偽りの儀式、真実の名
それから数日は、何事もなく過ぎていった。眼下に広がる町並みはいつもと変わらない。儀式の混乱も尾を引くことなく収束したようだ。
私の扱いは罪人というより客人に近い。ただ行動の自由がないだけだ。朝には侍女が来て、食事から身の回りまで甲斐甲斐しく世話を焼く。まるでホテルに缶詰めにされたようだ。
そして、ついにその人はやってきた。
古びた扉が、きしむ音を立てて開く。部屋に張っていた音の膜が破られた。振り返ると、儀式で声を掛けてきた壮年の男がそこにいた。豪奢な刺繍のマントはあの時と同じだ。その存在感が部屋の空気をまるごと変質させる。
短く整えた銀髪が陽光を弾き返す。鋭い瞳は私をまっすぐに射抜いていた。他者を観察し尽くした癖が、その目に重みを宿す。
「ようやく顔を合わせることができたな、ミツル・グロンダイルよ」
低く抑えた声が、耳に落ちる。穏やかさを装う響きの奥に、冷静な圧が滲んでいた。
「私の名は、セバスティアン・ローベルト。一応は騎士の端くれだ」
私は思わず背筋を伸ばした。目を合わせるべきか、逸らすべきか。迷いが思考を覆う間もなく、彼の瞳が私を捉えて離さない。言葉の真意を測りかね、ただその鋭い目を見つめ返す。
この曖昧な立場が、これほど心細く感じられたことはない。罪人とも客人ともつかない、自身の存在が足元から揺らぐようだった。
それにしても「騎士の端くれ」は謙遜だろう。どう見てもそんな器ではない。仕立ての良い制服と、洗練された一つ一つの動作。おそらく騎士団の要職に就く人物だ。場を支配する彼の佇まいが、それを雄弁に物語る。
「私こそ、あなたとお会いできることを心待ちにしておりました」
慎重さを滲ませ、一礼とともに告げる。声が僅かに引きつれたのを悟られまいと、私はゆっくりと顔を上げた。
彼の口元が、わずかに弧を描いた。それは微笑と呼ぶには冷ややかで、嘲りとするには曖昧な表情だった。
「君が実際どんな人物なのか……どうしても直接会って、確かめたくてな。こうして赴いた次第だ」
彼の低い声が、一言ずつみぞおちへ重くのしかかる。言葉の裏を探ろうとしても、思考を見透かされるようで身じろぎもできない。
男は一度言葉を切ると、ゆっくりと室内に目をやった。簡素な家具と閉ざされた空間。この数日、私が過ごした世界を検分するかのようだ。
「まずは、君はこの状況をどう受け止めている?」
凪いだ空間に、彼の声が薄く響く。私の目を射抜く視線は、一切の迷いを許さない。逃げ場などないのだと告げる眼差しに、肩が強張るのを感じた。
「率直に申し上げれば、戸惑いが大きいです」
喉を潤すように言葉を紡ぐ。自分の声が震えていないか、それだけを気にしていた。平静を装っても、このみぞおちのざわめきを彼が見逃すはずがない。
「戸惑い、か」
彼は私の答えを繰り返し、呟いた。その一語に隠された意味を見極めようとするように、低い声で。
視線が絡む。骨の奥まで見透かされる錯覚に、肌が粟立った。その鋭さは、私を一個人と見ず、何か特別な存在として評価している。
「ミツル・グロンダイル……君はその名に相応しい行動を取る責務があると分かっているか?」
穏やかな響きに潜む言葉は、刃の冷たさを帯びていた。柔らかく装いながら、その芯には厳しい問いが突き刺さるように潜んでいる。
「それは、重々承知しております」
返答を口にする瞬間、喉奥で渦巻く感情を必死に抑え込んだ。
実際には理解できていない。だが「分からない」と言えば、それが致命的な弱点になる。そう肌で感じていた。
彼――ローベルトは、心を見透かす術に長けている。いや、術ではない。生まれ持った洞察力がそうさせるのだ。微かなほころび一つで、本心が露わになる。
だからこそ私は、荒れる感情を一つずつ押し沈める。ゆっくりと呼吸を整え、熱を帯びた吐息を抑えた。
彼の言葉がどれほど私を揺さぶろうと、受け止めねばならない。そして、立ち向かわねばならないのだ。そう自分に言い聞かせ、瞳をまっすぐ彼に向けた。
小さく息を吐き、心を鎮める。それでも残る胸の微かな痺れを隠すように、私は自ら問いを投げかけた。
「あなたにお訊ねしたいことがあります」
自分の声が思いのほか穏やかに響く。それに少しだけ安堵する。
「何かな?」
彼の返答は静かだ。だが、その奥に何かを探るような、研ぎ澄まされた気配があった。
「王様は私を捕らえよと言いました。そして、あの剣の正当な資格者と名乗る男は、剣と繋がることができない、まったくの偽物でした。
どうしてそのような者を用意していたのか。そもそもあの選定の儀式を執り行った理由とは何なのですか?」
言葉を重ねるうち、自分の声が硬くなるのを感じる。込めた疑念と不安がどう伝わるか、考える余裕もない。ただ答えを求めていた。
ローベルトの瞳がわずかに細まる。微かな変化だったが、私は見逃さなかった。
その目の奥で、一瞬だけ波が立つ。計算された静寂を乱すその動きが、私の言葉が彼の意図を穿ったのだと教えてくれる。
「ふむ、君は思った以上に聡明だ。やはりユベルの娘であると窺える」
低く抑えられた声には、わずかな驚きが混じる。どこか面白がるような響きもあった。
彼の口元に浮かぶ微笑は、賞賛とも皮肉とも取れる。私を観察し、何かを図りかねている者の表情だった。
「君の指摘通りだ。あの男は儀式の体裁を保つための保険だった。有資格者が現れなかった場合の幕引きとして用意された、単なる駒に過ぎない」
彼は視線を僅かに逸らす。まるで過去を思い返すように言葉を続けた。
「だが一応、彼は騎士団でも剣技において卓越した実力の持ち主だった。そんな男を、君が歯牙にもかけなかったのは、少しばかり興味深い結果ではあったな」
「いいえ。私はただ回避することに専念していただけです。それだけですから」
正直な言葉だった。私の声に含まれた静かな反論は、彼にどう届いただろうか。
「そうか……」
ローベルトは一瞬、口角を引き上げた。すぐに真顔へ戻ると、低い声で続ける。
「選定の儀式……それは国威を高めるための手段であることに疑いはない。しかし、最大の目的は別にあった」
彼の声に、ほんの少し重みが増す。言葉が皮膚に降りかかるように響いた。
「その目的とは……『黒髪のグロンダイル』と呼ばれる人物をおびき寄せることだ」
その言葉が部屋に落ちる。空気が重さを増したかのように感じられた。私の心に冷ややかな衝撃が走り、それが胸元へと広がる。
「……黒髪のグロンダイル……」
気づけば、私はその名を繰り返していた。自分の声が驚くほど静かで、冷たく響く。そこにわずかな戸惑いを覚えた。
一瞬で、全ての出来事が別の意味を持って繋がる。選定の儀式。偽の資格者。王の命令。全てが仕組まれていたとしたら――私は何のためにここに?
「この私を、おびき寄せるため……?」
問いかけた声に、自分の不安が滲んだ。私は小さく息を吸い込む。
胸郭の内側で荒れる感情は、もはや言葉で覆い隠せない。怒り、不安、そしてかすかな恐怖。それらが渦を巻き、私を新たな問いへと駆り立てる。
「そうだ。君が現れるのを待っていた」
ローベルトの声は静かだった。だが奥に潜む執着が、冬の風のように肌を刺す。
彼の瞳が細く光る。罠にかかった獲物を見る狩人のような、冷徹な色を湛えていた。私の心臓の鼓動が乱れるのを、その鋭い視線は見逃さない。
「二十年余り前、ユベル・グロンダイルは第三王女メイレア姫をさらい、国外へ逃亡したとされている」
低く響く声は、記録された事実を淡々と告げる。しかし、そこに隠された感情の棘は、私を挑発するように鋭かった。
「それは、全くの誤りです……」
わずかに息を整え、静かに言葉を紡ぐ。感情を表に出さぬよう、細心の注意を払って。それでも胸の奥でくすぶる熱が、小さな火種となって広がる。
「どうしてそう言えるのか?」
男の問いは短く、鋭い。その答え次第で、私を裁定しようとするかのようだ。
「この私が、ユベル・グロンダイルとメイレアの間に生まれた子であるからです」
言葉が唇から零れると、隠していた痛みがじんわりと広がった。
幼い頃の記憶が脳裏に浮かぶ。父の背中、母の柔らかな笑顔。遠く眩しいそれらは、今も消えない温もりとして私の中にある。言葉に滲んだ感情を自覚した。
「そうか……確かに君はメイレア王女の面差しを受け継いでいる。いや、瓜二つと言っていい」
ローベルトの口元が微かに動き、薄く頷く。
一瞬だけ見えた表情に、冷酷さを覆う柔らかさが宿る。だがそれは蜃気楼のように消え、言葉には凍てつく響きが戻った。
「母は父のことをたいそう愛しておりました。それはもう私から見て、恥ずかしくなるほどに。互いが互いを大切に思い合う関係だったことに、疑いの余地はありません」
告げる声には、揺るぎない自信が込められていた。両親の絆。それは私の記憶の中で、どんな試練にも揺らがぬ真実として輝いている。
「本当に、そうだったのか?」
低く抑えられた声が、室内の凪を切り裂くように響いた。その問いは、心の奥に沈めた記憶を掘り起こすかのようだ。
「何が言いたいのですか?」
私の声が、少しだけ鋭くなる。胸の内で膨らむ防衛本能が、冷たい刃のように彼の言葉を跳ね返そうとしていた。だが彼の表情は微動だにしない。
「長期間にわたる監禁。その中で犯人が時折優しさを見せる。そして孤立という状況……それらが重なれば、人は生存本能として加害者に心を寄せることだってある。よく知られた話だ」
冷静な説明は、法廷での証言のように客観的だった。しかし、そこに隠された意図は鋭く、私の心を深くえぐる。
「母が父に……洗脳されていたとでもおっしゃるのですか? ありえません」
思わず声を荒らげた。内側で湧き上がる怒りが、溢れ出した言葉となって彼にぶつかる。それは単なる感情ではない。両親の愛を守るための強い意志だ。
「そう言い切れるか?」
彼の瞳が私を射抜く。静かな挑発は、私の心を試しているようだった。
「はい」
短く、けれど力強く答える。その瞬間、冷静さを装う彼の瞳に、一瞬の揺らぎが見えた気がした。
「なぜならば、二人には確かな絆の証があったのです。この剣がそのすべてを物語っています」
言い終えると同時に、両手をそっと剣の柄に添えた。掌に伝わる金属の冷たい感触。それは父が母に託した愛の形であり、二人の絆の象徴だった。
剣の輝きが、光の筋となって私の視界を照らす。それに応じるように、私の目は決意の熱を宿した。両親への誇りと、彼の言葉を跳ね返す覚悟が全身にみなぎる。
ローベルトは何も言わず、ただ私をじっと見つめていた。その瞳には、相手の内側を鋭く覗き込むような光が宿る。だが奥には、かすかな揺らぎが見え隠れしていた。風に揺れる水面のように微かだが、確かに彼の迷いを映している。
「私はこの剣についてどうしても君に訊ねたくて、強引に『聖剣を模したおもちゃの剣』だと押し通したが……この剣が二人に何か関係があるというのか?」
彼の問いかけが、私の心をじりじりと焦がす。視線を逸らすべきか迷いながらも、私はその場に踏みとどまり、静かに頷いた。
「はい。この剣は、私が物心付く前から、居間の壁に飾られていました。
両親はこれをとても大切に扱い、慈しんでいましたし、母などは時折この剣を抱きしめて、心を通わせるように語り掛けていたのです。ですが、その母も原因不明の転移現象により、行方知れずに……」
私の言葉が空間に溶けると、ローベルトの表情が微かに動いた。驚愕とも憂慮ともつかない感情が、その顔を曇らせる。
「それは、真実か……?」
その一言には、思いがけない重みがあった。私は僅かに目を伏せ、言葉を続ける。
「……はい。そして父と私は、母を探すため、この聖剣を携えて探索の旅に出たのです。ですが、その父も一年半以上前、魔獣の大群から私を守るために……命を落としました……」
最後の言葉を口にするたび、喉が締め付けられる。それでも目を逸らさず、彼の反応を見つめた。
「あのユベルがか? 到底信じがたい」
言葉に驚きは滲むが、ローベルトの声色は低く落ち着いていた。
私は再び静かに頷く。喉が細く鳴った。
「ですが、これは紛れもない事実です」
彼は短く息を吐き、眉を寄せて考え込む。やがて、低く唸るように呟いた。
「そうか……。その後、君はたった一人で?」
「はい。一年ほど前にエレダンに辿り着いた私は、魔獣狩りのハンターとして生計を立てていました。そして、父と母についての情報を得るため、あえてグロンダイルの名を明かして、活動していたのです」
私の語る言葉が、彼の耳にどう響いているのか。冷静な表情の奥で、少しずつ何かが整理されていく気配があった。
「なるほど……。私から伝えられる事がいくつかある。ただし、これは君にとって、残酷な現実を突きつけられることになるやもしれん。それでも構わんか?」
言葉に込められた重さを感じ取り、私は息を整えた。逃げられない。その覚悟が胸の奥で静かに根を張っていた。
「はい。覚悟はしております。私にとってそれは向き合うべきもの――逃れられない宿命だとわかっています」
声に迷いはない。ローベルトの視線が一瞬揺らぎ、再び鋭くなる。彼が語る「現実」は、私の中で何かを変えるだろう。その予感を抱き、私は彼の言葉を待った。
「では伝えよう。まず、ユベル・グロンダイルの罪状について。
王家の立場からは、一度公表した以上、それを翻すことはないだろうということだ。決してな……」
その言葉が、部屋に重く響いた。まるで剣を振り下ろされたように、心に冷たい衝撃が走る。揺るぎない断言に隙はなく、一片の慈悲も感じられない。
「その裏に何らかの理由、或いは真実が隠されているとしても、ですか?」
冷静さを装いながら、絞り出すように尋ねる。声は静かだったが、言葉の奥にかすかな痺れがあったかもしれない。
「そうだ。そんなことをすれば王家の権威を傷つけることになる。現在の王は、殊更に権威と形式に拘る方だ」
ローベルトの言葉に抑揚はない。淡々と述べられる事実が、私の胸に重しのように積み上がっていく。
「そんな……」
小さな声が口をついて出た。呟きに過ぎなかったが、唇を噛みしめた私の動揺を隠しきれなかった。
「そして、黒髪のグロンダイルをおびき寄せようと画策したのは、一部の側近たちの進言によるものだ。彼らは北方ケリンから流れ着いた噂を耳にして、不世出と言われる魔術師の力量に興味を抱き、価値あるものであれば取り込む腹づもりでいた。それと、やはりグロンダイルの名を持つ者となれば、関連を疑うのは必然だろう」
「実に狡猾ですね。私は道具扱いですか。人の意思など関係ないと」
唇の端がかすかに引きつれる。思いのほか冷静な声が出たことに驚きつつも、喉奥では冷たい怒りがじくじくと広がっていた。
「もし、そのような有能な魔術師が他国の手に渡るようなことになれば、脅威となる可能性は高い。それを未然に防ぐため、動いたまでのことだ」
ローベルトの声は冷静そのものだった。感情の起伏がない。ただ理路整然とした説明だけが、かえって私の胸に棘を残す。
「それが正しい政、というわけですね」
静かに言葉を返した。だが自分でも抑えきれない怒りが、声の底に滲んでいる。その感情が熱を帯び、心の中でくすぶり続けていた。
「そして今の私は、王家に利用されるためだけに生かされていると」
「そう捉えるのは自由だ――」
ローベルトの瞳が私に注がれる。そこには同情も軽蔑もない。ただ冷徹な裁定者として、霜の気配を宿す目があるだけだった。
「――拒むこともできるだろう。だが、その結果は自分で背負う覚悟が必要だ」
彼の言葉が、冷たい水を浴びせるように内面に響く。しかし、その冷たさが私の中に燃え始めた小さな炎をさらに煽った。
「覚悟なら、とうにできています」
私はしっかりと彼を見据え、一歩前へ踏み出す。自分の意思を示すために。
「私は父と母の名誉を守るためにここに来ました。真実を知り、それを手にすることが、私自身の生きる道だと信じています」
その言葉が静かに部屋に落ちた。ローベルトの目が、一瞬だけ細まる。その表情には満足とも失望とも取れる、微妙な色が混じっていた。
「その覚悟が本物かどうか、いずれ証明する時が来るだろう」
彼はそう言いながら立ち上がり、私を見下ろす。
「その前に、これは答えとは言い難いが、一つだけ昔話をしておこう。君にとってそれが、何かの手がかりになるかはわからないが」
「昔話、ですか……?」
心臓がざわめいた。彼の口から語られる言葉に、父の過去への糸口が含まれているかもしれない。その可能性に、私は思わず身を乗り出した。
父の真実。それを知ることが、私の進むべき道を照らす光になるかもしれない。
この場面には、物語の核となる「真実の探求」と「主人公の決意」が色濃く描かれています。以下、シーン全体を考察し、物語のテーマやキャラクター描写について掘り下げます。
冒頭の静けさと不穏な緊張感
冒頭部分では、表面的には「何事もなく過ぎた」という静けさが描かれていますが、その裏に漂う緊張感が巧みに表現されています。「選定の儀式」という事件の余波を意図的に排除し、「ホテルに缶詰」という比喩を用いることで、主人公が感じる違和感と制約された状況が浮き彫りになります。この「静」と「動」の対比は、読者に不安を抱かせながら物語の緊張を徐々に高める効果を生んでいます。
主人公の心理
行動の自由を奪われているにもかかわらず、罪人ではなく「客人」として扱われるという矛盾は、主人公の不安感を煽ります。「曖昧な立場」にいることが、「自分の存在意義」に対する揺らぎとリンクしている点が興味深いです。この揺らぎは、後のローベルトとの対話でクライマックスを迎えます。
ローベルトの登場と支配的な存在感
ロ ーベルトは、このシーンで「力の象徴」として描かれています。古びた扉のきしむ音や光を反射する銀髪、鋭い眼差しといった描写は、彼の存在感を強調すると同時に、彼がこの空間を支配していることを象徴しています。
ローベルトのキャラクター
彼は「騎士の端くれ」と謙遜しつつも、その佇まいや洞察力からは、実際には非常に重要な地位にいる人物であることが明らかです。このギャップが、彼の持つ威圧感や底知れない人物像を強調しています。ローベルトの言葉には冷静さと威圧感が混在しており、主人公との関係性に緊張感を生み出しています。
会話の駆け引き
このシーンの中心は、ローベルトと主人公の会話にあります。対話の中で明らかになる情報や、双方の心理的な駆け引きが、物語の核心に迫る緊張感を生み出しています。
主人公の心理的変化
最初はローベルトの視線に動揺し、「戸惑い」という言葉でその不安を語る主人公。しかし、会話が進むにつれて「父と母の名誉を守る」という強い決意を示し、成長を見せます。この変化は、主人公の内なる力を示す重要なポイントであり、読者に彼女の成長を予感させます。
ローベルトの洞察力と試練
ローベルトは終始冷静でありながら、言葉の端々で主人公を揺さぶろうとしています。「君はその名に相応しい行動を取る責務がある」といった発言は、彼が主人公を単なる娘としてではなく、特別な役割を持つ人物として見ていることを示しています。
「黒髪のグロンダイル」とは何か
ローベルトの言葉から、「選定の儀式」の本当の目的が「黒髪のグロンダイル」をおびき寄せることであったと判明します。この情報は、主人公の出生や両親の過去と強く結びつき、物語全体の鍵を握る重要な要素です。
主人公の疑念と不安
「私をおびき寄せるため……?」という主人公の問いかけに現れる不安は、この場面の最大のテーマである「自己の存在意義」に直結します。彼女が追い求める「真実」と、「自分が利用される存在であるかもしれない」という疑念が交錯し、内面的な葛藤を生み出しています。
「ユベル・グロンダイルの罪」と両親の真実
ローベルトが語る「ユベルの罪状」と「選定の儀式の裏側」は、物語における国家権力と個人の対立を浮き彫りにします。一方で、主人公の記憶にある両親の愛情深い姿との矛盾が、真実の曖昧さを強調しています。
政治的背景と個人の戦い
「王家の権威を傷つけることはできない」というローベルトの言葉は、国家が個人の真実を捻じ曲げる力を持つことを示しています。主人公は、この巨大な権力に抗いながら、両親の名誉を守るために戦わなければなりません。




