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裂かれた絆

 目の前の騎士は、彫像のように微動だにしなかった。鈍い光を返す鎧が室内の冷気を締め上げ、胸郭の奥がきゅっと縮む。呼吸は浅く、指先には汗の湿りがにじむ。


 私は茉凜と共にいる――それだけで、恐怖を突き抜ける力が私に宿っている。


 柄を握り直し、重心を落とす。視線を針の先のように騎士へ縫い付け、息を一度深く吸って細く吐く。胸のざわめきが沈み、次の手を冷えた頭で順に並べる。


 黒鶴の場裏・白を展開する。足元に、そして全身の各所に白を開き、圧縮空気の噴出で浮上・高速移動・高機動制御へ繋げる。

 イメージは明確だ。思考に応じて白が開き、体が風路に乗る。音を置き去りにする速さ――問題は、攻撃をどう外し、どの瞬間を掬い上げるか。


 苦し紛れの跳躍は愚策だ。上へ逃げれば即座に迎撃される。ならば――兆しは予知視で読む。相手の打ち込みの機会を外し、剣を掻い潜って足元へ滑り込む。そこだけが、私の届く場所。


 私は小さい。百五十に満たない器で正面衝突は無謀だ。だが、小柄だからこそ潜れる隙間がある。巨体の懐に身を落とし、相手自身を盾にする。


 そして、マウザーグレイルは剣の形をした魔導兵装。刃は存在せず、一見無力にも見えるが、それが今は好都合だった。

 何も斬れないからこそ、斬ることを考えなくていい。ただ動きに集中する。重さは玩具のように軽い。重装鎧を砕く腕力など最初から持ち合わせない――それでいい。


 たった一本――相手の騎士から一本を取る。それだけが、私の勝利だ。


 騎士は静かに佇む。岩のような存在感。兜の向こうの視線には余裕が宿り、私の出方を待つ冷えた気配がある。鎧の擦過音、呼気の揺れ――すべてを拾い、体内の糸を張り直す。


 茉凜の声は聞こえない。けれど、心に寄り添う温度が確かにある。その温度が、背骨の芯を支える。


「――行くよ」


 自分の声は想像よりも静かで、迷いがなかった。空気がわずかに変わる。張り詰めた静寂を裂き、私は一歩、床を蹴る。


 大柄な騎士は動じない。鋼の壁のように立ち尽くし、構えを崩さない。その静けさが、むしろ挑発になる。


 私は身を低く沈め、加速の姿勢へ体を落とす。


「その余裕、これより崩す!」


 声と同時に、足元と背から白が咲く。音のない膜が浮力を与え、背後の場裏・白が圧を吐く。体は弾かれ、飛翔に近い速度で前へ。


 視界が狭まり、風が頬を鋭く叩く。加速のGが肺を圧し、喉に熱が籠る。それでも狙いは一点――足元。


 この身、この命、この一瞬に叩き込む。


 迷いは入り込む余地がない。これは衝動ではなく、積み上げた必然だと、体の深部が知っている。

 心臓は早鐘を打つ。けれど恐怖はない。茉凜――いや、マウザーグレイルの力を信じている。


 自分から危険へ飛び込む。それが予知視を引き出す鍵だと、前世が教えた。自己防衛本能を極限まで刺激し、死地の縁に立った時、この力は目を開く。茉凜が命を賭して何度もやってきたように――。


――ここだ。


 意識が刃のように細くなる。体は自然に動いていた。

 アドレナリンが駆け、呼気が熱を帯びるのに、心の底は不思議な静けさで満たされる。


 視界がふっと暗転する。黒いベールが降り、現実の輪郭が遠のく。


――来た。


 闇に白い多重像が浮かぶ。剣を構えた姿が微妙にぶれ、複層に割れる。複数の近似世界が、瞬きより短い未来を重ねている。

 マウザーグレイルが示すのは、刹那先の並行世界の断片。数秒、あるいは瞬間の情報が、意識に重なって流れ込む。

 視覚だけではない。空気の擦れ、皮膚に触れる気流、鉄の匂い。感覚が研ぎ澄まされ、剣と私が完全にリンクする。


――見えた……。


 胸に確信が灯る。掴み切れれば勝機はある。息が自然と整い、筋肉の震えが音に変わる。


 騎士の突きが鋭く迫る。

 私はそのまま加速を重ねる。切っ先が視界の中央へまっすぐ来る。


 恐れるな。重心を完全に移し、相手に溜めを与えきる。すべてを剣先に集束させろ。


 恐怖の先に、光が走った。


――ここだ。


 意識が閃光のように冴え、上体を深く折り、剣は上から振りかぶる――体勢はほとんど地を這う。常人の可動域を越えた姿勢が可能なのは、場裏・白が支えているから。


 空間が一瞬、息を止める。マウザーグレイルの刀身が相手の剣先を掠め、滑らかに受け流す。

 金属が鈍く鳴る。その抵抗を手繰って姿勢を寝かせ、床面すれすれに滑り込み、足元――懐の最奥へ。


 ぎりぎりまで引きつけ、完全な打ち込みを誘って空振りさせる。生じた一拍の隙に、最も有利な位置を確保する。


 父ユベル・グロンダイルが、もう一つの真髄。

 舞うための飛翔があるなら、これは仕留めるための一撃。巨体や怪力の相手ほど有効な、懐落ちの必殺。


――完全に取った。


 剣と剣が擦れ、不快な金が耳を刺す。視界の隅で足もとが開く。今だ、払う。崩す。喉に剣先を――そう、頭の中のシナリオは隙なく組まれていた。


「見事だ……」


 低い声が、音の温度だけで私の胸を掴む。


 何が起きたのか、一瞬わからなかった。耳に届いた響きが思考を裂く。ありえない既視感が、頭蓋に木霊する。


――知っている、声だ……。


 顔を上げる。兜の影の奥で、彼の目が淡々とこちらを見返す。侮蔑も焦りもない。静かな、評価の目。


 胸の奥がざわめく。


――どうして――どうしてこの場で、その声?


 兜に隠されて素顔は見えない。けれど、確信は揺らがない。

 その声の主は、ヴィル・ブルフォード――あの人だったのだ。


――ありえない……。


 過去の記憶が、音もなく押し寄せる。胸の内側で波がさざめき、膝裏の筋がわずかに震えた。


◇◇◇


 父さまとヴィルは、まさに盟友と呼ぶべき存在だった。若い鋼の音が夕靄にほどけるまで打ち合い、刃を拭う布に酒の匂いがしみる頃には、未来の話をしていたという。


 父さまが銀翼騎士団の翼長として隊を率いたとき、ヴィルはその右腕――副官として、血と泥の匂いに満ちた数えきれない戦場を肩を並べて駆け抜けた。


 それでも運命は、容赦なく二人を裂いた。父さまが冤罪で左遷され、ついには誘拐犯として国を追われたとき、ヴィルもまた彼のために奔走したと聞く。

 それからの長い年月、彼は乾いた風と潮気の混じる街道を渡り、大陸を彷徨っては手がかりを拾い続けた。


 そして――彼「黒髪のグロンダイル」の噂を耳にし、私のもとを訪ねてきたとき。


 扉板を叩く乾いた音。入ってきたのは、疲労を深く刻んだ男だった。

 ほこりを吸った厚手の外套、ぼさぼさに乱れた金の髪、無精髭が顔の陰影を濃くする。酒場の薄い灯が頬の溝をなぞり、疲れの色をいっそう際立たせていた。それでも、眼だけは澄んでいて、夜を見通すような鋭さを宿していた。


 正直、私は彼を軽んじていた。父さまの旧友と名乗られても、語られる逸話をいくつ聞かされても、信じ切るには遠かった。父さまと並び立つほどの人であれば、ここまで朽ちた影にはならないだろう――そんな浅はかな思い込みが、胸のどこかにあった。


 けれど、それはすぐに砕かれる。


「ひとつ、手合わせをしてくれないか?」


 低い声に、私は挑むような視線を返した。父さまの娘であることを証明したかったし、彼の腕前を量るつもりでいた。


 初太刀で、意識は粉々にされた。

 後に知った「雷光」の異名――名に違わぬ速度と鋭さ。私が展開した〈場裏・白〉の風の障壁を、彼は躊躇なく正面から断ち割り、裂け目から容赦なく間合いを詰めてきた。

 高圧縮大気の解放が斬り払われ、頬に冷たい風が刺さる。目の前で起きた現実に、私はただ呆然と息を呑むしかなかった。


 これが、本物の強さ――。


 父さまと肩を並べた剣の片鱗が、そこにあった。私の中の侮りも疑念も、その一閃で拭い去られた。

 激しい打ち合いのただ中で、忘れていた父さまの剣の記憶まで呼び起こされる。手の内の転位、踏み込みの温度、呼吸の間合い――体が覚えている。


「安心しろ、お前は間違いなくユベル・グロンダイルの娘だ。この俺が保証する」


 立ち合いの後、彼がそう言ったとき、胸のどこかで固く結んでいた結び目がほどけた。剣を振るう私自身を、初めて誰かがはっきり肯定した瞬間だった。


 そうして、私たちの関係が始まった。


 出会いの印象は決して良くはない。無骨で、無愛想で、不器用。冗談にはどこか無神経に受け返し、昼から酒を口にする姿には呆れることもあった。この人と旅を共にするなんて――最初は想像もしていなかった。


 それでも、同じ狩り場を駆け、同じ鍋の湯気を分かち、夜の静けさを酒で温める時間を重ねるうち、彼の輪郭が少しずつ見えてきた。


 ふとした仕草の裏に隠れる、真っ直ぐで拙い優しさ。険しい表情の奥に沈む、体温のある強さ。無愛想さは、ただの照れと不器用の裏返しだと気づくまで、そう時間はかからなかった。


 気づけば、彼の視線はいつも私を追っていた。遠すぎず、近すぎず。押し付けや過干渉はなく、「父代わり」という意識があったとしても、それでは説明できない温度が、彼の態度の端々に滲んでいた。


 彼は私を過保護に扱わない。むしろ「一人前」として向き合おうとしてくれる。言葉の端には、私が選ぶ自由と、その選択に伴う責任を尊ぶ硬さがある。


「自分で考えて、自分で決めろ」


 それが、彼の教えだった。


 私が望まなければ、彼は何も強いない。望めば、全力で応える準備を静かに整えてくれる。迷って挫けそうなときは、背中をそっと支える手だけを差し出す。


 そういう彼に、私はいつの間にか感謝で満たされていた。そばにいてくれることが、どれほど心強いか。言葉にしようとすると、喉が熱くなる。


 もっと強くなりたい。もっと成長したい。そして、ちゃんと認められたい。父がそうであったように、彼の隣に立てる存在になりたい――。


 その願いは、静かに、しかし確かに芽吹いていく。


 一方で、言葉にしきれない感情が、胸の片隅に横たわっていた。向き合うのが、どうしてこんなにも難しいのだろう。ほんの少し甘えたいだけなのに、ふさわしい言葉が見つからない。伝えたい想いは喉の奥で絡まり、息を潜めて消えていく。


 彼をどう思っているのか――自分でも測りかねる瞬間がある。霧のなかを手探りで進むみたいに、出口のない不安と、それでも奥へ進みたい衝動がないまぜになる。


 それでも、一つだけはっきりしている。


 もっと彼を知りたい。もっと時間を重ねたい。剣を交えて本質に触れ、その技の鋭さを肌で確かめたい。スレイドに二人で跨り、風を切って知らない土地へ行きたい。火を囲み、少しの酒とつまらない冗談で笑い合う――そんな些細な時間を愛おしいと思う。


 ぎこちなく作った私の料理を、彼がどんな顔で受け取るのかを見たい。あの狭い台所で、もう一度並びたい。手探りで作った温かさを、同じ皿から分け合いたい。


 ただ一緒にいたい。それだけなのに、この感情の名が要らないほどはっきりしているのに、正体には手が届かない。


 父に向ける尊敬か。師への信頼か。歳の離れた兄への憧れか。親友――そんな簡単な言葉では包めない。それ以上の何かを、私は彼の中に見ようとしている。


 答えは出ない。


 十二歳の私と、二十一歳の私。今生の幼い純粋さと、前世の冷えた視線が絡み合い、思考は渦を巻く。私は何を求めているのだろう。彼に、何を。


 そして、彼はこんな私をどう見ているのだろう。

 わからないことだらけで、それでも一つだけ、確かな願いが胸に灯っている。


 ――できるなら、ずっと一緒にいてほしい。


 それだけなのに。どうして、触れられない距離がときどき生まれるのだろう。


◇◇◇


 思考の熱がふっと引き、足裏に石の冷たさが戻る。視界の端で鎧が鈍く光り、乾いた鉄の匂いが鼻を刺す。私は体勢を崩したまま、騎士の脛へと勢いよくぶつかる。肋に鈍痛が走り、掌に床石のざらりが食い込む。


 影が落ちる。体温を与えない、重い影。兜の奥の瞳は、私の知る彼の色で――けれど、底に薄い氷が張っているようだった。


「ヴィル……」


 名を呼ぶと、音は空気に吸われた。彼は微動だにせず、視線だけが私を捉える。その静けさが、信じたいという願いを乾いた砂のように崩していく。頬を撫でる気流は冷え、背の汗が細く落ちた。


 彼の胸板が、わずかに上下する。沈黙ののち、低い声が落ちた。


「……お前に会わせたい人がいる。ここは俺に負けておけ」


 その言葉は淡々として、私の苦悩など意味がないと告げるようだった。

 けれど、声の奥には、理解しづらい影があった。冷徹に見えて、かすかな躊躇の色。胸の中で、さらに波が立つ。


――負けておけ――いったい、どういうこと?


 それでも、ひと言が心の奥へ重く沈む。理屈ではなく、彼の声そのものが影となって落ちていく。

 言い返そうとしても、喉が硬く閉じる。反論の気力も吸い取られた。ただ彼を見つめる心だけが、その場に留められていた。


――私、どうすればいいの?


 胸の内で叫んでも、声にはならない。言葉にしてしまえば、いまの空気が壊れてしまいそうだった。


 ヴィルは動かない。立ったまま、そこにいる。それが私をさらに追い詰める。


――これから、どうなってしまうの?


 彼が望むものは何か。問いは喉元でせき止められる。問い詰める勇気も、答えを受け止める覚悟もない。


 視線が、静かに私を測るように動いた気がした。背筋が冷える。


――あなたは何を考えているの? 私に何をさせようというの?


 反響する疑問は、不安を絡めてふくらんでいく。彼は答えない。ただ、見据える眼差しが何かを突きつける。息を飲む。ごくりと鳴った喉の音さえ、張り詰めた静寂には大きすぎた。耳鳴りのような余韻が胸の奥で広がる。


 光景が一瞬、歪む。視界の隅で影がちらつく。次の瞬間――


 腹へ、烈風のような衝撃が走る。

 痛みは鋭く、体の意識が一点に吸い寄せられる。掴み取ろうとした手に力が入らない。冷たい汗が背を流れ落ちる。生々しく。


 呼吸ができない。喉が焼け、空気が弾かれる。


「――っ!」


 声にならない叫びが胸でつぶれる。視界がじわりと狭まり、色が抜けていく。絵の具が黒へ塗り替わるように、景色が闇へ沈む。


 意識は足元からすっと抜けた。


 深淵の闇。その語が頭を掠めた頃には、もう何も感じない。遠い場所で揺れる光の残像だけが、最後の焼き付けになって消えた。


 このシーンでのミツルの心理描写を考察すると、以下のようなポイントが浮かび上がります。


恐怖と覚悟の交錯

 ミツルは対峙する騎士の圧倒的な存在感に、強い威圧感と恐怖を感じています。彼女はそれを「胸の奥がぎゅっと締めつけられる」「呼吸が浅くなる」と具体的な身体的な感覚で表現しています。恐怖に支配される状況にもかかわらず、ミツルは茉凜との絆に支えられ、「怯むわけにはいかない」という強い意志でそれを乗り越えようとしています。この恐怖を克服する姿勢には、彼女の成長と内面の葛藤が浮き彫りにされています。


戦闘への集中と緻密な思考

 ミツルは恐怖を押さえ込み、目の前の状況に集中しています。手汗や呼吸の乱れといった些細な動揺を切り捨て、自身の能力である「場裏白」の展開や予知視を駆使して勝機を見出そうとします。この過程では、冷静な分析力と緻密な戦術思考が際立ちます。彼女が頭の中で「黒鶴の場裏白」をどのように活用するかを具体的に思案している様子は、ただの直感や勢いに頼らない、合理的で戦略的な一面を描き出しています。


自信と自己肯定感の揺らぎ  

 ミツルが抱く「自分は小柄で非力である」という意識は、彼女の自信に影を落としながらも、逆にその小柄さを活かして勝利への糸口を見つけ出そうとする発想力につながっています。彼女はその非力さを嘆くのではなく、それを活かす術を知っている。その背景には、父ユベルとの記憶やヴィルから学んだ戦術、そして茉凜という存在の支えがあります。この自己肯定感の揺らぎと、そこから生まれる新たな確信が、ミツルの人間的な深さを際立たせています。


ヴィルとの関係による感情の混乱

 目の前の騎士がヴィルであると確信する瞬間、ミツルの心理は大きく揺れ動きます。尊敬し、信頼し、特別な思いを抱いている人物が敵対者として立ちはだかるという状況は、彼女にとって耐え難いものです。「どうして?」「信じたい」という切なる想いと、目の前の現実が彼女を引き裂きます。この場面では、ヴィルへの複雑な感情――師匠、家族、友人以上の何かへの思いが交錯し、それを言葉にできないもどかしさが際立ちます。


絶望と希望の狭間

 最後に、ミツルは物理的な痛みと精神的な苦しみに苛まれます。腹部への衝撃がもたらす痛みは現実の厳しさを象徴しており、それが意識を深淵へと引きずり込む描写は、絶望の底に立たされる彼女の心理を表しています。


全体を通じた心理の変化

 ミツルの心理は、静かな恐怖から覚悟への転換、過去との向き合い、そして目の前の状況への絶望と再生への兆しという多層的な変化を遂げています。これらは彼女の内面の成長や、物語全体における彼女の役割を象徴しています。また、ヴィルとの対峙による感情の揺れは、彼女にとって戦いの枠を超えた重要な瞬間であり、これが後の物語に深い影響を与える伏線となるでしょう。



【ミツルの戦術と身体の姿勢や動かし方の変化について】

 ミツルの戦術は、単なる力任せの攻撃ではなく、鋭敏な分析力と瞬間的な判断力に基づく戦略的な動きが特徴です。


 彼女は相手の行動を冷静に見極め、相手の力を無効化する「隙」を作り出し、そこに全力を注ぎ込みます。


 その動きの基本は「柔よく剛を制す」という考え方に基づき、彼女の小柄な体格を最大限に活かした俊敏な行動にあります。


戦闘中の姿勢と身体の動き

低い重心からの加速

 戦闘開始時、ミツルは自分の体をできるだけ低く沈めます。この動作により、重心が安定し、次の瞬間に瞬発的な加速を可能にします。


回避と滑り込み

 巨大な相手を前に、ミツルは真正面からの力比べを避ける代わりに、相手の攻撃の流れを見極めて一瞬の隙を突きます。


 相手が剣を振り抜いた瞬間に生じる体勢の崩れや、動きの「間」を利用して、相手の懐に滑り込む動きが得意です。


 この動きは、彼女の体格と剣術の柔軟性があってこそ可能なものです。


場裏の活用

 「場裏白」を展開し、空気圧縮による瞬間的な推進力を生み出します。これにより、通常の人間では不可能な速さでの方向転換や、急激な軌道変更が可能になります。


 特に相手の攻撃をかわす際、ミツルは滑るような動きで相手の背後を取ることが得意で、その際のスピードは目にも止まらぬほどです。


心理状態と戦術への影響

 ミツルは戦闘中、恐怖と高揚感が混在する状態にあります。この心理状態は、茉凜が持つ「予知視」の発動を促進し、極限状態における集中力を飛躍的に高めます。


剣の扱い方と特殊性

 ミツルが使用する剣「マウザーグレイル」は、物理的な刃を持たない魔導兵装です。この特性により、剣を振るう際の重量感が極めて少なく、彼女は素早い動きを維持しながら自在に剣を振ることができます。


 斬るためではなく、相手の動きを制限したり、打撃や牽制の手段として用いることが多いのが特徴です。


戦術の真髄

 ミツルの戦術の核心は、「自分の弱さを受け入れ、活かすこと」にあります。自分の体格では勝てないと理解しているからこそ、スピードと知略を駆使し、敵の意識を誘導して隙を作り出します。


 その動きには、かつて父ユベルから学んだ「敵の動きを封じるための戦い方」が色濃く反映されています。


 例えば、彼女が見せる最も印象的な動きの一つは、「相手の剣先を滑らせる」技術です。剣がぶつかる瞬間に刃をわずかに傾けることで、敵の攻撃を自分から逸らすような形に持ち込みます。


 その結果、敵は一瞬バランスを崩し、次の攻撃を仕掛ける前に体勢を整えなければなりません。その一瞬の「間」がミツルにとっての攻撃の機会となるのです。


戦闘全体の流れと彼女の役割

 ミツルは戦いの中で、あくまでも「自分の力を最大限に活かし、無駄なく勝機を得る」ことを最優先に考えています。


 派手な技ではなく、一つひとつの動きに確かな意味を持たせるのが彼女のスタイルです。その姿は、小さな鳥が空を切り裂いて飛ぶようであり、同時にどこか危うさも伴っています。


 彼女の戦術は、身軽さと知略、冷静な判断力、そして強い意志の結晶といえます。

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