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脱・悪役令嬢!ヒロイン幸せ計画

作者: ロゼ

私、ティリリア・ベリアルは幸せ者だと思う。


3歳の時に両親が儚くなり、そのまま孤児院へと引き取られたが、引き取られた孤児院にはとても優しいシスターがいて、他の孤児院ではよくあるという虐めや虐待などもなく、少し食べるのに困る事はあったが概ね快適に過ごした。


12歳の時にはとても優しい今の家族に養女として迎え入れられて、両親の温かさなんて覚えていなかった私に愛を教えてくれた。


そして最愛の人も見つける事が出来た。


ベリアル子爵家の一人息子であるダミアン義兄さん。


ずっとそばにいてくれて家族以上の感情を教えてくれた人。


陽だまりみたいな優しい眼差し、全身がポカポカするような明るい笑顔、愛しさを隠さない熱い眼差し。


元孤児だった私とは到底釣り合うはずもない生粋の貴族なのに義妹となった私を常に気遣い、導き、包んでくれた大切な人。


13歳になった頃に私の婚約者となった大好きなダミアン様。


時々「お義兄様」とつい呼んでしまい「その呼び方も好きだけど、今は婚約者でしょ?」と窘められる。


そんな私達を義理の両親は温かく見守ってくれている。


こんなに幸せでいいのだろうか?


一時期領地で疫病が蔓延して莫大な借金を抱えそうになったのだが、それを助けてくださる神様のような方々も現れた。


桑の葉を食い散らす害虫だと思っていた蚕という蛾の幼虫が作り出す繭が上質な糸になると教えてくださったのだ。


その糸を紡いで布を織ると滑らかな光沢のある柔らかく上質な布が出来上がった。


今ではベリアル子爵領と言えば「絹」と言われる程に有名になり、それにより疫病が蔓延する前よりも豊かになった。


領民は皆幸せそうに笑っていて、それを見ると私も自然と笑顔になれる。


感謝してもしきれないティアリーズ侯爵家。


そこのお嬢様であるアルメリッサ様は元孤児である私にも優しい笑みを向けてくださる。


お友達に、なんて恐れ多くて口には出来ないけれど、心の中ではいつも思っている。


アルメリッサ様が恥ずかしくない程の貴族令嬢となって、いつか末席でも構わないからお傍に置いていただきたい、と。


学校に通い始めた私に声を掛けてくる殿方がいたが、3年生のダミアン様が「ティリリアは僕の婚約者です」と宣言してくださったのでそれもなくなった。


何故身分的には子爵令嬢の私なんかに王子様やその側近の、我が家よりも爵位の高い方々が声を掛けてきたのかは分からないが、ダミアン様に「君が可愛すぎるから僕は心配だよ」と言われて嬉しくなった。


ダミアン様に「可愛い」と言われるといつだって嬉しくなってしまう。


心配なんてしなくてもいい程に私はダミアン様に夢中だし、ダミアン様以外の男性に好意を向ける事なんて有り得ない。


それに王子様方は顔が煌びやか過ぎて遠くから見ているだけで十分な存在であり、恐れ多すぎて目を合わせる事も怖い存在だ。


しかも王子様は敬愛するアルメリッサ様の婚約者でもある。


私なんかが関わり合うなんて事はあってはならない。


もしもアルメリッサ様に誤解でもされたら申し訳なさ過ぎて死んでも死にきれないだろう。



「多分、もう大丈夫よね?」


アルメリッサ・ティアリーズは椅子にもたれ掛かり呟いた。


アルメリッサは侯爵家の長女でありこの国ブロムナール国の第一王子ルーベルト・ディ・ブロンの婚約者である。


「思えば長かったわね...」


彼女は6歳の時に前世の記憶を思い出した転生者である。


「嘘でしょ?!ここって『君の望むままの世界で』の中?!私、悪役令嬢アルメリッサ?!」


この世界が前世でやっていた乙女ゲーム『君の望むままの世界で』の世界であり、自分は断罪されて最悪の場合は処刑される(大概は追放)悪役令嬢だと気付いた時は三日三晩泣いた。


すっかりと我儘さが消えて素直でちょっぴり泣き虫になってしまった娘を侯爵夫妻と兄は心配し、世界的に有名な占い師(ゲーム内でのお助けキャラ)を頼った結果アルメリッサが別な世界で生きていた魂を持つ貴重な存在であると知る事となった。


その事も踏まえてアルメリッサから詳しい話を聞いた侯爵夫妻と兄は可愛いアルメリッサが悪役令嬢にならないようにしなければと動き出したものの、アルメリッサに聞かされた話通りに10歳で第一王子の婚約者へと選ばれてしまい落胆した。


婚約者や将来の側近となるべくご学友を得る為に設けられた茶会の席に病気療養を理由に出席しなかったにも関わらず、何処で見掛けたのかアルメリッサを見初めたらしい王子からの熱烈な申し込みに否とは言えるはずもなく、アルメリッサは王子の婚約者の座に着いてしまった。


「運命は変えられないのだわ...私は悪役令嬢として最悪の場合処刑される運命なのよ」


婚約者に決まり静かに涙を流すアルメリッサに掛ける言葉も見付けられず、諦めにも似た空気が漂っていたのだが、アルメリッサ付きの侍女が「お嬢様の運命が変えられないのであれば、ヒロインの運命を変えてしまえばいいのではないでしょうか?」と言った事から事態は急転。


『脱・悪役令嬢!ヒロイン幸せ計画』が誕生した。


ヒロインであるティリリア(後のティリリア・ベリアル)は幼い頃に両親を亡くし孤児院で育てられている。


そして12歳の時にロックマン子爵に顔の良さを気に入られて養女として引き取られるのだが、引き取られた先で待っていたのは過酷な労働だった。


「貴族の娘たる者、家事の一切を一人で完璧にこなせなければならない!」


ティリリアの容姿はとても愛らしく、将来的に見て高位貴族と良縁を結べるだろうと踏んで養女として迎え入れたロックマンだったが、その内情は多額の借金を抱えた没落寸前のハリボテ貴族だった為に使用人すら雇う金にも困っており、家事の全てをティリリアに押し付けたのだ。


「所謂ドアマットヒロインよね」


他者に踏み付けられる不幸なヒロイン、それこそがストーリー初期のティリリアだった。


ティリリアの運命が変わるのは14歳で学校に通い始めてからである。


攻略対象である王族を初めとする高貴な男達に見初められ幸せを掴むシンデレラストーリー。


両親からの愛を知らず、引き取られた先では使用人扱いを受けて来たティリリアが初めて自分に優しくしてくれる男達に心惹かれるのは当然の流れであり定石。


「つまり、その子爵家に引き取られずに幸せに暮らせればヒロインの運命は変わるのではないですか?ヒロインの運命が変われば攻略対象に惹かれる事もないのでは?」


侍女の言葉は目から鱗であった。


そこからの侯爵家の働きは凄かった。


何としても12歳になる前にティリリアを見つけ出し、幸せを感じられる家に迎えてもらわなければならない。


残された期間はたったの2年。


その2年の間にティリリアを見つけ出し、彼女を受け入れてくれる愛溢れる家を見つけなければならないのだ。


1年経って漸くティリリアを見つけ出す事が出来たが、彼女を受け入れてくれるであろう家族選びは難航していた。


そもそも貴族は家族間の愛情が乏しい家が多く、ティアリーズ侯爵家のように家族仲が良好で子供を溺愛する事は珍しい。


子を欲している家はあったが、ティリリアを愛してくれるとはとても思えなかったのだ。


そんな時、アルメリッサの母であるメリローズが偶々出席した茶会で出会ったのがベリアル子爵夫人だった。


ベリアル子爵夫人ミリアは無類の子供好きで、茶会に来ていた他のご夫人の子供の世話を幸せそうに行っていた。


「子供がお好きなのね」


そう声を掛ければ「はい」と陽だまりのような笑みを浮かべていた。


その後ミリアと話をする中でメリローズはミリアがダミアンという一人息子を産んだ際に子宮を痛めてそれ以上子が望めなくなった事を知った。


本当は女の子も育てたかったのだとの言葉を聞き、メリローズは「この人こそヒロインの義母に相応しいのでは?」と思った。


そこでメリローズは賭けに出た。


ティリリアの事を話したのだ。


実はティリリアが暮らしている孤児院は施設の老朽化とシスターの老齢による体調不良により閉院する事が決まっており、その施設の最後の一人となっているティリリアは近々別の孤児院へと送られる事が決まっていたのだ。


その孤児院はロックマン子爵家の近くにあり、恐らくその孤児院でロックマンの目に留まるのだろうとの予測は付いていた。


「わたくしが気にかけていた孤児院が閉院する事となったのですが、そこに一人だけ残されている女の子の事が心配で...次に行く孤児院はわたくしの目の届かない遠い所のようで...とても可愛らしい優しい子なのです...素敵な家族に引き取られればと心砕いておりましたがわたくしの力が及ばず...幸せになってくれれば良いのですが...」


それを聞いたミリアは「まぁ!そんな!」と嘆き「そこは何処の孤児院なのでしょうか?」と興味を示した。


孤児院の名を教えると、ミリアは翌日夫と息子を連れてその孤児院へと向かいティリリアと面会し、すっかりとティリリアを気に入ったミリアはティリリアを養女として迎え入れる事を決めた。


その後もメリローズはミリアと交流を深めながらティリリアが幸せに暮らしているのかをさり気なく監視していたのだが、やはりと言えばいいのかベリアル子爵家はティリリアの家族として満点の家であり、ティリリアは本当の娘のように幸せに暮らしていた。


13歳になる頃には2歳年上の義兄でもあるダミアンと相思相愛となり、義兄でありながらもダミアンと婚約を結んだ。


そんな矢先ベリアル子爵領を疫病が襲った。


領民思いのベリアル子爵家は私財を投げ打って領民の為に奔走し、生活が困窮する程の借金を抱えてしまった。


援助を申し出たティアリーズ侯爵家だったがベリアル子爵家はそれを断った。


「そこまでの恩は申し訳ない」との理由で。


両親に伴って援助の申し出に行ったアルメリッサはその帰り道すがらベリアル子爵領で桑の森を見つけ、そこで蚕の繭を目にした。


「これよ!これで子爵家は助かるわ!」


前世のアルメリッサは体験学習で繭から糸を取る方法を知っており、蚕の繭が良質な絹になる事を知っていたのだ。


蚕の繭を手に子爵家に戻ったアルメリッサは「これで糸を取り布を作ってください!絶対に子爵家の助けになります!」と熱弁。


半信半疑であった子爵だったがすぐに実行に移し布を織ってみた所、今までにない光沢のある素晴らしい布が完成し、それを領内の商人に見せた所絶賛され、領地の特産品として売り出す事が決まり、その布は瞬く間に貴族のドレスに採用され価値が跳ね上がり、今やドレスに欠かせない布となった。


うっかり「絹」とアルメリッサが言ってしまった為にそのままその布は絹と呼ばれるようになる。


14歳になったアルメリッサとティリリアは共に同じ学校へと入学を果たした。


勿論攻略対象である王子達も共に。


アルメリッサが危惧していた出会いイベントは起きなかったが王子達攻略対象者はティリリアに興味を示した。


すれ違うと声を掛ける。


それだけで留まっていたが、ティリリアの婚約者となったダミアンは意外と嫉妬深い性格であった為攻略対象者達に牽制の意味を込めて「ティリリアは僕の婚約者です」と宣言し、その事で王子達はティリリアから距離を取った。


アルメリッサと王子の関係はティリリアに一時的に興味を示した以外は良好で、アルメリッサに一目惚れをしたと言うだけあり王子はアルメリッサが可愛くて仕方ないという様子を隠す事なく示しているのだが、アルメリッサの方はと言えば「いつ心変わりをするか分かったもんじゃない」と思っている為2人の心の距離は縮まってはいなかった。


その後も何事も起きる事なくアルメリッサは学校を卒業。


ティリリアは卒業と同時にダミアンと結婚。


アルメリッサも卒業後1年したら王子と結婚すると発表がなされた。


「はぁ...もう大丈夫だと信じてもいいのかしら?」


「何を?」


まさか聞かれているとは思っていなかったアルメリッサは突然掛けられた声に思わず悲鳴をあげていた。


振り返るとそこにはルーベルトが立っていた。


「何を信じてもいいの?僕の事?」


「あ、いえ、あの...」


「アルメリッサ?君が僕の気持ちを信じきれていない事は分かっているよ?それでもいいと思っているから僕は平気だけど、アルメリッサは何が不安なの?僕が心変わりをすると思っている?」


「...申し訳ありません」


「どうして謝るの?一瞬でも君以外の女性が気になってしまった事実のある僕だもの、君が信じきれないのも理解出来る。謝る事はないよ」


「でも...」


「アルメリッサ、僕はね、一生をかけて君に信用してもらえるように努力していくつもりだよ。そしたら君は一生僕を見てくれるでしょ?」


「一生、ですか?」


「うん、一生。僕は一生君を愛して、君に信用してもらえるよう努力する。君は一生僕に愛されて、僕が信用に値する男なのか見極める。そうすれば君は一生僕のものだ」


王子の仄暗い部分を見た気がしてアルメリッサは背筋に冷たいものが走ったような寒気を感じた。


「結婚も決まった。君は一生僕のもので、僕は一生君のものだ」


うっとりとした目でアルメリッサを見つめる王子にアルメリッサは「あれ?これってバッドエンドの執着束縛ルートに似てない?!」と思ったが口には出来なかった。


その口は王子により塞がれ、啄むようなキスが幾度となく落とされていた。


その後王子と結婚したアルメリッサは心配していた束縛こそなかったものの、王子の執着は凄まじく、アルメリッサの傍を離れたがらない王子との攻防戦は王宮の風物詩となり、その後立太子の後に国王となったルーベルトの唯一の「溺愛王妃」と呼ばれるようなり、仲睦まじすぎる様子は2人の間に出来た子供達すらも呆れるほどであった。


「こうも愛が重いのは疲れるわ」


そんな事をボヤいたアルメリッサの腰を抱きながらルーベルトはニコリと微笑んだ。


「僕の愛が軽い訳がないだろ?愛の鎖で君を縛って何処にも飛んでいけないように雁字搦めにしておきたい程に愛してるんだ。アルメリッサ、僕だけの人。こんな僕の愛を受け止められるのは君だけだ」


アルメリッサとしてはそんな重い愛を受け止めているつもりはないのだが、ルーベルトが幸せそうならそれでいいのかな?とも思っている。


「愛してるよ、アルメリッサ」


「私も愛しているわ、ルーベルト」


普段は絶対にそんな事を口にしないアルメリッサの口から出た「愛している」の言葉にルーベルトが嬉しさのあまり大号泣し、その後毎日「愛している」と言ってくれと強請られる事になる事をこの時のアルメリッサはまだ知らない。

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