第3話
普段、こんな時間に、この公園に人影があったことなんて無かったのに。昨日の今日で、また黒づくめの──たぶん男。ひょろりと背が高くて、前髪が長くて、うつむいているところまで同じ。っていうか、あれ、昨日ついてきた男なんじゃ…?
明るくて爽やかな夏の空の下で、少しだけどすっきりした気持ちになってきていたのに、昨日の嫌な思い・怖い思いを思い出させるようなモノを目にしてなんだかイラッとした。わたしの一日を台無しにしたいわけ!?と。
モヤモヤした気持ちを抱えつつ、その男をチラ見していたら、そいつはあろうことかニヤリと口元を歪ませたのだ。顔は長い前髪に隠れていて見えたのは口元だけだったけど、絶対ニヤニヤ笑ってた!! まるで、わたしが怯えているのを見透かしているというみたいに。
寝不足も手伝ってか、普段だったらスルーするような些細なイライラが抑えられず、思わず公園にいるその男に向かってスタスタと突撃する。しかし目の前まで行くのはちょっと怖い気がしたので、2メートルほど離れたところで立ち止まり、めいいっぱいの不機嫌な顔で「一体何なんですか、昨日から! わたしに何か用なんですか!?」と問いただした。
「あなた、昨日もいましたよね! なんでついてきたんですか!? 気持ち悪いからやめてください!」「あんまりしつこいと、警察呼びますよ! 本当ですよ!!」
一息では言い切れなくて途中息継ぎをしたけれど、概ね言いたかったことは言えたはずだ。心臓はバクバク言っているし、呼吸もまだ乱れているけど、舐められたくなくてキッと男を睨んでやった。
すると男はちょっと慌てたように両手をあげ、「あああ、怪しいもんじゃないです! いや、十分怪しいか、ついて歩いてたのは事実だし…」「ていうか、僕が見えてるってこと? 昨日からって、昨日も見えてたってこと?」とブツブツ言い出し、あげく
「あ、あの…僕が見えてるの? 見えてるんだよね? 昨日も見えてたってことなんだよね? 声も聞こえてる??」
などと聞いてきたのだった。