2日目 第1話
というか……あれは夢じゃなかったんだな、という不思議な実感がある。昨日は半分くらい夢だと思っていたから、あの意味不明な現実も受け入れることができたけれど、一晩寝てもそれが変わらないとなると、いよいよ怖い。
夢から覚める方法って、夢の中で眠ることなんじゃないのかよ……?
昨日はあまりにも色々なことがあったから、僕の気が確かであることを確かめる為にもちょっとレイに会いたいな、とか思うのだけれど、でも今日は土曜日だった。なんでなんだかわからないが僕の周りで大きなことが起きる時、大抵は金曜日のような気がする。そういえば、僕が人生で一度だけ、小六の時に告白されたことがあったけれど、あれも金曜日だった。あの時は理由もなく振ってしまったけれど、モテていない今の自分を思うとあの時の自分を蹴り殺してやりたいと思う。四回殺してやりてえ。
さて、とりあえず妖精を呼び出してみる。
妖精が来てくれないかなあ、と思ってみると、ぼんやりと僕の目の前に粉みたいな、チリみたいな「何か」が浮かんでいる。これがきっと昨日の妖精なのだろう。……しかし、この妖精たちが本当に妖精的な空想上のものだったとして、それが「良いもの」だと言う確証はどこにもないのだ。
昨日は僕の想像を無条件に実現してもらったせいでテンションが上がっていたのかもしれないが、それじゃあいけないのだろう。もっと危機感を持たなければいけない……もっと、この得体の知れない羽虫たちを怖がらなければいけないのだろう。
*
「ねえ」
さて、いつの間にか僕はレイの部屋にいた。……何があったんだっけ。
「なにぼうっとしてるの、この問題を教えてって言ってるの」
「あ、ああ。そうだっけ。」
思い出した。なんだかあまりにもぼうっとしてしまっていた。昨日寝たのが遅かったのっが良くなかったのかな。僕のスマホにレイからの着信があって、数学の問題にわからないものがあるから教えてほしい、とメッセージが来たのだ。
もちろん僕は抵抗したのだけれど、『徒歩二分なんだから』と言われて、僕のほうが押し切られてしまった。
「しかしさ、なんでカイなんかが数学得意なんだろうね」
話の流れを断ち切って、レイは唐突に話し出す。レイにはいつもこういうところがある。
「どういう文句なんだよ」
「だってさ、それ以外の科目は私のほうができるじゃん?」
「……それは答えにはなってないと思うが」
「この前のテストだって、数学以外はどの科目もカイのほうが良かったわけじゃん」
「たしかにそうだけど」
「私のほうがカイより絶対勉強してるのに、数学でカイに聞かなきゃいけないなんてことになるなんて……惨めだよ」
「惨めとまで言うか」
「私は言うね」
そこで強気になられてもなぁ……。
「はぁー。こうやって、カイのために時間を割いてやらなければいけないなんて……。」
「……いや、それはさすがに間違ってるだろ」
「いやいや、間違ってるも何も、ルールは私だからー」
「んなわけないだろ」
こんなキャラだった覚えはないんだけどなあ……。
めちゃくちゃ傍若無人じゃねーか。
「そういえば、なんでレイは僕を部屋に呼んだんだ? メールで問題を送ってくれればいいじゃないか」
「ああ……確かに、そうかも」
反論しないのかよ。反論したりしなかったり、キャラのブレが激しいのかなんなのか……ブレが激しいというキャラなのか。
「今度からはそうする。時間を割いてもらって悪かったって思うよ、反省してる」
なんなんだこいつ。急に自分の非を認め始めやがった。こうやって、僕の『言い過ぎた』発言を誘おうとしているのか? もしそうなんだとすれば、悪いがその作戦には絶対に乗らないな。だって、さっきまでの発言は普通に反省すべき発言だろう。
「気分を害したなら今すぐ帰ってもらってもいいわ、……むしろ帰って。だって、その方が双方ともに得だものね」
「いやいや、そんなことはないって、僕もレイを教えることで勉強になる部分もあるし、直接あって伝えないと伝わらない部分って、数学には結構あるもんな、メールじゃだめだよな。今後も来るから、わからないことがあったら聞いていいから」
……ちょっと強めに出られたら崩れ落ちたさっきの僕の決意。脆すぎだろ。
「……フッ」
……今笑った? 笑ったよなこいつ。僕がレイの家に来た理由が明確化して、僕がレイの家に言ってもいいって言った途端に、こいつ笑った。自分の策が成功して嬉しいからって、こいつ笑うのか。なんてやつだ。
「やべ、数学の問題が進んでないじゃんか。見せてみ?」
「ああ、確かにそうだね」
「……これは、ちゃんと情報を整理すれば解ける問題じゃんか……」
「何それ、私を侮辱しているの? 殺されたい?」
こえーよ。さっきまでの反省口調はどこへ。
*
というわけで、今日は少し充実していたような気がする。午前中は有意義にダラダラしたし、午後は僕の知識を有意義に活かせた。とても楽しかった。何となく、何となくだけだけれど……。
*
今の今まで、妖精、というのは実在しないものだと思っていました。
空想上にしかないものだと。
しかし今私の目の前にいる大きな蝶のようなものは、確かに私が絵本で見たことのあるような『妖精』でした。そして、絵本でしか見たことのない『妖精』です。
蝶のような美しい羽を持ち、胴体だけが人のような姿をしています。顔は赤ちゃんみたいな感じで、男か女か判別できないタイプの顔です。
「あなたは……誰?」
妖精は、答えません。