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同盟を組む

【同盟を組む】


揉め事が一段落し、修道院もゴルドの定食屋も元通り以上に修繕された。

久々に全員揃っての食事会が催される。


その中でシルヴィただ一人が管を巻いていた。


「良いわよねぇー、ヴァイス姉の所は上手くいってて。

ゴルドさんの所も綺麗に直って。

シュバルツさんも一杯穴掘って成功して」


穴掘ってって・・、ちょっと誤解を招くからやめてほしい表現である。


お酒が入ったあたりから、この有様である。


「何があったか知っているか?」

「さぁ・・? 私にはさっぱりよ」


シュバルツがヴァイスに耳打ちすると、肩をすくめて分からないアピールする。


「中古屋が・・その、売れてない物で・・」


ロートが申し訳なさそうに言ってくる。


「うん? いつもの事じゃないか?」

「それが・・、その・・、妹たちに良い所を見せてやろうと躍起になってて・・」

「シルヴィ姉様は凄いと思う」

「うん、とっても頑張っています」


グルノとブラウが心から思っているのだろう、尊敬の目でシルヴィを見ている。


「そう思う理由は?」


そこまで尊敬している理由を二人に聞いてみる。


「シルヴィ姉様、シュバルツ様にもらったお金に手を付けないで、自分で稼いだお金だけでロート姉様と一緒に家計をやり繰りしている」

「ロート姉様も私たちに色々な事を教えながら、家の事をこなしてる」


聞けばシュバルツの依頼料だけじゃなく、浮いた食事代すら貯めているらしい。

グルノやブラウが植林のお手伝いで得たお小遣いなども、一切受け取らない。


「おいおいシルヴィ、扶養家族が増えて今までと同じ稼ぎでやるのは無理があるだろう」

「そう思うんですけど、頑として私たちの稼ぎ受け取らないです」

「自分たちの稼ぎだけで生活できるよう、知恵を絞る様に教えてくれてます」

「なる程、グルノやブラウのカリキュラムの一環な訳だ」


楽な生活では二人のためにならないと感じて、身を引き締めている訳だ。


「でもお姉ちゃんは、尊敬の視線が辛いみたいで・・」

「何故だ? 嬉しい限りじゃ・・」

「中古屋に客が来ないのよぉー!」


シルヴィがガバッと起き上がり叫びだす。


「ふむー。そこでこの話に行き着く訳だな」

「そうなんです」


自分を尊敬してくれる妹たちに、自分の本業の働きっぷりを見せられないのが口惜しいのだろう。


「そんなこと言ったら俺だって・・」

「えっ!? シュバルツさんは成功してるじゃないですか?」


ロートが不思議そうに首を傾げて聞いて来る。


「その成功が妬まれ、逆恨みされて、皆に迷惑をかける事になったからなーぁ」


シュバルツはテーブルの上に突っ伏してしまう。


「まあ商売は恨まれて、妬まれて、憎まれて大きくなる世界ではあるのよ」


ヴァイスの全くと言っていい程、ためにならない慰めの言葉である。


シュバルツとシルヴィの落ち込みに、ロートは困った表情になり、グルノとブラウは如何したらいいのかワタワタしている。




仕方ないなと、ヴァイスが経験者としてアイデアを出してくれる。


「シルヴィ。思ったんだけど、貴女クランを設立したらどうなの?」

「んーん? クランの・・設立?」

「クランはそもそも一つの目的を持った冒険者の集団でしょう?」

「まぁ、そういう面もある・・かな」

「命を大切を目標に掲げるクランを作って、賛同してくれた人に、中古の装備のメリットを感じてもらって、購入してもらうのよ」


ヴァイスの言葉にシルヴィは全くと言っていい程、食指が動かない。


「ヴァイス姉。クランの事考えなかったと思う?」

「えっ!?」

「昔、お姉ちゃんと話した事があって、武器斡旋クランと受け取られたり、武器だけ欲しい冒険者が来ないかって、私が心配して・・」

「そっかーぁ。でも今と昔とでは状況も違うから、もう一度考えてみたら?」


どの位昔か分からないが、当時とはかなり変わっている事も多い。


「うーむ、ちょっと考えてみようかなぁ・・」




ふと視線をずらすと、シュバルツが期待を込めてヴァイスを見ている。


「そんな目で見られてもね。良い大人何だから、貴方は自分で考えなさい」

「がーん」


ショックを受けた事をわざわざ口にする。


「あまり意味がないかもしれないが、ユニオンも一つの方法だと思う」


傍に来ていたゴルドが知らない言葉を口にする。


「ユニオン? 何ですそれは?」

「商人のクラン版ってところね」


ゴルドから引き継いで、ヴァイスが説明してくれる。


「何のメリットがあるんだ?」

「少なくともユニオンの掲げる目的にそぐわない契約や、取引はしないと言う意思表明になるわね」

「ふーん、例えば?」

「そうねぇ・・。シルヴィのクランの支援を目的にしますって感じかしら」


クランクランクランとブツブツ言っているシルヴィを見る。


「シルヴィの、命を大切にするクランの支援ねぇ・・支援?」


ガバッと起き上がると矢継ぎ早に質問して行く。


「ユニオンは商業ギルドのメンバーだけで構成されるのか?」

「えっ!? 確か・・その筈だったけど」

「グルノ、ブラウ。どの位料理が出来るようになった? 捌いて調理できるか?」

「「えっ、えーと・・」」


いきなり話が振られて、頭の中が真っ白になった二人にロートが助け船を出す。


「む、無理ですよ。普通に自炊を教え始めた所なんですから」

「そっか、まぁ時間的に当たり前だな」


そう言うなり厨房の方へ向かい、ゴルドを捕まえてあれやこれや聞き始める。


「格安で・・、持ち込みは? 不足分か・・」


時々聞こえてくる声に、何となく不安を感じたシルヴィがポツリと呟く。


「何となく嫌な予感がするんだけど?」

「いつもの事過ぎて、何をしでかすか分かんないわね」


ヴァイスが無意識に手にしたコップに口を付ける。


「お姉ちゃんたち・・」


良識派のロートはいつもの様に困り顔で、グルノとブラウも良識派に従っている。


慌ててヴァイスの所へと戻ってくるなり、とんでもない事を言い出した。


「ヴァイス! 宿屋を建てるとしたら幾ら掛かる?」

「ぶっぱぁー!? ゲホゲホ・・ゴフォ」」


盛大に噴き出すと、直ぐにグルノとブラウが拭いてくれる。良く出来た娘たちだ。


「い、いきなり何を言い出すのかと思えば・・、宿屋を建てるですって!?」

「その通り」


胸を張って何を馬鹿な事を言い出すのかと、冷めた目で見つめ返してやる。

此処はキッチリと現実を教えてやらねばと息巻くヴァイス。


「良い? いっちばーん安い平屋でも平均月収の1年分と言われているのよ? つまり金貨8枚。ゴルドさんこの定食屋幾らだった?」


大声で厨房のゴルドに声をかけて呼び寄せる。


「ん? 金貨60枚だったが、それが何か?」

「いいのいいの、ありがとう。分かった?」


キツネに包まれた表情のゴルドに笑顔で感謝してから、シュバルツに向き直る。


「・・いや、さっぱり分からん」

「概算だけど、一番安い平屋の金額に部屋数をかけた物に定食屋の金額を足した位が、いっちばーん安い宿屋だと思って頂戴」

「つまり10部屋だとしたら金貨で140枚か (安いもんだな)」

「その通りよ (身の程を知れ、このバーカバーカ)」


シュバルツは顎に手を当て何やら考えている姿が、皆の不安を一気に煽る。


「一体何を考えているのかしら?」


全員を代表してヴァイスが問いかけると、近くに顔を寄せるように合図する。


「実はこんなユニオンを考えている」


シュバルツの頭に浮かんだアイデアを皆に伝えて行く。


「正気?」と変な生き物を見る感じのヴァイス。

「大丈夫かなぁ」と心配症のロート。

「面白そうじゃない」と乗り気のシルヴィ。

グルノとブラウは想像が付かない様子。


「構想を練るだけなら問題ないだろう?」

「まあ、そうなんだけどね」


シュバルツが皆に提案したのは、自分たちのお眼鏡にかなった冒険者の囲い込みユニオンであった。


自分たちの目的である、命を大切にしたい冒険者を探し出して、衣食住の環境を格安で提供し、頑張ってもらおうと言う物である。


「それで宿屋って訳かぁ」

「ふむふむ、料理が必要となります」

「服、と言うよりは装備の提供ね」


実際にやるかどうかは別にして、アイデアとしてはおもしろい。

と言うのも、専属冒険者と言う似たような依頼形態が存在するからだ。




「シルヴィは、暇を見つけて需要を調べて欲しいんだけど?」

「需要って?」

「今回は冒険者で一旗揚げようという人たちには意味がない。仕方なく冒険者をやっている人たちが対象になる」

「分かった」


実際に自分たちのユニオンに見合う人たちが、どれ位居るのかは調べる必要がある。


「ロートには、宿屋の間取り図を考えて欲しい」

「えぇっ!? 無理ですよ、そんなの」


ズブの素人にいきなり設計を頼むと言うのは、あまりにも無茶ぶりすぎる。

と言うよりも、なんで私にばかりこんな無理難題をとさえ思ってしまう。


「ヴァイスの所とか、商業ギルドにある間取り図を参考に、こういう配置が良いなぁとか、こういうのがあったら良いなっていうの位で良いんだ」

「そっか・・、一応は原案が存在するんですもんね。分かりました、やってみます」


昔やった、おままごとのリアル版と言った所である。


「グルノとブラウは、今まで通り自立の準備、その中で可能ならゴルドさんの所で料理の手伝いをしながら料理を学んで欲しい」

「「はい、やってみます」」


皆にお願いしたが、やるべき事を蔑にしては意味がない。


「何時も言っている事だけど、これはあくまでも準備で、まだやるかどうかも分からない。

自分たちの本来の務めは最優先でお願いするよ」

「「「「はーい」」」」


元気良く返事をする娘たちに思わず念をしてしまう。


「本当に、本当だよ?」


上の姉妹はふくれっ面になり、下の姉妹も真似をする。


・・・出来れば余計な事は教えないでもらいたい。




ヴァイスがあれ?と何かに気付いて聞いて来る。


「ちょっとちょっとシュバルツさん?」

「ん? 何か問題でも?」

「問題と言うか・・、今の話の流れで思ったんだけど」

「うん?」

「貴方だけ何もしていないわよね?」

「「「・・・・」」」


一人ひとりが自分の役割を思い起こしながら、1名だけ役割を聞いていない。


「あ、あれ?」

「それぞれの仕事があるの分かるわ」

「そ、そうだな・・」

「ユニオンの設立に向けての、それぞれの役割が必要なのは分かるわ」

「え、えっと・・」

「自分の仕事だけで、ユニオンの仕事がない人が居るわね?」


全員の視線が痛い。小さな娘たちに仕事をと考え過ぎて自分の事を忘れていた。

ヴァイスもそれは理解してはいるが、それとこれは別問題である。


「ユニオンの設立って、貴方の依頼の範疇を越えているわよね?」

「た、確かに・・」

「つまり・・、貴方の役割があって当然よね?」

「えっと・・、えっと・・」


慌てふためくシュバルツを、上の姉たちが妹たちに教える。


「あれが人の事ばかり気にしている人の末路ですからね」

「決して悪い事じゃないんだけど・・、何処か抜けていると言うか」

「「分かります」」


シュバルツとヴァイスのやり取りに、4人は温かな気持ちで満たされる。


「皆であの人の手綱を取ってあげましょう」


シルヴィ、ロート、グルノ、ブラウは頷き合って、我がユニオンの困ったちゃんを見守る。





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