part.6
数ヶ月経った今、もちろん私はあの仮説を信じてなんかいない。フェッセンデン博士の家からは何も発見されなかった。それらしい実験機器も、研究の成果をまとめたノート一冊すら、屋敷には残っていなかった。老フェッセンデンはひっそりとこの世から姿を消した。私も程なくして都会の病院に呼び戻された。
だが私は無機質な生活の中で確かに感じている。あれは楔だった。小さくても、ひとたび打ち込まれ亀裂が入れば、時間をかけてゆっくりと裂け目は広がっていき、ついには堅牢な城壁でさえも崩れ落ちる。
ソファの固さも気にならなくなってきた。急に強烈な眠気を自覚するが、私は霞がかったような思考を続ける。
夢から覚める時、その内容を覚えていることがある。そんな時、夢と現実の境目はひどく曖昧だ。
では、もし。博士の仮説が正しいとすれば。私たちの人生が、一晩の夢に過ぎないとするならば――同様に、それが「上位存在」の意識と繋がる瞬間が、あってもおかしくはないのではないか?
ああ、眠い。まさに眠りに入ろうとしている今なら、告白しても良いだろうか? まだ誰にも話していない。ずっと心の奥にしまっていたけど、今なら。眠りと現実の境目にいる、今なら。どうせこの告白さえ、明日の朝には忘れ去られているだろうから。
あの日、私は博士を看取った後、信じられない光景を目の当たりにしたのだ。
博士の口がわずかに動き、そこから、まるで幼い少年のような若々しい寝ぼけ声が漏れるのを、私は確かに聞いた。
「おはよう、ママ」
了




