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商業ギルドと冒険者ギルドとの取引

【商業ギルドと冒険者ギルドとの取引】


修道院の屋根裏部屋での秘密の話し合いの後、ヴァイスが爆弾を落としてくる。


「シュバルツさん、ちょっと聞きたいんだけど?」

「ん? 何だいヴァイス?」

「何でアーティファクト見つけられたのかなぁって」

「うん? どう言う事かな?」


ヴァイスの言わんとしている事が分からず聞き返す。


「だってダンジョンから、まだ何も見つけられてないんでしょう?」

「っ!? (し、しまった、やられた!)」


ヴァイスのあえて まだ を強調した指摘に、ビクリと体を震わせる。


「え、えっとーだな、ヴァイス」

「どうしたの、シュバルツさん? 凄い汗だよ?」


ロートが、滝のように汗を流すシュバルツの様子を心配してくれる。


「そ、そ、そ、そう。アーティファクトが見つかるまでと思っていたので、良い機会だ。話しておこう」


ヴァイスの策に負けまいと、何とか言い訳をひねり出そうと頑張る。


「へぇ!? 何をです?」

「攻略済みダンジョンから、アイテムは見つかっている」

「「・・えっ!? ええぇぇぇー!?」」


唐突なカミングアウトに、ロートだけではなく、シルヴィも一緒に驚く。


「ど、どう言う事なのよ!?」

「い、一体何時から見つかってたんですか!?」

「待て待て待て、ちゃんと説明するから」


2人をなんとか宥めると、ヴァイスがチッと舌打ちをする。

自分に泣きついて来ると踏んでいたのだろう。


「アーティファクトの際にも言ったが、売れる売れないよりも、皆にどれだけ影響するか分からないので黙っていたんだ」

「・・そうだったんですか」

「ふーん。今度目利きの練習のためにも見せてね。もしセット装備が出たら必ずね」


アーティファクトの金貨二千枚を考えれば仕方ないと思う二人。


「ああ、良いとも・・、セット装備?」


納得してくれたことに安心すると、聞いた事のない新たな言葉に疑問が湧く。


「何だ、そのセット装備って?」

「知らなくても仕方ないけど、武器とか防具が揃う事で凄い機能が発動するの」

「へぇー、でもあまり期待しないで待っててくれ」

「分かった」


何とか丸く収まった様であるが、ヴァイスは2人をうまーく丸めこむ。


「と言う事は、ちょーっと懐が温かいのよね?」

「・・へっ!?」

「いや、シルヴィとロートって海を見た事がないのよ」

「そうなのか?」

「「うん」」

「連れて行ってあげる約束していたんだけど、ちょうど良いわよ・・ね」


ヴァイスの笑顔に、自分が最終的に嵌められた事を悟る。


「まあ、お手伝いもお願いしているから、連れて行くのは吝かではない」

「「やったー」」


2人は大喜び、ヴァイスはニヤニヤとしている。

3人で何時どの海に行くか、楽しそうに話し始めるのを苦笑いで見つめる。





シルヴィとロート、ヴァイスに微妙に言い聞かせてから、院長先生の所へ話を持っていく。


「苗の育成・・ですか?」

「ヴァイスの植林事業に携わっているとお聞きしまして」

「まあ、少しはお手伝いしておりますが・・」


幾らなんでも話が飛躍しすぎていると感じてしまう。


「旅先で少し変わった果実に出会い、その苗を入手できそうなのです」

「果実であれば、かなり専門的な知識が必要なのでは?」

「そうかもしれません。

しかしご承知の通り、私はトレジャーハンターとして、その手の仕事が全く出来ません。

そこで農園も営まれている孤児院の方に、是非協力をお願いしたいと思いまして」

「とてもありがたいお話とは思いますが・・」


院長先生として実が成るのか、売れるかどうかも分からない事に協力するよりも、日々の糧を得る方に力を入れたいのだろう。


「ちなみに苗の卸し先は、ヴァイスの材木商と決まっております」

「どう言う事ですか?」

「本来は全てを孤児院で賄いたいと思っていたのですが、ヴァイスが自分も混ぜろと煩くて、仕方なく仕事を分ける事にしたのです」

「それならば・・」


孤児院を間に挟む必要は全くない。となればワザと雇用を生み出そうとしているのだ。


「ありがとうございます。そこまでお気遣いを・・」

「あっ、すみません。お話は終わってなくてですね」

「えっ!?」


お礼のために深くお辞儀をしようとした途中で動きが止まる。


「もしかすると孤児院に水汲みの仕事をお願いするかもしれません」

「水・・汲みですか?」


確かに重労働ではあるが、お金の取れる様な仕事ではない事に目を白黒させる。


「これもまだヴァイスときちんと詰めなくてはいけないんですけどね」

「はぁ・・」


訳知り顔で頷くシュバルツを、眉をひそめて不思議そうに見つめるしか出来なかった。






ヴァイスと職人の目の前には、小さなチェスト程の物体が置かれていた。


「会長、これが例の蒸気発生装置とか言うやつですかい?」

「そうよ」

「うーん、壊れた衣裳棚にしか見えませんがね」


それもそのはず、天板の部分が無く中身が丸見えなのだから。


「中に棒が見えるでしょう?」

「ええ、1、2、・・24本ありますな」

「話によれば、その棒の様な物が高温を発して、水をお湯に変える仕組みみたいなのよ。

まぁ百聞は一見にしからずって言うし、やってみせるわね」


上の部分に水を一杯にしてから、ヴァイスは何やら操作をする。


しばらくすると水がいきなり沸騰しはじめ、猛烈な勢いで湯気が出てくる。


「おわっ!?」

「すごいでしょ?」


再び何やら操作すると収まってくるが、半分ほど水が無くなっていた。


「こりゃあ驚いた・・」

「ね? ボイラーの代わりになりそうでしょ?」

「確かに」

「これ一つで魔道具だから一切手を加えず、風呂釜として使いたいのよ」


職人がうーんとなりながら、魔道具をあっちこっち調べている。


「こいつをボイラーの代わりにするなら3つの問題がありますな」

「3つ? どんな事かしら?」

「一つ目は技術的に、この魔道具と水漏れしない様に、配管やタンクを繋がなくちゃいけねぇ」

「なる程・・ね」


水漏れ、この場合は高温のお湯になるが、漏れれば大惨事になりかねない。


「二つ目と三つ目は物理的に、給水と排水っすね」

「そうよね」


大衆浴場となると、川の高低差を利用して上流から給水、下流へと排水が基本である。

しかしズューデンの町は砂漠に近く源泉はなく、井戸を掘って生活用水を得ている。


「それ以外は、今までに培った技術で何とかなりそう?」

「ええ。あとは普通の大衆浴場と同じですからね」


とはいえ一朝一夕ではどうにかできる様な問題ではない。


「あまり時間は掛けられないけど、対応策を考えて頂戴」

「へい!」


職人に発破をかけるしか出来ない自分が歯痒い。






シュバルツはヴァイスの指摘について思いめぐらす。


「商業ギルドと冒険者ギルドに口止めか・・」


情報とは幾ら秘匿しようが、関わる人間が増えれば増える程、漏れやすくなるものだ。


「となれば、口止めよりも漏れた際の対応の方に力を入れてもらえる様にすればいいのか?」




商業ギルドに着くと、いつものグリューナに個室での話を希望する。


個室に入るとグリューナから開口一番謝罪の声が聞かれる。


「申し訳ありません。先日お預かりしたアイテムですが、現在調査中でして・・」

「いえいえ、本日お伺いしたのはこの件ではなくてですね」


彼女の言葉をさえぎると本題に入っていく。


「今回の事を含めて、私の事がどの位守られるのかお聞きしたくでお伺いしました」

「守られる、とは?」

「遺跡出土のアイテムや、攻略済みダンジョンのアイテムの発掘者と言った情報です」

「ああ、ご安心ください。その手の情報は一切漏れる事はありません」

「それは良かった」


シュバルツは一安心する振りをするが、まだまだ安心していない。


「もし何らかの商売を始めても同じでしょうか?」

「勿論、厳守されます」

「失礼を承知でお尋ねしますが、もし商業ギルドから情報が漏れた場合、補償や処罰は行っていただけるのでしょうか?」

「それは・・、特に規制されておりません」

「職員一人一人のモラルの上に成り立っている、と言う事でしょうか?」

「・・はい、その通りです」


情報の秘匿をうたいながら、何の罰則もない事にシュバルツの顔が曇る。


「例えばの話ですが、商売の話で他の方から、シュバルツは信頼が置けるか?と問われた時、毎月ダンジョン産のアイテムを納めていますとか、アーティファクトを見つけましたとか、話題に出してしまう事はありませんか?」


思わず口を滑らせてしまう可能性を問い質す。


「それは・・何とも」


グリューナ自身も今までの自分を振り返り、その様な事があったのではないかと思い始めていた。


「そこで商売を始めるにあたりお願いがあります」

「お願い・・、情報漏洩に対する処罰ですか?」

「そうです。全体的に難しいのであれば、私個人と契約をしていただきたいのです」

「契約ですか? どのような?」

「情報が漏れた場合の被害を、ギルド側で対処していただくとか」


グリューナ一人では手に負えないと判断し、上司の意見を仰ぐ事にする。


「うーん、上司と相談いたしますので、お時間を頂いてもよろしいですか?」

「はい、構いません。それからもう一点ありまして」

「何でしょうか?」

「冒険者ギルドからも情報が漏れる事を心配していますが、何か手立てはありませんでしょうか?」


流石に他のギルドの事までは分かりかねる。


「一応上司に確認してみますが、こればかりは何とも・・」

「分かりました」




すぐに上司の部屋へと向かい、シュバルツとの話を説明する。


「まぁ心配は分からないでもないが」


報告を聞いた上司は苦笑いする。


「如何いたしましょう」

「うむ、確かに情報保護しながら、漏らした職員に対する処罰はなかった」

「ええ、その通りです」

「ギルド会員に迷惑がかかる様であれば、当然改めるべきではあるな」


しばらく目を瞑りながら、顎に手をやり、指で机をコツコツと叩きながら考える。


「情報漏洩による被害は商業ギルドが全責任を取る。

漏えいに加担した職員には、かかった費用を全額支払ってもらう」

「つまり・・、奴隷落ちと言う事ですか?」

「支払えれば問題ない」

「分かりました。シュバルツさんにはそのように伝えます」


かなり厳しい処罰のようではあるが、ギルドとしての信頼にも関わってくる以上、厳しくせざろう得ない。


「ちなみに今の時点ではズゥーデンの町の、商業ギルドだけだと言うのも忘れるなよ」

「なる程、承知しました」


シュバルツにとって、どのギルドと取引するのが得策かはっきりさせておくという事だ。


「冒険者ギルドの方はどういたしますか?」

「他のギルドの事までは責任取れんよ」

「そうですね」

「ただ、どのギルドも何時も財政的には苦しい事を伝えてやれ」

「なる程、みじかめ料ですか」

「もし複数のアイテムを入手しているかどうかも分かるしな」

「分かりました」


グリューナによって上司の言葉が伝えられると、シュバルツは納得して商業ギルドを出る。




そのまま冒険者ギルドへ向かい、個室での話し合いを希望する。


「それでどの様なご用件でしょうか?」


何時も対応してくれるヴィオレットが訪ねてくる。


「冒険者ギルドでは個人情報は守られると知っていますが、アイテムの売買は如何でしょうか?」

「アイテムの売買に関してはオープンとなっています」

「理由をお聞きしても?」

「良いアイテムを入手したというアピールは、自分の能力の高さのアピールに繋がります」

「・・なる程」


冒険者としての実力を証明する機会となるのだから、隠す必要などまったくない。


「アイテムの入手などの情報を、隠しせる様な方法はありませんか?」

「秘密裏に事を運ぶのであれば、冒険者ギルドは使わない方が良いでしょう。

こういう個室自体使う事さえ、変な感繰りを受ける事になります」

「そうですか・・」


此処で商業ギルドで得られた切り札を使う事にする。


「攻略済みダンジョンから、時折エクストラ級のアイテムが手に入るのですが・・」

「エ、エクストラ級!?」


ヴィオレットは、最近商業ギルドからエクストラ級のアイテムが頻繁に売りに出されている事を思い出す。


「と言う事は・・、しょ、少々お待ち下さい」


大急ぎで上司の所へと駆け込んでいく。

品質価値で買い取り、他には市場価値で売りに出せば、ギルドはかなりの利益を得る。


上司はすぐに益の方に天秤を傾け、ヴィオレットに指示を出しシュバルツへ伝えられる。


「上司と話しました結果をお伝えします」

「お願いします」

「シュバルツさんはEランクで薬草採取をメインにする冒険者。これ以上の情報は流さない。

ズゥーデンの冒険者ギルドより漏れた場合には全責任をもって対処する、と言う事です」

「お手数をおかけします」


ヴィオレットの前にエクストラ級のポーションをそっと2つ置く。


「っ!?」


お礼とはいえエクストラ級を直ぐに差し出した事に、未だ驚いているヴィオレットに見送られながら、冒険者ギルドを後にする。




冒険者ギルドからも、情報漏洩後の対応の言質を取り付ける事に成功した。


「はぁー、これで一応は何とかなるか・・」


商業ギルドへ戻り、グリューナにお礼を渡しながら、自分の情報が守られるとなったので商売の話をする。


「色々ご配慮ありがとうございました。

これでも食べながら、始めようと思っている商売の話をしましょう」


お礼ですと言いながら、実芭蕉の輪切りを差し出す。


「ありがとうございます。では失礼して・・」


一口食べると、先の三人の娘たちの様に驚きながらも手が全く止まらない。


「こ、これは!? 何と言う甘さ、何と言う香り、何と言う柔らかさ・・。

このような食べ物は見た事も聞いた事もありません」


未練がましく空となった皿を見つめる。


「実芭蕉と言いますが、これを売り出す予定です」

「なっ!?」


グリューナは咄嗟に間違いなく売れる事を確信する。

そしてとんでもない物を持ち込んだシュバイツを見つめる。


「では、すぐにでも手続きを・・」

「待って下さい。もう一つ商売を始めたいと思います」

「えっ!? もう一つですか?」


商売を始めてはどうかと、幾度となく声をかけては断られてきた。

それが、いきなり二つも始めると言えば驚いても仕方ないだろう。


「もう一つは大衆浴場の予定です」

「なっ!?」


砂漠に近いズューデンの町では、水も燃料となる木材も少なく労力も考えれば安くはない。

風呂というのは庶民のあこがれである。

全ての問題をクリアできるのであれば、大衆浴場は間違いなく成功する。


「い、一体、どうやって!?」

「実芭蕉と大衆浴場のどちらも、材木商のヴァイスさんと共同して話を進めています。

まだ計画段階ですが、開店の目処が付き次第、改めてお伺い致します」


既に商業ギルドが横やりを入れる段階では無い様だ。

上司が心配のしすぎと笑っていたが、軌道に乗れば間違いなく大事になる。


周囲の状況を鑑みれば、彼自身や身内への被害を心配する気持ちが分かるのだ。




シュバルツの後姿を見ながら、常に幾重にも準備をしてきた正しさを理解する。





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