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黒髪のグロンダイル 〜巫女と騎士、ふたつでひとつのツバサ〜  作者: ひさち
第五章 孵化『Éclosion(エクロージョン)』
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白剣と黒鶴――少女が継ぐ未来の魔術

 私はお祖父さまの前で、しばし沈黙する。喉の奥がきゅっと細まり、どうにか息を整えようとするものの、かえって胸が苦しくなるばかりだった。


 魔術大学の教授や講師たちは、ときに鋭く、ときに燃えるような情熱をもって魔術研究に打ち込む、この国の魔術界を牽引する人たちばかり。

 そんな彼らを前に、正式な講義を行い、さらに実技まで披露しなければならないだなんて……本当にそんなことが、私にできるのだろうか。想像するだけで、胃のあたりがぎゅっと収縮していくような気がした。


 すると、お祖父さまはまるで確固たる決意を湛えたように、静かにもう一度口を開く。彼の深い声が室内をやわらかく包み込み、ただ私の胸には重く響いた。


「何も心配することはない。君はとても聡明であり、年齢に似つかわしくない叡智を秘めている。さらには、その好奇心と探究心の深さ。何より、この私と対等に魔術談義で渡り合えたこと……これ以上、何か説明が必要かな?」


 最後の「対等」という言葉を聞いた瞬間、頭の中がふわりと熱を帯びるような感覚に襲われる。

 まるで、自分が突然まばゆい舞台へと引き上げられたような、得体の知れない高揚感と、同時に背負わされた重大な責任の重み。私は小さく唇を震わせ、どうにか声を出そうとした。


「わ、私は、そんなだいそれた人間ではありません。探究心が強いといっても……その、ただ昔から本が好きで、いつの間にか読み耽っていただけで……」


 言い訳じみているのは承知の上だ。お祖父さまが真剣に見つめてくるほどに、心があらわになり、言葉が浮かんではすり抜けていく。私はただうつむき、かすかに震える両手を胸の前で握りしめた。

 すると、お祖父さまはそっと席を立ち、まるで書類の山を縫うように私のもとへ歩み寄る。そして、肩にそっと手を置いた。


「引き受けるか断るか――それは君の自由だ。だが、私はこの時をずっと待ち望んでいたのだよ。もしかすると、こんな機会は“最後”になるかもしれない……。それでも、私は君に可能性を託したいのだ。

 それはなにも国のためではない。君自身のためにも、君が培ってきたもの、君にしかない魔術への視点――それらを、一度公の場に示してほしい」


 ――最後かもしれない、って……そんな……。


 言葉が、私の心を鋭く抉る。思いがけず凍りついたように体がこわばり、声を出すのも難しくなる。


 お祖父さまの病は限られたごく一部の者しか知らない。けれど、離宮へ帰ってきては体を休める暇もなく書斎にこもり、夜を明かすような彼の姿を何度か目にしてきた私には、その深刻さが想像できる。


 お祖父さまは穏やかな眼差しを向けたままだった。私が彼の病の深刻さをある程度察していることなど、とっくに見抜いていたのだろう。


 長くはない時間の中で、彼はここまで私を必死に支えてくれようとしている。そんな彼の願いを、どうして断れるだろう。断るという選択肢が、私の胸の中からすうっと消えていくのが自分でもわかる。


「……わかりました」


 か細い声しか出せなくて、情けない。それでも私の返事を聞いたお祖父さまは、まるで光を見つけたように顔をほころばせる。私が小さく息を吐くと、そのまま彼の眼差しをそっと見つめ返した。


「でも、本当によろしいのですか。私のような未熟者が大勢の前で講義など……教授陣や講師の皆さまに、受け入れていただけないかもしれません」


 そう申し出ると、お祖父さまはかすかに笑みを深め、意外に頼もしげな声で答える。


「心配には及ばん。研究者というのは、案外“新しい視点”を求めるものだ。長年、同じ理論ばかりを反芻していては学問は進まない。君の柔軟な思考と斬新な切り口は、きっと彼らの刺激になるだろう」


「そんなふうに言っていただけて……少し、励まされます。けれど、講義の組み立てをどうしていいのか――そこだけが、まだ不安で……」


 ぎこちない声でそう尋ねると、お祖父さまは慈しむように微笑んだ。まるで幼い子どもに「大丈夫だよ」と告げるときのような、深い慈愛を感じさせる笑みだった。


「なにも型にとらわれなくていい。教授たちが求めているのは、“我々には届かない視点”だ。君だけの感性と独創性を思い切って出しなさい。――精霊魔術の本質は、既存の魔術理論の枠とは交わらないのだからね」


「とはいえ、そこが難所でして。私の精霊魔術は想念依拠で、理論立てて体系化するのは難しいのです。手順や理論をどこまで明確に語れるのか、自信がなくて……」


 思わず自嘲するように首を振り、うつむいてしまう。


 前世からの黒鶴――精霊魔術については、自分でも秩序も手順も意識したことがなく、いざ“他者にわかりやすく伝える”となると、全く勝手が違う。私には“教える”という経験が絶対的に不足しているのは明らかだった。


 すると、お祖父さまは私の心の奥底にそっと寄り添うように言葉を紡いだ。


「本来講義が示すべきは、“学びへの入り口”なのだよ。君には、その扉を自然に開けてしまう才がある。感覚と想念に基づく術なら、ありのままを“見せて”あげればいい。それは君だけに備わった、君だけが紡げる“世界”なのだから」


 その説得力のある低い声が、室内の静寂をやわらかく溶かしていく。

 私はふと顔を上げ、彼の瞳の奥をじっと見つめる。そこに映り込む私は、まだ不安気な面持ちの幼い少女のようでもあった。けれど、その鏡のような瞳の奥で、お祖父さまは“余人にはない才能”だと言ってくれている――それだけで、もう一度勇気を出そうと思える。


「……わかりました。では、私なりに精霊魔術についてお話ししてみようと思います。実技は私の得意な領域で、“被害を及ぼさない範囲”に限定する形で……それでも大丈夫でしょうか?」


 喉が乾き、言葉を継ぐたびに唇がこわばる。それでも、お祖父さまのやさしい眼差しが不思議と背中を押してくれるようで、胸の奥にわずかな熱さが灯るのを感じた。


「うむ。遠慮は要らん、思う存分見せてやりなさい。教授も学生も、きっと心を揺さぶられるに違いない。それに……」


 お祖父さまは一瞬だけ迷うように言葉を切る。そして、静かに呼吸を整えたあと、どこか照れ混じりの面差しで続けた。


「個人的にはだが、君が魔術界の未来を照らす人だと、この目で確かめられればそれでいい。そうなれば私も安心して、思い残すことなく務めを終えられるというものだ……」


「お祖父様……」


 短く呼んだだけで、胸がいっぱいになる。


 もどかしさと焦り、そして何より大切な人を失ってしまうかもしれない恐怖。それらが一気に涙腺を刺激する。

 だけど、今ここでこぼしてしまえば、きっとお祖父さまをますます心配させるだけだろう。だから私は、弱さを見せたくない。むしろ彼の期待に応えたいという思いを力に変え、唇をきつく結んだ。


「……はい。私やってみます」


 自分でも驚くほど小さな声だったけれど、瞳はまっすぐ彼を見据えていた。

 すると、お祖父さまはまるで何年も何十年も待ち望んでいた瞬間が報われたかのように、ほっと肩を下ろす。


 部屋を満たしていた張りつめた糸が、ふうっと解かれていくようで、私の胸も少しだけ軽くなった。

 こんなにも偉大な存在である彼が、ただのひとりの“家族”として優しいまなざしを注いでくれる。それが、どんなにあたたかく、そしてありがたいことか……。


「ありがとう。では、さっそく講義のスケジュールと実技用の場所を手配しておくとしよう。実はね、私もわくわくしているところなんだ。全力ではないにせよ、君の精霊魔術をこの目に焼き付けることができるのだからね。

 教授会の面々には私が話を通す。君は君のやり方で、心ゆくまで準備してほしい。わからないことや困ったことがあったら、いつでも訊きに来なさい」


「はい……ご期待に添えるよう頑張ります」


 そう答えた瞬間、さっきまで重苦しくのしかかっていた不安がほんの少し溶けていくのを感じた。

 まだ恐れは残っている。だが、それでも私には守りたいものがある。お祖父さまが注いでくれる無言の愛情、そして彼が築いてきたこの国と魔術の未来を継いでいきたいという、切なる願い。


 お祖父さまはもう何も言わずに微笑み、机に散らばった書類へと視線を戻した。

 公務に戻るという合図。私は深くお辞儀をして、執務室の扉に手をかける。けれどドアノブを回しかけたそのとき、ふいに彼の声が背後からそっと飛んできた。


「それから……講義を始める前に、一度、私の前で試してみてはどうだろう。もし気恥ずかしければ、お互いの空いている時間でも構わない。離宮の屋上でも、夜の庭園でも、好きなところを選びなさい」


「……はい。実技の構成が決まり次第、ぜひお願いします」


 まだ視線は合わせないまま、けれど私の中にはしっかりした意志が芽生えていた。


 ぽん、と胸の奥で小さな火花が弾けるような感覚。弱い自分に鞭打つようでもあり、しかしそれは決して嫌な痛みではなかった。むしろ「やってみせる」という、わくわくするような勢いを秘めた刺激。


 私は静かに扉を開けると、後ろから見守っているであろうお祖父さまを振り返らずに、そっと総長室をあとにした。

 そこから先、どんな道が待ち受けているのかはわからない。けれど、きっと何があっても私なら乗り越えられる――その思いが、小さな炎となって心の中で揺れ始めている。


 一歩、また一歩。廊下を進むたびに胸が高鳴る。遠くから窓越しに差し込む陽光が、まるで私の背中をさっと照らしているかのようだった。


 そのとき、まるで脳裏の奥をかすめるように、はっきりと“彼女”の声が聞こえた。白き剣マウザーグレイル――その中に宿る人格、茉凜の声が。


《《ずっと聞いてたけど、よかったんじゃない? うんうん》》


 呆れ半分、けれどどこか嬉しそうな調子が混じる声。姿の見えない“彼女”の言葉に、私は苦笑しながら小さく頷いた。


「どうしても……断れなくてね。というか、断る理由すら見つけられなくなってしまったの」


《《うん、わかるわよ。それに、あのグレイさんが『頼む』だなんて、本当に珍しい話じゃない? こんな機会、そうそう巡ってきやしないでしょうし。それに……》》


 途切れた茉凜の言葉に、私は小さく唇を噛んだ。


「……うん。正直、まだ実感が湧かないわ」


《《でもまあ、あなたならやれると思うよ? なにせ、このわたしが保証するんだから》》


「保証を? あなたが? ……怪しいものね」


 思わず嫌味ったらしく聞き返してしまうと、“彼女”は得意げに笑う気配を送ってくる。


《《ずっと、いちばん近くであなたを見てきたのはこのわたしだから。ね、その意味、わかるでしょ?》》


 その言葉に私の心は少しほぐれる。自分の足がようやく地に着いたような安堵感が胸に広がった。


「ありがとう、茉凜。……でも、講義ってなると『何を伝えたいか』をちゃんと決めなきゃ。欲張ったら、どれも中途半端になりそうで……」


《《じゃあ、まずは“テーマ”をしっかり定めよう。あなたが本当に伝えたいことは何なのか、きちんと向き合って見極めるの。体系的な理論を重んじる教授もいるだろうけど、まずはあなたが好きでたまらない“場裏”の景色や、“疑似精霊体と話す瞬間”を、そのままの言葉で表せばいいんじゃない?》》


「……そうね。それがいいと思う」


 やわらかな叱咤をくれる声に、自然と微笑みがこぼれる。


 前世から精霊子の気配に触れ、その集積によって生まれる疑似精霊体とやり取りを重ね、私は異能の練度を高めてきた。私にとって黒鶴――精霊魔術は、“概念”を越えて手触りを持つ、身近な奇跡にほかならない。


 けれど、教授たちはおそらく“体系的な魔術理論”や“論証”を重んじるだろう。そこをどう伝えるかが悩みの種……なのだけれど、それでも私は自分なりに道を切り拓くしかないのだ。


《《考えすぎると身動き取れなくなっちゃうよ。あなたが前世から試してきた数々の流儀――それが全部、あなたの武器になるんだから。そのまま自分の目線で組み立ててみなさいな》》


「……そうね。そうしてみる。本当にありがとう、茉凜」


 深い息をつきながら、私は心の奥に新たな決意が満ちていくのを感じた。

 何もできないと思い込んでいた昔の自分は、もういない。今は少しずつではあるけれど、“自分だけの魔術”と呼べるものを形にして、ここまで来られたのだから。


《《どうせ今日もこれから図書館でしょ? 本を山ほど抱えて、背中丸めるのはほどほどにね》》


「……もう、わかってるわよ」


 ふっと笑いが漏れた。声だけの存在――茉凜とのやり取りは、いつだって私を助けてくれる。


 私は足早に廊下を抜けていく。曲がり角から柔らかな朝の光が差し込んで、まるで私の決心をそっと祝福するかのように視界を照らしていた。


《《それにしても、“最後かもしれない”だなんて物騒なこと言うし、やっぱりグレイさんは本気ね……》》


 茉凜の声が、急に少し沈んだ響きを帯びる。

 胸の奥が、きゅっと締め付けられるような感覚に襲われる。お祖父さま――グレイ総長が抱える病の深刻さは、私だけでなく茉凜も重く感じているのだろう。


「……そうね。本当に彼は本気だわ。だからこそ、私も逃げたくないの」


《《大丈夫。美鶴ならできるよ。……わたしも全力で手伝うから》》


「ありがとう。頼りにしてるわ」


 軽口を叩き合うだけで、ふわりと心が軽くなる。私には、こうして背中を押してくれる存在がいる。たとえ不安に駆られようと、きっと乗り越えられる――そんな自信が、胸の奥にじんわりと根づいていくのを感じた。


◇◇◇


 腕いっぱいに本を抱え、私は図書館の片隅にある閲覧用の机を確保する。椅子に腰掛けると、背筋を伸ばし、軽く目を閉じた。

 しんとした静寂の中、私の呼吸と心音だけがゆっくりと耳に届く。何冊もの資料を広げ、真剣に読み込み、必要な部分に付箋を貼り付けていく。ページをめくる指先には、いつもより少しだけ熱がこもっている気がした。


 そう、私は“今”を生きている。“最後”なんて言われても、この瞬間に全力を注ぎたい。彼が私に向けてくれたまなざしに応えるためにも、私なりの道で精一杯を示したい――。


 どれほどの時間が経ったかわからない。視線を上げると、図書館の窓に差し込む光の角度が変わり、すでに午前中とは違う色になっている。

 何かに没頭すると周りが見えなくなるのは、昔からの悪い癖……と思いつつ、私は読み進めてきた本をそっと閉じた。


《《だいぶ読み込んだわね。もうお昼だけど、いったん区切りをつける?》》


「そうね……。いったん休憩してお昼ごはんにしよう。要点を頭の中で整理しないと」


 本を片付け、仮貸し出しの手続きをしてから、私は席を立つ。

 ふと顔を上げると、先ほどまでちらほらいた学生たちの姿は、もう見当たらない。どうやら昼休みの時刻に入ったらしい。少し気恥ずかしさを覚えながらも、こんなに静かな図書館を独り占めできるのも悪くないと思う。


 図書館を出ると、廊下の窓からは温かな光が差し込み、まるで私を歓迎するように床へ長い影を落としていた。ほんのわずかだけれど、空腹を感じる。食事をとるのも大事な仕事のうち……そう自分に言い聞かせながら、私は学内の食堂へ向けて歩を進める。


 講義の準備は始まったばかりだけれど、心の中には確かな手応えがあった。お祖父さまの言葉、茉凜の励まし、そしてこの国の未来を思うときめきが、私を一歩ずつ前に押し出してくれる。苦しいときほど、私の中の“探究心の火”がかき立てられるのを感じるのだ。


 ――やってみせる。


 穏やかな昼下がりの光を浴びながら、私はそっと胸の奥でつぶやく。この小さな光が、やがて大きな炎へと燃え上がり、教授陣の前で堂々と講義を行う日に繋がるはず。想像するだけで、心がじんわりと熱くなる。


「お祖父様、見ていてくださいね……」


 誰に聞かせるでもなく、唇の奥で小さくつぶやいた。胸を張り、私は廊下を抜ける。その先に続く扉を開ければ、また一つ新しい世界が広がっているに違いない。

 今回の主要な見どころを大きく三つの視点から考察してみます。登場人物の内面、二人の関係性、そして魔術をめぐる構造をそれぞれ紐解くことで、物語の意図やテーマがより明確になります。



1. 主人公の内面:弱さと責任、そして探究心による成長

1-1. 不安や恐れの根源

 物語の冒頭から、主人公は自分を「だいそれた人間ではない」と位置づけています。これは、“才能があるのに自己評価が低い”という葛藤の表れで、彼女を読者にとって親近感のある存在にしています。


 「胃がきゅっと収縮するような恐怖感」が示しているように、彼女には“人前で講義をする”という重大な場面が心の負荷になっている。特に、教授・講師陣という権威ある人々の前での実技披露は、彼女の才能を試されると同時に、自尊心を揺さぶる大きな挑戦です。


1-2. お祖父様からの後押しがもたらす“変化”

 「対等に渡り合えるほどの叡智を持つ」というお祖父様の評価は、主人公の不安を拭い去る強いきっかけになります。「自分を正当に認めてくれる」存在がいることで、彼女は自らの“可能性”を受け入れざるを得なくなる。


 さらに、“最後かもしれない”という切迫した状況が、彼女をただの自己実現ではなく、“愛する人の期待に応える”という方向へ導いています。この点で、彼女の意志が“探究心の火”として燃え上がるのが、本作の大きなモチーフになっています。


1-3. 前世や想念に基づく精霊魔術との結びつき

 主人公は、「我流」「想念に基づく術」という、体系的魔術から外れた領域に軸足を置いています。この“独自の力”は、彼女の不安材料であると同時に最大の強み。


 従来の理論が通じない分、彼女が自らの体験や感受性をどう“言語化”し、“見せる”かが成長の鍵。


2. お祖父様との関係 死期を悟る者と未来を託される者

2-1. “最後かもしれない”がもたらすドラマ性

 お祖父様は、国内の魔術界や政治を担う要人としての責務を抱えながら、病によって余命が限られている。彼自身が主人公に「国の未来」を託す構図は、物語に緊張感と尊さをもたらします。


 主人公にとっては、“自分のため”だけでなく“お祖父様のため”に自らの術を世に示すことが使命感となる。そこに、深い家族的愛情と恩返しの気持ちが加わり、単なる“学問上の挑戦”ではない重みが生まれています。


2-2. 家族としての温もりと、国家を背負う重圧

 お祖父様は「死期を悟りながらも、なお国と主人公を支える」という姿勢を崩しません。家族としての優しさだけでなく、魔術界を束ねる総長としての誇りや気概も見せることが、彼を単なる“病弱な保護者”で終わらせない要因となっています。


 主人公にとっては“偉大すぎる存在”であるお祖父様が、家族として目線を合わせ、“対等”という言葉を使ってくれることが、彼女の心を動かす最大の原動力となります。



3. 魔術大学という舞台 理論と感性、保守と革新の交差点


3-1. 学問界の権威と“新しい視点”

 物語では、教授や講師たちが「同じ理論を反芻するだけでは学問が進歩しない」という問題意識を抱えていると示されています。これは、“保守的な権威”と“新しい可能性”のせめぎ合いを表す典型的な構図です。


 主人公の「我流」「精霊との対話」を軸とする魔術観は、既存の理論体系に一石を投じる存在になりえます。彼女が講義をすることで、大学にどのような刺激がもたらされるかが、今後のストーリーの要となるでしょう。


3-2. 実力主義の中で“自分だけの魔術”を証明する難しさ

 国や大学における実力主義の風潮は、主人公にとっては試練でありながらチャンスでもあります。自分の“感性”に基づく魔術が実力と認められるためには、実際に目に見える効果や成果を示す必要があるからです。


 お祖父様のバックアップや大学教授陣の期待はあるものの、“理論的な裏付け”に乏しい術をどうプレゼンテーションするのか。ここに講義や実技の見せ場が集中すると思われ、物語の盛り上がりを担うと考えられます。


まとめ 主人公が歩みだす“未来”への決意


 主人公は、“自分なんか”という弱さと“国の未来”を背負う責任の狭間で苦しみながらも、一歩ずつ前へ進もうとする。

 お祖父様の“最後かもしれない”という一言が、物語全体に切なさや危機感を漂わせつつ、主人公を“逃げられない状況”へと導いています。しかし、それは同時に“愛する人の期待に応える”強いモチベーションに繋がっています。

 魔術大学での講義や実技披露は、単なるパフォーマンスではなく、“自分が培ってきたもの”“黒鶴の精霊魔術の本質”を世に示す機会です。主人公にとっての真の試練は、教授陣・学生の前で“感性の術”をどう伝え、どう理解してもらうかという点にあります。

 彼女の背後には、お祖父様の無言の愛情や、“白き剣マウザーグレイル”の人格・茉凜の支えがあり、彼女はそれらに背中を押されるように進んでいく。苦しいながらも“探究心の火”を燃やし続ける。


要するに、この今回は

〈自分にしかない力と経験〉

〈家族の愛と国の未来を背負う責任〉

〈保守的な学問体系に新たな価値を吹き込む挑戦〉


 という三つのテーマが交錯するドラマです。 主人公が“最後”と言われるほど切羽詰まった状況のなか、彼女にしかない魔術観を人々に示し、なおかつお祖父様へ応えようと奮闘する姿が期待できます。

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