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  作者: 小説は小説家
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1日目 第3話

 いまいたのはリビング。リビングなら家の中で一番きれいで、レイに見られても別に恥ずかしくない。でも……僕の部屋は無理だ。僕の部屋なんて、足の踏み場がちょうど僕一人分しか無いというのに、レイを上げるわけには……

「どうせ散らかってるんでしょ? 片付け手伝ってあげるから」

「いや……いいよ、別に」

「風邪じゃなくてもお世話が必要なんだから、カイは」

「お前は僕の母親か」

「友達だよぉー」

「その返しもよくわかんねーけどな。だたい、もうそろそろ帰らなきゃいけないんじゃないのか? 夕飯の時間じゃないのか」

「ああ、家の親には塾に行くから夕飯は自分で買って食べるって伝えてある」

「悪いやつだな」

「そんなことない! 私はあくまで慈善のために君の家を……」

「人の部屋の掃除を慈善って言うな、そんなに恩着せがましいと元々ないしてもらう気が完全に失せるわ」

「そんなぁ……」

「むしろマイナスって感じ。分かってんのか? もう帰っていいんだからな」

「分かってるけど……うーん」

 ただ、実際のところレイに僕の部屋を見せたくない理由は他にもあって、僕の部屋にはまだ例の”蚊柱”がいるのだ。蚊柱。見せたくないのはもちろん蚊柱の方……。

 …………べ、……べつにこの前青年向け的な本を買ったとかいうことはない。あれは、メインはまともな小説だから、青年向け指定はされてない、はず……ただエロティックな行為の描写と挿絵がついているだけで。

 挿絵が誤解を生むんだよなあ!


 と、いうわけで僕はレイの僕の部屋への侵入を絶対阻止しなければならない。

「あ、分かった」

「なんだよ急に」

「カイ、見られたくない本かなにか部屋に隠してるんでしょ」

「そ、そんなことは、ない、かなぁ……」

「いや、嘘つくのがあまりにも下手すぎるでしょ。バレバレだよ」

「い、いや、そんなことはないんだけどなあ……」

「はいはい、別にいいわよ、私はカイに信頼されてないから、片付けの手伝いすらもしてもらえないのよね」

「そ、そういう訳では……」

 やばい、レイが少し自虐に走ったというだけで、完全に僕が劣勢になった。どうしよう、どうすれば……。

 何か、確実に隠しておけるものがなにか無いかな……無いよな。片付けをするなら、いろんなところを漁られてしまう。誰かが見つからないように持っていてくれればいいのに……誰か。誰か……誰か?

 あの妖精に願ってみようか。

「よし分かった、仕方ないな。僕の部屋に入れてやる。意外と片付いてて驚くかも知れないぞ?」

「無いと思う」

「本当に、僕はお前からどう思われているんだよ……」

「カイ、片付けできなさそうだなあ、って思ってるよ?」

「ひどい先入観だな」

 僕がちょっと強気に『片付いてて驚くかも』と言ったのは、妖精に頼むつもりだからだ。妖精がいなければ、あの散らかった部屋をとても片付いているとはいえない。


『部屋を片付けろ。そして、部屋から僕のエロ本を排除しろ。別の、どこか見つからない場所に隠すんだ』

 僕は僕の部屋にレイを案内しながら、心の中で強く念じる。

「うーん、前に来たときからだいぶ変わってるねえ」

 昔は家が近いのでよく遊んだものだったけれど、だからといってうちの中まで入ったことはあまりなかったはずだ。最も最近なのは小学生の頃だろう。

「あの頃が懐かしいねぇ……」

 レイが、なんだかセンチメンタルなことを言いやがる。ただ、中身はなさそうに思える。

「あの頃の部屋はここじゃなかったでしょ?」

「うん、小学生の頃の僕の部屋は今物置になってる」

「それって、逆に言うとカイの部屋って昔は物置だった、ってことになるよね……」

「そうかも」

『部屋を片付けろ。エロ本を隠せ……』

 僕は妖精たちに向かって念じる。ちゃんと妖精が仕事をしているかわからないのが、少しもどかしい。

『片付いたら、妖精たち、お前らは隠れてろ』

 あの『空が飛びたい』という軽い願いさえかなったのだから、この切実な願いが叶わないということはないはずだ。……もし叶わなくても、諦めて二人で片付けるしかないかな。あのエロ本も、表紙だけならただの小説だし。……自分でエロ本って言い出してるのはもしかしたら末期かもしれない。

 何はともあれ。なるようになれ。

 がちゃり。

「うわお」

 声を上げたのは僕の方だった。

 机の上は教科書やノートが整理され、勉強の邪魔になるような小説、漫画、ゲームのたぐいは本棚に整然と並んでいる。

 バラバラだったはずの紙類はクリップやファイルを効果的に使ってわかりやすくまとめられていて……うん。なんかもう、すげえ。

 妖精たち、ありがとう……! と、僕は全力で感謝するしかない。感謝感激雨あられ、という感じだ。感謝で一杯でもう胸がはちきれそう。

「なんかおもしろくない」

 僕の胸は感謝ではちきれそうだって言うのに、レイは面白くないだなんていいやあがる。

「片付けるの、めんどくさくなっちゃった」

 そりゃあそうだろう、だって片付けるものがないんだから。

 僕はドヤ顔をしてみせる。

「何その顔。ま、いいや。もう遅いし、本棚とかの抜き打ちチェックはまた今度にしよっかな」

「……おお、そうか」

 なんだったんだか。エロ本が見つかるかどうかで悩んでた時間は。

「じゃあ、またね」

「ん、玄関まではついていかせてよ」


 *


 いや、汚かったですね。カイの部屋。思ってたより汚かった。ただ、汚し方が頭悪そうじゃなくて良かったっていう気持ちもあります。教科書とかノートが散乱してるのは、勉強してた直後なんだってことが窺えて好感が持てます。スナック菓子とかを自分の部屋で食べて粉を撒き散らすタイプのやつでないと確認できたのは本当に良かったです。

 ただ、そうは言ってもあの部屋を片付けるのはなかなか大変そうなので、片付けは時間が掛かりそうです。半日くらい使ってあげるべきかもしれません。本棚の中でぐちゃぐちゃに入れられていたプリントの束とか、なんとか整理しなきゃいけないですし……。

 いつ行ってあげましょうね?


 *


「この妖精ってのは……どのくらいのことができるんだろうな?」

 僕は一人でつぶやく。

 妖精たちは僕が呼び戻すと、忠実に帰ってきた。その従順さは逆に不安でもある。向こうからなんの言葉もないから、もしかしたらある日突然いなくなっていたということもあり得る。

「まあ、そのときはそのときかな。ただ世界が元に戻ったというだけだしな」

 それはそうと、こう整理された部屋にいると却って居心地の悪さを感じる。まあこの部屋も使っているうちに再び汚れていくだろうけれど……。

「ふぁーあ」

 眠たい。今日は一日の情報量が多くて疲れた。これだけ疲れているのだから、本当に発熱していることすらありえる。

「夕飯食べよ」

 僕は最後にそう呟いて、風呂に行く。

 ……別にこの『最後』がフラグとかということはなくて、普通に夕飯を食べて、普通に寝た。


 *


 翌朝起きた時、あまりにも片付きすぎていたために自分の部屋が自分の部屋だと信じられなかったというのは内緒である。

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