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新たな仲間

【新たな仲間】


数ヵ月後、ユニオンのアパートメントが完成する。


ヴァイスの適正価格な上に、友人サービスで、丁寧に仕事をしてくれた・・はず。


「ゴルドさん、本当にいいのか?」

「ん? まぁ俺もユニオンの一員だから構わんよ」


ゴルドはアパートメントの建築が始まるとほぼ同時に、他の店で修業していた孤児の中で、選りすぐりの人材を自分の店に呼び寄せて、アパートメントに引っ越してきてくれたのである。


勿論アパートメントにはまだ人が居ないので、今はまだそこから自分の店に通っている。


「ブラウの方はどう?」

「どうも何もまだ始まったばかりだ」


ゴルドが店に行ったり、アパートメントの厨房の具合を確認する際は、修行と称してブラウが付き添う事になっている。


修行とはいえ、一応はお小遣い程度の収入は得ている。


「シルヴィとグルノは上手くやっているかな・・」

「そんなに心配なら付いていけば良かっただろうに」


さっきから心配しているシュバルツに、ゴルドは呆れ、傍に居るブラウも苦笑いだ。


グルノはアパートメントが完成すると同時に、正に今冒険者登録へ行っている。


その上で、泣く泣く冒険者になり妹と生活するグルノを、シルヴィが見つけてユニオンに紹介し、アパートメントに引っ越してくると言う筋書きだ。


「わざわざそんな事する必要あるのか?」

「一応練習?と言うか・・、グルノたちの提案でもあるからやってみようかと」


ユニオンを私物化していないと言う事を、アピールするためでもあるが。


シルヴィ、ロート、グルノ、ブラウで話し合った結果、グルノは冒険者登録し、ブラウはゴルドの所で修業と落ち着いた様だ。

冒険者になるために、村から出る人たちが持っている平均的な金額を持たせている。


グルノとブラウは断ろうとするが、ユニオンとしてやってみなくちゃならない事が多いからと、無理やり納得させたのだ。




しばらくすると、シルヴィとグルノが戻り、ブラウと一緒になる。


そのままフロント係のロートの所へと案内し、このアパートメントの諸注意が行われる。


「説明を受けたかもしれませんが、このアパートメントの事は秘密です」

「質問ですが、他の人に聞かれたらどう答えたら良いですか?」

「その様な事は殆どないと思いますが、あちらこちらを転々としていると言って下さい」

「「分かりました」」


ロートは一旦倉庫へと向かい、毛布を二枚持ってくる。


シルヴィ、ロート、グルノ、ブラウは二階へと向かい一室を示す。


「こちらのお部屋がお二人の部屋になります」

「本当に何もないのですね」

「はい、必要な物は各自で揃えて下さい。そのため平均的な一人一日大銅貨2枚ではなく、一部屋一か月に大銅貨2枚となっています。その代り・・」


手に持っていた毛布を二枚グルノとブラウに手渡す。


「入居される方一人に付き一枚、毛布を差し上げています」

「ありがとうございます」


そこまで演技をすると、四人はお互いの顔を見て笑いだす。


少女たちの笑い声を階下で聞いていた、シュバルツとゴルドも笑みが漏れている。






月明かりを窓から取り入れる以外は真っ暗な部屋に、二人は肩を寄せ合っている。


「寒くないブラウ?」

「大丈夫よ、姉さん」


二人は一枚の毛布に包まれて抱き合っていた。


「最初は本当に何もないんだね」

「借家そのものが、そう言う所みたいだしね」


最初は二枚の毛布を重ねていたのだが、今は一枚を床に敷いている。


二人はクスクスしながら、お互いの首を撫でている。

首輪は・・無い。


アパートメントに入るなら、冒険者になるなら、自分たちで稼ぐならと、満場一致で自立を認められ奴隷から解放されたのだ。


二人にとっては、貧しく、寒く、固く、痛く、暗い板の間の部屋からのスタートだが幸せであった。


「皆に感謝しなくちゃね」

「うん、たくさん恩返しするよ」


姉妹のくすくすと笑う声がいつまでも続いていた。




シルヴィとロートは、久しぶりに二人で同じベッドで寝ていた。


「大丈夫かなぁ、グルノちゃんとブラウちゃん・・」

「心配?」

「うーん、心配よりも寂しい気持ちの方が大きいかも」


姉に本当の気持ちを伝える。


「でも、本当に自由になったんだからお祝いしてあげなくっちゃね」

「勿論! 晴れて二人が自由になったのは嬉しいよ」

「これから私たち忙しくなるんだから、寂しいなんて言ってられないよ」

「そうだね、吃驚しちゃった」


シルヴィは、グルノとアパートメントに戻った後、中古屋でグルノに見合う武器と防具を見繕い、久しぶり?の収入にも喜びを隠せない。


少し前からシルヴィは、ユニオンに適している冒険者を探しながら、色々な店を回って装備を集めて行っていた。


あわただしい姉の後姿を、寂しそうに見送るロート。




・・に、ヴァイスがトンデモナイ仕事を押し付けてくる。


「ねえロート、中古屋の店番しながら、やって欲しい事があるんだけど?」

「やって欲しい事? 何かな、ヴァイスお姉ちゃん?」

「これよ」


そう言うと1冊の帳簿が渡される。


「何これ?」

「シュバルツさんがアパートメントを建ててるじゃない?」

「うんうん、ユニオンのだよね」

「そうそう。その建築のために預かったお金の余った分が、ユニオンの資金になるのよ 

(まだシュバルツさんにはなーんにも言ってないけどね)」

「ふむふむ、シュバルツさんがオッケーなら良いんじゃないかな」

「その管理をお願いしたいのよ」

「うん、分かった。任せておいて」


ロートは寂しさもあって安請け合いしてしまうが、すぐに後悔する事になる。


「既に預かったお金と、アパートメントの建設資金については書いてあるわ」

「はい」

「ここから、アパートメントに必要な物品の購入、冒険者が欲しい物の受注と補助、冒険者支援に必要な物を買い足していくのよ。補助対象は中古屋のアイテムもだから」

「へぇ!? 中古屋にあるアイテムにも補助を付けるの?」


思わずシルヴィが横から聞いて来る。


「何言ってるの当たり前でしょう。ユニオンのメンバー特価と、本当のお客とで差があるのよ? 身銭を切る必要なんかないわ」

「そっか・・」

「人数が増えてくれば、中古品のやり取りだって増えて、倉庫が必要になってくると思うわよ?」

「そこまで大きくなるかな・・」

「心構えの問題ね。大きくなってからでは遅いのよ」

「うぅー、大変だぁ」


ヴァイスは一度、シュバルツも言っていた事を否定しているが、機を読めない商人に先はない。

自分の店のことながら悲観的なシルヴィに、商人の精神を叩きこむ。


「・・ねぇ、ヴァイスお姉ちゃん」

「ん? 何か分からない事でもあった?」

「ううん。ただ金額? 単位かな?間違ってるよ?」

「ロートもそう思う?」

「思うよ! 金貨だよ? 金貨! 銀貨や銅貨じゃなくて! 4千枚ってあり得ないでしょう!?」

「あと良く見なくても分かるけど、アパートメントの代金として2千枚を引いた後の残りだからね」

「あー、えーっと? 想像つかないんだけど?」


シルヴィが声を絞り出してくる。


「ど、どうしようお姉ちゃん・・」


あまりの金額に、ロートもガクブルの状態である。


「大丈夫よ。実際のお金があるのは商業ギルドの口座だから。

最初は色々あって、多少の目減りは仕方ないと思うわ。まぁ極端な目減りがあるようなら、見直しが必要になると思うけど」

「ど、どの位かな?」

「うーん、分かんない」

「えっ、えぇー!?」


考えてみれば、ユニオンを運営する上で必要となる資金を、どうするかと言うのはすっぽり抜けていた事を思い出す。


このお金はアパートメントにと預かったお金で、正確には運営資金ではなく使い切っても問題が無いはず、と考えて先に渡してしまったのである。


「あっ! ちなみにロートはユニオンの財政担当な訳だから、当然フロント係もやってもらうわよ」

「えっ!? ど、どういう事?」

「財政担当は、冒険者が無理をしない様に支援をする最前線な訳よ。

基本朝と夕、冒険者のいる時間だから、その時間はフロントで御用聞き、日中はユニオンの必要物資の管理兼中古屋の店番になるかしら」

「・・き、厳しいんじゃないかな?」


厳しいどころでは無く、過労死するかもしれない。

凍りついた笑顔でヴァイスとシルヴィに助けを求める。


「ちなみに、うちの植林事業部は随時バイト募集中だから」


ロートの助けをスルーした上に、自分の所の仕事まで押しつけようとする。

シルヴィとロートは、内心ムリムリと頬をヒクつかせていた。




そのままシュバルツの屋根裏部屋へ、ヴァイスが訪れる。


「預かったお金の残りはユニオンの資金にして、管理運営をロートに任せちゃったけど・・、良いわよね?」

「ん? 全然構わないよ」

「私も悪かったんだけど、ユニオンの運営資金どうするつもりだったの?」

「・・はぁ? ユニオンってお金がかかるの?」


全く考えていなかったのか、キョトンとしている。


「そこなのよね、盲点だったのは。

ユニオンって同じ価値観の商人の集まりだから、基本は資金なんて不要だった訳よ」

「それが何で資金の問題になるんだ?」

「決まっているでしょう、お金のかかるユニオンだからよ」


冒険者のクランも商人などのユニオンもお互いの技術で、足りない所を補い合う。

基本は物々交換に近いため、お金そのものがかかる事は少ない。


「・・そりゃそうか。支援すると言う事はお金がかかると言う事だもんな。

今ある資金が無くなるまでに、皆でどうすべきか考えよう」

「早めの方が良いわよ」


『トレジャーメーカー』は自分が死ぬまでと言う、時間の限定が付いている。

出来るだけ多くの人で長く支援できる体制を用意する必要がある。


まだ資金が尽きるまで時間がある。

まだアパートメントが一杯になるまで時間がある。


しかし自分に残された時間は・・






小走りに15歳位の少年が外側の壁へと向かう。

その手にはパンが握られている。


「ごめん、遅くなった」

「お兄ちゃん!」


壁に隠れるようにしていた10歳ぐらいの少女が出てくる。


「腹減ったろう」

「ううん、全然平気」


一緒にパンを食べる。幼い妹にやせ我慢をさせている。


両親が死んで、村では幼い兄妹をどの様に面倒を誰が見るのか話し合いの中、売っては?の言葉を聞いた時、耳を疑うも此処に居たらまずいと感じた。


家にあった持てる全ての物と、両親が残した少ない財産を手にして、妹と一緒に村を飛び出した。


街道に沿って、大きな町へと向かう。


村を飛び出した人間が就ける仕事など限られている。すぐさま冒険者を選んだ。


「悪いなベッドで寝たいだろう」

「ううん、お兄ちゃんと一緒なら大丈夫」


宿代は一人幾らで、かなりの出費になってしまい殆ど野宿しかない。


妹を抱えては無理な依頼は受けられない。

万が一を考えれば、受けるつもりもない。

その日暮らしでも、細々と採取依頼で稼いでいくしかない。




彼らは知らない、気付いていない。そんな彼らを見守る三つの視線を・・


「どう思う?」

「良いんじゃないか」

「じゃあ、今すぐにでも・・」


飛び出しそうになるグルノを抑える。


「明日だ、明日。シルヴィとグルノで接触、採取しながら遠回しに誘うんだ」

「・・分かりました」

「シルヴィもだぞ」

「分かっているわよ。グルノちゃん、もう少しの辛抱よ」

「うん、大丈夫です。シルヴィ姉様」


この場に居る誰もが飛び出したい気持ちはあるが、ユニオンのルールは守られるべきだ。




二人の兄妹を見つけたのはグルノだった。


その日はシルヴィが装備集めのため、冒険者ギルドの依頼を一緒にこなせず、一人で採取依頼をと思い、顔を出すと、薬草採取の依頼を熱心に見ている彼を見つけたのである。


素人ながら追跡して、兄妹の二人で野宿で生活をしていることを突き止める。


皆にその事を伝えると、すぐに動いて今夜に至ったのである。




二人は翌朝、冒険者ギルドの採取依頼の掲示板の前で待機。

彼が自分たちの隣に並ぶのを、今か今かと待つ。


しばらくすると、ターゲットがギルドの扉をくぐり、二人の傍で熱心に依頼を見始める。


「あら、貴方も薬草採取の依頼を探しているの?」


シルヴィが声をかける。若干棒読みな感じは否めない。


「えっ!? は、はい。そうです」

「ふーん。私たちも討伐は難しいから、薬草採取をメインにしているのよ」

「そうなんですか!?」


冒険者誰しも、討伐で稼ぐ人ばかりと思っていたので驚く。


「人数が多いと取り分も減るけど、安全性は高まるのよね。一緒にどう?」


取り分が減る・・、安全・・、二つの言葉に揺れる。


「是非、お願いします」


しかし彼は安全を選択する。


シルヴィとグルノは内心で合格を告げる。

尤も無理やり合格させるつもりであったが・・。作戦開始である。


「じゃあ行きましょうか」

「はい」


その日、アパートメントに新しい住人が2人増える。





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