姉妹として
【姉妹として】
商業ギルドでグリューナを見つけると、個室での話し合いを頼む。
「本日はどのようなご用件でしょうか? シュバルツさん」
「二つありまして、一つ目は奴隷についてお伺いしたいのですが」
「ど、奴隷・・ですか?」
意外な言葉であったが、彼の活躍を見れば奴隷が必要と考えるのも当然だろう。
「所有権の事に付きまして・・」
グリューナにここ数日の事を話しながら、昨晩の別れ際の話を思い出す。
「ねえ、グルノちゃんとブラウちゃんの・・その、責任はシュバルツさんで良いのよね?」
所有と言う言葉が嫌だったのか、ヴァイスは瞬巡して適当な言葉で質問する。
「一応そうなると思うが・・」
「出来るだけ早く、商業ギルドにでも相談した方が良いわ」
「ふむ、そうだな。明日にでも・・」
「それと保護者と言う立場での質問だけど・・」
シュバルツが答え終わる前に、次の質問に入る。
前の質問は単なる確認だったようだ。
「服はどうするつもりかしら?」
「・・服?」
はて、彼女たちはシルヴィとロートのお下がりを着ているじゃないかと思う。
「はぁ・・、これだから男ってダメなのよ」
「えっ!? どう言う事なのかな?」
ヴァイスからダメだしされるが、全くもって分からない。
「いい? 服と言うのはね結構お金がかかかるのよ。お下がりのお下がりって当たり前の様にあるのよ」
「ふむふむ、合理的だな」
「と言う事は、服と言うのはそもそも絶対数が少ないの」
「当然だな」
「此処まで言っても分からないか・・」
「ん? 何を言いたいんだ?」
察しが悪いと言うか、鈍いと言うかヴァイスはあきれ果てている。
「当然、シルヴィや、ロートだってそんなに服がある訳ないでしょう。
四人とも着の身着のままにさせるつもりなのかしら?」
「・・ああ、なる程。承知した」
彼女たちに服が必要で、お金はどうするのか聞かれていたようだ。
女性の方から金の無心をさせた事を責められる。
「もうちょっと察しなさい」
「うう・・、すまん」
服を揃えるのにどの位かかるか分からないが、今さら幾ら必要か聞くに聞けなかったので、後で持っていくことを約束する。
「明日ギルド寄ってから、店の方に行くから」
「分かったわ。町の中心にある服屋に来て頂戴」
そこまで言ってしまうと、グリューナの冷めた視線に気付く。
「幾ら男性で機微に疎いとはいえ、流石にそれはないと思いますよ? シュバルツさん」
「うう・・、申し訳ない・・」
やはり同じ女性として、キッチリお小言を頂く事になった。
シュバルツが差し出した証文を入念に調べてから答える。
「確かにお話を聞いて証文を見た限りでは、実際に借金があったかどうかまでは分かりませんね」
「やはりそうですか・・」
「しかし、オステンの町の住人の前でシュバルツさんに証文を渡し、奴隷がシュバルツさんの物であることを宣言してますので、その姉妹の所有権はシュバルツさんで問題ないと思います」
「そうですか、ありがとうございます」
第三者機関として、商業ギルドの言質も取ったので問題はない。
「じゃあ二人を奴隷から解放したいのですが」
「その件ですが、少し待たれた方が良いかもしれません」
「どうしてでしょうか?」
シュバルツとしては少しでも早く、グルノとブラウを奴隷から解放してあげたい。
「万が一ですが、奴隷商人と村長がグルの場合、何か言ってくる事が考えられます」
「・・過去にもそのような事が?」
確かに奴隷商人は大損している。二人を取り返しに来る事は十分考えられる。
「いいえ、その様な事はありません。しかし表ざたにならなかった件はあるのではと。
せめて身の振り方が決まるまでは、奴隷のままの方が安全と思いまして」
シュバルツは、念には念を入れておいた方が良いと判断する。
「グリューナさん、アドバイスありがとうございます。
もうしばらく二人は奴隷で預かりたいと思います」
「分かりました。証文を作りなおして、確実に所有権の移譲を行いましょう」
グリューナは直ぐに手続きを行ってくれる。
所有権の変更された証文が出来上がるまで、次の話を進める事にする。
「もう一つお話がありまして」
「ああ、そうでしたね。二つ目は何でしょうか?」
「これ・・です」
「・・・なっ!?」
ベルトに投擲剣が5本差し込まれており、そのベルトが2本置かれる。
「ま、まさか?」
一見アーティファクトには見えない、何処にでもあるセットである。
グリューナは目を見開き、口をパクパクさせて、震える手で指さす。
「分かりません。ただ遺跡のある島からの出土品と言うだけです
(いつもの不壊と、自動追尾による急所必中による即死効果と、獲物ごとの自動回帰が付与されている位だから、アーティファクトと言えないかも)」
狩猟する民族で、武器が狙った獲物を追跡し、一撃で葬り、獲物と一緒に自動的に戻るのであれば楽だろうと思っていた位で、それほど特殊とは考えなかった。
それらの機能に不壊を持ったアイテムが、どれほど希少であるかをまだ知らなかった。
「だけです・・って。はぁー、またとんでもない物を」
前に持ち込まれたネックレスは、ギルドの調査機関でアーティファクトと認定されている。
「また調査機関に鑑定を依頼しますね」
「お願いします」
グリューナも自分のスキルで鑑定するが、正直分からないの一言だった。
さて用件は終わりと、席を立とうとするとグリューナが不思議そうな顔をする。
「シュバルツさん、よろしいのですか?」
「えっ!? 何がでしょう?」
「はぁー、ヴァイスさんの所へ手ぶらで大丈夫ですか?」
知りませんよぉーの声に、ビキリッと固まると、逆再生の様に席へと戻る。
「グ、グリューナさん、お金を下ろさせていただきたいのですが如何でしょうか?」
「貴方のお金なんですから、そんなに恐縮されなくても良いんですよ?」
にこやかなグリューナの笑顔に完全に女性陣を敵に回したのではないかと、内心ビクビクしての言葉遣いであった。
商業ギルドでお金を引き出した後、待ち合わせである町の中心にあると言う服屋へと向かう。
「ふむ、早く来すぎたか? まだ買い物が終わっていないようだな」
少し待つかと店の傍に立つも、一向に出てくる気配がない。
「ん? 店を間違えたか? もう帰ったとか? でも支払いが終わってないから・・」
結局、5人が店から出てきたときには、日が傾き始めていた。
ただ待つと言う事が、これだけ苦痛と言うのを初めて思い知らされる。
「なぁ、グルノとブラウが新しい服を着ているのは当然だろう。
シルヴィとロートのお下がりの補充として、新しい服を着ているのも認めよう。
ヴァイス。何故君まで新しい服を着ているのかな?」
多分自腹で購入した訳ではなさそうなので、思わず聞いてみる。
「えっ? シルヴィとロートのお下がりになるからよ」
当たり前の様に言い放つが、何故当たり前の様にシュバルツの金で買うつもりなのだろうか。
グルノとブラウは申し訳なさそうに、シルヴィとロートは明後日の方向を向き、ヴァイスに至っては似合うとニコニコ顔で聞いてくる始末。
「うぅー・・、えっと・・、あー・・、ん・・・・、はぁー・・」
何を言ったらいいのか分からず、最後は溜息しか出てこなかった。
5人の後ろで笑顔で手揉みしている店員に、言われた金額を支払う。
ちょっと・・、いや結構な金額だったが、服だからこの位するのかと思う事にする。
今日これから話しあいにはかなり遅くなってしまったので、晩御飯をみんなで食べる事にして、ゴルドの定食屋へと向かう。
「なぁ、シルヴィ、ロート」
「うん?」
「なんでしょうか?」
「今日もグルノとブラウを泊めてもらっていいか?」
昨日もそうだったが、流石に二人を自分の寝床である屋根裏部屋には連れて行けない。
「うん、大丈夫だよ」
「勿論、大歓迎です」
「ちょっと待った!!」
いきなり横からヴァイスが割り込んでくる。
「どうしたんだヴァイス、大声出して?」
「昨日そんな楽しそうなイベントが、あの後あったのね。お姉さん知らなかったわ」
そりゃ泥酔していたヴァイスを、最初に送り届けてから中古屋へと帰ったんだからな。
「と言う訳で、今日は私の家でお泊まり会でーす」
シルヴィとロートは仕方ないなと苦笑いし、グルノとブラウはキョトンとしていた。
「じゃあ4人は明日、話し合いをするから修道院の方に来てくれ」
「「「「はい」」」」
翌日、屋根裏部屋で5人が揃うと、グルノとブラウの今後について話し合われる。
4人ともなんだか眠そうである・・。君たち何をしていたのかね。
「まず商業ギルドでグルノとブラウについて確認してきたが、俺の保護下で間違いないそうだ。
変更の手続きも昨日済ませてある」
二人は奴隷とは無いと思っているので、別の言葉で話を進める。
「うん? どう言う事、保護下って?」
「変更の手続きと言う事は、解放されたのではないのですか?」
シルヴィとロートは驚きの声を上げ、奴隷から解放されると思っていたグルノとブラウはがっかりした表情になる。
「商業ギルドのグリューナさんの意見をもっともだと判断したからだ。
皆もそう思っていると思うが、グルノとブラウは騙されたと考えている」
「当たり前じゃない!」
「そうですそうです!」
中古屋の姉妹が、一昨日の怒りを再燃させてしまう。
他の二人は悔しさからか俯いてしまう。
「その場合、また奴隷商人や村長が何かしてくるんじゃないかと考えられる」
「あっ!?」
「ぐぬぅぅぅ」
幼い二人を騙して奴隷にする位だ、悪い事のために何でもしてくる方が高い。
グルノとブラウは二人抱き合って、食いしばっている。
「と言う訳ですまないが、しばらくは二人は今の形のままでいてもらうと思う」
「いえ、色々考えて下さりありがとうございます」
シルヴィとロートは解放されると思っていたのだろう、複雑な表情で聞いてくる。
「しばらくって、どの位ですか?」
「ずっと・・、その奴隷って訳じゃないんでしょ?」
「もちろん、二人の身の振り方が決まれば解放するよ」
「身の振り方・・ですか?」
保護下の二人は首を傾げて、お互いを見合う。
「本来であれば、奴隷商人の元である程度の知識や技能を磨きつつ、身受け先を探す事になるはずなんだ。でも君たちはまだ、殆ど何も教わっていなかったんだよね?」
「はい、一日目でモンスターに襲われましたので・・」
嫌な記憶が思い出されたのか、身震いをして肩を抱きしめている。
「ご両親の手伝いをしていたとはいえ、誰にでも出来るレベルだと思う」
「それは・・、そうですね」
「そこで自立するために最低限の炊事、洗濯、掃除などから始まって、植林に風呂掃除、屋台の売り子に菜園の手伝い、調理師の見習い、果ては冒険者と言った物まで経験してもらおうと考えている」
「後半は特に個人的な絡みな様な気がするけど・・」
シルヴィがシュバルツの目を覗き込んでくるが、フッと視線を外す。
「そこでシルヴィとロートに緊急依頼だ。この二人を一人立ちさせるカリキュラムを組んで欲しい」
「む、無茶う言うわね・・」
「そんなのやった事無いです!」
人の一生を左右する事を教えるなんてと、二人は手を振って断ろうとする。
「そんな事はない。君たちは今までそれをやってきたはずだよ?」
「「えっ!?」」
「君たちの今までの生き方そのものが、この娘たちの手本になるんだ」
そんな事を言われたのは初めてなのかキョトンとする。
「グルノ、ブラウ」
「「はい」」
「君たちの目の前に居る二人は、両親を亡くし、両親の残した店を続け、時には冒険者として日々の生活を稼いている立派な人たちだ」
「「知っています」」
4人でお泊まりした時に色々聞いていたのだろう。
「シルヴィ、ロート。難しい事は考えなくて良い。今までの君たちの生き方を教えてあげて欲しい」
そこまで言われて二人は決心する。
「分かりました」
「やってみます」
やる気を削がない様に気を付けながら、伝えるべき事はきちんと伝える。
「忘れないで欲しいのは依頼と言う事だ。
依頼を受けた以上、グルノとブラウを一人立ちさせる責任が伴う」
「勿論、分かっているわ」
「はい、任せて下さい」
二人の決意を確認すると、グルノとブラウの方へ向かう。
「これから君たちは二人は中古屋で下宿してもらい、多くの経験をして欲しい」
「「分かりました」」
こちらの二人も、一生懸命学ぼうという姿勢が見て取れる。
この4人で仲良く成長してくれるだろうと期待できる。
そんな事を考えていると、扉がノックされる。
「どうぞ。ヴァイスかね?」
5人で顔を見合わせて、訪問者を予想するが裏切られる。
「突然の訪問申し訳ありません、シュバルツさん」
扉を開けて入ってきたのは、商業ギルドのグリューナであった。
「えぇっと・・、こんにちはグリューナさん。何の御用でしょうか?」
余りの珍しさに全員で固まったが、何とか返事をする。
「シュバルツさん、今お手隙でしょうか?」
「えっ!? ええ、まぁ」
一応話し合いは済んでいるので、後は丸投げで大丈夫だろう。
「ではすみませんが、一生に商業ギルドまで来て下さい!」
「へぇ!?」
了承の言葉を確認する前に、首根っこをひっ捕まえて引っ張られて行く。
4人とも茫然と、シュバルツとグリューナが出て行った扉を見つめる。
「あららら、行っちゃったね」
「うん、連れて行かれたね」
「そうですね」
「私たちだけ此処に残っていても仕方がないから、一旦家に戻りましょう」
「そうだね」
「分かりました、シルヴィ様、ロート様」
「ん? 私たちに『様』は要らないよ?」
「でも、奴隷ですし・・」
シルヴィとロートは、二人の表情が暗いのを気にする。
「奴隷から解放されると思ってたんだよね」
「はい。正直言えば・・期待していました」
生殺しの状態に逆戻りなのだ、そのショックは隠しきれるものではない。
「でもシュバルツさんの考えも分かるでしょう?」
「はい。多分私たちは騙されていたんですね」
「皆そう考えてる」
「大損した奴らが戻ってくる事は、自由になった私たちを騙しに来る事も予想できます」
そう言うと、グルノはブラウの手を握り締める。
「それでも・・、奴隷は嫌なんです」
「私たちはシュバルツさんから頼まれた、ただの姉妹だと思っているよ」
「ありがとうございます。・・でも奴隷なんです」
妹の首輪を触り、自分の首輪を触る。
「むぅ・・」
首輪の有無だけで、人をこんなにまで歪めてしまう。
「必ずその首輪は外される、絶対にです」
「そう・・ですね」
「じゃあ、とっととその首輪をはずしちゃおう」
「・・はぁ!? お姉ちゃん、何言ってるの? 今は二人を守る・・」
「一人立ち出来れば問題なし!」
「あっ! そうだった」
当たり前の事だが、当たり前の事を、珍しく実の姉から気付かされる。
「シュバルツさんも身の振り方が決まればって言ってたでしょ」
「うんうん。カリキュラムにも目標を入れた方が良いね」
「目標・・ですか?」
4人で首輪を外すために何が必要かを考え始める。
「少なくとも、私たちの家に下宿している限りは一人立ちとは言えない」
「何らかの仕事で稼ぎを得て、宿屋なり何なりの拠点を持って生活する」
「なる程・・。私たちに出来るでしょうか?」
「出来るか、じゃなくて・・、やるのよ」
「そうです。首輪を取るために」
グルノは妹を見つめ、ブラウは姉を見つめ頷き合い答えを出す。
「「はい! お願いします。シルヴィ様、ロート様」」
「・・まずは『様』を無くした呼び方から始めようか」
「そうだね!」
シルヴィとロートは、少し困った顔の二人に笑顔で答える。




