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奴隷

【奴隷】


ヴァイスや孤児院の子供たちの頑張りもあって、大衆浴場も実芭蕉も好調の様である。


多くの場合、果物と言うのは高価な食材である。

理由としては育成条件が厳しく、数多く生産できない事と、運搬のコストや移動時の傷みなどで、更に数が減ってしまう事が関係している。


本来の実芭蕉も温暖な地域でなければ育成は難しいのだが、超高速育成実芭蕉は寒冷地対応という隠しオプションがあった。


現地生産が可能でで、高速で実がなるなら安く販売できる。

その上美味しいとなれば飛ぶように売れる。




大衆浴場の問題は燃料費と水汲み労力である。


蒸気発生装置と職人たちの技術の賜物により、コストは人件費のみとなれば、入浴料はかなり安く抑えられる。


毎日は無理でも数日や一週間に一度は入りに来ており、特に女性は毎日の様に来る人もいるらしい。




そんな訳で、大衆浴場と実芭蕉は成功を収めていた。


「が、これからが肝心なので二人に頼みたい事、依頼をしたい」

「何?」

「何でしょうか?」


シュバルツは遺跡に向かう前に、シルヴィとロートに建前の依頼をしておく。


「今、大衆浴場と実芭蕉は珍しさも終わって、一息付いている状況だ」

「そう? 殆ど毎日お風呂に入りに行っているわよ?」

「実芭蕉なんてなかなか手に入りにくいんですよ?」

「そ、そうなのか」


シュバルツの準備をしてきた言葉を、完全に否定されて焦る。


「と、とは言え、毎日入れない人もいれば、手に入らない人もいて、いずれ文句が出てくるかもしれない」

「それはあるかも」

「しかし俺が遺跡に言っている間に、そう言ったトラブルが起きてしまったり、戻ってきてから調べていては手遅れになる」

「確かに、それは言えますね」


ゴホンと咳払いを一つすると、改めて依頼の内容を伝える。


「当然ヴァイスも分かっていると思うが、二人の方でも町の情報を集めて欲しい」

「分かりました」

「一時期の流行で終わるか、この町に定着するかにも関わってくるのでよろしく」

「任せておいて」


きちんと依頼料を渡しつつ、何か良いお土産もと約束して、シュバルツは旅の人となる。






別の島の遺跡に到着すると、一人バカンス?を楽しみながら『トレジャーメーカー』の再使用のタイミングを待つ。


「『転移』の能力って便利だよなぁー」


ズューデンの町から、ベルクの町まで徒歩なら2週間近くかかる。

『転移』の能力を使えは一瞬である。

時間調整で他の町を回る事が可能になる。

一度遺跡に着けば後はシュバルツただ一人なので、他の町へ行く事が出来る。


辻褄さえ合わせれば、何処に居たっていいのである。




さて『トレジャーメーカー』の再使用が可能になると、事前に準備していた場所で、今までの経験を生かした条件付けで発動する。


「以前に入手した蒸気発生装置と同型を一つを含むアーティファクト『トレジャーメイク』」


何とも長ったらしい条件を付けるが、成功の感覚が伝わってくる。


「良し良し良し! これで全て丸く収まる」


大衆浴場で使われている蒸気発生装置と同じ物の他に、9個の違うアーティファクトの存在を確認する。


「これだけ細かい設定を受け入れるなんて、本当にとんでもない能力だな」


感心しながら商業ギルドにどれを渡そうかと、機能を調べながら『倉庫』へと片づけて行く。






話は変わるが、この世界には奴隷と言う身分が存在する。


一口に奴隷と言っても、執事や家令の代わりとなる者から、肉体労働者や戦士、魔法使い、商人、そして性のはけ口となる者といったピンからキリまである。


普通は奴隷と聞いて思い浮かべるのが、戦争で負けた国の捕虜奴隷、罪を犯した人の労役奴隷、借金や生活苦のための身売り奴隷であろう。


今、この世界は一国しかないため、捕虜奴隷は存在しない。




鉱山での労働は過酷な環境であり、重労働のため中々雇用が得られない。

主な労働力は死罪に当たる罪を犯した労役奴隷で、死ぬまで働かされるのである。


そして鉱山地帯では女性が少ないため、大切にされ奴隷は滅多に得られない。


「待って下さい、いきなり借金だなんて・・」

「姉さん・・」


心配そうにすがりついて来る妹を背中に庇いながら、村長と対峙する。


「子供のお前たちには何も言っていなかったのだろうが、このように証文もある。

子供にはきつい仕打ちとは思うが、こちらも生活がかかっているのでな」


つい先日、病で両親を失った姉妹に、村長が両親の借金についてと家に来たのである。


「でも証文のお父さんのサインの所バツが付いているだけじゃ・・」

「お前の両親は字が書けなかったので、しるしで良いとしてあったんじゃよ」

「そんなぁ・・」


この世界では識字率と言うのは低く、自分たちも両親から学んでいないのも確かだ。


「お前たちの様な幼い者では借金も返し様がないだろう。

酷だとは思うが、借金の肩代わりをしてくれる人を連れてきた」

「まさか・・、奴隷!?」


村の人たちは誰も出てこない。我関せずを決めこんでいるのか、それともグルなのか・・


「嬢ちゃんたち、借金をこさえた両親が悪いと思って・・」

「父さんと母さんの事を悪く言わないで!」


奴隷商人の言葉を遮って、姉の方が大声を張り上げる。


「ならきちんと借金を返しな!」

「そ、それは・・、なら妹だけでも」

「悪いが二人分でやっとチャラになるんだよ」


幼い姉妹では大人に勝てるはずもない。

何が何だか分からず借金を背負い、奴隷商人に連れて行かれる。


「姉さん・・」

「大丈夫、大丈夫よ」


妹の体を抱きしめ慰める姉の姿を見る奴隷商人。


「けっけっけ、あの村長も悪いよなぁ」


下卑た笑いをし、後ろをちら見しながら真実をひとりごちる。




しかし、ごく稀に悪人を見過ごせない何かがある。

時にそれは 天罰 という言葉で表わされる何かである。




鼻歌を歌い時折、荷車に載せた奴隷の姉妹を確認しながら、オステンの町までもう少しと言う所で、突然モンスターに襲われる。


「な、何でこんなことろに・・、ロックリザードが出てくんだよ」


荷車を曳かせているロバを急がせ必死に逃げると、前方に杖を突く人影を見つける。


「へっ、ついてるぜ。悪いが擦り寄せさせて貰うぜ」


ロバに鞭打って更にスピートを上げて、旅人らしき傍を通り過ぎる。


チラッと後方を見れば、獲物を諦めかけていたロックリザードに新たな獲物が与えられた格好で、ターゲットを歩いている旅人に変える。


「上手くいった」


後ろが何やら煩いが、町へ向かう事を優先する。




シュバルツは辻褄合わせのため、と言うよりも土産話のために、時折正規の道順を歩く事がある。


「まぁ『転移』の能力を隠すためには、努力もしないとな」


その時、シュバルツの傍を結構なスピートで荷馬車が通り過ぎる。


鉱山地帯の山道を鉄の塊を運ぶのには、馬よりも力と安定感のあるロバが好まれる。

しかしロバはそんなにスピードを出す様なものではない。


「おいおい街道をそんなスピードで走ったら危な・・、怪我人か?」


半壊した荷車に血まみれの姉妹が乗っているのが見えた。


「なら仕方が・・ん?」


ドンと言う音共に何かが自分にぶつかった様な気がした。

直後、頭上から巨大なトカゲが降ってくる。


『因果応報』が働いて、このトカゲを吹っ飛ばしたのだろうか?

落ち方が悪かったのか、首があらぬ方向に向いてピクリともしない。


「こいつに襲われたのか? もしかして擦り寄せと言うやつか?」


擦り寄せは禁止行為の一つである。


「このトカゲ持っていけば売れるかね」


ロックリザードを『倉庫』へ片づけると、自分の持っている薬が役に立つかもと、急ぎオステンの町へ駆け出していく。




町の中では奴隷商人が茫然と立ち尽くしていた。


「姉さん! しっかりして、姉さん」


最初にモンスターに襲われた時、姉の方が妹をかばった様である。

誰の目から見ても手遅れと言う姉に、少なからず怪我をした妹がすがっている。


「何でこんな目にあうんだよ・・」


町の衛兵には治療するんだと優先的に入れてもらったが、実際には手の施しようがないし、奴隷にそんな金をかけるつもりもない。


大怪我でグッタリとしている姉と泣きじゃくる妹に何もしない奴隷商人に、町の住人の視線は冷たい。


「あんた! さっき擦り寄せしてきたよな!」


怒り心頭の表情で、杖を持った旅人が奴隷商人が詰め寄ってくる。


「えっ・・!? あっ!」


さっき擦り寄せをした旅人である事を知り、不味いと言う顔をする。

ロックリザードに襲われて、生きているとは思わなかったのだ。


「擦り寄せがどういう意味をするか、知らない訳じゃないよな!」


何の準備もしていない人、モンスターを擦り寄せればどうなるか・・


「ま、待ってくれ。あれはワザとじゃないんだ」

「モンスターに襲われて、猛スピードで逃げて、擦り寄せじゃないって言い訳が通用するか!」


周りの追求の視線が厳しくなる。

話を聞けば、町までモンスターを連れてきたことを意味するからだ。


実はシュバルツ、別の意味で怒り焦っていた。

ある言葉を奴隷商人から言ってくるのをひたすら待っている。


「誰か衛兵を呼んで来てくれ。こいつに賠償を請求する!」


大声で叫ぶと、慌てた奴隷商人がシュバルツを引き止める。


「だから待ってくれって! このままじゃ奴隷落ちしちまうよ」

「知った事か!」

「俺だってどれだけ被害を・・被った・・、すげぇ損害・・なんだ」


奴隷商人は傷ついた奴隷姉妹を見て言葉を飲み込む。


「・・そうだな、俺が悪かったよ。お詫びに今連れてきた奴隷をやるよ」


待ちに待っていた言葉に、シュバルツは喜びが顔に出ないよう更に顔しかめる。


「はぁ!? こんな傷だらけの奴隷なんて・・」

「いや、あんた運が良い。若くて姉妹だから、幾らでも使い道があるぜ」


シュバルツの言葉を強引に遮って、奴隷商人が言い募る。


「だから、あんな傷だらけ・・」

「これ証文な。此処に居る全員が証人になってくれるからよ。商業ギルドへ行けば直ぐに手続きしてくれるって」


肩をバンバンと叩いて、シュバルツの言葉を遮る。


「こっちの話を・・聞け・・」

「じゃあな。良い拾い物したよ、あんた!」


殆ど一方的にしゃべって、逃げるように行ってしまう。


シュバルツとしては、幾らでも金を積んで直ぐに治療しても良かったのだが、何故かこうした方が良い様な気がしたのである。


奴隷商人が見えなくなると、次の瞬間、姉妹の元へ駆けつける。


「悪いが、この娘を押さえていてくれ!」


泣き叫びすがりつく妹の方を引き剥がし、近くの住人に押し付ける。


姉の状態を確認して薬を選びたい所だが、正直そんな時間はなさそうである。


「(今使わなくてどうする! 『倉庫』の中のままで命が救えるか!)」


UR級のエリクサーを取り出すと、姉の口の中へ流し込む。


顔の傷・・

引きちぎれかけている右腕・・

見えないが傷ついているだろう臓器・・

失われた血液・・


それらが瞬く間に回復していく。


「妹の方にも、これを飲ませてくれ」


一安心の状況に妹の方を押さえている住人の元へポーションの瓶を投げて寄こす。

住人に説得され、ポーションを飲み傷を癒す。


「しっかしドンだけオーバーテクノロジーなんだ? ポーションて言うのは・・」


シュバルツは、エリクサーの空瓶を目の前で振ってみる。


前の世界で言えば手術が必要な大怪我であり、助かる見込みも低かった。

よしんば助かったとしても、かなりの後遺症が残ったであろう。


シュバルツの腕の中で、姉の方が意識を取り戻すと、妹が駆け寄って姉を抱きしめる。


「・・うっ、ここは?」

「姉さん!」


シュバルツの行動を固唾をのんで見守っていた住人たちから歓声が上がる。


「もう大丈夫だろう」


安堵のため息を吐き、そう言うと奴隷商人から受け取った証文を二人に黙って押し付けると、そのまま立ち去ろうとする。


「待って下さい!」


怪我が治ったばかりだと言うのに、姉の方が走ってきてシュバルツの前に立ち塞がる。


「ん? その証文があれば自由だろう? 好きにして良いからな」

「お願いです、連れて行って下さい!」

「・・いや、話を聞いていたよね?」

「何でもしますから、お願いします!」


土下座までして懇願してくる。

困ったシュバルツは周囲の住人に助けを求める様に視線を巡らせる。


「自由になったんなら、さっきの奴隷商人に連れ戻されちまうかもしれん。

身の振り方が決まるまで、連れて行ってやった方が良い」


自分の味方にと思った住人に裏切られ、仕方なくズューデンの町まで連れて行く事にする。




しかしこの時ほど『転移』の能力の偉大さを痛感する事はなかった。


奴隷とは所有者の物であり、主従関係がとても厳しい。


主人の命があるまで立って待っている。

椅子に座るつもりで命じれば、床に座る。

主人と同じ食卓に着かない、同じ物を食べない。

ベッドで寝る奴隷はいない。


など云々と一生懸命に奴隷を勤めようとする姿が痛々しくて、地獄の3日間だった。


オステンの町からズューデンの町まで、徒歩なら約8日掛かるはずなのだが、初日でシュバルツの心が耐えきれず、駅馬車をチャーターして短時間で帰ってきたのである。


そして何処にも立ち寄らず、まっすぐに中古屋へと向かったのである。


シュバルツには同年代ならと思っての事なのだ。

これが最大にして最悪の選択だった事を思い知る事になる。





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