01.共和国の公共事業
メロウ共和国、資源の乏しさを高い魔導技術によって補う偉大な中堅国家、広大かつ不毛な土地が国土の多くを占めているにも関わらず、準魔法文明国の中で頭一つ抜きに出た存在である。
ではそれは何故か?、それは、異界の存在を現世に呼び込む秘術、ダンジョンの召喚魔法を完成させたからだ。
「故にダンジョンの召喚とそれにより得られる収穫は我が国家の貴重な財源であり、また軍事、医療、生産技術に至るまでその恩恵は図りしれません」
扇状に並べた机と椅子、人物名が浮かび上がる水晶のプレート、そのすべてから見下ろされる壇上で共和国の議員が、この国の公共事業について語り、こう締めくくった。
ここは国家の中心、国民の代表である議員達が集まり議論を繰り広げる場所、一年で最初の議会は必ず晴天の日に行われることから『青空の庭園』とよばれる。
議員に変わり新たな人物が壇上に立つ。
「ですが、私たち魔導院の危惧する所はその不確実性にあります。確かに、使用する触媒によりある程度はその性質を決定できますが、結局のところは何が出てくるかは運しだいだと言うことです」
装飾が控えめだが質の良いローブを纏った初老の男性、″ヨルム・ローエン″はそう言った。魔導院の長として、自らの生み出した技術が国民の熱狂と議員の票数獲得の為、年々それが、安全性を無視したものになってきているのだ。
彼が続ける。
「昨年度に使用した触媒は″水晶″と″剣″でした。その結果は、入った者の精神を蝕む危険で収穫の少ない物であったことは皆さまの知っての通りであります」
本来求めた物は、魔法の発動装置の一つである″水晶”と武器としての″剣″の使用することで、強力な魔剣か、又は魔道具の産出を狙った物だ。
だが実際には入った者が自らの声で、罵詈雑言を延々と聞かされるだけの不毛なダンジョンであった。しかも、それによって精神に異常を来した者もいる。
「にも係らず、今年は触媒を三つも使えとおっしゃられる。″魔導書″、″ランプ″、″精霊花″、求めるのは『聖なる光の魔法』、至魔道国家のみが保有するその魔導技術を手に入れる為とは言え、私には少し安直に過ぎると思えてなりません」
その疑念を聴いた一人の議員がこう反論した。
「しかしだね、今や準魔法文明国の国々とは対等と言い難い程に、我らの国力は増しているのだよ」
論点のズレたようなそれに他の議員が続ける。
「あ~、つまりだな、我らにとって相応しい国際政治の場に立つために、如何しても必要だということだ」
さらに別の議員が続ける。
「それに、これは国民の信を得た正式な議会の決定。税金で運用される組織の長が、それに逆らうことは出来ませんわよ」
これらに対し、ヨルム・ローエン魔導院長がさらに反論する。
「しかし、それでは儀式を遂行する我ら魔導士達と、いざ出て来たダンジョンを攻略する軍人や民間の有志達が危険にさらされます。いくら議会の決定でも職員の安全を預かる身として、その決定には従えません」
しかしその反論に同意する者は少なそうだ。
国民の選挙で選ばれる議員、そしてさらにその議員達による選挙で選ばれる国家の代表がいる。共和国最高指導者、″ラメルズ・エルゴー大統領″が、己の決定権を行使する。
「ならば、ローエン院長、国民に背いたとして君は今日限りで解任だ。後任には″エメルド導師″を指名する。では、肩書を持たぬ只のローエン氏にはこの場は相応しくない。速やかに退場したまえ」
大統領が指示すると、まるで打ち合わせがあったかのように、入り口で待機していた憲兵隊がローエン院長を無理やり連れだそうとした。
「そんな!大統領、それはあまりに横暴です!それにエメルド導師、いえ″ナムレス会派″は危険です!彼らはただ派手な魔法が好きなだけの曲芸師だ!」
しかし、その訴えはだれの耳にも届いてはいなかった。
彼はまだ知らない。『閉じた本』が未知の技術を、『火の消えたランプ』が不確かな未来を、そして『刈り取られた花』が人間の文明を意味することに……。
初めまして、幽幽と申します。
このページまでお越しいただきありがとうございます。
作品をお楽しみ頂けましたら幸いです。