新しい試み
【新しい試み】
翌日、ヴァイスと詰めた話を持って商業ギルドへと駆け込み、グリューナを捕まえる。
「崩壊したダンジョンからのアイテム発掘・・、それを実績に。なる程・・」
アイデアとしては悪くない。初期投資や成功率と言った点から誰も手を出していない。
が、可能性が無い訳ではなく、正しくトレジャーハンターとしてはうってつけ。
ましてや遺跡などの重要個所へ立ち入る事は無く問題は全くない。
ただし・・
「前例がありませんので、何ともお答えしかねます」
「そうですか・・。では条件を付けさせていただけませんか?」
「条件ですか?」
シュバルツの方から条件を出すと言うのであれば聞いてみたい。
「成功は何らかのアイテムを掘りだす事」
「それでは購入品を持ちこまれる可能性があります」
「そこで必ず活動計画と報告書の提出を行います」
「ふむふむ」
確かに大陸内での活動も、この2点があれば何をしようとして、何をしたのかが分かる。
「そして探索に傾ける姿勢を見て欲しいのです」
「姿勢とは?」
「私は発見されてから攻略までの時間が短ければ短い程、アイテムが残されていると考えています」
「確かに・・、そうですね」
多分シュバイツが必死で考えた、アイテム探索のチャンスなのだろ。
「そう言った情報収集にかける熱意や姿勢と言う事です。
そう言った情報収集の無い活動計画書では信頼されないと考えています」
「なる程・・」
これは確かに形には残らないが、対象の絞り込みに各ギルドなどから、情報を集めているかどうかは見えてくるものだ。
その結果が活動計画と言う訳である。
崩壊ダンジョンからのアイテム発掘・・。ハイリスクに対する現時点でリターンはゼロ。
でも非常に面白い。
ギルドの一員ではなく、商人として血が騒ぐ。
「分かりました。私の独断では決められませんので、上司と相談してきます。
しばらくお待ちください」
「お願いします」
シュバルツの方法は新しい試みとして、商業ギルドで承認され許可が出る。
シュバルツは商業ギルドを出る前に金貨を両替して、その足で中古屋へ向か・・わなかった。
シュバルツが向かった先は、孤児院を運営する修道院であった。
修道院につくと、一番偉い方とお話をしたいと告げると、応接室に通される。
直ぐに50歳を少し超えたシスターが現れる。
「はじめまして。私がこの修道院の管理を任されております」
「はじめまして、シュバルツと申します。
実はお願いがありまして本日お伺いした次第です」
「お願いですか? どの様な事でしょう」
「私はこの度トレジャーハンターと言う職業に就く事が出来ました」
「それはそれは。不勉強のためその様な職業は存じ上げませんが、おめでとうございます」
「ありがとうございます。
しかしトレジャーハンターと言う職業は、活動資金の殆どをご賛同いただけた方々の寄付によって賄っているのが現状です」
寄付の言葉を聞いて、修道院に寄付のお願いだろうかと考える。
しかしながらそれは無理な相談である。
修道院も多くの町の人たちのお布施や寄付によって運営されており、ましてや孤児院も賄わなくてはならない。
「そこで支援者を募るのですが、宿代もバカになりませんので、こちらの修道院でお世話になる事は出来ないかと考えた次第です。
基本支援者を探して駆け回りますので食事は結構です。寝泊まりできるスペースさえお借りできれば」
なる程、話を最後まで聞けば、資金集めの間の住処だった訳である。
支援者を見つけると言う、一応の期間も決められている。
此処までの話であれば、見放してしまっては何の修道院かと言う気持ちになる。
「分かりました。そう言う事でしたら現在倉庫と使用している屋根裏部屋があります。
そちらでよろしければ」
「是非もありません。流石は修道院ですね。ゴルドさんからの人柄からも分かるとおりだった」
「ゴルドを御存じなのですか?」
「はい、大変お世話になっております。今回の件もゴルドさんの推薦がありました」
卒業生が困っている人々の手助けをしているのだ、これ程喜ばしい事は無い。
「つきましては・・」
突如シュバルツが何やら変な計算を始める。
「宿代が浮きますので、一日大銅貨2枚として月金貨2枚、年では16枚となります」
「・・・はぁ?」
商業ギルドで両替した革袋を出す。
「銀貨に両替してあります。一応128枚あると思いますが、ご確認下さい」
「ちょ、ちょっと待って下さい。おっしゃっている意味が分かりません!」
シスターの驚きを無視して、懐から更に金貨を出す。
「今月分として金貨2枚です。申し訳ありませんが両替はしてありません」
「えっ!?」
「屋根裏部屋の片付けと明け渡しで金貨1枚。これも両替してません」
「片付けで金貨1枚はありえません。
と言うよりもこれだけのお金があれば支援者など募る必要はないでしょう」
「それとこれとは別です」
「別とはどういう事でしょうか?」
「私はトレジャーハンターとして修道院に助けを求めました。喜んで助けの手を差し伸べてくれた修道院に感動して寄付する事にしたのです」
「それは詭弁です」
しばらく静かに見つめ合いうと、シュバルツが語り始める。
「私の師はモグリのトレジャーハンターでした。今思えば盗掘をしていたのでしょう。
何も知らない私に、この町の人々は助けの手を差し伸べてくれました」
「・・・」
「商業ギルドを知り、冒険者ギルドを経て、中古屋のシルヴィとロートと言う姉妹と出会いました。
そこから定食屋のゴルド、材木商のヴァイスと世界が広がり、この修道院へと行きつきました」
「そうでしたか」
「私は縁だと思うのです」
「縁・・ですか」
「これまでの縁、今ある縁、これからの縁。
それが金銭的であっても、言葉であっても、私が出来る事は果たすべきと感じています」
シスターが目を瞑りもう一度呟く。
「縁・・。分かりました、お預かりします」
深くお辞儀をするシスター。
「ほぼ毎日ゴルドさんの定食屋に行っていますので、引っ越しが可能になりましたらご連絡いただけますか?」
「分かりました。使いを送る様にいたします」
修道院を出ると、今度こそ中古屋へと向かう。
心配で堪らなかったシルヴィとロートが待ち構えていた。
「どう・・でしたか?」
「どうだったのよ!」
不安気に聞いてくるが、前回の失敗から学習の成果を見せる。
「許可が降りた」
笑顔で答えるに留める。
「「やったー!!」」
自分の事の様に抱き合って喜ぶ二人に、ウンウンと頷く。
隣でも同じようにヴァイスがウンウンと頷いている。
・・ヴァイス?
「のあっ!?」
「ん?」
ビクッと飛びのけば不思議そうな顔をする。
「い、何時の間に・・」
「たった今よ?」
何変なこと言っているの、この人と言う顔をする。
いや、扉の鈴の音がしなかった・・と思う。
四人仲良くゴルドの定食屋に向かい、今度こそトレジャーハンターのお祝いをしようと和気あいあいと相談している。
代金はいつも通り何故かシュバルツ持ちなのだが、嬉しい気持ちもある・・何故?
宴ももうすぐ終わろうとする頃に、シュバルツがゴルドに声をかける。
「ゴルドさん」
「ん? ・・まだ注文するのか?」
流石に呆れ顔で聞いてくる。
「いやいや、近いうちに修道院から、俺宛に連絡が来ると思うから」
「修道院から? シュバルツさんに?」
確認のためか問い返す。
接点など思いつかなかったのだろう。
「ちょっと一番偉いシスターにお願い事をして、結果が分かればゴルドさんの所に連絡入れてもらう事にしておいたから」
「院長先生にか?」
「えーっと・・、院長先生?」
「孤児院の院長でもあるからな」
「そうだったのか」
「分かった、連絡を託ればいいんだな」
「そうそう」
植林事業で協力を得ようとしていたヴァイスが、孤児院の言葉に反応する。
「何のお願いかしら?」
「うーん、まだ連絡待ちだから何とも。上手くいったら話すよ」
「ふーん」
既に本決まりなのだが、ヴァイスの横やりをはぐらかす。
彼女も商売柄いつでも情報収集は行うが、根掘り葉掘り聞き出す様な事はしない。
「まあ上手くいけば修道院とコネクションが出来るから、植林事業の事も進めやすくなる・・かも・・」
ヴァイスが獲物を見つけた様な眼に変わり、気付いて尻つぼみになるが追及の手は緩まなかった。
「必ず上手くいって」
「いや、まだ・・何とも・・」
「せ・い・こ・う・さ・せ・る」
「・・はい」
正直に話していたらどうなっていたか?
自問自答するが、結果は何も変わらなかった様な気がする・・
次の日、ゴルドの元へ孤児院の子供たちが納品と合わせて、シュバルツへの伝言を持ってくる。
「ゴルドさん、納品終わりました」
「おう、ごくろうさん」
「それからシュバルツさんへの伝言お願いしても良いですか?」
「ああ、話は聞いているぞ」
「屋根裏部屋の片付けは出来ました。何時でも使えますとお願いします」
「屋根裏部屋? どう言う事だ?」
伝言を受け取る以外の詳細を聞いていないため尋ねる。
「シュバルツさんが修道院の屋根裏部屋に住む事になったんです。
院長先生から、ゴルドさんに感謝していると伝えるように言われてました」
「そうか、分かった」
子供たちを見送りながら、何か分からないがシュバルツが修道院、いや孤児院のために何かを画策したのだろうと言う事だけは理解した。
後日談-
この事はヴァイスの逆鱗に触れる事になった。
「シュバルツさんが修道院に住む・・。
コネクションと言っていた事はこれなのよね・・」
修道院を管理するシスターたちは、孤児院も運営しているはずである。
「確かに間借りしているだけじゃあ、大した伝手にならないと思う気持ちも分かるわ」
金銭的には修道院と孤児院にかなりの貸しを作っているのだが、彼女は知らない。
「あの時点で既に本決まりだったはず・・よね」
はぐらかした・・否、はぐらかされた。
商人として常にあるはずの事を、シュバルツにされた事が何故か許せない。
それからのヴァイスの行動は早かった。異常な程・・
あらゆる伝手を使って、最速で可能な限り最高級の・・食材を手に入れる。
その間、シルヴィとロートに引っ越し祝いのサプライズをしましょうと根回しも忘れない。
一家四人の1日の平均生活費が大銅貨1枚で銅貨にして48枚
朝夕付きの一般的な宿代が大銅貨2枚
ゴルドの店の平均的な定食が銅貨10枚
先のお祝いと称した宴が1回銀貨1枚ほど、どれだけ食べたんだと言いたくなる。
そして今回手に入れた食材の総額は金貨にして2枚・・
ヴァイスの怒りの大きさが分かる様である。
「うちでは手が・・」
「私たちの宴用だから。代金は後払いと言う事で構いませんよ」
その高級食材を見たゴルドは引き気味の呟きに対して、恐怖の営業スマイルで答える。
準備万端整うと、シルヴィとロートを炊き付けて、定食屋にシュバルツを連れて来させる。
シュバルツは先に待っていたヴァイスのとても素敵なほほ笑み、目は全く笑っていない、を見逃せなかった。
四人が席に着くと、ヴァイスが指をパチンと鳴らす。
ゴルドが調理前の高級食材の数々を恭しく持ってくる。
「シュバルツさんの引っ越し祝いのために用意したの」
「「すごーい!」」
シルヴィとロートも見た事は無くても、何となく光り輝く様なオーラを感じ取っているか歓声を上げる。
シュバルツはヴァイスとゴルドの表情の違いに絶望を感じ取る。
ヴァイスが指をチョイチョイと顔を近づけるように動かす。
まるで歓喜している二人には絶対聞かせたく無いかのようだ・・
「すっごく手に入れるのが大変で・・、金貨2枚もかかっちゃった」
「っ!?」
「ゴルドさんの手にかかれば、金貨3枚にはなるはずよね?」
「・・えっ!?」
「金貨でたった3枚よ」
あまりの金額もさる事ながら、ヴァイスの怒りに轟沈する。
流石の高級食材を元にした料理だけあって、三人の娘たちの表情は蕩け切っていた。
会計の際のゴルドの「すまん」の一言に、苦笑いで金貨3枚を支払うシュバルツだった。
心境としては、おねだりされ安請け合いしたのは良いが、あまりの金額に驚きつつも、後には引けなくなった父親に似ている・・かもしれない。




