争いごとに巻き込まれる
【争いごとに巻き込まれる】
とある酒場にて‐
扉を開けグルッと見渡し、目的の人物を見つける。
「悪いな急に呼び出したりして」
「いや、構わんよ。有名クランのマスター直々のお呼び出しだ」
先に来て一杯始めていた男性の隣に座る。
「それで何の話だ?」
「最近、ズューデンの町からエクストラ級のアイテムが、冒険者ギルドだけじゃなく、商業ギルドからも出されているのを知っているか?」
「ああ、その通りだが?」
「お前の所の冒険者ギルドで、何か聞いていないか?」
クランマスターの思惑を知り、思い出すかのように視線を巡らせる。
「うーん、確か・・、ちょくちょくアイテムを見つけている奴がいるらしい」
「アイテムを・・、見つける?」
「詳しくは分からんがね」
「ふむ、調べられるか?」
「まあ、やるだけはやって見るがね」
「頼むぜ」
なみなみと注がれた酒の入ったカップをお互い打ち鳴らす。
とある一室にて‐
自分のテーブルの上に置かれた、曲線を描いた黄色い物体に視線が注がれている。
「この実芭蕉と言うのは、間違いなく大きな需要が見込めますね」
「如何いたしましょうか、会長」
芳醇な香りを放つ実を一つ取り、丁寧に皮をむき、一口で食べてしまう。
「商業ギルド経由で、販売先の材木商とアポイントメントをとろうとしましたが、取引の希望無しと言う事であっさり断られてしまいました」
二本目の実芭蕉に手を伸ばす。
「材木商のヴァイス・・、
ギルド経由とはいえあそこからは良質な木材を買い付けていますから、無茶は出来ませんねぇ」
「私は商業ギルドとのパイプを持っております。探りを入れてみましょう」
「頼みましたよ」
そのまま二本目も丸ごと口に入れてしまう。
修道院の屋根裏部屋から、グリューナに引きずられるように商業ギルドに付くと、そのまま個室へと連れ込まれる。
「お待たせいたしました」
そこには全く見た事が無い女性が座っていた。
グリューナに「誰?」と視線を送る。
「この方は・・」
「初めまして。私、王立学術大学院考古学会の名誉教授様の筆頭秘書を務めております。
今回は名誉教授様のお情けで、貴方を我が学会の一員に招待して差し上げます」
「「・・はぁ?」」
いきなりの上から目線の物言いに驚きの声をあげてしまう。
シュバルツを引きずってきたグリューナでさえ、唖然としている程だ。
「ちょ、ちょっと待って下さい。シュバルツさんに仕事を依頼したいと言うお話だったはずです」
「えーっと、どう言う事ですか?」
「考古学会の方が、シュバルツさんの能力を高く評価されて、仕事をお願いしたいと・・」
「はぁ・・、それが?」
思わず筆頭秘書とやらを指さすと、グリューナはコクリと頷く。
「我が王立学術大学院考古学会の名誉教授様のお目に止まり、そのお手伝いが出来ると言うのです。涙を流し頭を下げて感謝すべき所なのです。
それに加え、一員にまで招いて下さると言う、感謝してもしきれず、その身の全てを差し上げても恩をお返しすべきなのです」
何から何までぶっ飛んだ感じの女性だ。
「それで依頼と言うのは?」
精神的に疲れ果ててしまいそうなので、話を済ませて帰ろうと考える。
「依頼? 此処まで話してもまだ分からないのですか?」
「はぁ・・」
これだがら下賤の物と話すのは嫌なのですとブツブツと何か言っている。
「貴方が所持している二つのアーティファクトを、わが王立学術大学院考古学会の名誉教授に献上しなさい。更に今後発見した場合も同様です。分かりましたか?」
「ちょっと待って下さい。何をおっしゃっているのか分かっているのですか?」
流石のグリューナも声を荒げる。
「何を? 当たり前の事です。我が王立学術大学院考古学会の名誉教授様のお目に止まっただけでも、本当に感謝にすべき事なのですよ」
シュバルツもグリューナも茫然としてしまう。会話が成り立たないのだ。
「この人は病気か何かなのか?」
「そうかもしれませんね・・」
二人で溜息をついて頷き合うと、きぃーっと叫び始める。
「はぁ? 我がー (以下省略)」
「悪いが王立学術大学院も、考古学会も、名誉教授様も知らん。
誰が聞いたって今の話は、人の成果を猫ババしますと言っているとしか思えん」
「あ、貴方、なんて事を!」
目をむき歯をむき出しにして迫ってくるのをヒョイッと避ける。
「あんたの所とは取引も、協力も、依頼もお断りだ。当然お偉い人に招かれるつもりもない。
二度と俺の前に顔を見せないでいただきたい」
「キィー! 絶対、絶対に後悔しますよ!」
グリューナが筆頭秘書とやらの前に立ち、必死に押さえ込んでいる間に個室を出る。
「・・こんなのが次から次へと出てくるんじゃないだろうな」
今だに中から騒ぎが聞こえている部屋をチラッとだけ見て帰路に付く。
その日の遅く、ヴィオレットは上司に相談のため部屋を訪れていた。
「うん? シュバルツの事を嗅ぎまわっているクランがあるだと?」
「はい、例の・・」
「こいつかぁ・・」
強引なやり方で、冒険者や支援者を自分の所に参加させ、度々問題に上がっているクランであった。
「あっちこっちで揉め事起こしやがって、ここいらでキッチリ絞めておいた方が良いな」
「既に抱き込みも成功しています」
「まあ、あれだけ不満たらたらの奴らが居ればそうなるわなぁ」
「シュバルツさんにも連絡入れておきますか?」
「そうだな・・、黙っておけ」
「えっ!? よろしいのですか?」
「少し悪いが、証拠証言集めのために協力してもらいたいからな」
悪そうな笑みを浮かべる上司に、怒られますよと溜息を吐く。
同じ頃、グリューナも筆頭秘書を追い出した後に上司に報告していた。
「またあの商会か・・、懲りもせず良くもまあ」
「証拠不十分と言う事で、その都度うまく立ち回っています」
「かなりあくどいやり方とは聞いていたが・・」
こっちの大手商会も、脅迫、放火、誘拐、暴行、破壊など噂だけは真っ黒のはずであった。
「如何いたしましょうか?」
「シュバルツに協力してもらおうか」
「分かりました。すぐにお呼び・・」
「勿論、黙ってだ」
「・・大丈夫ですか?」
「その方が上手くいく様な気がする」
「分かりました・・」
きっと怒られますよの言葉に、澄ました顔で知らんぷりを決め込む上司だった。
とある馬車の中で‐
身なりの良い人物に、依頼があるとクランの拠点で訪問を受けついてきた。
丁寧な物腰で馬車の中へ入るように指示される。
ランクAにも届こうかという自分をどうにかできる奴などいないだろうと、大して気にも留めず馬車の扉を開ける。
「ようこそ、有名クランのマスター殿」
「大手商会の会長自らのお呼び出しとは、どういう風の吹きまわしだ?」
中に入ると扉が閉められ、馬車が動き始める。
「お互いある人物について、揉めていると言う噂を聞きましてね」
「シュバルツ・・の事か。一体どこからそんな情報が?」
「蛇の道は蛇、と申しますから何とも」
「ふん、それで?」
にこやかに手揉みをして話をはぐらかされたが、話の先を求める。
「うちでも彼からけんもほろろの扱いを受けましてな。身内が悲しい目に合わないか心配なのですよ」
修道院を出てすぐの所で、シュバイツの目の前に一台の馬車が停車する。
その中から、恰幅のいい男が出てくる。
「シュバルツさんですな?」
「貴方はどちら様かな?」
「大手商会の会長をしている者です」
「その偉い会長さんが何の用だ?」
偉い奴に先日の事が思い出され、言葉が刺々しくなる。
「簡単な事ですよ。貴方がお持ちの実芭蕉の苗の権利を譲っていただければいいのです」
「はぁ? お前、頭は大丈夫か?」
「至って平気でございますよ」
「正気とは思えんが、はっきり言っておく。お断りだ」
先入観はいかんと思いながらも、第一印象って大事だなぁと感じてしまう。
「シュバルツさんはトレジャーハンターとして資金繰りが大変でしょう?」
「もうすでにパトロンが居るから大丈夫だ」
シュバルツとヴァイスの二人で、実芭蕉を独占しているから繋がっているだろうと予想は出来ていた。
「ふーむ、そうですか。残念です。
そうそう残念と言えば、時折私どもとの取引で、身内の方に不幸が降りかかる事があるそうですな。その様な事が起こらない事を祈って・・」
「お前、今身内の話をしたな?」
「えっ!? ええ」
「ならば、たった今からお前は敵だ」
「敵とは酷い事をおっしゃりようだ。親切にご助言していると言うのに」
下卑た笑みを浮かべながら去っていく。
「なる程、こちらもアドバイスに耳を傾けてもらえなかった様だしな」
所詮、ランクEと言う事でランクDでも良いと思ったが、強さを示すためにランクCとランクDの二人を送っていた。
修道院ではシスターの制止を振り切る暴挙で、ノックもせず屋根裏部屋へと押しいて行く。
「お前がシュバルツだな。今日から俺たちのクランに入るんだ。
それでお前が見つけた武器や防具、アイテムは俺たちに配るんだ、いいな」
侵入してきた二人に、冷たい視線を送りつける。
「いきなりやってきてこの暴挙、それ以前に周りに迷惑をかける冒険者が居る?
ましてや弱者を苦しめる様なクランに入る必要がないな。お引き取り願おう」
「なんだとぉ!?」
ランクDの男が、シュバルツの胸ぐらを掴む。が、その瞬間・・
「えっ!? ぐぎゃぁあ!」
外に放り出され修道院の壁を越え、受け身も取れず道に叩きつけられる。
「なっ!?」
「ランクEの弱者にあんな風に投げ飛ばされるなんて、なんて弱い冒険者の集まりのクランなんだな」
鼻で笑うシュバルツに、先ほどと同じようにランクCも胸ぐらを掴む。
「てめぇ! 必ず後悔させてやる。身内に不幸を・・」
「そうか、俺以外に手を出すのか・・」
「あったりまえだ!」
「なら・・、お前のクランは敵だな」
「あぁっ!?」
「お前のマスターにキッチリ伝えておけ」
そう言うとさっきの男よりも速く遠く投げ飛ばされる。
「ば、馬鹿な・・!? ごぎゃ!」
同様に、ろくに受け身も取れず地面に叩きつけられる。
大手商会の会長と有名クランマスターは、それぞれの出来事を思い出す。
「あいつの身内の護衛をすればいいんだな?」
「蔭ながらに見守っていただければ十分かと」
「お互いに益はありそうだな」
「そう言う事です」
クランマスターの手元に、シュバルツの身内の護衛依頼の依頼書が渡される。
更に力を入れなくてはと思っていた所へ、まさに渡りに船となる。
「用意の良い事だな」
「こういう事は早い方が良いですから」
「ハッ! 良いだろう」
「クックックッ、頼みましたよ」
ズューデンの町の衛兵隊長は、おかしな依頼を受けていた。
商業ギルドと、冒険者ギルドの両方から、中古屋と定食屋、修道院が襲われる恐れがあるので警備を強化して欲しいと。
「あのケチで有名な商業ギルドと、貧乏所帯の冒険者ギルドが金まで払って警備の強化依頼だと?
こりゃ絶対に何かある・・」
衛兵隊長としての感が何がを告げ、すぐに直属の部下を呼び寄せる。
「隊長、どうかしましたか?」
「襲撃のタレこみがあった」
「また悪戯では?」
この手の悪戯はちょくちょくあるので、部下は疑わしそうな眼をする。
「そうだろうな。まあ夜間訓練のつもりで行ってくれ」
「何もないと思いますけどね」
「うむ、何も無ければ、ワシが一杯皆におごろう」
「こりゃ珍しい。本当に襲撃があるかもしれませんね」
早速部下は隊員たちに、夜間警備強化を伝えに行く。
中古屋の傍では、息を潜めて周囲を警戒する。
しばらくすると、明らかに冒険者と分かる者たちが裏口へと向かう。
すると直ぐに防犯魔法の非常ベルが鳴り響く。
「っ!? 確保ー!」
待機していた衛兵がすぐさま裏口へと殺到し、電気麻痺で動けない仲間を介抱する不審者ともども取り押さえる。
「お、おれたちはこの店の知り合いなんだ・・」
「知り合いが防犯魔法を知らない訳があるか!」
副隊長が念のためと、扉をノックして中の住人に声をかける。
扉が開かれ中に居たのは、少女が四人だけである。
両親が出てこない・・。
事情を抱える人たちは多いのだ、察して深く追求はしない、してはいけない。
出来るだけ優しい笑顔で、優しく話しかける。
「すまないが、あそこにいる人たちを知っているかな?」
「んーっと、あっ! もしかしてブラウに付きまとっている人かも!?」
一番上と思われる姉の言葉に三人が驚く。
上の姉の嘘に驚いたのだが、副隊長は本当の事と確信してしまう。
「ブラウちゃんとは?」
一番小さな妹に、本人のも含めて4人の指が集まる。
副隊長の自慢の娘に年も近い少女に・・
「あー、ごめんごめん。怖い思いをさせたね。
後はオジサンの方でやっておくから、ゆっくり休みなさい」
「「「「はーい」」」」
ことさら優しい笑顔と言葉で、四人を店の中へと入る様に誘う。
扉が閉まると同時に歯をギリギリと鳴らすこと数秒、鬼の様な表情の副隊長が振り向く。
冒険者だけでなく隊員たちまでビビり後ずさりする。
「連れてぇけぇ・・。洗いざらい吐くまで殺すんじゃねぇぞぉ」
「は、はいぃ!」
自分の愛娘と被る幼いブラウに手を出す輩・・、断然生かしておく訳にわいかない。
言っている事と思っている事が既に辻褄が合わなくなる程、狂気に走らせていた。
隊員たちに非番の服装をさせて、定食屋の中で待機させる。
しばらくすると冒険者たちが雪崩れ込んでくる。
「おめか、シュバルツの仲間って言うのは」
「何だ!? どう言う事だ?」
店主の答えを聞く前に押さえつけ、店の物を壊し、客にも迷惑をかけ始める。
客として待機していた衛兵が全員立ち上がる。
「悪いが今の話、屯所で聞かせてもらおうか?」
「えぇ!? まさか衛兵? 何でこんな所に・・」
「我らが店にいて何か悪い事でもあるのか?」
冒険者とはいえ、衛兵と事を構える様な愚策をする事は出来ない。
狼藉を働いた者たちは、その場で大人しくお縄になるしかなかった。
修道院の傍で待機していたメンバーも不審者に気付く。
「おいおい、当たりかよ」
明らかに無関係な冒険者たちが修道院の中へ入るのではなく、押し入っていく。
中から物を壊す音が始まると直ぐに行動に移す。
「全員、突入!」
待機していた衛兵たちが雪崩れ込む。
「な、なんで衛兵が?」
巡回しているにしても、せいぜい二人一組なのに、この人数は異常だ。
「勿論、襲撃のタレこみがあったに決まってんだろうが!」
全員を確保すると、出てきたシスターたちに事情を説明し撤収する。
三か所の襲撃の事実に、流石の衛兵隊長も驚きを隠せない。
「タレこみが事実だとしても、大がかり過ぎないか?」
「暴挙に及んだ冒険者全員が、同じクランに所属しておりました」
「同じクランだと?」
これは明らかに何らかの理由が別にあっての襲撃と考えられる。
「徹底的に締めあげろ。ひとつ残らず吐かせるんだ」
「はっ!」
町を挙げての大獲り物は、何か大きな犯罪に繋がっている事を確信する。




