新たな家族
【新たな家族】
カランコロン‐
「「お帰りな・・さい?」」
シルヴィとロートは目をまん丸にしてこちらを見てくる。
「ただいま。この2人はお土産ね。
上の娘がグルノで12歳、下の娘がブラウ10歳だよ」
視線と雰囲気を誤魔化すために、明るく紹介をしてみる。
「お土産って、その首輪・・奴隷って事よね、一体どういう事・・よ」
「それで今喋っている大きい方がシルヴィで、この間17歳になったんだよな?」
「うん・・」
「あと今奥に入っていったのが、ロートで15歳になったばかり・・」
隣のロートが奥へ引っ込んで、メイスを一本持ってくるのを目だけで追う。
「な、なあロート? 何故メイスを持ってくる必要があるんだ?
しかもそれ以前に預けておいた奴の一個だよね?」
「おっかしぃーな? ちからがどんどんわいてくるかんじ?」
全くの無表情で、メイスをジャグリングの様にクルックルッと回している。
喋り方まで、その何と言うか片言でおかしい
「ロ、ロート? 今の所、そんな物はいらないんだけど?」
「そぉ? でもなんかふりまわしたいきもち・・」
メイスは自重でも威力を上げるため、かなりの重さのはずでロートの細腕で回せるとは到底思えなかった。
「シ、シルヴィ? 君もボーっとしてないで」
「他人のふり見て我がふり直せって言葉があるけど、あれって真実なんだね」
「いやいや、悟らないで止めて欲しいんだけど」
「無理だと思う・・、経験者として。黙って殴られたら?」
シュバルツの必死の訴えと、シルヴィのどうでもいい様な執り成しで、その場は何とか治めようとする。
「ちゃんと説明するから、先ずそのメイスをわきに置いておこう、な? な? な?」
「ロート、事情を聞くにしても、この娘たちをこのままにしておけないと思うのよ」
「・・・うん」
「まずは体を拭いてあげて、何か服を出してあげましょう」
「・・・分かった」
シュバルツは男ゆえにその辺に疎く、着の身着のままだった事を指摘される。
ロートも納得はしてないが姉の言葉に従い、四人で店の奥に引っ込んでいく。
氷の様なとても冷たい表情と視線を残して・・
自分たちの部屋に入るとロートも態度がガラッと変わり、2人のお世話に専念する。
「私たちのお下がりが残っていたはずよね?」
「うん、こっちに仕舞ってあるよ」
二人の奴隷の体を拭いてあげ、お下がりを着せるつもりの様だ。
「い、いいえ。私たちには勿体ない・・」
「良いから良いから」
ここでシルヴィがとっておきの爆弾をロートに投入する。
「この娘たちにも、もっと服とが居ると思うんだけど、この年頃ってすぐに大きくなって着れなくなるじゃない?」
「うん、そうだね」
「勿体ないから私たちが新しい服を着て、どんどんこの娘たちに下ろしたらどうかな?」
「うわぁ!? お姉ちゃん、悪ーぅ」
何故だか急に機嫌が良くなったロートに、更に名案が浮かんだようだ。
「ねぇねぇ、ヴァイスお姉ちゃんも一緒に買ったら、お下がり貰えないかなーぁ?」
「なっ!? 我が妹ながら・・、お主も悪よのぉ」
「お姉ちゃん程では・・」
「クックックック・・」
「ニッヒッヒッヒ・・」
不気味な笑い声をあげて、傍にいた奴隷の姉妹にドン引きされる。
店先に居たシュバルツにも、ボソボソと何やら不穏な雰囲気は感じ取れたが、話の内容までは流石に聞き取れていなかった。
「じゃあ一足先に私はヴァイス姉の所へ行ってくるから、あなたはお姉ちゃんとしてこの娘たちの面倒をきちんと見るのよ?」
「っ!? お、お姉ちゃん!?」
ロートは何とも言えない蕩け切った表情になるが、すぐにキリッと気持ちを引き締める。
「任せておいて!」
ドンと胸を叩いて、キビキビと、しかし優しく新しい妹たちに接する。
シルヴィは、どんな感じと言うシュバイツの言葉を無視して出かけて行く。
運良くヴァイスが居たため、ロートとの内緒話を伝える。
「と言う訳・・、あれ、ヴァイス姉?」
「何やってるの? 早く行くわよ?」
「えっ!?」
振り返ると、目の前で話していたはずのヴァイスが、ちょっとまばたきした瞬間に消え失せ、身支度を済ませ扉を開け、廊下で待っていた。
「ヴァイス姉に言ったのは、少し早まったかも・・」
若干引き気味に、頬をひくつかせるしかないシルヴィであった。
無視されて少しイジけていると、ヴァイスを伴ってシルヴィが戻ってくる。
成程、この手の話はヴァイスが居た方が纏めやすいかもしれないと、三人の思惑とは違った関心をしていた。
「じゃあ、まずは・・」
シルヴィが話し始めるのを、ヴァイスがパンパンと手を鳴らして、いきなり仕切り始める。
「さあさあ、みんなで大衆浴場に行くわよ。その後でお腹も空いているだろうから、ご飯を食べながら、色々とお話を聞きましょう」
小さい妹たちは何の事か分からずキョトンとし、大きい妹たちは異論がなく頷いている。
シュバルツは、さっき体拭いたんじゃ?との言葉を喉元で止めたため、寿命を伸ばす事に成功していたのに気付かなかった。
大衆浴場ではロートが、グルノとブラウに色々と世話を焼いている声が聞こえる。
「履物はこっちに入れてね」
「服はこの中に入れるのよ」
「お湯が汚れちゃうから、先に体を洗うの」
「湯船に長い時間入っていると、気持ち悪くなるから」
・・・等々。少しずつ打ち解けていけている様だ。
大衆浴場から出てきた時、ボサボサだった二人の青みがかった髪は、グルノが一つお下げ、ブラウが二つお下げにされていた。
三人の上の娘たちによるものだろう。
しかし、和やかな雰囲気はゴルドの定食屋で一変する。
「両親が病で無くなったら、いつの間にか借金が出来てた!?」
シルヴィの眉が跳ね上がる。
「借金を肩に、村長があなた達を奴隷商人に売ったんですか!?」
ロートも珍しく激昂する。
「村長と奴隷・・、多分村人もグルかもしれないわね。証拠はないけど」
苦虫をかみつぶした顔になるヴァイス。
「そこでモンスターを擦り寄せられたから、賠償請求したら二人を貰えた」
話の最後を締めくくる様にシュバイツが纏める。
「賠償請求?」
ヴァイスは微妙な顔でシュバイツを睨み、天使の笑顔で奴隷の二人に尋ねる。
「本当の事なの?」
「確か・・、そんな声は聞こえました」
「そう・・」
ブラウの言葉に、ヴァイスは一言呟き、首を傾げる。
「「「おかしい」」」
ヴァイスとシルヴィ、ロートの声がはもり、シュバルツの方を睨む。
絶対にまた何かやっただろうと目が語っている。
「他に何か無かったかしら?」
「そ、その時は姉さんが大怪我してて、介抱してて、気が動転してて・・」
「「「それだ!」」」
ふたたびハモった3人の大声に、ブラウはビクリとする。
「シュバルツさん、貴方何をしたの?」
「俺は何も知らん」
ひたすら無関心を装うシュバルツに、ヴァイスは自分の額や机を指先でコツコツと忙しなく叩きながら考える。
「賠償請求・・、奴隷を貰える・・、大怪我? ハッ!? 貴方奴隷商人から二人をだまし取ったのね!?」
「だまし取ったとは人聞きの悪い」
「どう言う事、ヴァイスお姉ちゃん?」
訳が分からないロートが、答えを求めて聞いて来る。
「この人はね、大怪我の奴隷を買おうとすれば、ふっ掛けられると思ったのよ。
しかも先に治療をしても、知らぬ存ぜんを通される可能性もあった」
「それで?」
「モンスターを擦り寄せられた賠償をする事にしたのよ」
「えっ!? 全く意味が分からないんだけど?」
少し混乱気味のロートに優しく説明する。
「擦り寄せは重大な罪になるの。被害が大きくなるからね」
「うん、知ってる」
「そこでシュバルツさんは、奴隷には興味がありません、お金だけ下さいというスタンスを貫き通したんだと思う」
「ふむふむ」
「何とかして奴隷商人が大怪我で売り物にならない姉妹を差し出させて、賠償をチャラにする様に仕向けたのよ」
「「・・あっ!?」」
隣で聞いていたシルヴィもロートと一緒に、シュバルツの考えに行き着く。
「多分こんな感じだと思うんだけど、違う?」
「知らん」
ヴァイスが正解でしょうと聞いて来るが、ソッポを向いて答えない。
「「なる程ねぇー」」
大体の筋書きが見えた3人は、にやーぁっと嫌な笑みになる。
「でもグルノちゃんもブラウちゃんも、怪我をしてないみたいだけど?」
「それはシュバルツ様がお薬を・・」
その場を見ていたブラウが答える。
「へぇー、どんな薬を飲ませたのかしら?」
「さぁ・・、忘れたな」
「奴隷商人が諦める程の大怪我・・、プレミアム・・いえ、レア級かしらね?」
「しらー・・ (UR級でした)」
この場に及んでまだしらを切り通すシュバルツ。往生際が悪い。
「ならグルノちゃんもブラウちゃんに聞くから良いもん。
そこから先で覚えている事はあるかしら?」
「シュバルツ様が黙って証文を渡して下さいました・・」
「「「ははぁーん」」
三人の生温かい視線が痛々しい。
「それで?」
続きを促すヴァイスの言葉を聞いたグルノがいきなり土下座する。
「申し訳ありません!!」
「ちょ、ちょっと!?」
「えっ!?」
「なっ!?」
「どうして謝るんだ?」
いきなりの謝罪に、四人は戸惑う。
「シュバルツ様を利用しました」
「俺を・・、利用?」
「へぇー、利用価値があるんだ」
いぶかしむシュバルツに、茶々を入れるヴァイス。
「私は村に戻るつもりはありませんでした。
でも私たち姉妹だけでは生きていけないとも思いました。せめて妹だけでもと思い・・」
「ああ、納得できた」
「それ位の甲斐性はあるかもね」
「さっきから酷くないかヴァイス?」
「じゃあ、全部洗いざらい話しなさい」
「・・・」
ヴァイスの言葉に、またプイッとソッポを向くシュバルツ。
「子供かあんたは!?」
「二人とも大人げないよ?」
「ほんとほんと」
ロートとシルヴィのグルノを席に戻しながらの指摘に赤面する二人。
「ふぅー。大体の話は見えたから、どんどん食べましょう」
「「おぉー!」」
シルヴィとロートは勢い良く食べ始める。
グルノとブラウは食べたいと顔に書いてあるが、主人の命令を待っている様だ。
ヴァイスが気の利かないシュバルツの足を踏み貫く。
「グルノとブラウ。これからの事は後で話し合おう。
今日の所は二人の歓迎会も兼ねてだからドンドン食べなさい」
痛みに耐え、平然といや笑顔さえ浮かべて命令する。
「「はい、頂きます」」
最小は慎ましく食べていた二人も、どんどん手も口も早くなって先の二人に負けない程になる頃、ヴァイスを肘でつっつく。
「ん? なぁに?」
「二人の自立にどう思う? ダメなら孤児院と言う伝手を使うが」
「正直分からないわ」
今日初日で顔合わせしたばかりでは、判断が付かないのは当たり前だ。
「依頼と言う形で、責任を与えれば良いんじゃないか?
彼女たちを一人立ちさせると言う名目で」
注文を届けるついでにゴルドが助言してくれる。
「ふむ、どう思う?」
「やってみて、ダメなら方法を変えましょう」
「そうだな」
大人の三人は、二組四人の姉妹の食べっぷりを見ながら、今後の方針を決めて行く。




