3日目 第2話
きゃあ。恥ずかしいです。
私はいつも通りショートカットで、おでこの辺りだけ少しカールしていて、服は水玉柄の私の印象に相応しそうな雰囲気のワンピースをわざわざ選んできたのです。おまちですから落ち着いた感じになるように、年相応になるように考えてきたのですよ。
なのに……私の友達であるところのこの彼女、夢ちゃんは……どうしてこうも恥ずかしい……。
黒い半袖のTシャツは胸の少し下の辺りまでしかなくて、臍が思いっきり露わです。そして下はジーンズ生地なのですが、明らかに年不相応な感じの……丈が短すぎる上に穴が多すぎる、と言いたくなるようなダメージジーンズ。露出があまりにも多くて、心配になってしまいます……変な男の人に襲われちゃうんじゃないでしょうか。
「別にだいじょうぶだって、一人で行くわけじゃないし」
「……まあ、」
……私のことを頼りにしてくれているところは少し嬉しいですけれども……だからといってこんな破廉恥な服装が許されるのか、と言いたくなります。
「だいじょうぶだいじょうぶ」
「大丈夫、って言ったって……大体、一緒に歩いている私が恥ずかしいんだよ」
「すぐ慣れるってば。別に、こんな服装の女の人はいっぱいいるから」
「……いるかな」
「いるってば」
「……まあ、いいですけど」
しかし、私が少し街歩きをご無沙汰していた間にこんな破廉恥な女性が増えてしまったということなのでしょうか? 社会の変化には全く、ついていけません。
「ふっふふー、今日は俺がレイを俺みたいな現代ギャルにコーディネートしてやるからな」
言い忘れていましたけど、夢の一人称は『俺』なのです。
*
「さて、ここなんだけど」
ケバケバしい、というのはこういうことを言うんでしょうね、……私達の目の前にあるのは、夢がいなければ私は絶対に人生で一度も行くことのなかったであろう、不気味さすら感じられる洋服屋さんでした。店舗の正面にはずたずたになったTシャツと骸骨の頭が飾られています……なんでこんな外装を選んだのか、店長の正気を疑います。
「嫌だぁ……」
私はつい呟いてしまいました。
「行きたくない……」
「むぅ?」
私の悲痛な叫びに呼応して、夢が私の顔を正面からまじまじと見つめてきます。
『むぅ?』だなんて……可愛い擬音を使いやがって、って感じです。
「なんでこんなチャラチャラしたところに行かなきゃいけないのよ……そんなの時間の無駄じゃないの」
私は夢に聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう言います。お店の中の人に聞かれては大変ですからね。
しかし夢はちゃんと聞いていたようです。
「言ってることが君の幼馴染の彼と同じじゃない……名前なんて言うんだっけ?」
「カイだけど……あれ? 夢にカイのはなししたことあったっけ?」
私の記憶のうちでは、夢にカイの話をしたことはなかったと思うのだけれど……。
「うん、この前話してたじゃない、友達との時間は人生において最も無駄な時間だ、っていう少年なんでしょう?」
「……まあ……。そうね」
いや、さすがにいくらカイだからといってそこまでは断定しないと思うのですが……。
……いや、カイならしかねないか?
「で、レイが今言ってたのもカイみを感じたから」
「……カイみ、って……」
だいたい、カイという名前自体今聞いたばかりのはずなのに、もう言葉を作ってしまうなんて。どれだけ節操がないというのでしょう。
「ま、いいわ。早く入りましょ」
「うーん……」
しかし、このお店に入ることで私の人生がブレるのは怖いのです。私がこれまでまっとうに生きてきた人生の道筋を、うっかり踏み外してしまったりしたら……悔やんでも悔やみきれないとはそのことをいうでしょう。
「なによ、こういう服をレイの好きな人にみられるのを恥ずかしがってるってわけ?」
そう言って、夢はくるりとその服を私に見せつけます。
背中は今まで見ていませんでしたが(なにせ見ているだけで恥ずかしくなってくるような服なのです)背中も大胆に露出のある服です、もはや鎖骨を見るのに遮るものは従事に交わるワイヤーだけです。
「大丈夫よ、そういう服ばかりってわけじゃないから」
「……別に、好きな人とかいないけどね?」
「何よ水臭いなぁ。好きな人、いるでしょどうせ。年頃の女の子が」
「私は勉強しないとだからね、高校生は三年生以外も受験生なのよ」
「……ふーん。恋も勉強のうちだと思うけどなぁ」
「何よ、分かったみたいなことを言って」
「ま、ここで立ち話し続けるのもあれだしさ、とりあえず中に入ろうってば」
「……うーん」
しかし、こうやって店の目の前で立ち話していても、入っていくお客さんは誰も居ません。中にも特に人混みは見受けられませんし……。この店、大丈夫なんでしょうか? こんな水着みたいに露出の多い服ばかり取り扱っているから、夢みたいなマニアックな顧客以外来れなくなってしまっているんじゃないのかと心配になります……。
「ほら、早く来なよ」
夢はもう私との会話に飽きてしまったのか、自動ドアを進んでしまっています。自動ドアがだんだん閉まって行くのを、私はあるき出すかどうか迷っていたのですが、……その時……風が、吹いたのでした。
自動ドアの隙間に挟まりにいくかのように倒れていく私を、私は遠くから客観的に見ているような離脱感を感じながら、私はスローモーションの世界で呆然としていました。
まるで視界のフレームレートが落ちてしまったみたい――
風の正体を確かめようと、私は咄嗟に振り向こうとしましたが、私の眼球に映ったのは影だけでした。
ーー蝶のような影……
これは……家を出る前に見た、あの妖精の……。
*
最初、夢かと思った。
いや、きっと夢だ。これは夢だ。夢に決まっている。現実に起こりようがないことだ。
妖精の出現よりもこっちのほうがどうかしている。
……まさか。
……レイが肩出しルックだなんて……。