開店セール
【開店セール】
孤児院の子供たちに、超高速育成実芭蕉の育て方をレクチャーする。
子供たちの手には実芭蕉の実が一本ずつ握られている。
「これから実芭蕉を育ててもらうが、この苗は成長が早いという特性がある。
苗を植えてから1週間程度で俺の背丈の倍を越える。
更に1週間程度で花を咲かせて実が成るんだ」
子供たちは真剣な表情で話を聞き頷く。
「実が取れた後、木の部分は枯れてしまうが、根は生きているので根元から新芽を何本か出す。
これを株分けしてどんどん増やしていく。
後はこの一連を繰り返していけば良い、大体分かったかな?」
「「「はい」」」
「株分けの段階で間引かれた苗は・・、好きにして良い」
「「「やったー!」」」
間引かれた苗は良くないものだが、孤児院の子供たちにとっては贅沢になるだろう。
「実芭蕉の根は結構広がるから、間隔は広めに取ってた方が良い」
「「「分かりました」」」
「苗の生産本数はヴァイスの所と相談してからになるけど、新芽をどんどん得られるようにしておいて欲しい」
「「「はい」」」
ヴァイスの方は実芭蕉の販売ルートの開拓に躍起になっている。
彼女は孤児院とかぶらない様に、ズューデンの町を避けてくれているようだ。
反面、蒸気発生装置を使った大衆浴場は難航しているらしい。
どうしても水漏れの対策に妙案が出てこないのだ。
「ねぇシュバルツさん、どうにかならないの?」
「水漏れ対策だろう? そう言われてもなぁ・・」
頭を掻きながら考える。
この装置はそもそも複数のユニットを組み合わせて使う事が前提で作られている。
当然この問題は分かっていたはずである。
『鑑定』の能力で蒸気発生装置を事細かく見て行くと、他のユニットと接続するためのボタンを見つける。
「(何々、融合? ふむ、後付けで接着式か・・。これじゃ後で交換できないだろうが!)」
元研究者として、発明した人物に文句を言う。
突然、説明文に補足が入る。
「(ん? 分解・・って、切り離し可能? ど、どういう事?
いやいや、なんで説明文が勝手に追加されたんだ?)」
おかしな所を上げれば切りがないので、先ずは蒸気発生装置の問題を優先する。
どうやら物理的にではなく、空間的に結合するらしい。
「(どう言う仕組みか分からないけど、凄いオーバーテクノロジーだな。
でも、どうやって説明したら良いんだ?)」
そう考えていると、更に補足の補足みたいに追加される。
「(えーっと、こちらの世界では結界魔法に相当する、と。
随分と芸の細かい能力だな『鑑定』というのは)」
女性管理者としても初めての試みが多くて、継ぎ接ぎとなってしまっているのかもしれない。
生温かく見守る事にする。
「ヴァイス、分かったぞ」
「本当!?」
シュバルツが調べている間、息を詰めて覗き込んでいた。
「このボタンな」
「うんうん」
「押すと結界魔法が発動して、水漏れがしなくなる・・らしい」
「結界魔法ですって!? 凄い技術が使われているのね」
聞けば結界魔法は最高位の魔法使いが出来るくらいで、恒常的となると出来る人が殆どいないと言う。
「まぁなんだ、これで問題は解決なんだろう?」
「そうね。後の物理的な問題については・・、勿論こちらでクリアさせるわ」
「じゅあ、後よろしく」
大衆浴場も実芭蕉も、結局最後はヴァイスに丸投げである。
シュバルツもやる事があって、攻略済みダンジョンへと向かっていく。
『トレジャーメーカー』でやってみたい事が、幾つか出来たのである。
流石に大衆浴場も実芭蕉を丸投げ状態では、遺跡まで行く事はしなかった。
「シルヴィとロートが言っていた一式装備化か・・」
他の店にあるらしいのだが、武器や防具、アクセサリーがセットになった物らしい。
「後は蒸気発生装置の予備があった方が良いよなぁ」
アーティファクトの殆どが不壊のオプションが付与されているが、万が一という事もある。
「蒸気発生装置が壊れたら、大衆浴場は続けられないもんな」
続けられても、入浴料はかなり跳ね上がり、大衆浴場では無くなってしまう。
「蒸気発生装置のアーティファクトだけで『トレジャーメーカー』したら、10個とも蒸気発生装置になるよな。と言うか、そもそもそんな条件で成功するのか?」
そんなこんなで、細かい条件付きで『トレジャーメーカー』が成功するのか試そうと考えたのである。
「まずは一式装備からやって見るか。
少ないと剣と全身鎧の二種類、多いと剣に、盾、鎧、兜、小手、脛当て、マント、アクセサリーの八種類・・になるか?」
指折り数えてみる。
「『トレジャーメーカー』はURで3つ分だから、普通ならURは1個で、SRは3個だから一式はでないよな」
穴掘り魔法で、ダンジョン跡に潜って行く。
「一式装備『トレジャーメイク』」
成功の間隔を受け取り、壁を壊して部屋の中に入っていく。
「へぇー、こういう事になるのか・・」
一つ一つアイテムを手にとって、がっくりとひざを付く。
「フッ、URの勇者の兜? 勇者装備シリーズで全四種類?
こっちはSRの巨人殺しの小手と盾とブーツか・・、残り2種類の5点セットね・・」
想像の斜め上をいく結果であった。
「はぁー、念のためランダムでこの続きが出るのか試すか・・」
一か月ダンジョン跡で、ランダムの『トレジャーメーカー』を発動させる。
結果としては前の続きが出る事はなかった・・
「いいぜ、最後まで付き合ってやる。事細かく条件付けてやるからな!」
鬼気迫る笑顔で、次の『トレジャーメーカー』への挑戦を決意する。
一ヶ月後
「クックックック。この日を待ちに待っていたぞ。
URは勇者の一式装備、SRは巨人殺しの一式装備、後はランダムで『トレジャーメイク』!!」
成功との感触が伝わってくる。
「凄いな、今の条件付けでも成功するのかよ・・」
前を上回る勢いで部屋の中へと突入し、片っぱしからアイテムを手にしていく。
「よーしよし、URの勇者の鎧だ。SRは巨人殺しの鎧と剣と剣・・剣? 何で巨人殺しの剣が2本もあるんだ?」
両手に一本ずつ巨人殺しの剣を手にして溜息を吐く。
「待てよ? URの勇者の兜がかぶる可能性があったのか?」
戦慄の予感に冷や汗が出てくる。
「次回の『トレジャーメーカー』では、URの勇者の盾とか欲しい物をピンポイントでやって見よう」
URの何々という条件付けで『トレジャーメーカー』が成功した時の衝撃は、忘れがたいものだった。色々な意味で・・
「怪我の功名ではないけれど、欲しい物を指定する事が出来ると分かっただけでも、大きな収穫だったな」
アーティファクトで一つだけ蒸気発生装置を指定して得られる事が判明したのだ。
一式装備の問題から始まった『トレジャーメーカー』の制限に関する調査が一段落した頃、実芭蕉と大衆浴場も形となりつつあった。
実芭蕉は超高速育成のため収穫まで早い分、熟成が進み傷んでしまうのも早い。
屋台売りを始める前に、ある程度の知名度を上げておく必要があった。
「今度販売します実芭蕉です、お一つ如何ですか?」
孤児院の子供たちが、声を張り上げて、道行く人を試食へと誘う。
商業ギルドには済ませており、屋台の販売許可は得ている。
「すみません、実芭蕉を一本下さい」
(出来るだけ多くの人に食べてもらうために輪切りにしているんだよ・・、ロート?)
「無茶を・・ぱく・・言う・・ぱく・・んじゃ・・ぱく・・ないの・・ぱく」
(だからって、基本一人一つなんだよ・・シルヴィ?)
「二人とも何をしているの? まったく・・。あっ、会長権限で一房出しなさい」
(両手を差し出すなヴァイス。何だ会長権限って? 困ってるぞ?)
「屋台は基本の形ですね・・モグ。外観も問題ありません・・モゴ」
(グリューナさん? 一回離れれば良いというものではないと思いますよ)
少し離れた建物の蔭から、実芭蕉の屋台を見守っていたシュバルツは心の中で呟く。
「・・はぁー、あいつ等何やっているんだか」
きっと自分と同じで、屋台を見守りに来たと思いたかった。
馬鹿な事をやっている女性陣と、物珍しさ、試食の言葉に釣られて、次々と人が集まり始め「おいしー」「あまーい」と大騒ぎの集団と化しつつある。
「第一段階は成功と見ていいかな?」
大衆浴場の方は営業許可を取るために、予行訓練を兼ねてギルド職員や関係者を招いた。
「履物はこちらに入れて下さい」
「お洋服はこちらにお願いします」
「湯船に入る前に体を洗って下さい」
「余り長い時間湯船につかっていますとのぼせますので、注意して下さい」
此処でも孤児院の子供たちが活躍し、丁寧に入浴の作法を教えている。
一応知り合いのみだから、失敗しても次に繋げるだけなので問題ない。
「ま・ち・に・ま・っ・た、お風呂お風呂お風呂!」
「お姉ちゃん、早く入ろうよ」
「落ち着きなさい、二人とも」
シルヴィ、ロート、ヴァイスは大騒ぎだった。
「成程、大衆浴場の中はこのようになっているのですね。良いお湯です」
監査に来ているグリューナの声も交じる・・、あんたも入っているのか。
「この町で風呂に入れるとはな」
シュバルツの隣で、ゴルドさんが体を擦る。
「石鹸ってどうやって作るんだっけなー」
「うん? シュバルツは石鹸を見た事があるのか?」
「えっ!? 見た事? 使ったじゃなくて?」
「石鹸なんて高級品、そうそう手に入るもんじゃないぞ」
「そうだったのか・・」
風呂は時間と労力とコストがかかるため、庶民は少量の湯を沸かして、体を拭いたり、髪を流したりするだけだ。
当然石鹸など出回るはずもなく、体を擦り汚れを落とす道具が発達して行ったのだ。
「た、大変です。ヴァイス会長!」
「なぁに?」
女子風呂の方に孤児院の子供たちが中へと駆け込んでくる。
「外に人だかりが出来て、自分たちの入れろと」
「まだ営業していないんだけど・・、グリューナさんも一緒に来て頂戴」
「分かりました」
ヴァイス一人よりは、ギルドの職員を連れて行った方が話がスムーズなんだろう。
ザヴァと上がる音がして、二人一緒に外の人たちへ説明に言った様だ。
しばらくすると、ワラワラと人が入ってくる。
「えっ!? 止めに行ったんじゃないのか?」
「ヴァイスの事だ。宣伝も兼ねての予行練習と考えたのだろう」
成程とゴルドの言葉に頷いてしまう。
孤児院の子供たちが、一層大声を張り上げて説明している。
やはり女湯の方が入浴者比率は多い様だ。
「本当は隠れた技術を宣伝したいんだけどな・・」
「うん? 何か言ったか?」
「いいえ、えらい事になったなぁーっと」
「そうだな」
ゴルドには誤魔化したが、元研究者としては違う所を見て欲しいと思う。
特に職人たちの技術の粋を集めた給水と排水システムなどである。
「このまま続いてくれればいいんだがな・・」
宣伝期間が終われば、大衆浴場も実芭蕉も有料になり、閑古鳥が鳴く可能性がある。
ヴァイスの腕の見せどころではあると思うが、やはり心配になってくる。
シュバルツとゴルドは、男湯も込みだしたので上がる事にする。




