04.来訪者
神に見捨てられた星、『地球』、しかし、そこにはまだ人間達の都市があった。
その都市は、大気遮断システムと、鋼鉄の壁に守られた直径約三十キロメートルの円形都市である。
都市の誕生は凡そ三十年前、巨大隕石の衝突により、粉々に砕け散った木星の衛星『エウロパ』、その破片である巨大な氷塊の一部が地球に落下、深刻な海水面の上昇と、異星由来の細菌による、地球大気の改変により、人類は閉じた都市の中で生活するようになった。
その中でも、人員収容と生活空間を最優先で設計され、その殆どの建造物が高層ビルであるこの都市を何時からか人は、海に沈んだ首都の名を元に『塔京』と呼ぶようになった。
そして、殆どの大型生物は死に絶え、生命維持装置なしでは、十分と生き延びることの出来ない世界、多星の遺伝子を取り込んだ黒い苔に支配された大地で、その都市はかつての栄華を偲ぶように淡く輝き続ける。
完全な生身の人間は殆ど居らず、生命としての熱を失った都市は、しかし、何時かの世界と変わらぬ光と喧噪でもって、人々に明日を忘れさせるのだ。
いつもと変わるぬ夜――そう夜である。常夜の街『新宿』、意図的に陽光を遮られた娯楽区画である――に街灯の光に彷徨う蛾の幻影を見た人が居る。
『霞が関』――都市を維持する機関と装置の集まる場所――、循環浄水池を泳ぐ魚影が報告される。
都市外部――人工心肺と強化外骨格に身を包むサルベージャー達の世界――、苔山に響く悲鳴のような音を聞いた者がいる。
それは閉じ行く世界が見せた夢、文明の走馬燈、伸ばした手の先で消える光。
その日、一つの都市の光が、この世界から消失した。
それは塔、神の座を目指す人類の業――世界を踏みしめ、固める文明の礎
内包するは飛翔への劇薬――生命を育み、看取る輪廻の舞台
暴け、その内側を――広がり、満ちよ、さらに外へ
我らが国家の為に――我らが本能のまま
――そのすべてを、簒奪せよ!!――