問題発生中
【問題発生中】
翌日、商業ギルドに行き、グリューナに開口一番遺跡の探索について相談してみる。
「無理です」
が、スッパっとその一言で切られてしまう。
「シュバルツさん。確かあの短剣を売る時、師匠から譲り受けた物だとおっしゃいましたよね?」
「ええ、確かに・・」
「師匠が居るなら大丈夫と説明しなかった私も悪いのですが、何の実績もない人に遺跡探索の許可は下りません」
「ですよね」
「貴方の師匠と一緒に申請して下さい。一度でいいんです。その実績が必要なんです」
「そのぉ・・・自称だったらしく」
ちょっとかわいらしくと茶目っ気で上目づかいをしてみる。
クワッと目をむいて憤怒の表情になると、バンッ!と思いっきり机を叩くと椅子を蹴り飛ばし立ち上がる。
フーフーと深呼吸をして気を落ち着かせると、椅子に座り直す。
馬鹿な事の効果は得られなかったようだ。逆に火に油を注いだのかもしれない。
「シュバルツ様の責任ではありませんのに、失礼しました」
「いえいえ、お気になさらずに」
普段のグリューナを見ていると、無許可でのトラブルの大きさを物語っている。
「では改めましてトレジャーハンターに、夢と希望に満ち溢れた一人の青年が遺跡探索の許可を得られる方法をご教授いただけませんでしょうか?」
端々に出てきた言葉と突然の言い回しに、グリューナの顔が一瞬唖然として、すぐに笑いを堪えている様子に変わる。
「コホン、では遺跡探索の許可について説明いたします」
何とか爆笑せずに済んだ様だが、咳払いをして何とか誤魔化す。
「ある程度の実績、これは成功失敗では無く、きちんと準備をして生還する事を意味しています」
「そうなんですか?」
「遺跡探索される方々と言うのは、準備に何年と掛けるのが普通です。それでも成功者なんてほんの一握りなんです。成功が実績なら実績の作り様がありません」
「なる程、その通りですね」
『トレジャーメーカー』という技術を鑑みれば、当然であろう。
「先程の一度でも、と言うのは、計画を立案し完遂する事です。計画の段階で秘宝の発見は含まれるはずもなく、完遂した結果、秘宝を発見するのです」
「分かります」
「そこで経験者監修の上、実際に自分で計画し実行に移し、自分の予想とどうだったのか擦り合わせ、自分ひとりで出来るのか、もっと勉強が必要なのかが判断できるのです。
経験則ですが、一人でがむしゃらにより、師匠の後を継いだ人の方が成功率は高いです」
当たり前の話し過ぎて、何も言い返せない。
「では、師匠のいない私の様な者には?」
「時間やお金はかかりますが、一番は学院などの入学し誰かに師事する。これが確実です。
お金がない場合は、荷物持ちを経て学者や研究者からの推薦を受けてトレジャーハンターの実績を積むと言う事になります」
お金の有無に関わらず、時間がかかるのはやむを得ない様だ。
「それ以外でありますか?」
「お勧めできませんがあります」
「どんな事でしょう?」
「冒険者ギルドで、盗賊で実績を残す事です」
「盗賊・・ですか?」
藁にもすがる思いで聞いてみると、もう一つ、盗賊と言う方法があるらしい。
「はい、盗賊は、鍵開け、罠発見解除、隠し扉の発見といった事を行う職業ですが、トレジャーハンターと類似する物があります」
「実績と言うのは?」
「当然アイテムの持ち帰りとなります。盗賊に失敗は許されません。自分は元より仲間も危険にさらす訳ですからね」
「分かりました。どの程度で実績と認められますか?」
「実例がありませんので規約上となりますが、ランクD以上となっています」
「どうしてか理由があるのですか?」
「ダンジョンに入る事が出来るのが、ランクE以上だからだと思います」
盗賊の能力が生かされるのは、戦闘よりもダンジョンの中だろう。
ダンジョンに入れるのがランクE、経験を積んだかどうかはランクアップで分かる。
「合理的で納得しました」
「どうされますか?」
「一度冒険者ギルドに言ってみようと思います」
「分かりました。何かありましたらご相談下さい」
『トレジャーメーカー』使用計画を見直す必要が出てきた。
下手をすると、まっさらな白紙である。
その足で直ぐに冒険者ギルドへ向かい、ヴィオレットに盗賊について確認する。
「盗賊職ですか? 折角トレジャーハンターのランクEになったのにですか?」
「はい、トレジャーハンターには師匠同伴のイベントがありまして」
「そうなんですか?」
冒険者ギルドはトレジャーハンターに詳しくないのだから、知らなくても無理はない。
「師匠が居ない人は、学院に入って誰かに師事を受けるか、荷物持ちの下積みを経て学者や研究者の推薦を受けるか、盗賊で実績を残すかとなってます」
「それで盗賊職にないたいと」
「はい」
「そうですか・・、うーん」
「何か問題でも?」
「ご存じないとは思いますが、盗賊職は現在、不遇職筆頭となっており、お勧めできません」
「不遇・・職?」
不遇、つまり必要とされていない職業・・。そんな事ありえるのだろうか?
「不遇職とされる理由はあるのでしょうか?」
「近年のダンジョン事情に大きく関わっています」
「ダンジョン事情?」
次々と不可思議な言葉が出てくる。
「ダンジョンには、初級、中級、上級、最上級と階層の深さでによる種類分けがありました」
「ありまし・・た?」
今現在では存在しない言い方に、首を傾げる。
「ダンジョンから不定期にモンスターが溢れる事があり、大氾濫と呼ばれています」
「ふむふむ」
「ここ最近、ダンジョンの発生率が高まり、大氾濫の発生が頻発する事が懸念され、発見次第、即時破壊する様になりました」
「そんな経緯があったのですか」
「以降ダンジョンには、発見されて1週間以内を新規ダンジョン、一か月以内を攻略中ダンジョン、それ以外を難攻ダンジョンと呼ぶようになりました。
現時点で攻略中ダンジョンは存在しません」
「なる程、それが盗賊職とどのような関係があるのでしょうか?」
ダンジョンについては興味深い話ではあるが、知りたいのは盗賊職の方だ。
「では盗賊は何処で活躍するのでしょうか?」
「・・えっ!?」
「新規ダンジョンは即時破壊、難攻ダンジョンは時間がかかっている分、かなり深くまで攻略し尽くされています」
「あっ・・」
「不遇職の理由が分かりましたか?」
「納得しました」
これでは新人盗賊は育てる場所も時間もない。
しかし求められるのは短時間で確実に仕事をこなせる凄腕レベルである。
「取り溢しは勿体ないのですが、被害の大きさを考えるとやむ無しと」
「そう・・ですか」
取り溢し・・? シュバルツは引っかかる物を感じ質問する。
確か女性管理者は残ると言っていたはず・・、だから『トレジャーメーカー』なのだと。
「取り溢したアイテムは、どうなるのでしょうね?」
「ダンジョンコアが破壊されると、各階層を支える力が無くなり崩壊しますから、その際に潰されていると思います」
「・・勿体ないですね」
「はい、勿体ないです」
二人して溜息を吐くと、シュバルツは空気を変えるように言葉を繋ぐ。
「盗賊の方は厳しそうなので、もう一度商業ギルドの方へ行って相談してみます」
「気を落とさずに。何か力になれる事があれば全力でお手伝いしますから」
「お気遣いありがとうございます」
意気消沈した雰囲気を醸し出したままギルドを出る。
内心は笑いを堪える事に必死で、肩を震わせて顔を伏せる事で誤魔化しながら中古屋へ向かう。
カランコロン-
そのままの状態でいつもと変わらない扉の鈴の音を聞きながら中へ入る。
いつもと違うシュバルツの姿に、シルヴィとロートは心配になって声をかける。
「「シュバルツさん」」
昨日の今日である。
何かあったのは明白で、何と声をかけていいか分からないが近づいていく。
次の瞬間
「やったぞー!」
突然の大声と笑顔に固まった二人を、思いっきり抱きしめる。
「きゃっ!?」
「ぎゃー!!」
二人は悲鳴を上げてもがくが、あまりの喜びのせいなのか離す様子が無い。
同じく心配してシュバルツの後から来たヴァイスが、傍にあったメイスを振り上げるのに気付く事も無く。
修羅場は中古屋からゴルドの定食屋に移っても続いていた。
気を失ったまま引きずられるように運ばれその場に放置、次々に注文し、ゴルドさえ受けた事の無い注文すら頼まれる。
しばらくして目を覚ましたシュバルツは、そのまま正座を強要される。
注文の品をゴルドが運んでくる。
特別な注文・・ ナイフ10本はヴァイスの手元に置かれる。
手でゴルドには厨房に戻る様、シルヴィとロートには先に食べるよう指示する。
ゴルドはトットと厨房に戻るが、被害者の二人にもなかなか食べにくい雰囲気だった。
組んだ腕、見下した視線は変わらず、足だけを組み替えて話し始める。
「シュバルツさん?」
「はい・・」
「貴方を信用信頼していたんですよ? まさか本当に小さな娘に手を出すなんて・・」
「ちょっ、それは誤か・・い」
ストン (びくっ)
シュバルツの膝元にナイフが突き刺さる。残りは9本・・
「ヴァイスお姉ちゃん」
「ヴァイス姉」
二人が援護のために口を挟もうとすると、すごい笑顔で冷めるから食べなさいと言われる。
二人はスゴスゴと野菜スティックをポリポリと齧る。
「あのー、ヴァイス・・」
ストン (びくっ)
ナイフの残りは後8本・・
しばらくポリポリと言う音が響く中、ヴァイスが口を開く。
「貴方の (ストン) 有罪は (ストン) 確定しています。 (ストン)
しかし (ストン) 弁明の (ストン) 機会を上げましょう。 (ストン)
チャンスは・・分かりますね? (ストン) 2回です」
ナイフの残りは1本に対して、チャンスが2回と言う意味をシュバルツは瞬時に理解する。
最後は手元に無い何かが飛んでくるのだ。
「順序立てて話すため、昨日別れてから説明させていただけますでしょうか?」
「・・・許可します」
シュバルツは昨日3人と別れてから、正確には商業ギルドからのくだりを話し始め、冒険者ギルドの所で得られた情報から、あまりの嬉しさから抱きついた事までを話し終える。
「今の話の中の何処に抱きつく要素があったのか、理解に苦しみます。詳細を」
ヴァイスは最後の一本を手にして弄び始める。
「へぇー、ヴァイスにしては頭の回転が悪いな」
「どう言う事です?」
シュバルツの物言いに、ヴァイスの眉がピクリと跳ねる。
「整理しながら、自分の口で言ってみてくれ」
「いいでしょう。
商業ギルドでは師弟ペア、もしくは経験者同伴で無ければ遺跡に入れない。
代替案として盗賊になる事を提示される」
「その通り」
「冒険者ギルドでは現時点で盗賊職は不遇。理由はダンジョン事情である即時破壊の観点から」
「間違いない」
「他に無かったと思いますが・・」
「だろうな」
「はぁ!? 馬鹿にしているのですか!」
「だからチャンスがある」
「ふぁ!?」
激昂するヴァイスは間抜けな声を上げ、ナイフを落としかける。
傍で聞いていたシルヴィとロートも首を傾げている。
「もう一度言うぞ? ダンジョンは即時破壊の原則で、盗賊職は不遇である」
「そうですね」
「じゃあ取り溢されたアイテムは何処にある?」
「もちろ・ん・・」
ハッと気付いたヴァイスは言葉を失う。
「「地面の中!!」」
シルヴィとロートが、嬉しそうに声を揃えて正解を告げる。
「あくまでも可能性だ。崩壊の際に一緒に潰されて壊れている事もあるだろうし、もしかしたらダンジョンコアと一緒に消えている場合もある」
「しかし確かめた人が居ない・・、それを考えた人が居ない・・」
「考えたかもしれないが、実行に移す資金や時間、労力で諦めたかもな」
「しかしあまりにも確証が無い・・」
「でもそれを生業にする職業が存在する」
「「トレジャーハンター!!」」
再び二人の声が揃って正解を告げる。
『トレジャーメーカー』のそもそもの目的が、取り溢しアイテムに関係しているのだ。
寧ろ遺跡に行かなくても、タンジョン跡を掘る理由があればいい。
「その考えに至り、喜び余って抱きついた・・と」
「面目ない」
被害者の二人は既に、足の痺れて立てないシュバルツの両脇を支えて席に誘っている。
そして四人揃って乾杯をする。
今の今まで我慢していた二人は、特に物すごい勢いで食べ始める。
「トレジャーハンターとしてのスタイル・・。崩壊したダンジョンに残されたアイテム・・。
確かに可能性はあるわね」
「あくまでも可能性だ。リスクはかなり高いと言わざろう得ない」
ヴァイスはもし自分だったらと考えても、躊躇・・いや、実行できなかっただろう。
「そこでヴァイスに確認したいんだが」
「何でしょう」
「商業ギルドはこれを、実績と認めてくれるかと言う事なんだ」
「・・分からないわね、まったく」
少し目を瞑り考えるが、正直答え様が無い。
「そうだよな。やはり正直に話してみるしかないか」
「初めての事でしょう? こちら側からある程度条件を用意しておいた方が良いかもしれないわね」
「条件か・・。例えば?」
「そうねぇ、こんなのは如何かしら?」
シュバルツとヴァイスも食べながら話を詰め始める。
それを見たシルヴィとロートが、さっきより輪をかけて食べ始める。
遠慮してたの? お父さん君たちの体が心配になってくるよ・・




