定食屋の主人の頼み事
【定食屋の主人の頼み事】
次の日、多分皆の熱望?もあって仕方なく?商業ギルドへ向かいトレジャーハンターの登録をする事に。
初めて商業ギルドに来た時から、最近では防犯魔法の件でお世話になっているグリューナを見つけると声をかける。
「今よろしいですか?」
「こんにちは、シュバルツさん。ええ、構いませんよ」
シュバルツは胸元から、冒険者ギルドの会員証を取り出しながら話を進める。
「この度、冒険者ランクEとなりましたので、トレジャーハンター登録を進めたくお伺いしました」
「おめでとうございます。早速会員登録します。こちらの用紙の必要事項をご記入下さい」
「分かりました」
ふと冒険者ギルドとの違いに気付き、聞いてみる事にする。
「そういえば冒険者ギルドでは読み書きできるか聞かれましたが・・」
「ああ、それはですね、商いをする者は基本読み書き計算ができませんと。
この用紙に記入できる事がギルド登録の最初の試験と言えるでしょう」
「なる程」
当たり前である。これから商いを始めようとする人が、基本となる三つが出来ないのであれば成功する前に騙されるだけである。
聞けば読み書き計算が出来ない振りをして、誠実な商人を探そうとする人たちもいる様ではあるらしいが・・
「はい、確かにお預かりします。会員証が出来るまで商業ギルドの規約について簡単に説明いたします」
「お願いします」
登録用紙の内容に問題がない事を確認すると、規約についての説明となる。
「詳細につきましては、ギルドに保管されている規約集をご確認下さい」
「・・・分かりました」
後ろの方に置かれている棚一杯の規約集を手で示されて、誰が見るのだろうと考えてしまった。
「以前にも少しお話ししましたが、商業ギルドにもランクが存在します」
「はい」
「下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっており、更に上も存在します。それぞれのランクは納めていただく月会費の額が違います」
「ランクの差、メリットと言うのはどのような物があるのでしょうか?」
「ゴールドランク以上となりますと、町や村が管理する土地の売買、総合商会の設立、ギルドからの借り入れなどが可能になります。
国から指定を受ける事の出来る商会になるためには、プラチナランクが必須条件です」
「私の様なトレジャーハンターには、あまりメリットが感じられませんが・・」
「そうですね、学者や研究者と言った方々には、あまり価値がないかもしれません」
うーん、それならば商業ギルドには悪いがブロンズランクで十分と考えてしまう。
「今回シュバルツさんは運良く商業ギルドに来ましたが、商いをする際には必ず商業ギルドに登録する必要があります」
「そうだったんですか」
「はい。勝手に商売を始めて揉め事になるケースが多々ありますので、町に入る際に門の所で何をしに来たか聞かれたと思いますが、冒険者になりに来たなら冒険者ギルド、商売を始めるためなら商業ギルドへ行くように言われます」
「そういえば・・、そうだったかも」
町の中へ直接、転移したシュバルツは、適当に誤魔化すしかない。
「そうなんですよ、結構門の衛兵の話を聞いていない方が多くて」
「すみません」
素直に謝ると、グリューナも良くある事ですからと慰めてくれる。
「先ほど少し出ました商人同士のトラブルに関しましては、商業ギルドが介入します」
「へー、どうしてですか?」
冒険者ギルドと真逆な対応に興味をひかれる。
「第三者の介入により、公平公正平等、透明性が証明されるからです。先ほどの無許可による商売の例もありますから。何よりもその証明はより周囲からの信頼を勝ち得ます」
「なる程」
「率先して商業ギルドに仲介してもらう方が良いと考える商人たちも居る位ですから」
「逆に怪しさを感じてしまうのは、私の心が荒んでいるからでしょうか?」
その一言を聞いたグリューナは苦笑している。
「魔薬などのご禁制の品や無許可の奴隷売買、類似品販売による嫌がらせ、恐喝暴力などの犯罪行為に対しては断固厳しい処置をとります。
大量の資金による買い占め、激安販売といった相手を潰す行為は商いとして当然の事して捉えています」
「・・そうですね」
厳しい様だが商売である以上、相手を潰す事もあり得るのだろう。
「月会費に関して注意ですが複数の職業を持つ場合、それぞれに月会費が必要となる場合があります」
「えっ!? どう言う事ですか?」
「例えばシュバルツさんが、トレジャーハンターとして得たアイテムをご自分で販売する場合は、アイテム販売の登録が必要になります。
トレジャーハンター業とアイテム販売業の二つの職業を持つ事になり、それぞれ月会費が発生します」
「もし黙って販売すると・・?」
「無許可での販売は違法行為で、摘発の対象になります」
「何故そこまで厳しくするのですか?」
小さな商会、例えば中古屋の姉妹を見れば日々の糧でさえ大変である。
「理由としましては、購入者の保護は勿論の事、違法品の売買、ゴミの不法投棄や不法建築などを抑制するためです。
とはいえ屋台などの小さな店舗に関しましては、諸注意の説明を受けていただければ許可を出し、特に月会費なども納める必要はありません」
全員が全員善人で、きちんとルールを守っていればこんな事にはならない。
ごく少数の心ない人々のために、縛られて行くのはどこも変わらない様だ。
「店を構えるとなれば、職業として登録する必要があると言う事ですか」
「はい、そうなります。
ある程度職業数が増え、商う品目が増えたなら総合商会になった方が得になってきます」
「それがゴールドランク・・」
「もっともゴールドランク位にならないと、複数の職業を持てませんけどね」
「なる程」
そんな話をしている内に、会員証が出来上がった・・様だ?
「えっ!? それは?」
「これが会員証です」
冒険者ギルドの会員証も斜め上に言っていたが、商業ギルドも同様だった。
前の科学の世界で使っていたA4サイズのノートとほぼ同じサイズの金属製の板だった。
「・・・」
「会員証について簡単に説明しておきますね」
茫然としているシュバルツに、グリューナが説明を始める。
「会員証の表には、お名前と職業と、商業ギルドの最低限のルールが刻まれています。
裏面には商売の成果や社会貢献などの賞が刻まれていきます」
「賞? 賞罰ではなく?」
「罰は信頼を失って商売が続けられなくなるか、最悪の場合は会員資格の剥奪となりますので必要ありません」
「・・なる程」
何処の誰が罰せられた商人と取引をしたいと思うだろうか。
「商業ギルドのランクアップの条件として、月会費ではありますが、賞の部分によって上がり易さに影響してきます」
「へぇー、そういう仕組みですか」
「刻まれているルールは最低限度だけです。本来の規約はかなりの量がありますので、必要に応じて商業ギルドで確認する様にして下さい」
グリューナの後ろにある本棚を再度指し示す。
「・・分かりました」
頬がひくつくのを感じながら、手渡された会員証のかなり細やかな文字で彫られたルールに目を凝らし呟く。
「冒険者ギルドのとはかなり違うな」
「一緒にしないで下さい。失礼です」
「えっ!?」
驚きのあまり、思わず聞き返してしまう。
「どうかされましたか?」
「・・いいえ」
まるで何もなかったかのような態度で返してくるので、それ以上は突っ込まない様にする。
何となくだが、どっちかがアホな事をやりだした結果が会員証な気がした。
「他に何かご質問はありますか?」
「いや・・、もし何かあれば改めて来るようにします」
「分からしました。ではシュバルツ様のご活躍を期待しております」
グリューナに見送られて商業ギルドを出ると・・・
にこやかな笑顔で待っているシルヴィ、ヴァイス、笑顔に加え手を振ってくれているロートが居た。
「・・まじっすか?」
そのまま四人揃ってゴルドの定食屋へ連れ立っていく。
正確にいえば、三人に連行されていく・・
先にシュバルツが店に入るとゴルドは一瞬だけ営業スマイルで出迎えてくれる。
後ろの三人を見つけて、少し憐れむ表情に変わり、ポンポンと肩を叩いてくれた。
三人が散々飲み食いするのを、半分唖然と半分嬉しそうに眺めていると、ヴァイスが急にこれからの事について聞いてくる。
「ねぇシュバルツさん。トレジャーハンターになったのは良いけど、準備は進めているの?」
「いや全く。一から始めるが・・、それが何か?」
ヴァイスがやっぱりねと呟くと荷物から何やら取り出す。
「少しは役に立つと思うわ」
「これは!?」
ペラペラと捲っただけでも、手渡された資料の価値が分かる程の物だった。
「私の店がヴュステの町をメインに、取引しているのは知っているわよね」
「ああ」
「じゃあ遺跡のある島は何処からが一番近い?」
「ヴュステの町」
「正解。他のヴァルトの町やベルクの町からでも可能だけど、やはり一番近いのはヴュステの町よ」
ヴァイスによってもたらされた資料には、ヴュステの町の情報や商いから得られた情報が事細かに記されていた。
特にトレジャーハンティングの荷物を持って、砂漠を越えるのは至難の業である。
木材を運搬する際に使う砂漠と荒れ地の境で最短ルートという、商いをする上で命綱となる情報すら載っているのだ。
「別にタダで奢ってもらってた訳じゃないのよ」
少し赤ら顔なのはお酒のせいだけではないと感じる。
「ありがとう、感謝する」
「そうそう、もっと感謝して奢ってもいいのよ?」
・・良い雰囲気台無しである。
「それからもう一つ。直ぐに分かる事だから私の口から言わなくてもいいんだけど・・」
「何かあるのか?」
「遺跡の探索にはある程度の実績が必要なのよ」
「実績?」
「トレジャーハンターに成り立てのずぶの素人に、遺跡に立ち入る許可は出ない」
「ヴァイス姉」
「ヴァイスお姉ちゃん」
厳しい言い方に、シルヴィやロートも思わず箸を止め呟く二人を手で制するシュバルツ。
「当たり前だな」
「本当なら誰かの師事の元、実績を積み重ねていく物らしいわ。
貴方の師匠と一緒に行動するのがベストよ」
『トレジャーメーカー』は遺跡である必要はない。アイテムを手に入れたと言う場所が必要なのだ。
そのため遺跡に入るために必要な準備は何も考えていなかった。
「師匠か・・。自称だったから」
嘘の師匠像を思い浮かべるしかない。
その一言に顔をしかめるヴァイス。意味の分からないロートが聞いてくる。
「自称って?」
「自分で名乗っているだけ。モグリの可能性が高いわ」
「「えぇーっ!?」」
商業ギルドも、冒険者ギルドも町の外の事を逐一は管理や監視はできない。
無許可で遺跡を発掘しても、見つかりさえしなければ何の問題もない。
強盗などの血ぬられた商品なら未だしも、今では所有者のいない盗掘品を買い取る商人はいるだろう。
「人は、己の人生の探検家だ、って言うのが口癖だった」
「うわぁ・・、駄目な人の常套文句な感じ。どうすんのよ!?」
流石にシルヴィも黙っていられなくなり口を挟んでくる。
ヴァイスも全くの畑違いに、お手上げの状態である。
「明日、商業ギルドに言って相談してみるよ」
トレジャーハンターとして幸先の悪いスタートを切る事になる。
三人の娘がやれやれと言う雰囲気の中、厨房の方から子供たちの声が聞こえてくる。
「みんなはどうだ?」
「大丈夫、変わりないよ」
「そうか」
「大した事は出来ないが、何かあれば直ぐに来い」
「うん」
どうやら孤児院の子供たちが、自家製野菜などの納品に来たようだ。
子供たちが帰った後、雰囲気を変えるいいタイミングだと思ったのかヴァイスがゴルドに声をかける。
「ゴルドさんて、孤児院の卒業生なのですよね?」
「そうだが何か?」
「孤児院の事情を少しお聞きしたくて」
「事情? どんなだ? 卒業して10年は経つからかなり変わったかもしれんが、それでよければ」
「十分です」
「で、どんな事を聞きたいんだ?」
「子供たちの労働力です」
「労働力?」
訝しむゴルドに、ヴァイスは今進めている植林事業について説明する。
「植林事業には、人の力が欠かせません。苗を植えるだけでも」
「ふむ、その際の労働力か」
「もし可能であれば、苗の栽培も手伝っていただきたいのです」
「植えるだけなら問題ないだろうが、苗の栽培となると流石に分からん」
孤児院で苗の栽培などしていない以上、出来るとも出来ないとも答えられないのだろう。
「そうですか・・、少し人員を再調整する必要が・・、でもそうするとあちらが・・」
ヴァイスが自分の世界に入り込んでしまうと、その場に残された四人は苦笑いする。
「お姉ちゃん、うちの方でも孤児院に何かして貰う事無いかな?」
「うーん、正直今は無理ね」
「そうだよね」
その日暮らしが精一杯の姉妹には厳しいだろう。
ゴルドは二人の気持ちをしっかりと汲んで頭を撫でる。
「その気持ちだけで充分嬉しいよ。何かの機会に頼む」
そういうとゴルドは厨房の方へと引っ込んでいく。
「ふむ、これも何かの縁か・・」
シュバルツの呟きに、うーんと唸っている三人の娘は気付かなかった。




