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ランクEを目指して

【ランクEを目指して】


ショックから立ち直り切れないが、生活をするための準備は必要だ。


次の日、着替えやタオルと言った、日常的に使う物を購入して宿屋に戻ると今後の事について考える。


「『トレジャーメーカー』・・。これは不味いな」


これはかなり取扱注意の能力であることは間違いない。


一カ月に一回とは言え、一番安そうなアイテムがエクストラ級で金貨400枚。

節約とまでは行かなくても、宿屋利用で程々の生活ならば約50年は持つ計算である。


チュートリアルとは言え、『倉庫』にしまわれているアイテムは10回分もある。

世界の経済にどの程度影響を与えるか不明であるが、問題である事は確実だ。


更に1カ月に1回追加される・・


能力の事や所持金の事が第三者にバレれば、間違いなく揉め事に巻き込まれるだろう。

女性管理者からの依頼でもあるし、危険でも検証していくしかないと言うジレンマ。


少なくともトレジャーハンターという隠れ蓑は必須だ。

まずはランクEを目指さなければならない。




次の日ギルドへ向かい、昨日の受付してくれたヴィオレットに、挨拶してから講習会の受付を頼む。


別室に移ると、ヴィオレットと一対一で講習会が行われる事になった。


「あー、こう言っては何だが、昨日やっても良かったのでは?」

「仕方がありませんよ、今日の予約がシュバルツ様だけだったんですから」


ヴィオレットは予約制で毎日やっていると言っていたが・・

確かに毎日毎日、新人が冒険者登録すると言うのはないのだろう。


しかも内容は昨日の説明もかぶった上で、ちょっとだけ詳細になっているだけだった。




講習会が午前中で終了すると、午後は冒険者ギルドの依頼となる。


「ではこちらの羊皮紙に書かれた場所に居る方々からサインを頂いてきて下さい」

「これにどのような目的があるのかな?」

「冒険者は自由気ままなのは仕方がないのですが、やはりこの町に愛着を持っていただきたいのと、ある程度の礼儀を身に付けていただくためですね」


確かに知り合いが出来れば、町から離れにくくなるし、戻っても来易くなるだろう。


あとは冒険者は素行が荒い者が多いため、依頼人とせめて挨拶ぐらいはと考えての事らしい。


「すまないが、商業ギルドや宿屋、書かれている店は昨日行っているのだが・・?」

「も・ち・ろ・ん、行っていただきます」


ヴィオレットが、満面の笑顔で強調して行ってくる。


町役場や修道院といった、まだ行った事の無い場所は良い。

昨日訪ねたギルドお勧めの店が、いくつも含まれている。


お勧めの店を尋ねなかった人も、一度は行くようになっているあたり、冒険者ギルドもなかなか商売っ気があるようだ。


「分かりました、行ってきます」

「お気を付けて。既に出来上がっているランクFの会員証を、無駄にしない様に頑張って下さいね」

「・・無駄? どう言う事ですか?」


にこやかなヴィオレットは、何も言わずに送り出してくれる。


お使い依頼のため、既にランクFの会員証がもう用意されているのかと思う。

ヴィオレットの意味深な笑顔を背中に受けて、この町の探検へと出かけて行く。






羊皮紙に書かれているポイントを数か所回ってサインを貰う。


屋台で夕食を済ませると、宿屋に戻り、ベッドへ体を投げ出す。


「ヴィオレットの笑顔の意味が、よーく分かった・・」


町の要所めぐりは町全体に渡っていた。

羊皮紙に書かれた場所は上、から順に回っていくと、敢えて町中を振り回すようになっていたのだ。


「ギルドとしては、上手く作っているつもりだろうが・・」


実は建物が隣り合っていました、と言うのも1度や2度では無い。


「これは気の短い奴にはきついだろう」


しかし此処まで来たらと、シュバルツも意固地に上から順番に回る事にする。

それから2日かけて町中を歩き回ったのである。




全ての要所を回り終えると、3日目の朝に冒険者ギルドの扉をくぐる。


「・・あらら、大変お疲れさまでした」

「全くだ・・」


再び満面の笑みを浮かべて、出迎えてくれるヴィオレット。


「誰からも文句が出ないのか?」

「普通は3日もかけませんからね。(馬鹿)正直に上から回るような方で無いと」

「何か正直の前に一言付いている様な気がしたんだが?」

「気のせいです」


ヴィオレットとの親密さも増し、軽口をたたき合う。

どうやら殆どの人は、すぐにギルドの意図に気付いて効率よく回っているようだ。


「ではこちらがランクFの会員証になります。

ああ、ランクGの会員証は記念に持っていただいて構いませんよ」

「・・そうか、一応持っておくよ」

「今日からあちらの掲示板に張られている依頼で、ランク相応の物を受けていただく事が可能になります」

「分かった、早速見てみる」


張り出されている依頼を見るため、掲示板の傍へ移動する。


ヴィオレットの昨日の説明では、依頼には大きく常時依頼と通常依頼、緊急依頼、指名依頼の四種類があるとの事だった。


通常依頼は依頼が発生すると掲示板に貼り出されるが早い者勝ちだ。

一応公平公正平等という名目で、一日分を纏めて朝一番で貼り出すのがルールになっている。


緊急依頼は大きな問題が発生すると、適切な冒険者たちに依頼が出されたり、残っている冒険者で対応するが危険度によって受ける冒険者がいない場合もある。


指名依頼は依頼者から特定の冒険者を指名して依頼が出される。

それこそ依頼主から、信頼を勝ち取った冒険者と言う証だろう。


常時依頼は文字通り常にある依頼で、薬草採取や繁殖率の高い野獣やモンスターの討伐である。

中には食用となる物もいるため、食材確保の意味合いの依頼もある。


ヴィオレットの話からすると採取と討伐を抱き合わせができる依頼が効率が良いとの説明に、なる程と感心したものである。


シュバルツ自身は、討伐講習会狙いの採取オンリーのため、特に気にしてはいない。




掲示板の採取依頼の欄を見て驚く。


「何で薬草だけで、こんなに常時依頼があるんだ?」

「それはですね・・」


掲示板を見ている間に、気になって傍に寄ってきたヴィオレットが声をかける。


「冒険者の皆様は、自分たちの事しか気にされないんですよ」

「どう言う意味だ?」

「薬草の採取は、自分たちが依頼を果たす上で怪我をした時の、傷薬やポーションのことしか頭にありません」

「ふむ、それはそうだろう?」

「実際には、皆様が依頼を達成して祝い酒で二日酔い、この薬だって結構需要があります。

当然、肌荒れ、あかぎれ、浮腫とり、便秘薬なんかもとても重要で、それぞれ薬草の種類が違います。

肌のお手入れに使われるものなんて、それこと品薄で高騰ぎみなんですからね。

そこんとこ分かっていないんですよ」

「・・そうか」


後半はヴィオレットや女性に関わることの様な気がするが、口にしてはいけない様な気がした。

確かに依頼には薬草採取とあるが、薬草名がしっかりと明記されている。


「きちんと薬草採取していただける方が本当に少なくて」

「・・出来る限り善処するよ」


そんなアドバイス?を考慮しながらも、どんな常時依頼があるかを確かめていく。


『因果応報』というアビリティのおかげで、戦闘は全く支障がない事は分かっている・・

・・あれ?


「(あの女性管理人、『因果応報』のチュートリアルやってないぞ!)」


『トレジャーメーカー』の方ばかり気を取られていた事に気付く。


戦闘のある世界だからと渡された『因果応報』なのに・・


「(モンスターに襲われたら本当に大丈夫なのか? どう大丈夫なんだ?

そういえば・・、寸止め問題が全く解決されていないぞ)」


いきなり実戦投入に、勘弁してくれと思ってしまう。


討伐講習会に参加する予定なので、ランクEまでは採取のみ依頼で逃げ回り、しばらくの間は問題は無い様にするしかないだろう。


後ほど内緒で『因果応報』を試しておかなければ、いざという時に困る事になるかもしれない。

いきなりモンスターに体当たりしてもらう訳にもいかない。


あの女性管理者、絶対どこか抜けていと、今後の生活が不安で一杯になる。






悩ましい問題は一先ず置いておいて、薬草採取の依頼をやって見る事にする。


薬草採取であるが、この世界の管理者から貰った『千里眼』でアイテムの位置は分かるし、『鑑定』で間違える事も無く、しかも容易に簡単に完了できる事が分かる。


冒険者ギルドに依頼完了の報告に向かうと、ヴィオレットが驚きの声を上げる。


「すごいですね、こんなに沢山の種類をそれぞれ一籠ほど見つけるなんて。

普通なら雑草も交じったまま一籠持ってきて、選別にえらい手間がかかるんですよ」

「うーん、最近薬草採取の依頼が少なかったんじゃないか? 結構群生していたから」

「そう言えば・・、そうかもしれませんね」


ヴィオレットの指摘に、冷や汗をかきながらも取り繕う。


「あと薬草の見分け方も丁寧に教えてくれたからな」

「そう言っていただけるととても嬉しいですね」

「しかしその場所は殆ど取りつくしたらか、明日からはこんなには無理だと思う」

「そうですか。あまりご無理なさらないで、一日一種一袋を目指せば良いと思います」

「分かった。まあ無理は禁物だよな」


では換金してきますとヴィオレットが席をはずしている間、彼女の反応を思い起こし、『千里眼』と『鑑定』を使った採取も非常に不味いものだと気付かされる。


ヴィオレットの言っていたように一日一種一袋を目指す事に決意を新たにする。






そして採集採取の傍ら、『トレジャーメーカー』を使えそうな場所を探す。


本来は一カ月に一回なのだが、最初の一回は自分一人で行うため、直ぐに試せるよう使用可能にしてあると言われていたからだ。


しかし町の近くは平原で見晴らしがよく、そのような場所は皆無だった。


「これは目立ち過ぎる・・。やはり地面を掘るしかないな」


仕方なく『トレジャーメーカー』付属のスキルを使って、階段や穴を掘る事にする。


通路、階段、穴はそれぞれ、シュバルツの身長程度の空間しか作用しない。


「ダウンステアーズ、ダウンステアーズ」


先ずは自分の身長の二回分、下り階段を作成する。


「穴掘りでも、通路でも良いんだが・・、アイル」


通路を身長分作成する。ちなみに穴掘りはディグである。


念のため『千里眼』で周囲に誰もいない事を確認した上で、人目に付かない地下の空間で、自分一人の力で初めて『トレジャーメーカー』を起動する。


「『トレジャーメイク』!」


頭の奥の方で、成功と言う感覚を感じ取る。


「成功したようだな」


『トレジャーメーカー』が正しく起動され、お宝の生成に成功した事を確認するために穴掘り魔法で、どんどん先に進んでいくと、見慣れた石積みの壁にぶち当たる。


「・・ここからは人力勝負っと」


手近なところから崩していくと、上から崩落の危険があるので、壁に沿って登り階段を作成し、天井付近から崩していく。


シュバルツ一人が通れる穴があくと中に入り、用意されたすべてのお宝アイテムを『倉庫』の中に片づけて行く。


地下の空間から出ると、さして時間がかかった訳ではないのに、全身で伸びをして日の光の偉大さを感じ取る。


「むっぐぅー、これで一人立ちと言う事かな」


さて帰るかと、ふと自分が出てきた穴を振り返る。


「・・この穴どうしたらいいんだろう?」


こんな所に階段が? ・・誰でも不思議に思うだろう。

階段の先には通路が? ・・誰が作ったんだろうと思うだろう。

その先の石積みの部屋? ・・もしかしてダンジョンじゃねぇ?ってならないか?


女性管理者は言っていたはず、ダンジョンは即時破壊が鉄則と・・。

絶対、大騒ぎになる。


この石積み済みの部屋をどうにかしないと・・

万が一、誰かが掘りあててしまったりしたら・・


「いやいやいや、『トレジャーメーカー』で作った物には効果が出ないんだから」


付随魔法の『クリエイトスキル』では、この部屋を何とかするスキルは作れない。


「今後はもっと深く掘るしかないな・・」


次に、穴そのものをどうにかするスキルが必要であると気付いてしまう。


「くっ・・、穴を埋めるためのスキルを作るしかないじゃないか」


流石に新しい技術・・、まあ色々と問題が出てくる出てくる。


穴の埋め戻し作業をしながら、これからの検証作業に、多少の変更を加えて行く。





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