山積みの問題
【山積みの問題】
「第一回ユニオン会議―ぃ! 拍手―ぅ!」
拍手を強要するシュバルツ。
パチパチパチと楽しそうと拍手する者・・
微妙な笑顔を浮かべている者・・
何バカやってんのと小言を言う者・・
様々な感情が入り混じった拍手で、それぞれが応える。
アパートメントはテーブルなどの設備が整っていないし、ユニオン以外の住人が居る場所では、流石に不味いとゴルドの定食屋で行われる。
「初手は材木商ヴァイスさんから、どうぞ!」
「えっ、私から!? そ、そうね。
アパートメントは我が材木商の持てる技術の全てを使っている、傑作中の傑作と自負しております」
皆から、おぉー!と感心する声が上がる。
「隠し部屋もありますので、是非見つけ出して下さい。以上」
「・・・はぁ?」
「何!?」
シュバルツとゴルドは、いきなりのカミングアウトに驚く。
「隠し部屋だって!」
「面白そうだね」
「今度探検してみようよ」
「うんうん」
娘4人には何故か好評である。
「何、馬鹿な事やってるんだ? ・・まさか、隠し部屋が友達価格の部分って言う訳じゃないだろうな?」
シュバルツの指摘に、意味ありげに視線を逸らすヴァイス。
溜息を吐いて、諦めて次に進む事にする。
「気を取り直して、じゃあ次は・・」
「私は最後でお願いします」
ロートが手を挙げる。
ヴァイスの行っていた資産の問題もあるし、確かに最後が良いかもしれない。
「そうだな。ロートは最後にお願いしようか」
「はい」
「なら私からでいい?」
「シルヴィか、いいぞ」
ロートが最後と言う話になり、次はシルヴィが手を挙げてくる。
「先日、待望の冒険者が見つかりました」
「そうだな」
「引き続き、有望な冒険者を探しています」
「うんうん、頼むよ」
「それゆえ問題が発覚しました」
「うん? 問題? 中古屋の方か、それとも探す方でか?」
「中古屋の方。中古屋にある在庫では支援に適さない」
「・・どう言う事かな?」
いやいやいや、ぶっちゃけ中古屋の装備品を捌くためのユニオンである。
「普段の購入なら、自分にあった装備が無ければ他の店を当たるじゃない」
「当然の選択だと思うぞ」
「でも支援の場合には、必ずその人にあった物を供給できなくちゃまずい訳よ」
「ああ・・、なる程ね」
装備がそろわず依頼を受ける事は、命の危険をさらす事に直結する。
じゃあ新品をとなれば、中古屋の存在する意味がない。
「剣とかの武器ならば何とでもなるけど、防具となると厳しいね」
「分かった。後でアイデアを募るから保留にするぞ」
「うん、構わないよ」
一つ一つ解決しながらは難しそうなので、先ずは議題を集める事にする。
「いきなり問題を提起されても、直ぐにはアイデアも出ないだろう。
一度、全員から今問題と思っている事を聞きだしていくぞ。次は・・誰にする?」
そう言うとブラウが手を挙げる。
「ブラウ、何かあるのか?」
「夜中、アパートメントの中が暗くて歩くのに不便です」
「むぅ・・、そうきたか」
外からの灯りを入れようとするなら、月や星明かりをと考えるがガラスはかなり高価な品になるため手が出せない。
そうなるとあばら家の方がマシな位、雨漏りと隙間風のボロ宿屋になってしまう。
「ユニオンの冒険者が、夜中歩くために灯りを準備するためにお金を使わんよな」
「当たり前と言えば当たり前よね」
「松明使われても、火事とか煙りとか匂いとか問題があります」
「これも議題として残しておいて。次の人は?」
「少し困っていて、相談したい事がある」
手を挙げたのはゴルドである。
「ゴルドさん、何でしょうか?
「厨房を預かる者としては、食材の管理は重要だ」
「当然ですね」
「しかし食べるかどうか分からない人のために用意する事も、いきなり持ち込みがあっても直ぐに調理をと言うには・・。その準備も無駄になる可能性が高い」
「なる程・・。議題として挙げておきましょう」
グルノがおずおずと手を挙げてくる。
「シュバルツ様・・」
「何だい、グルノ?」
「新しい住人がいらして分かったんですが・・」
「うんうん」
「同居される方の事は・・、放置ですか?」
「ぬぅーん、それは・・」
正直簡単な問題ではあるが、簡単には答えの出せない問題である。
「皆の意見を聞こう・・」
「待って待って待って。私、最後。私」
話し合いに持って行かれそうになったので、慌ててロートが手を挙げる。
「おっとっと。ロートさん、どうぞ」
「当たり前の事だけど、ユニオンの資金は目減りしています」
「まあ、当然だな」
「少しプラスになる方法を考えた方が良いのではないでしょうか」
「うん。それに関しては、以前ヴァイスからも指摘があった。
冒険者支援と言う事はお金のかかるユニオンである以上、何らかの手段を講じる必要があるって」
「はい、そう思います」
参加者全員をグルっと見回して、一応議題が出揃った様なので纏める。
「じゃあ問題点の整理をしよう。今まで出てきたのが・・、隠し部屋の件は、まぁ放置で良いな」
「「「「私たちでやりまーす」」」」
「見つかったら?」
「どんな物か分からないので、見つかってからから考えたいと思います・・」
「・・それもそうだな」
楽しそうな娘たちを見ながら、シュバルツとゴルドは、ヴァイスに向かって余計な事をと溜息を吐いてみせる。
「じゃあ議題としては、装備の供給、アパートメントの灯り、食事、同居人、ユニオンの収益と言う事になる訳だな」
第一回目から問題が山積みである。いや、第一回目なのだから当然である。
「一つずつ片づけて行くか。まずはアパートメントの灯りから考えよう。
普通の宿屋とかはどうなってたっけ?」
「お金取っているから、薄明かりぐらいは用意してあるわね」
シュバイツも宿屋に居た時は、確かに灯りに困らなかった覚えがある。
「仕方がない。うちのアパートメントにも付けるか・・」
「完全完璧に赤字になりますし、本来は住居者が必要と感じれば、本人で用意すべきかと思います」
単純に取り付けようとするシュバルツに、財務係のロートが待ったをかける。
「そうだよな・・。道具に関しては自分に必要な物を、道具屋を巡って探すべきだよな」
「冒険者ギルドで学んだもんね」
「ただ引っ越してすぐに持っている事は少ないだろうから、購入までの間の貸し出し分は用意するのは良いよな?」
「そうですね。ホールとかの予備を貸し出すようにします」
灯りについては基本各自の必要に応じてとし、必要なら購入までの期間貸し出しをする事になる。
次の議題に移ろうとすると、ふとヴァイスが不思議そうに聞いて来る。
「冒険者たちって、スケジュールを立てない物なのかしら?」
「ん? どう言う事だ?」
シュバルツは意図が分からず聞き直す。
「事前に、例えば一日前の朝とかに、食事の有無をフロント係に伝える事は出来ないのかしらと思って」
「ふむふむ」
「食事は前日にフロント係にお金を渡しておいて、用意してもらうのはどう?」
食事の予約制と言う事か。これなら無駄が省けるだろう。
「なる程。ゴルドさん前日の朝なら、次の日の朝からの食事は可能ですか?」
「そうだな。朝であれば当日の昼からでも可能だ。まあ弁当は難しいが」
朝市などは早朝からやっているし、通常の市場も朝は早い。
とは言え、弁当なども考えれば、前日の朝に次の日の予定を伝えてもらう方が良い。
「冒険者たちにスケジューリングを身に付けてもらうためにも良いかもね」
「尤もだな」
「その日の持ち込みに関しては?」
シルヴィが聞いて来る。
「ゴルドさんには、翌日以降の調理をお願いすればいいんじゃないか?」
「当日出来る場合もあるから、相談して決める事にすれば良い」
「その様に住人たちに伝えましょう。ロートお願いできる?
スケジューリングを意識付けにも、フロント係から食事予約の声をかけてくれるかい」
「分かりました」
食事の予約に関しては、冒険者にスケジューリングを身に付けてもらう良い機会として採用される。
一息吐くと、ゴルドが同居人について最初に発言をする。
「住人の同居人に関しては、厳しい様だが、此処は養護院でも孤児院もない」
「このユニオンは支援が目的で、奉仕ではないわ」
同様な意見をヴァイスをしてくる。
この先入居する冒険者には、幼い子供や弟妹、病の床にある人々が居ると考えるべきだ。
しかしアパートメントに家具は常設されておらず、お金をためて自分で用意するスタイルだ。
病人を床に寝かせるのかと言えば、ユニオンの目的からは答えは簡単、扶養者の責任である。
「勿論その通りです。その通りなんですが・・」
幼い妹を抱えるグルノが口ごもり、シルヴィも難しい顔をしている。
冒険者が働きやすい環境を作るのもユニオンの仕事か・・。
何らかの答えか、方針を打ち出そうとシュバルツが口を開く瞬間に、シルヴィが沈黙を打ち破る様に叫ぶ。
「ど・・」
「答えが出せないなら、中古屋の方先に考えてよ!」
開きかけた口をパクパクさせた後、気を取り直して問題に当たる。
「そうだな。実際どういう問題が起きているんだ?」
「武器にしろ防具にしろ、本当に自分にあった武器は特注になるから、どの冒険者も既成品から選ぶ事が当たり前なのよ」
「ならどうして支援できない問題が発生するんだ?」
「武器は良いのよ、使い手が調整するから。
でも防具は体格差が出るから難しい上に、手放す人って大概壊れてからなのよ」
確かに冒険者は、武器優先という考え方があるのは確かで、防具よりもより良い武器を用意しようとする傾向にある。
「つまり中古屋の防具の在庫が少ないと言う訳か」
「そうそう」
「新品を買い与えては、中古屋の意味がない?」
「正にその通り」
「あの兄妹の分は如何しているんだ?」
「サイズを測って、中古を探すと言ってあるけど・・」
中古屋本来の目的を思い出しながら、シルヴィの説得を試みる。
「装備品に関しては、中古屋に無い分は新品ではダメか?
中古を探してきましたと言って渡すのは?
なんなら俺がトレジャーハンティングで見つけてきた事にしても良い」
「むぅぐぐぅーっ」
「俺が持っている装備は、命を繋ぐために使って欲しい」
「っ!? 分かった分かりました」
シルヴィが納得すると、ロートが確認のために声をかけてくる。
「そうなるとユニオンの資金が目減りしますが」
「そりゃそうよね。出るだけなんだからマイナスでしょう」
「ロート、ヴァイス、支援と言うのはプラスになる物かい?」
「・・えっ!? えーっと」
「無理に決まってるでしょう」
ロートは言葉を探すが出てこず、ヴァイスは出来ないとはっきりと言い切る。
「冒険者からのプラスを求めるのではなく、俺たちユニオンのメンバーが資産を増やす方法を考えた方が良いと思うんだ」
「私やロートが指摘した事よね・・、例えば?」
「商業ギルドの様に、月会費を集めたり・・」
「ちょっと、本気!?」
「むぅ・・」
「貧乏の中古屋からたかるな!」
月会費の部分では、全員からの文句が出てくる。
「実芭蕉や大衆浴場の一部を資金に回したり、ユニオンとしての商売を見つけたりだな」
「そうね、そう言う事なら良いわ。いずれ必要となる事だし」
「今ある資金が尽きるまでに、皆で方法を考えよう」
「そうですね。皆で考えてみましょう」
先延ばしと言う形にはなってしまったが、ユニオンの資金源を探す事で話を纏める。
ただ二つとも、孤児院支援と格安設定のため収益は上がっていない。
「実芭蕉も大衆浴場もざる勘定だったが、きちんと収支を付けた方が良いか・・」
「えっ!? 貴方、商売始めたと言うのに何やってるの!」
ヴァイスから商売の先輩として、雷が落とされる。
「だって、忙しいしめんどくさいし・・。そうだ! ロートに丸投げします」
「うーん、どうしようかなぁー」
仕事は忙しくて大変だが、自分のやるべき事がある事は嬉しそうである。
ヴァイスには、何やらせるのと頭を叩かれてしまったが・・。
全員の顔を見渡して、最後の議題の話に入る。
「後は・・、冒険者と同居する家族か・・」
「ええ、そうね」
賛否両論、皆が皆複雑な表情をしている。
「ユニオンの存在意義から、あくまでも冒険者支援が目的であり、その家族は冒険者、扶養者が責任を持つべきだ」
「「「(コクリ)」」」
全員、静かに黙って頷く。
「しかし相談を受けるのは個人の自由だし、個人的に何をしようが、ユニオンとしては関与しない」
「・・何にも変わってないじゃん」
ヴァイスのこの馬鹿と言う顔、ゴルドの仕方がないと言う顔、四人の娘の安堵する顔。
「いや、ユニオンとしては何もしないと言う意思表明は大切だと考える」
「まあいいわ、今日の所はそれで勘弁してあげる」
「確かに始まったばかりで、雁字搦めも意味がないな」
ヴァイスとゴルドから、一応及第点を貰えたようだ。
シュバルツは組織運営の難しさ、本来は資金難に直面する事態を痛感していた。




