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トレジャーハンター始動

【トレジャーハンター始動】


『トレジャーメーカー』を使うために、否、『トレジャーメーカー』で得られたアイテムたちに正当性を持たせるためには、トレジャーハンティングの成果が最も良い。


これについては、トレジャーハンターとなった時点で、ほぼほぼクリアされている。


あとは崩壊したダンジョンからのアイテム発掘、何より大切なのが裏付け、商業ギルドに提出する活動計画の作成と、何より情報収集である。




まず冒険者ギルドから始めるため、いつものヴィオレットに声をかける。


「ダンジョンの情報? 現時点で存在しているダンジョンでは無く、崩壊したダンジョン、つまり攻略済みダンジョンの・・ですか?」

「はい、お願いできますか?」

「うーん・・」


ヴィオレットは美しい眉の間に皺をよせ、唇をへの字にして唸る。

何か特別な問題があるのだろうか?


「町の外へ出たら、おもっきり遠くへ石を投げて下さい」

「・・はぁ」

「そこに攻略済みダンジョンがありますから」

「・・えっ?」


全く意味が分からない。


「ど、どういう事でしょうか?」

「以前、ダンジョンの事情をお話しした時の事は覚えていますか?」

「ええ勿論。ダンジョンが次々に発生し、放置すると大氾濫による被害が起きるため即時破壊すると」

「そうです。あの時は細かい話は不要と考えていましたので、簡単にお話ししましたが、少し詳しく説明しますね」

「はい、お願いします」


何か関係があるのだろうか?


「ダンジョンの大発生と大氾濫は当時の混乱の最中で、正確な記録はありませんが、約60年程前から、主都と内側の町の周辺で起きました。

外側の町まで十分な戦力が避けず、モンスターを間引くだけで手一杯のため、4つの町に一つずつ難攻ダンジョンとして残りました。

内側の町は相変わらずポコポコとダンジョンが発生しましたが、即時破壊から大氾濫もなくようやく落ち着きを取り戻しました」


久しぶりに頭の中で1年365日から、512日に変換してみる。


「当時の方々はかなりご苦労されたのですね」


はい、と言うと席を立ち、シュバルツに付いて来るように促す。


「そして今らか30年ほど前になりますが、ダンジョンについて新しい研究成果が発表されました」

「へぇー、どんな事ですか?」

「ダンジョンが次々に生まれるのは、一定数を保持しようとするからである」

「えっ!?」


シュバルツの驚きを無視して話を続ける。


「その数は・・10」

「ならば・・どうして・・」


頻繁にダンジョンが発生するのか、その言葉を発する前に話が進む。


「古よりダンジョンを生み出す何らかの力が、この世界にはあると考えられてきました。

研究ではその力が50年ほど前に変化したのではないか? と言うのです」

「・・・」


変化したと言う言葉に、引っかかりを覚える。


「ダンジョンが10個になると、ダンジョンを生み出す力がモンスターを生み出す力になり大氾濫へと至る。

ダンジョンが9個以下だと、ダンジョンを生み出すために力が使われて、大氾濫に至る程モンスターを生み出す事が出来ない」

「本当なのですか?」


それが確かであれば、世紀の大発見には間違いない。


「分かりません。ただ即時破壊によりダンジョンは10個以下であり、大氾濫が起きていないのも事実です」


ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。


「ならば10個目を管理すれば、盗賊職の活躍の場もあるのでは?」

「その意見は当時ありましたが、却下されています」

「何故でしょうか?」

「別の問題が発生するからです」


別の問題? 首を傾げるシュバルツに話を続ける。


「10個目の問題とは、ダンジョンの成長とは無関係だからです」

「ダンジョンの・・成長・・?」

「ダンジョンは時間が経つにつれて深くなる、つまり強くなるのです」

「盗賊の活躍としては問題が無いと思いますが?」

「万が一、10個目のダンジョンの発見を見落とした、又は10個目のダンジョンを発見できなかった場合、強い状態のダンジョンから溢れるモンスターを相手にしなければなりません」

「それは・・」


当たり前の指摘であった。


強い冒険者たちは、難攻ダンジョンに向かっている。

いざという時に、戦力が間に合わないだろう。


可能性どころではない、必ず起きると考えて行動するのが正解である。


ダンジョンを探す事にも、どれだけの人材と費用と労力が必要となるか。



「一部の、特に盗賊職の方々は10個目管理の方法を強く支持しましたが、あまりにもリスクが高いと反対の声の方が強く、即時破壊と言う事に収まりました」

「納得できます」


一つの扉の前に着くと、鍵を開けて扉を開け中に入っていく。


「ダンジョンの破壊と再生を一組として考えた場合、だいたい1週間で1個のダンジョンが生まれます。

混乱期の記録はぐちゃぐちゃですが、約60年前からあったと考えて、60年に8か月を掛け、更に8週間を掛けますと、3840個のダンジョンがあった事になります」

「・・えっ!?」

「単純に主都と4つの町で割りますと、一つの町の周辺に768個です」


一つの本棚の前に辿り着くとポンポンと叩く。


「た・い・へ・ん・申し訳ありませんが、ギルドも其処まで暇ではありません」

「・・いや」

「資料は持ち出し禁止となっております」

「・・あの」

「情報の変更があれば、その間の入室は禁止となります。ご武運を」


そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまう。


「町の近くに約800個。石を投げればダンジョンに当たるって、あながち嘘じゃなかったんだな・・」


感心したように呟くと、茫然と本棚を見る。




とは言え、1冊に100ダンジョンとして32冊である。

1冊取って見てみると、中身はダンジョンを発見した日付、場所、発見者は統一して書かれている。


しかしその後がヒドイ・・


攻略情報が書き込まれているのだが、詳細な物は、攻略日、攻略者から始まって、何階層で、層ごとの特徴やモンスター情報など事細かに載っている。

反対に最悪の物は攻略済みの一言で、何時攻略されたかさえ載っていない。


先ほどの研究が本当だとすれば新規や攻略中ダンジョンは10個以下、ギルドとしてはこれだけを管理しておけば良い事になる。

攻略完了のダンジョンは問題ないのだから、ファイリングして置くだけである。


「さあーて、と」


気合を入れて本棚に向き合う。


ファイリングは一応日付順になっているようなので、最新の物から遡っていけば良い。

後は自分が必要とする情報のポイントをどこに置くかである。


「何しろ発見日と攻略日が近ければ近いほど望ましいよな。

攻略情報が詳しすぎると、アイテムが取られている可能性が高いと。

出来ればあの情報が貰えれば・・」


幾つかメモを取ってから、受付へと戻っていく。




「このパーティの情報が欲しいのですが?」

「申し訳ありません。そう言った情報は秘匿されております」


当たり前である。パーティ情報は、個人情報とと並んで死活問題となる。


「分かっています。パーティに盗賊がいるかどうか知りたいのです」

「うーん、駄目ですね」

「そう・・ですか」


職業は公にしているのだから問題ないかと思ったが、自分から職業を公表するなら未だしも、第三者からの公開は許可されないようだ。


「お手間取らせてすみません」

「お気を落とさずに」


シュバルツが注目したのが、パーティに盗賊職が居たかである。

盗賊の有無はアイテムが残っているかどうかに大きく関わってくると思ったのだ。




ならば次の手段として、商業ギルドへ向かうが芳しく無かった。


「駄目ですね」

「やはり駄目ですか・・」


きっぱりと言い切られたが、求めたのはダンジョン産アイテムの売買情報である。

何時頃、どのような場所で、どのようなアイテムが売り買いされたのか?

これが分かるなら対象ダンジョンの幅が狭められると思ったのだ。


「当たり前じゃないですか。アイテムの売買情報なんてどれくらいあると思っているのですか! そもそも商売の信頼問題ですよ!?」

「ですよね」


グリューナも、シュバルツがトレジャーハンターとしての実績を作るために情報を集めていると理解してはいる。

しかし売買情報は個人情報へと直結してしまい、最悪犯罪にも繋がりかねない。


「すみませんの手間を取らせました」

「お気持ちは分かりますが、もう少し考えて行動して下さい」


グリューナの言葉に、逃げ帰る様に商業ギルドを出ていく。


「さてどうするか・・。もう少し絞り込む情報が欲しいよな・・」


誰に言うでもなく一人呟く。






あくる日、朝一番で中古屋を訪れ、冒険者ギルドと商業ギルドでの出来事をロートに話す。


「発生日と攻略日しか分からないですか・・」

「そうなんだよ。何かもう少し絞り込むヒントみたいなのが欲しくてね」

「うーん」


ロートとしては、いつもお世話になっているシュバルツが困っているのだ、何とかして助けたいと知恵を絞るが直ぐに出てくるはずもない。


「まぁ、何か良いアイデアを思いついたら教えて欲しい」

「分かりました」


二人で話している内に準備が出来たのか、シルヴィも出てくる。


「お待たせ、じゃあ行きますか」

「ああ、よろしく」


今度はシルヴィと一緒に冒険者ギルドを経て、薬草採取へと出かける。


「珍しく貴方から声をかけてきたかと思えば、相談がメインな訳ね」

「申し訳ない」


シルヴィもロート同様、普段お世話になっているのだから、相談ぐらい幾らでも乗る。

二人だから、少し距離を稼いで普段より遠くまで薬草採取にも来れる。


一石二鳥なのだが、乙女心としては釈然としないだけ・・


「えーっと、ダンジョンの発生日と攻略日は分かる、とそこ薬草よ」

「どれどれ」

「しかしパーティ情報とアイテム売買情報は得られなかった、とそっちに薬草」

「そうそう、これか」

「流石にこれじゃ絞り込めない、とほら足元と手元!」

「これと、こっちのか。そうなんだ」」

「で、私たちに何かイデアを求めに来たと・・、ぐぎゅーう」


薬草の採取は中腰の姿勢が続くため、結構ハードのため休憩を兼ねて体を伸ばす。


「ぱっと思いつくのが、質かな?」

「質? うぐぅー」


釣られて体を伸ばしながら問い返す。


「そう、ダンジョンは深ければ深い程アイテムが良くなるのよ」

「ああ、知ってる」

「深さが違うダンジョンで、大体同じ期間で、同じパーティに攻略されていれば、アイテムが残っている可能性が高くて、質も良いと思うのよ」

「ふむ、なる程」


シュバルツは質が云々より、同じパーティが掛ける期間に目を付ける。

同じパーティが5層程度違う階層のダンジョンに掛ける期間がさほど変わらなければ、調査の時間を削ってどんどん先に進んだと考えられる。


「ありがとう、候補に入れておくよ」

「どういたしまして。お役にたてれば何よりよ」


少し遠出をしたため早めに切り上げるが、シルヴィ一人で採取するよりも珍しい種類の薬草がいつもより多く採取出来ていた。


『千里眼』を知らない彼女を、シュバルツは上手くコントロールしていた。






街に戻る頃には日も暮れ始めており、ギルドで依頼報告を済ませると、ロートをピックアップしてゴルドの定食屋へと向かう。


「今朝方の絞り込みの条件なんだけど・・」

「ん? 無理しなくて良いんだよ」


ロートも今日一日色々考えてくれたのだろう。


「無理はしてないけど、ちょっと思った事があって」

「どんな事だい?

「やっぱりヴァイスお姉ちゃんに相談しようかなって思った時に、ふと気付いたの」

「何をだい?」

「シュバルツさんの候補地って、開拓されている事無い?」

「開拓? ・・・あぁ!!」


何気なく繰り返した言葉の意味の大きさに気付き大声を上げる。


「きゃっ」

「ぬあ!? 何よ、いきなり」

「まずい、それまずい、超まずい!」


折角選んだ場所が農地だったり、ヴァイスの植林地だったら・・


「掘り返せない・・かも」

「でしょう?」

「あーぁ、なる程ね。まぁ掘り返したら、その穴に埋まるのはシュバルツさんよね」

「こ、怖い事言うなよ」


一瞬頭をよぎる自分の墓穴に、背筋が凍りつく。


「不確定のトレジャーハンティングに、畑を掘り返す許可なんか出ない。

ましてや人の手が入っていれば・・」

「見つけられてるかもね」


シルヴィは後付けの理由の方に食いついたが、シュバルツとしては、行った先に誰かいれば押しのけてまでやろうとは思わない。


「明日直ぐにでも商業ギルドに行かなくちゃ、その上で冒険者ギルドか」


シュバルツの役に立ったと、シルヴィとロートはとてもご機嫌でその日の夕食を頂いた。






商業ギルドに向かい、いつものグリューナに声をかける。


「今よろしいですか? 至急お伺いしたい事がありまして」

「おはようございます、シュバルツさん。ええ、構いませんよ」

「毎日すみません。土地開拓事業やその計画を教えて下さい」

「開拓事業ですか?」


オウム返しに言ううちに、言葉の意味に気付く。


「誰かの人の手が入った、これから入る予定の場所です。

例えば材木商のヴァイスさんの植林事業の様なものです」

「分かりました。予定に関しましては入札の関係上、明らかに出来ない物もありますのでご了承下さい」

「教えていただけるものだけで、まずは結構です」


少しお待ちくださいと席を外して、ファイルを持って直ぐに戻ってくる。


「先ず基本的な所から、首都から東西南北の四つまでの距離は徒歩で8日です」

「はい、知っています」

「主都や各町から離れれば離れる程、開拓が遅れています」

「人や物を動かすのに費用や時間的な問題があるからですか?」

「それも要因の一つですが、一番はモンスターの脅威です」

「確かに」


モンスターは大氾濫の生き残りが繁殖したとも、野獣がモンスター化したとも言われているが定かではない。


「モンスターも距離が離れる程強くなっていきます」

「そうなんですか」


多分、何処にでも強いモンスターは存在していたが、開拓の段階で淘汰され、開拓の遅れている場所に残っているだけだろう。


「現在の開拓状況は、主都や各町から1日までの距離は開拓対象になっています。2日までは開拓調査対象となっています」

「3日から4日は?」

「現在は調査では無く、危険警戒区域となっています」

「何ですかその危なそうなネーミングは!?」

「危なそうではなく、危険そのものです。最低でもランクCの冒険者パーティ必須となっています」


モンスターの生息地域が小さくなった事で、強さも凝縮されているようだ。


「発生率はあまり変わらない様で、そういう場所からいられなくなったモンスターたちが、人の生活圏に近付いて来るんですよ」

「なる程、上位のモンスターに玉突きの様に押し出されてくるのですね」


これは中々に開拓が難しいかもしれない。


「更にダンジョンの事もありますから、簡単には冒険者も割けませんし」


しかも大氾濫を警戒して、ダンジョンの即時破壊に注力して居れば尚の事・・


「軍隊はありますよね」

「万が一、つまり大氾濫に備えてと主都に待機しています」


確かに冒険者が事前対応、軍隊が大氾濫発生時など緊急対応と住み分けておく事は必要なのだろう。


その後ファイルの開拓地域の情報を貰っていく。


「結構、森とかも多く残る様に開拓されているのですね?」

「シュバルツさん? お肉とかお薬が手に入らなくても良いんですか?」

「ああ、納得です」


森などが無くなれば、モンスターも少なくなり安全かと思ったが、森からの恵みを無視はできない。

討伐依頼との抱き合わせ採取依頼には、食材の入手もあった事を思い出す。


その様な開拓禁止区域も、一日圏内には残されている。




礼もそこそこに、今度は冒険者ギルドへと向かい資料室の使用許可を得て、攻略済みダンジョンの情報を調べていく。


「幾つかのパーティは攻略期間が短い上に、階層の多少の増減には、ほぼ一定の時間で攻略しているな。

これらのパーティの攻略したダンジョンの中で発生日と攻略日が出来るだけ短くて、更に街に近くて開拓禁止区である所・・ね」


元科学者だけあってシュバルツはこの手の仕事が嫌いではない。


ただ元の世界では電子計算機と呼ばれる物に、これらのデータを保存しておき必要な情報を引き出す事に慣れていたので、一からの調査に戸惑っただけである。


先日のダンジョンの発生の変化に、ある一つの可能性に結び付く。


「徒歩で3日から4日の距離は、モンスターが強い事もあって調査が進んでいない可能性もあるが、それでも1日から2日の距離の間でしかダンジョンが見つかっていない。

60年とは長い様な気もするが、一つの考え方の定着に必要だったとも言える」


『トレジャーメーカー』のために、誰かの作為によるものではないかと・・


「あの女管理者、直接介入は出来ないと言っていたが、ダンジョンの発生期間位なら操作できるんじゃないのか?」


頭を過る疑問は一旦置いておいて、今掴んでいる情報から活動計画を立てる。






色々と準備を行い、『トレジャーメーカー』のタイミングと合わせ商業ギルドへ提出する事に。


「トレジャーハンターの活動計画を持参しました」

「分かりました、拝見します」


シュバイツの情報収集の姿勢は十二分に見ているので、特に問題が無いと思うが確認する。


活動計画には、三か所の攻略済みダンジョンが記されており、それぞれ調査期日がある。

そしてグリューナが注目したポイントは3つ。


1つ目は、発見日と攻略日が出来る限り近い事。

2つ目は、攻略パーティ名。

3つ目は、町から近い上、開発禁止区域である事。


「この2つ目の攻略パーティ名は不要だと思うのですが?」

「折角調べましたので、一応載せました」


苦笑いするシュバルツに、思わず聞いてしまう。


「何故パーティ名が必要だと思ったのですか?」

「あくまでも予想なのですが、ダンジョンの階層に多少の差があった場合でも、ほぼ同じ期間で攻略しているなら、調査に時間をかけていないパーティではないかと思ったのです」

「なっ!?」


パーティの情報は確か非公開だったはず。

ならばと、攻略期間と攻略速度でパーティの特質を判断したのだろう。


良くぞここまで調べ上げた物である。

個人的に言えば、遺跡への調査を許可しても良いとさえ思える程だ。


「特に問題はありませんので、こちらで受理致します。

上手くいく事を願っています」

「ありがとうございます。いろいろとご迷惑をおかけしました」


商業ギルドを出ると、中古屋のシルヴィとロートに許可が下りた事を告げる。

二人は涙ながらに喜んでくれる・・お祝いも要求されたが。


修道院では院長先生に、トレジャーハンティングの許可が下りたので、調査の期間は不在である事を伝えておくのも忘れない。




数日の内、トレジャーハンターとしての準備をして攻略済みダンジョンへと向かう。、





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