鬼門に癒しの光。悪鬼を阻む守護の結界。
李貴と桃花は、少年少女の姿をしているが実際は物凄く年上。かなりの年月を生きている。
その半分以上は寝て過ごしている。否、寝て過ごさなくては鬼門が成り立たない。付喪神と云っても人型の姿に成ることはない鬼門の姿の方が身に受ける傷は人型よりも少なく多くの者が通ることが出来るからだ。
しかし、鬼門のまま修復するのは傷付けるより時間が掛かる。だから、人型の姿にしてから修復・補修した方が早く直せる。人型だからか、補修・修復というよりは聖なる力か魔法で治癒している感じになる。
珱華は、李貴と桃花の間に立つと怪我が一番酷い箇所に手を翳す。
そして、珱華は目蓋を閉じて集中する。自分の中にある霊力を手に集めて二人が完治すると思い、願いを形にする。
ふわり。と無風な筈の狭間に優しい風が珱華から吹き、珱華の髪が内側から靡く。
蒼真は珱華の集中が切れないように口を堅くなに閉ざし、ただ周りを警戒しながら珱華の様子と二人の様子を見る。
軈て、光の粒子が珱華の手から放出されて李貴と桃花を優しく包み込む。
怪我している箇所に光の粒子が触れれば徐々にだが傷が塞がっていくのが見ていて分かる。
その光景は、神聖で誰もが見とれてしまう。と蒼真は感じた。
仄かだが、優しい光を纏っている珱華。珱華を包むこの光は命の輝きそのものだ。霊力は魂の力の一部。生きる力と思いと意思、魂、光が霊力の源。妖力は、人の憎悪や悲しみ、それに魂と意思、闇が妖力の源になっている例外は勿論ある。
霊力の源でもある魂を尤も使うから、神聖に感じるのかもしれない。だから、見入ってしまうのかもしれない。とも感じて蒼真は、珱華から視線を逸らす為に目蓋を閉じた後、くるりと身を翻す。
(負担ですね、流石に。 ......狭間の中だから春零には今は感じられないかもしれませんが、珱華さんが倒れたら確実に怒るでしょうね)
治癒もとい補修・修復をしている時の珱華は無防備になる。その為か蒼真は珱華の傍に居なくてはいけない。幾ら周りに葬る相手が人や妖に仇なす悪鬼が居なくてもだ。
感じられないと云っても、葬ることが出来ないとなれば鬼門に何かあったと分かってしまうために、何処か浮かない顔をして見上げる。
今頃、春零は苦戦を強いられている。それは見なくても分かる。陰陽師や退治屋とは違って悪鬼を滅するのではなく在るべき所に還し次の生に繋げる為に成仏させる。
滅してしまうと、次の生に繋げることが出来なくなる。そのものが居なかったことになる。個人が個人として生きた痕跡も証もなくこの世から消えてしまう。
それは、したくない。否、しないのが春零の方針であり妖朱葬と云う葬儀屋は、滅することを禁止している。何が何でも成仏させて次の生に繋げる。だから、鬼門が使えない今。春零が苦戦するのは変な話だが、当然の事だった。
「ちっ。鬼門がねえ所か、それとも鬼門に異変があったのか。......どっちにしても、面倒だ」
蒼真達。否、珱華が蒼真の所に行った後にすぐに悪鬼達が出現した其処までは良い。寧ろこの結界の中に誘き寄せて一気に成仏させる算段だったから計画通りだった。
だが、経譜が書かれた刀で斬り読み上げて何時も通り塵化するも何かに阻まれたように塵化が途中で止まり苦痛で悲鳴とも違う奇声を上げのたうち回るという現象が起きている。
だから、狭間の中で何かあったと知る。こうなれば、結界を解いてから成仏させるのが好ましい。だが、そうすると病院に逃げ込み人を喰らって傷を癒したり力をつけてしまう。
その為。結界内で何とかしないといけないのだが、今の状況で悪鬼を斬ると中途半端な苦痛を味わうことになる。魂と体が離別する時に余計な苦痛を味わうことはない。
苦痛を長時間味わうことなく尚且つ此方が傷を負うことがないようにするには結界の中に更に結界を作り悪鬼達か自分が入らないと此方が不利になる。
そう判断した春零は、人形の御札を懐から五枚取り出す。
「この札は、札に有らず我が身を守る護符、五芒星!」
堂々と高らかに唱え、人形の御札に息を掛けると御札は、木・火・土・金・水と其を顕す色で文字が浮き出る。
その御札。五枚全て春零は、空に向かって放るように飛ばす。
空に向かって飛ばした御札は、意思を持ったように春零の頭上で五芒星を描いて空中に止まり、そのまま時計回りに五芒星は降りて地に着く頃には悪鬼から守る強固な結界に変わり御札は結界の一部と化したのか地に着いた時にはなかった。
その結界が出来るのは唱えてから一瞬否、一分も経っていない。其ほど手慣れている。否、慣れていると云っても良いだろう。
唱えるまで、春零は悪鬼達を葬る為に戦っていたからか生傷が所々出来ていて多勢を一人で相手していたのもあって悪鬼の中でも雑魚とは云え疲れは多少なりとも出てきて春零は刀を地に差して座り込む。
「なるべくさっさとしろ、蒼真。このままじゃ悪鬼が質の悪い異形になっちまう」