ユニオンの設立
【ユニオンの設立】
ユニオン設立に向けて動き始めるが、まず冒険者探しで難航する。
「冒険者が居ない?」
「そうなのよ。私たちみたいに命を大事にする冒険者が居ないの」
「いやいやそれはおかしくないか? 冒険者は全員死にたがりなのか?」
シルヴィの報告に、シュバルツは愕然とする。
「そう言う事じゃないんだけど・・。
冒険者って読んで字の如く、冒険をする者、冒険に命をかけているんのよ」
「ふむ、そう言うもんだろうな」
「ギルドでも勇気と蛮勇を履き違えるなと散々注意しているけど、命を惜しむ物は臆病者、冒険者にあらずって風潮があるのは確かだよね」
「結果としては、それを防ぐ一環が中古屋な訳だからな」
「うん」
根拠のない自分だけは大丈夫と考えが、碌な装備もせず格上の依頼に手を出すのだ。
「冒険者の中には、当然だけど冒険者なんかやりたくない人たちもいるんだけど、そう言う人たちも、既に後には引けない状況なのよ。良い例が借金ね、主にギャンブルの」
「流石に借金をどうこうするためのユニオンじゃないからな・・」
以前ロートが武器目当ての冒険者を心配して、シルヴィがクランを断念した状況に近くなってしまう。
「根拠のない無謀な冒険者と借金まみれの冒険者のどっちが良い?」
「はぁ・・。俺たちの探す冒険者像を練り直した方が良いな」
「私や皆もそう思うよ」
振り出しどころか、ルールの見直しにまで戻ってしまう。
反面、宿屋についてはスムーズに事が運んでいる。
ロートは色々な図面を見せてもらったのだが、正にピンからキリまであった。
「平均的というか一般的な宿屋と言うのは?」
「そうですね・・。多いのは徒歩客や駅馬車客を対象とした宿屋ですね。
フロント、客用ホール兼食堂に厨房、倉庫、店主とその家族の部屋と客室で大体二階建てですね。
食事スペースを無くして、その分客室に充てる素泊まりだけの場合もあります」
「うーん、将来的には食事できるようにしたいよな」
そこまで考えていると、ロートは宿屋に関して注意点を指摘してくれる。
「一応、中古物件を探してみました」
「へぇー、そんな事までしてくれたんだ、ありがとう」
「でも、主都に近くて旅足が衰える事が無いので、宿屋が足りない位で・・」
「なる程、無理だった訳ね」
「はい」
まぁヴァイスの手前、新築の方が喜ぶに決まっている。
「そんな訳でユニオンの宿屋としては、二番街しかありません」
「あーあ、そうなってくるか」
最初は小さな村が、どんどん大きくなると、ドーンと頑丈な城壁を造る。
城壁に守られた町は、どんどん発展しやがて一杯になる。
更に外側にドーンと城壁を造り、内側を解放して更に発展して行くのだ。
一つ目の城壁の内側を一番街と呼び、古くからの住人が暮らしている。
二つ目の城壁の内側は二番街で、比較的新しい住人が暮らす事になる。
あくまでも防衛のためなので、住民同士の軋轢も差別も無いし、一つ目の城門は常時解放されていて、出入りは自由である。
「ゴルドさんの定食屋も、中古屋も一番街なので遠くなってしまします」
「その辺は逆に程々の距離が取れると言う事で、結果オーライだと思うよ」
ユニオンのメンバーと冒険者が直接接触する必要はない。
「わかりました。ちょっと間取りを考えたり、候補地を探してみたりします」
「うん、よろしくね」
客の入る予定のない宿屋の構想だけが、どんどんと先へ進んでいく。
ユニオン設立のため、シュバルツは商業ギルドへと向かう。
様々な準備の上、設立が認められなければ意味がないからだ。
「ユニオンを設立したいと。
トレジャーハンターに中古屋、定食屋、材木商ですか・・、一体どのようなユニオンにするつもりなのですか?」
「目的がないと駄目なんでしょうか?」
「プライベートな目的もありますから不要ではあるのですが、ちょっと興味を惹かれまして」
これだけ構成メンバーがバラバラでは、グリューナとしても確認したくなったのだろう。
「一応、命を大切にする冒険者を支援すると言うのが目標ではありますが」
「ん? それは結構揉めると思いますよ」
「揉めるとは、どの様な感じででしょうか?」
「冒険者は、日々苦しい生活をしている方々が大半です。
支援してもらえるなら自分もと言ってくるのは、当然だと思いませんか?」
分かっていた事だが、皆が心配していた点を、グリューナにも指摘される。
「誰でも受け入れる訳ではなく、試験を行う予定です」
「欲しい冒険者を引き入れると? 専属冒険者の様にですか?」
「そうなります」
「うーん、専属冒険者の多くは高ランカーのため、誰の目にもはっきり分かりますが、低ランカーを専属とするとなると・・」
グリューナが危惧するのは当然な事で、実は試験の内容もはっきりと決まっている訳ではない。
「グリューナさんのおっしゃる事は尤もです。
商業ギルドとしては、どうするのが良いと思いますか?」
「そうですね・・、裏と表の目的を分けておくのも一つだと思います」
「ユニオンの目的を二つ用意して置くと言う事ですか?」
「そうです。一つは本当の目的である冒険者を支援する。
もう一つ何か建前みたいな目標を用意するんです」
確かに誰もかれもが寄ってきそうなユニオンは、避けた方がメンバーの安全のためにも必要だろう。
「なる程、一旦持ち帰って皆と相談するようにします。
ユニオンの設立の申請だけでもお願いできますか?」
「分かりました。書類を準備しますのでお待ち下さい」
ギルドの意見を受け入れた事で安心した様で、ユニオン設立の申請の書類を受け取ってもらえる。
商業ギルドから戻ると、その時の話を皆に聞かせる。
「グリューナのいう通りよね。商業ギルドの言いなりになるのは癪にだけど」
「ヴァイスは、商業ギルドに何か嫌な思い出もあるのか?」
「いいえ、そんな事はないわよ。凄いまじめなギルドだけど、若干融通が利かないだけ」
だけ・・って。深く踏み込まない方が良い気がする、色々と付き合いも長いだろうし。
「ユニオンの目的は命を大切にする冒険者の支援で良いよな?」
「勿論よ」
「もう一つの建前的な目標をどうする?」
「大衆浴場と実芭蕉を広める何て言うのはどうでしょうか?」
「どちらにも、参加しやすい目標になりかねないから別の方が良いな」
「なる程、そうですね」
ロートの意見に、シュバルツが注意を促す。
「なら一層の事、ヴァイス姉の植林事業を広めるのは?」
「是非とも多くの商会に参加して欲しいわね」
商業ギルドの話では、植林事業など何処もやりたくないと言っているのだから、そんなユニオンに参加する所など無いだろう。
「対外的には植林事業を広めるのが目的で参加するには寄付金を求め、見返りに優先的に木材の購入が可能ぐらいか?」
「悪いけど売買はギルド経由って約束なのよ。精々ギルドへの口利きぐらいかしら?」
「まあ、建前だしそれが嫌なら、ユニオンを見向きもしないだろう」
「裏の顔としては、命を大切にする冒険者の支援を目的にするで良いかな?」
「「「はい」」」
冒険者の件は事前に話してあったし、植林事業そのものはもっと広がって欲しい現状なので、全員から了承が得られる。
「さてヴァイス、そろそろ宿屋を建てて欲しい」
「・・本気なの? 正直不安要素で一杯なんだけど?」
自分たちの目的を理解してくれる冒険者が居ない以上、無駄になる事を心配してくれているのだろう。
「冒険者が見つかってから建て始めたら遅いだろう?」
「それはそうだけど・・、安く無い買い物なのよ?」
「あのーぉ、シュバルツ様。一つよろしいでしょうか?」
水かけ論的な態となってきた二人に、グルノがおずおずと声をかけてくる。
「うん? どうしたんだいグルノ?」
「私、冒険者になって見ようと思っています」
姉の言葉に、妹のブラウも同じように手を挙げてくる。
「いや待て待て待て、保護者に気を使う事は全くないんだぞ?
ましてや君たちがやりたくない事をやる必要は全くないんだ」
「でもそう言う冒険者をお探しなんですよね?」
「ぬぐぅ!?」
グルノのまっとうな意見に返す言葉が無い。
ヴァイスもホレ見た事かと言わんばかりの視線と、テーブルの下で足に蹴りを寄こしてくる。
「二人とも、グルノは年齢的にもギリギリだし、ブラウに至ってはまだ登録すら出来ないのよ」
シルヴィがシュバルツに助け船を出してくる。
「でも試験的に宿屋に寝泊まりするのは必要になってくると思います」
ロートはグルノとブラウに助け船を出す。
どうやら四人でグルノとブラウを自由にする案を、一生懸命話し合って、この場に出したのだろう。
「ヴァイス頼む、宿屋を建ててくれ。それが無いと何も始まらない」
「・・はぁー、仕方ないわね」
ユニオンは脇に置いておいても、グルノとブラウの独立の鍵にはなる。
「ただし余計な物はいらない。箱物だけだ」
「ん? 箱物だけってどういう事かしら?」
普通の宿屋を考えていたヴァイスは、箱物の意味が理解出来なかった。
「部屋の中は空っぽで良い。自分たちの稼ぎで必要な物を買い揃えて行くんだ」
「・・つまり借家の集合住宅版と言った所かしら?」
「そう言う認識で良いよ。将来的には食堂も稼働させるつもりだけどね」
「ふむふむ、面白そうじゃない」
ヴァイスは一度行動すると決まればグダグダ言わずに、最良の方法で実行する。
「ここいら辺では何と言っているかは知らないが、アパートメントと言っていたよ」
「アパートメント・・ね。これは・・使えるかも。うちの商会で家具を格安で請け負っても良いのよね?」
「それは構わないが、良識の範囲でな」
「・・貴方にだけは言われたくないわ」
ヴァイスの指摘は、皆の笑いを誘う。
ヴァイスを心配させない様に、アパートメントの建築資金を渡すために、商業ギルドまで同行を願う。
「安心させたい気持ちは分かるけど、最終的に幾らになるか分からないんだから、まだ後でも良いのよ?」
「少なくても幾らぐらいあるかは確認してもらった方が良いだろう?」
額が額になりそうなので、グリューナに個室をお願いした。
お茶を持って個室に入るなり、グリューナが最初に話を持ってくる。
「シュバルツさん、お預かりしているアーティファクトについてですが」
「・・? あー、あったあった。すっかり忘れていたよ」
「貴方、あったってねぇ」
完全に忘れていたと言う様子に、ヴァイスとグリューナは呆れかえってしまう。
「だって俺の手に負えない代物だったしね」
「確かにそうなのですが・・」
「ちなみに誰の手に渡ったのか聞いても?」
「・・・」
グリューナの口が閉ざされ、表情が曇ると事情を察する。
「まっ、仕方ないよね」
教授の話を聞いてしまえば、なるべくしてなったという結果だ。
「商業ギルドのオークションで、それぞに金貨2千枚の値が・・」
ぶっぽぁー
「きゃっ!?」
「汚いな、ヴァイス」
「な、何なのよ、それは!?」
アーティファクトや、オークションは我関せずのヴァイスが、盛大にお茶を噴き出す。
「商業ギルド経由でアーティファクトの引き取り先を探してもらった」
「アーティファクトは希望者が多いので、必ずオークションになります」
「それで付いた値段が・・、金貨2千枚って訳ね」
「結果はそうなりますね」
「・・結果? 途中に何かまだあるのかしら?」
「それぞれと言いましたよね? 2個ありました。
シュバルツさんは、アーティファクトの売買手数料を5割とおっしゃいまして」
くるっとシュバルツの方へ向き、首を締めあげる。
「あんた馬鹿だと思ったけど、ほんっとーに馬鹿だったのね」
「く、苦し・・、ぎ、ギブ・・」
ヴァイスの手をタップするが、緩まるどころかドンドン締まっていく。
「はぁー、このお金があればユニオンのアパートメントの話も出来た訳ね」
「うん? 違うぞ。さっきも言った通り完全に忘れていたんだから。まあラッキーではあるがな」
深い溜息と共に椅子の上に放り出される事で、やっと解放される。
「ラッキーの一言で済まされる事じゃないわよ」
「それで本日のご用件は?」
痴話喧嘩は余所でやって下さいと無関心を装い、ヴァイスが噴き出した物を片づけていたグリューナが口を開く。
「そうでした。俺の預金をヴァイスの商会の口座に移して欲しいんです」
「畏まりました。如何ほどでしょうか?」
「そうですね・・、先ほどのアーティファクトの代金と、この間のセット装備の分の全てでお願いします」
「分かりました。手続きしてまいります」
グリューナが出て行くと、ヴァイスが聞いて来る。
「ねぇ、セット装備って何?」
「剣とか鎧と片手とかセットになった装備の事でな。
ちょっと前に入用になって、仕方なく手放した虎の子のアイテムだ」
「ふーん、その入用の余りをアパートメントに使うだった訳ね」
「そうそう」
「お待たせいたしました」
丁度話の切れたタイミングで、グリューナが戻ってくる。
「では一緒にご確認下さい」
シュバルツとヴァイスが羊皮紙に書かれた金額を見ると、ヴァイスが再び噴き出す。
「きったねーな・・、もう」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。この金額おかしいでしょう!」
「アーティファクトで金貨2千枚、セット装備で金貨4千枚で、計6千枚間違いありません。こちらがヴァイスさんの商会の口座に振り込まれます」
「ろ、6千枚・・、金貨が? 貴方うちの商会を買い取るつもりな訳!?」
ふとヴァイスの言葉が気になって、グリューナに聞いてみる。
「買い取れそう?」
「負債がありませんから無理ですね。評価額としてはもう少し上になるでしょう。
更にはヴァイスさんあっての商会と言う面もありますからね」
「なる程、評価にはヴァイスの能力も含まれていると」
「はい。まぁ極端な話ですが、本人同士が納得の上なら、例え銅貨1枚、タダだって可能なんですよ」
結局のところ、物の価値などあってない様なものと言う意味か。
金貨・・6千・・金貨・・6千、とブツブツ言っているヴァイスに、後はよろしくねと丸投げする事で、シュバルツは自己完結する。




