば、みんなが黒髪の巫女を怖がるのも無理ないな。理不尽としか思えないが……」
灯がわずかに身じろぎし、油の匂いが細く流れ込む。指先には、さっき外した金糸のざらつきがまだ残っていた。
「まったくよね。英雄と呼ばれた彼女でさえ、ずっと耐え忍んできた人なのよ。幼いころから塔に閉じこめられて、それでも書物や古文書をたくさん読みこんで、“魔族を倒す手段がきっとどこかにある”って確信したのね。最強の騎士がいれば、その聖剣を探して国を救えるかもしれないって。
でも、王宮の重臣たちは“黒髪の巫女なんて信用できるか”って耳を塞ぐばかり。そこでメービスは苦肉の策として、王様に直談判して『私が参ります。随行は、私が選ぶ最強の騎士ひとりで結構です。追放扱いにしていただければ、誰もが黒髪の巫女を処分できると納得するはず』って……提案をしたの。自分が厄介者であると認めるような案なんだけど、それ以外に道がなかったの。辛いよね……」
「王様――つまり先王も、状況が逼迫していて打てる手立てがなかったし、娘を呪縛から解き放ちたいって気持ちがあったから、苦渋の末にそれを認めて、せめてもの情けとしてメービスに若緑色のウィッグを手渡した。黒髪を隠せば、巫女だとばれにくいし、余計な敵意を向けられることも減るかもしれないって……。
そうしてメービスは“最強の騎士”ひとりを伴って塔を出て、過酷な旅を続けた先で、“救世の聖剣マウザーグレイル”と騎士が持つもう一本の聖剣を手に入れた。そして、“緑髪の巫女”として戦ったおかげで、人々は『あの色こそ勇者の証』って、広く認知されるようになった」
「でも、メービス本人は、内心とても複雑だったと思う。だけど、そのおかげで国も世界も救われたし、彼女も“黒髪=危険”という烙印を免れた。国のために、自分を偽る道を選んだ」
「追放扱いで旅立たねばならないとか……自分を否定しながら国を救うなんて、つらすぎる。いくら脅威を退けられたとしても、痛ましい話だ」
「そうね。でも、そのときはまだよかったのよ」
「ん?」
「やっと自由になれたのだから、二人は旅を再開するはずだった。広い世界、美しい世界を、もっと見て回りたいって思ってた。でも……それは許されなかったの」
「なんでだ?」
「故郷の荒れ果てた姿を見れば、そうもなるわ。病に倒れた王様は退位するしかなく、後継者となるはずの王子は戦死し、結局“メービスを呼び戻して女王に据えるしかない”と判断されたのよ。
もちろん、昔から彼女を嫌ってきた貴族の派閥もあるから、黒髪だって知られれば絶対に荒れるし、不信は消えきらない。でも背に腹は代えられない……ってことね。
まさに非常的・緊急的措置。あの間に合わせみたいな儀式も、貴族たちのなんともいえない視線や態度も、そういうことだったのよ。国としては、復興の旗印に緑髪の英雄を利用したいし、黒髪だなんて知られたら民衆は大騒ぎ。公表できるわけがない。それを覆い隠すために、あんな道化みたいなことをさせられたわけ」
卓上の影が細く延び、言葉の温度が少しだけ下がる。
ヴィルはわずかに首を傾げ、問いを投げる視線を寄越す。
「だが、国を救った功績があるのに、未だに彼女を疑う奴らが多いのか?」
「うん……だって根深い迷信があるでしょ? “黒髪の巫女”は災いを確定させる厄介者だって、ずっと信じてきた人たちがいる。英雄とされたのは“緑髪の姿”だし、“本当は黒髪なんじゃないか”とか、“もしそうなら騙された”と考える人だって少なくない。
おまけにメービスは王女とはいえ、塔に閉じこめられて育ったわけだから、そりゃ貴族や重臣にしてみれば“政治に無知な子ども”だって侮るわよね」
ヴィルの唇がかすかに強張る。昼の悔しさを、彼も同じ温度で噛みしめている気がした。
「これだけ貢献を示しても、なお信じてもらえないなど、度し難い」
「それでも、彼女は、何もかも分かっていて、平気なふりをして王家に戻ったのよ。黒髪が嫌われようが、緑髪の精霊の巫女だとか、英雄だとか呼ばれようが、“国を守りたい”“民を救いたい”って気持ちは変わらない。それが両親や兄へのせめてもの恩返しだって……」
思いがせり上がって、喉が詰まる。
「ねえ、こんなに強い人っている? あんなに虐げられて、それでも誰にも恨みを向けず、ひたすら国や人々のことを思うなんて、なんて人なの――」
涙の気配が喉に上がる。ヴィルは私の手を取り、指先でそっと力を返した。
「……メービスの努力が報われて、本当の意味で理解される日が来るんだろうか……?」
私は唇を結び、ひと呼吸、顔を伏せる。
「さあ。でも、少なくともメービスは迷わなかった。出自なんて関係なく、彼女は国を守りたい。それだけで動いていた。このウィッグには、父のやさしさや、国の身勝手な都合や、いろんな想いが詰まってる。その誰も気づかない小さな象徴が、“彼女”と“世界”をつなぎとめてる気がするの」
指に力がこもり、ヴィルの掌の温度が少しだけ強くなる。
「おまえが詳しく話してくれて、背景がよく理解できた。――まったく、理屈じゃ通じない因習ってやつは厄介なもんだ」
「でしょう? 黒髪を忌む数えきれないほどの歴史があって、昔から『黒髪=災厄』と思ってる人たちがいた。そこでメービスがどれだけ尽くそうと、簡単には変わらない。それでも、彼女は諦めずに旅をして、魔族を倒した。
……本当、すごいよね。私のご先祖様とも言えるかもしれないけど、素直に尊敬するしかない」
「まったくだ。どれだけ険しい試練を乗り越えれば、そんな強靭な意志を持てるのか。まさに女傑という言葉がふさわしいだろう」
感嘆と痛みが混ざる横顔。私は小さく微笑み返す。
「そう思うよ。わたし、彼女のことを誤解していたのかもしれない。もっとロマンチックな伝説を想像していたんだから。
――でも、メービスって本当に偉大な人だった。彼女のおかげで少なくとも黒髪に対する偏見もいくらか和らいだんでしょう?
たとえば、わたしの母さまは公的な場所には出られなかったけれど、離宮でそこそこ自由を許されていたし、メービスに倣ったウィッグを使って街を駆け回っていたとか――とんでもない行動を見せて、付き添いの人たちは胃薬が欠かせなかったとか……そんな話をお祖父様に聞かされたりしたけど」
母の自由さも、彼女が切り開いた道の延長線にある――そう思うだけで、胸に温度が戻る。
「はは、そういえばお前もあちこちで大暴れしていたじゃないか。今思うと、すべて繋がっていたということだよな」
揶揄の色を含む声に、懐かしさが混ざる。私は肩をすくめ、照れを隠すように息をついた。
「うん、だから……ちょっと嬉しいかなって。まさか、私や母さまの振る舞いに、メービスの意思や、彼女が切り開いた道が受け継がれていたなんて、考えてもいなかったから」
言いながら、胸の奥のこわばりがほどけていく。遠い伝説が体温に変わる。足が前へ出る。
「“繋がっている”のは、お前だけじゃない。俺だって、そしてこの国のすべてが、メービスの残した影響を何らかの形で受けている。――そう考えると、不思議な巡り合わせだよな」
「だね……。本当に、運命って不思議な巡り合わせ」
静かな充足が満ちる。試練の大きさに比例するように、つながりの実感が濃くなる。息が深くなる。
ヴィルは足を組み替え、私の方へ向き直って微笑む。
「お前がそう思うなら、きっとメービスだって冥利に尽きるだろう。――これから先、俺たちに何が起こるかわからないが、ここにいる限り、この国のために頑張ってみるか?」
「そうね、せめて……彼女に恥じないように」
視線を合わせて、小さく笑う。さっきまで押し潰されそうだった心に、灯がひとつ点る。
それは、メービスがくれた力かもしれない。
彼女の道の重さを知るほどに、私の胸は勝手に疼き、前へ出たくなる。
「正直、彼女に比べたら私なんて弱虫だけど、それでも彼女の願いに沿えるように頑張りたい――って思える。ヴィルが一緒にいてくれる限りは、なんとかやってみるよ……」
衣の裾を握り、頭を下げる。面会で受け取った痛みは、今は支えの芯に変わりつつある。
――でも……。
どれほど願っても、元の時代へ、元の身体へ戻れる確証はまだない。手がかりは見つからないまま。あの“転移”がもう一度起きない限り、私はずっとメービスとして生きるしかないのだろうか。
夜の静けさが深まるほど、不安が肌の上に薄く降りてくる。ランプの芯が小さく鳴り、寝台の布がかすかに温度を返した。蝋の匂いがほのかに立ちのぼり、息の奥には微かな温度だけが残る。
同時に、どこか遠くで時刻を告げる遠鐘がひとつ。――遅れて壁が、音のうす膜を返す。
「黒髪の巫女」という因習とメービスの強靭さ
黒髪と緑の瞳の忌避
作中で繰り返し言及される「黒髪の巫女は災厄を呼ぶ」という迷信。これは作中世界に根深く残る大きな偏見で、王家ですら黒髪の姫を白銀の塔に閉じこめるほどの迫害が常態化している。人々の“恐怖や厄介者扱い”が“災厄を呼ぶ巫女”というレッテルに凝縮され、個人の人格を顧みない背景がうかがえます。
メービスの覚悟
幼いころから塔に閉じこめられたメービスは、黒髪ゆえに周囲から敬遠されながらも、古文書を読み込み“国を救う方法”を探り続けた。彼女は国に疎まれながらも、「誰よりも国を守りたい」と願い、黒髪を緑のウィッグで隠してまで旅に出る。
この強靭な意志と献身が、人々に「緑髪の英雄」として認知されるきっかけになった。しかし同時に“自分の黒髪を隠さなければならない”という哀しみも背負っている。
“女王”として帰還する運命
メービスが“黒髪”のままでは国民や貴族たちに受け入れられないため、“緑髪の英雄”として王位に就く道を余儀なくされる。国を救う英雄でありながら、黒髪にまつわる偏見は完全には覆されない。それでも彼女は国や人々のためにその立場を受け入れた。この一途な献身が「まるで嘘のような強さ」として主人公やヴィルを感嘆させています。
4. 主人公の揺れるアイデンティティ
“メービス”としての感情
本来は別人である主人公が、メービスの身体に宿ることになった結果、彼女の感情が入り混じるような状態になっている。「先王(メービスの父)と会うと、事実を言い出したくなるが、あの人を傷つけるかもしれない……」という葛藤。自分の本来のアイデンティティと、メービスの心の痛みや悲しみを同時に背負う窮屈さが繰り返し強調されています。
“帰りたい”気持ち vs. “この国を守りたい”気持ち
元の時代に帰るための方法は見つからず、奇跡のような転移も再現できるかわからない不安が根底にある。しかしメービスという先人の苦難を知ることで、彼女の志を継ぎたいという思いも大きくなっている。帰属先が失われる恐怖と、“自分が逃げたらメービスの意思も無駄になるかも”という後ろめたさがせめぎあう構図です。
ヴィル(ヴォルフ殿下)の支えとふたりの関係性
無言で寄り添う存在
ヴィルは主人公の隣に静かに座り、時にかすかな言葉をかけては主人公の心の重圧を溶かしていく。主人公が鬱屈する思いを吐き出す時、彼の反応は多くを語らず“寄り添い肯定する”という形。そこに長年培われた信頼感が表れています。見た目が変わろうとも“中身は昔のまま”という安心感が、彼女にとって絶対的な拠りどころです。
旅を共にした過去
回想の断片から、ふたりが旅をしてきた仲であることがわかる。かつては焚き火を囲む旅の仲間、そして今は王宮の寝室を共にする“夫婦”という立場――このギャップこそが物語のロマンを深めています。表の“高貴な夫婦”ではなく、内面で支え合う“対等なパートナー”としての絆が印象的です。
この場面が示す未来への暗示
メービスから受け継がれるもの
主人公はメービスという女傑の歴史や苦悩を知り、その意思を自分のものにし始めている。“黒髪”への偏見を打ち破ったメービスの強靭さが、いずれ主人公自身の心の支えになる。
「自分も弱虫だけれど、彼女の願いに応えるために頑張りたい」という覚悟は、一歩ずつ“女王として生きる”道へ踏み出している証です。
帰れる保証のない不安
しかし、この国に自分がずっと留まるのかどうか、奇跡の再現はできるのか――その答えは未だ闇の中。
ここに“元の世界へ帰りたい”という物語の大きな動機と、“いまの世界で王位を担うことになるかもしれない”という運命が同居している。主人公がどちらを選ぶのか、またはどのように両立していくのかが、見どころになりそうです。




