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  作者: 小説は小説家
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1日目 第1話

この話を夢で見て、小説にしたら面白そうだと思いついたので書きます。

 夢ーーなのだろうか。さっきまでベッドだったはずの空間がいつの間にか森のような場所になっていて、僕はそこに一人で佇んでいた。なぜか妙な既視感を感じて、目を凝らしてみると、何かが浮いている。どうやら、とてもたくさんの虫が飛んでいるようだ。フレームレートの低い視界に、それはとても幻想的で……遠目から見れば、もしかしたら蝿や蚊にしか見えないような小さな羽虫なのだけれど、この夢特有の現実感のなさが、虫たちが実はもっと色とりどりで美しいことを教えてくれるような気がする。

 赤、青、黄色、緑、……その淡い色が、この空間が現実ではないことを僕に確信させる。だって普段の僕はこんなに細かい部分まで判別できないーー

 夢の中にいると分かって安心した僕は、一度大きく伸びをしてみる。その僕の動きに合わせて、羽虫たちが羽ばたいたような気がした。

 彼らはもしかすると、妖精ーーというものなのだろうか?


 *


「え」

 時計を見るともう十一時だった。あまりにも時間が遅くて驚く。確かに昨日は三時に寝たけれど、十一時まで寝ることが人間に可能であるというのは少し発見である。

 今さっきまで見ていた夢が僕の頭を重たくさせて、すでに十一時だという実感も沸かなかった。ーー妖精? ゲームの中でもあるまいし。

「やっべ。朝ごはんどうしよっかな」

 僕は独り言をつぶやく。つぶやいてみたところで、それが届く相手もいるわけはないのだけれど……

「眠い」

 昨日深夜三時まで起きていた上、寝る直前までスマホを見ていたからなのか、僕の頭は限界まで重たい。パソコンだと空き領域がのこり10メガバイトになってしまった状態という感じ。その、最後の空き領域すら今さっきの夢についての情報が侵食してきているような気がする。

 不気味な夢だった。目覚め方もあまりいい目覚め方ではなかったのかもしれないが、未だにあの夢が続いているような気がする。

 妖精……ね。

 唐突に、僕の目の前が暗くなった。

 目眩を感じているのかと疑ってみたがどうやらそうではなく、視界がノイズまみれになっているみたいな感じ。

「んー……消えん」

 僕の体調が原因ならこのノイズはすぐに取り除かれるだろうと待ってみたが、ノイズは消える気配すら無い。

 よく目を凝らしてみればーー蚊柱、だろうか? 蚊柱は実際は蚊ではないという話も聞いたことがあるが、なんにしても蚊みたいな姿をした羽虫だ。

 じっと見ていると、それは実際は羽虫ではないようにも感じられてくるーー

 とても色とりどりの、それでいて淡い感じの、ーー妖精のような。


 *


「ん?」

 LINEが来ていたので開くと、カイから『今日学校休む』という端的な文面だけ送られてきていました。……つまり、これが私にとっての『始まり』だということなのでしょう。あるいは、私にとって『初め』。でも、それはこの時点で分かっていたことではありません。それに、全て終わった後の私もこれをスタートとするのには違和感を感じているような気がします。

 さて、カイというのは私のクラスメイトで、まあまあ仲良くしています。ちょうどいい話し相手だし、カイには敵も味方もあまりいないので(孤立しているのかもしれないな)しがらみもなく、楽なのです。

 カイに女性として意識されているとかそういうことはないと思います。もしカイにそんな気があったとしても、『友達のままでいたい』と伝えるつもりですし。『友達のままでいたい』……パワーワードですよね。そんな事言われて友達のままでいられる友達がいるのか甚だ疑問です。確実に仲悪くなりますって。

 ……でも、私は言うつもりなんです。だって、実際友達のままでいたいですし。……それはともかく。

[ちょっといま昼休みなんだけど。私がスマホ持って来てるのがバレたらどうするの]

 カイに返信しておきましょう。まあ、カイとの長い付き合いを思えばなんて返ってくるのかだいたい予想はつくのですけれど、ただこれは質問が目的の質問ではありませんからね。だから、カイへの返信を予め用意してみることにします。スマホの入力フィールドに『スマホ学校に持っていってることを怒れよ』と入力しておきます。

『放課後に見ればいいだろ』

 ほら。予想通り。

[スマホ学校に持っていってることを怒れよ]

 私達が通っている高校はこの市内でも有数に規律が厳しいことで有名な学校で、でも実績はあまり出ていなません。だからどんどん規律は厳しくなり、それが生徒のやる気をそいでいく、という悪循環にハマった学校なのです。そういうわけでスマホなんて論外で、スマホを学校に持ってきたら速攻退学処分ということになっています。それはあくまで体裁上の話で、本当にスマホを持ってきただけで速攻退学とまではいきませんが、退学処分までは行かなくても停学くらいならたくさん実例があります。……怖いですね、全く。

 なのにカイときたら私にLINEを送ってくるものだから、もしバイブオフにしていなかったらどうするつもりだというのでしょう。

 私は忘れませんけどね。

『たしかにそれもそのとおりだわ……まあ今度から気をつけるかな』

[「かな」ってなんだよ]

『いやね、三時に寝ちゃだめだねこりゃ。起きるのが十一時になっちゃあ学校の行きようもない』

[十一時……誰かに起こしてもらえばいいのに]

『……前に言わなかったっけ? うちの親は朝早いんよ、両親とも。』

[言ってたかもしれん]

『うちは放任主義だからねぇ……』

[ふーん。あ、]

『ん?』

[じゃあ私がモーニングコールしてあげようか]

『要らん、……ていうかモーニングコールしてもらったとしても多分起きれねぇ……』

[クズだな]

 スタンプを押して。

 そろそろ授業が始まるので、この汚いトイレから出てスマホを隠しに行かないと。


 *


 僕はレイという、僕の地味に学校で唯一かもしれない女子の友達にLINEして、ベッドにばたんと倒れ込む。

 ズル休み、ということになるのだろうか……? 通知表にはなんて書かれるんだろうな。

 ぼんやりと、未だに消えない蚊柱を見ながら、

「なんとかならないもんかなぁ」とつぶやく。

 この蚊柱が本当に妖精だったなら、僕の願いも叶えてもらえるんだろうか?

 僕の願い……なんだろう。世界平和、とか人類平等、とか持続可能な社会の実現、とかだろうか。でも、そんな願いをこんな小さな蚊柱に願うなんて馬鹿らしいとも思う。この小さな蚊柱に敢えて願ってみるとするなら小さな願いがいい。

 例えばーー空を飛ぶ、とか。


 ふわっ、と音がした。

 実際になっていたのかどうかはわからない、というかなっていなかっただろうけれど、でも僕の耳には確かに聞こえた。

 ような気がする。

 僕の身体が少しずつ軽くなって、少しずつ軽くなって、……とても怖かった。僕の存在が消えて無くなってしまうんじゃないかという恐怖。でもそんなことはなく、身体が透けたりすることもないようで、僕の身体が重力から自由になったようだということだけははっきり分かった。

 重力よりも反重力のほうが大きくなると、僕の身体は少しだけ宙に浮く。

 それはとても不思議な感覚で、やはり現実感がない。もしかしたら、まだ夢の中にいるというのは本当だったのかもしれない。というか、これは現実的に夢でなければ説明できない。

 どうやら、僕の下に羽虫たちがいるようで、イメージ的に羽虫の台の上に僕が乗っている感じになっているみたいだ。僕の下に、何かパタパタと動くものがあるのを感じられる。

 その状態がもう非科学的でありえないのだが、これが夢だとすればすべて辻褄が合う。きっと夢だ。

 ーーでも、なぜか現実感があるのが気持ち悪い。きちんと視界が開けているのが、……何か、悪夢の始まりを予感させるようでもあって。


第2話を同時公開しています。

第3話は11月2日午後9時公開予定です。

お時間あれば見に来てくださいー!

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