討伐講習会
【討伐講習会】
先にも説明を受けているが、トレジャーハンターになるためには2つの方法がある。
一つ目は商業ギルドでゴールドランク、月会費金貨1枚を納められるようになる。
これは自分の資金で護衛を雇えるという証明になると言う理由から。
二つ目は冒険者ギルドでランクEになった上で、商業ギルドでトレジャーハンターとして登録する。
これはフィールドワークを行うのに、最低ランクがEと言う理由から。
どちらも町の外で自分の身を守るという観点から、当然の理由と考えられる。
そして自分が選んだ方法は2番目の冒険者ギルドプラス商業ギルドコースである。
『トレジャーメーカー』で得られたアイテムを換金すれば、ゴールドランクなど直ぐになれるだろうし、護衛だって雇い放題だろう。
しかし『トレジャーメーカー』は、今の段階では秘匿すべき能力である。
人の目に触れる機会を極力減らすには、ソロのトレジャーハンターになる事が望ましい。
冒険者ギルドでランクEになるにも、2つの方法が存在した。
一つ目は討伐依頼を、大体10回程度こなすと言うもの。
二つ目は採集依頼を半月程ひたすらこなすと、討伐講習会へのお誘いがある。
その講習会終了と同時にランクEになれると言うもの。
半月少しを過ぎたある日の事、採取依頼の報告を済ませたタイミングで、冒険者ギルドの受付嬢ヴィオレットから声がかかる。
「シュバルツさん、お待たせしました。討伐講習会を開催します」
「やっとか・・。結構時間がかかったな」
「シュバルツさん一人のためじゃないので」
「ん? ・・ああ、何人か揃うのを待っていたのか」
「当たり前じゃないですか。ズューデンの町周辺から集まってきますよ。
と言っても各村々からは、そもそもが採取メインの方が大半ですけどね」
「なる程、抱き合わせ依頼を狙おうと言う事だな」
「うーん、どうでしょうね」
意味深な笑みを浮かべ、討伐講習会は1週間後からと聞かされる。
討伐講習会当日の初顔合わせで、シュバルツは唖然としつつも、なる程とヴィオレットの言葉に納得する。
講習会に集まったのはシュバルツ含めて8名であり、シュバルツを除けば周囲の村々から来た15歳前後の・・全員女性、少女たちであった。
彼女たちは家計の助けとして薬草の採取は行うだろうし、戦闘は望んでいないだろう。
「お集まりいただきました皆様、ただいまより討伐講習会を開催いたします」
「「「はい!」」」
少女たちは緊張しながらも、はっきりと返事をする。
「カリキュラムは戦闘訓練と座学から構成されます。
座学は単なるオマケです。キッチリ戦闘技術を身に付けて帰ってもらいます」
「「「はい!」」」
「・・はい?」
聞き間違いかと思い、自分一人場違いな返事をするが、全ての少女たちは了承する。
「最初に武器を選択してもらい、扱い方、戦闘訓練へと進みます。
途中座学を挟んでひたすら戦闘訓練となります。
脱落者および一定レベルに達しない者が居れば連帯責任となります」
「「「はい!」」」
「・・・えっ?」
どこぞの軍隊かと思わせる講習会にも拘らず、少女たちは気後れしない。
「すみません、質問よろしいでしょうか?」
「えっーっと、シュバルツさん?でしたね、どうぞ」
「ここは討伐講習会と聞いてきたのですが?」
「はいその通りですが、何か?」
「えーっと、どこぞの軍隊かと間違えたのかと思いまして・・」
雰囲気は正に、あこがれの軍隊に入隊した新人隊員と教官であった。
「ではランクEになるために、討伐依頼を10回繰り返すのと、討伐講習会に参加するのと、何が違うと考えていましたか?」
「実戦をしない・・と」
「違います」
はっきりと言う女性教官に、少女たちが全員頷く。
・・どうやらアウェイは自分だけの様である。
「何が違うのでしょうか?」
「安っぽい自分のプライドのために命を切り売りする連中と違い、この場に集まった者たちは生き延びるための技術を身に付けに来ているのです」
「「「イエス! マム!」」」
「・・・分かりました」
町の周辺にある村々では、町よりも野獣やモンスターの被害が大きいと聞く。
きちんと話を聞いていなかった自分が悪いのだろうが、彼女たちは薬草採取との抱き合わせではなく、自分の身を守るため、家族、村を守る手段を学ぶために来たのだ。
「分かっていただければ結構です。授業を始めます。各自グランドに集合!」
「「「はい!」」」
この場に集まった少女たちと、自分では覚悟が全く違う。
グランドに集まると、更に覚悟がハンパでない事が分かる。
訓練用に怪我をしない様に木製の武器と考えがちだが、用意されたのは真剣だった。
しかも刃の潰していない殺傷能力の高い物・・
「戦士にするのではありません。戦士になってもらいます。
時間をかけている余裕もありません。自分の得物を選びなさい」
「「「はい!」」」
既に決めていたのか、ほぼ全員がブロードソードを選んでいた。
この場合ショートソードじゃないのかと誤解されがちだが、ショートソードは扱いやすい短い剣と言う意味では無い。
騎兵が持つ剣をロングソードといい、別名をホースマンソードと言う。
歩兵が持つ剣をショートソードといい、別名をフットマンソードと呼ばれている。
ロングソードよりショートソードが長大な刀身を持つことも、当然あり得る。
ちなみにブロードソード(幅広の剣)は、レイピアに対しての呼称である。
シュバルツ一人木製の武器、杖を選んでいた。
「ほぉ、一人だけ変わった武器を選んでいますが、それぞれの考えがあるのでしょう。
ではまずそれぞれの武器の使い方を教えます。その後各自素振りを始める様に。
そして一人ずつ修正を加えていきます」
「「「はい!」」」
女性教官は使用数の多いブロードソードから教えていく。
順番を待つ間、シュバルツは一人杖を振り回していると声がかかる。
「杖は突き、払い、打ちと千変万化の技を繰り出せる上に、刃筋に関係なくダメージを与えられる。
また代用品も入手しやすい。面白い武器を選びましたね」
「あー・・、深い意味がある訳じゃなく、旅をする際に杖を持っている事が多いと考えまして」
「なる程、常に手にしている物を武器にするというアイデアは素晴らしい。
徹底的に鍛えて差し上げましょう」
「・・お手柔らかにお願いします」
残念ながら溜息といっしょに出た願いが、聞き届けられる事はなかった。
座学は本当におまけのような感じだ。
野獣とモンスターの見分け方。
討伐証明と魔石。
ズューデンの町および周辺の村々で確認されている野獣やモンスターの紹介と対応。
「諸君、理解したか?」
「「「はい!」」」
「では校庭に集合するように」
「「「はい!」」」
「えっ!?」
シュバルツ自身はこっちの方が大切じゃないかと思うが、チョロっと学んだだけで終わり。
そして残りの時間は、再び戦闘訓練の時間に充てられる。
真剣での打ち合いは、流石に行われる事はなかった。
未熟な者同士では大怪我をするためで、その際には女性教官と打ち合うのである。
「一対多数ならまだしも、一対一なら怪我をさせる事はありません。
遠慮せず打ちかかってくる様に」
「「「はい!」」」
数合打ち合うと、数か所注意して再度打ち合う。
直っていれば次の人と交代となる。
待っている人は指摘された点に注意しながら素振りをする。
シュバルツも同様に杖を使った訓練を行う。
「シュバルツさん。技術云々よりも、先ずは基礎体力を養うべきです」
「・・・尤もなご意見ありがとうございます」
同期の少女たちは、何らかの武器を携えて野山を駆け回っていたのだろう。
シュバルツより遥かに良い動きをしていた。
グランドに大の字になったまま荒い呼吸を整える。
その訓練は日が暮れるまで続いた。
「今日は皆さんお疲れさまでした。これからの時間はゆっくり休んで明日への英気を養って下さい。
明日は日の出と共に集まる様に」
「「「はい!」」」
「・・・えっ?」
女性教官からのあまりの一言で、一瞬で絶望のどん底に落とされるシュバルツ。
残った体力を使って、中古屋へと駆け込む。
「た、助けてくれ・・、シルヴィ、ロート」
「どうしたんですか、シュバルツさん!」
「一体何があったの!」
今まで見た事のないシュバルツに、二人が慌てて駆け寄る。
「こ、殺される・・」
「「殺される!?」」
所変わってゴルドの定食屋では、笑い声が木霊している。
「いっひっひひぃいぃぃ、お腹痛い」
「プッ、笑ったらかわいそうだよ・・プッ、お姉ちゃん」
「二人とも知っていたのか・・」
冒険ギルドの討伐講習会での出来事を話したとたん、大笑いされたのだ。
「私もブートキャンプの卒業生だから」
「お姉ちゃんも、ヒドイ状態だったよね」
「ブート・・キャンプ?」
「討伐講習会の別名。戦士を作り上げるための訓練ね」
「そうなんだ・・」
「でもすごくありがたいんだよ?」
ロートもボロボロの姉を見ているだろうに、ありがたいと言う。
「どうして?」
「安全に効率よく、身を守るすべを身に付けられるから」
「そっか・・、覚悟が足りなかったのは俺だけと言う事だな」
「まぁ何も聞かされなかったんだから仕方ないよ」
「うんうん」
ランクEから受けられる上位薬草の採取依頼もある。
姉が自分のために討伐などの危険な依頼を受ける事無くランクEになれたのだ、感謝してもしきれないのだろう。
「それに地方の子たちは、ギルドで呂銀とや宿代とか食事代出るから。
町までの道も基本ギルドの職員と一緒だったと言っていた」
良く良く考えれば、あの少女たちはどうやってこの町まで来たのだろうと思い付きそうなものだ。
講習会の間かかる費用だって安くはない。各家庭は元より村からだって捻出するのは厳しいだろう。
「行かせてもらってるって気持ちもあって、みんな真剣なんだと思う」
「ん!? おかしくないか?」
「何が?」
話の流れから違和感に気付く。
「俺、全部自腹なんだけど・・?」
「ああ、町に住んでいる人は別ね。勿論、宿を利用している人とかは相談に乗ってくれるけど」
「俺、宿使ってるけど・・?」
「お金がない事を相談しないと駄目だね。ギルドだって経費は削りたいし、お金ありますか?ってわざわざ聞いたりしないよ」
「・・・そう言うもんか」
「そう言うもん、そう言うもん」
「シュバルツさん、ファイト!」
笑顔で二人に慰められる。若干面白がっている様な気もしないでもないが・・
次の日から日の出と共に集まって、ひたすら実戦訓練を繰り返す日々。
刃筋が立つ様になった者は、素振りから巻藁や人形を使った打ちこみになっていく。
数日後、全員が一定レベルの技能に達したと判断した女性教官は、次の段階に移る事を告げる。
「皆さん、この短期間で良く成し遂げました。これより次の段階に移ります」
「「「はい!」」」
「次の・・段階・・?」
シュバルツには、とても嫌な予感しかしなかった。
「明日より野外訓練に移ります」
「「「はい!」」」
「・・・野外訓練?」
「幾ら技術が磨かれ、人形を真っ二つに出来たからと言って、モンスターに勝てる様になった訳ではありません。これより実戦経験を積んでもらいます」
教官の言わんとしている事は理解できる。
しかし講習会が実戦まで含まれているとは考えが及ばなかった。
「安全で効率よくと考えれば、当然実戦は避けられないよな」
野外訓練では少女たちの更なる能力の高さに舌を巻く。
自分の出す足音や風向きを注意する。
身を屈め周囲に気を配る。
地面や周辺の草木の状態を観察する。
薬草採取も、死と隣り合わせだったのだろう。
教官から言われなくても、それらの事を行っていた。
それでも細やかな指示や注意がなされ、素直に従い技術を高めていく。
しかしモンスターとの実際の戦闘に関しては違った。
野外活動のスキルは高さは戦闘を避ける故で、実際の戦闘は経験した事が無いのだろう。
普段の少女たちからは想像できない程、緊張が読み取れた。
発見したモンスターに固まる少女たち。
引率の女性教官が、一瞬でモンスターを葬る。
「分かりましたか? これが訓練と実戦の違いです。
心が付いてこなくては体も動かず、訓練での成果など何の役にも立ちません。
言葉や訓練ではどうにもならず、ひたすら実戦による経験あるのみです」
「「「(こくり)」」」
声を出すのは敵に気付かれる恐れがあるため、緊張した面持ちで静かに頷く。
周囲を警戒し、モンスターを見つけては討伐して行く。
そして行軍は日の高い内に町へ戻る事にする。
「暗くなる、ましてや夜になればこちらの行動が制限されます。
逆に肉食系の動物やモンスターの多くは夜行性のため、暗くなればより強くなります。
町や村には明るいうちに戻ることを心がける様に」
「「「(こくり)」」」
もうちょっと、もう少しが運命を分ける事を厳しく戒める教官。
更に数日後、全ての生徒が教官が考えるレベルに達したと判断がなされる。
野外訓練から帰ると解散を告げずに、待機するよう命じる。
しばらくするとヴィオレットと一緒に教官が戻ってくる。
「皆さんは厳しい訓練を乗り越え、今日必要なレベルに達したと判断しました。
ここに皆さんの卒業を認めます」
同期の少女たちはお互い顔を見合わせ喜びを分かち合う。
「これよりレベルEの会員証を授与します」
一人ひとりに会員証を首にかけ握手をし、強く抱きしめあい喜びを表す。
「見事卒業した皆さんへ冒険者ギルドからお祝いの宴を用意しています。
ささやかですが楽しんで下さい」
ヴィオレットに案内され、講習室に用意された軽食や飲み物を各々摘まみながら今までの辛く厳しい講習会を振り返りながらも、卒業を喜び涙していた。
討伐訓練会の打ち上げがお開きになると、その足で卒業報告に中古屋へと向かう。
カランコロン-
いつもの扉の鈴の音を聞きながら中に入ると、珍しくヴァイスも来ていた。
「こんばんは、シュバルツさん」
「珍しいな、ヴァイスも来ていたのか」
「まあね、そう言えばランクEになったんだって?」
「ん? どうしてそれを?」
「・・・何となく?」
「何となく・・?」
「いらっしゃーい、シュバルツさん」
ヴァイスの言葉の違和感を問いただそうとした時、ロートが店に出てくる。
「こんばんは、ロート」
「ランクEおめでとうございます」
「ありがとう? どうしてロートも知ってるんだ?」
「うーん、何となく?」
ヴァイスはシレっとしていたが、ロートはしまったという顔をしている。
「二人とも・・」
「いらっしゃい、シュバルツさん」
「やあシルヴィ・・、なんか二人とも・・」
「ランクEおめでとう、今日はお祝いだね! シュバルツさんの奢りで」
「「おおぉ!」」
シルヴィの声に、ヴァイスとロートの気勢が上がる。
「・・ありがとう? 何で祝ってもらう俺が奢るんだ?」
娘の様な三人におごるのは吝かではないが、何か引っかかる。
ゴルドの定食屋で木製のカップが打ち鳴らされる。
「「「かんぱーい」」」
「かんぱーい?」
楽しそうな三人に対して、あくまでも疑問形のシュバルツ。
「なあ? 何でみんな俺がランクEになった事を知っているんだ?」
「「「何となく?」」」
「いやおかしいだろう。しかも疑問形になってるじゃないか」
するともう堪え切れないとヴァイスが笑いだすと、釣られてシルヴィとロートも笑いだす。
「ん? 一体なんなんだ?」
「まだ気が付かないの?」
「えっ!?」
ヴァイスがコロコロと笑うと、シルヴィが種明かしをしてくれる。
「私がギルドに薬草採取の報告に行った時にね、ギルドの職員のみんなが忙しそうだったから聞いてみたのよ。そうしたら討伐講習会の卒業式だって言うから、ね」
不慣れなウィンクに、あーっと天を仰ぐシュバルツ。
「もう速攻でヴァイス姉の所に言って、律義なシュバルツさんは店に来るだろうなーって、皆で待ってたって訳よ」
「なる程・・、納得した」
種明かしをされれば、何て事はない話である。
薬草採取で、ほぼ毎日ギルドに顔を出しているシルヴィなら入手できる情報だろう。
逆に言えば、この答えに行きつかないシュバルツの方が間抜けなくらいだ。
「まあ祝ってくれるのは間違いないんだよな?」
「「「勿論!」」」
三人の笑顔に慰められながらもホッコリとする・・
したのはホンの一瞬だった・・・
「じゃあ次は何時なのかしら?」
ゴルドの定食屋を出て直ぐにヴァイスが聞いてくる。
「トレジャーハンターになった時かな」
シルヴィが少し考える様に答える。
「登録だけなら明日にはなれるか」
「多分そうだと思うよ」
ロートは二人の悪だくみを、いつもの様に少し困った様な笑顔で見ている。
「何を考えてるんだ?」
二人の話している内容から想像はつくが、少し不安になって聞いてみる。
「シュバルツさんの、次のお祝いの計画よ」
「そうか・・」
「みんなで祝ってもらった方がうれしいでしょう?」
「確かにそうだな」
ヴァイスは少し寂しそうな顔をする。
「一人より皆と食べた方が、ご飯は美味しいのよ?」
両親と離れて暮らす彼女の今の生活を思い浮かべ、何も言えなくなる。
「奢りなら尚の事、美味しいのよ!」
雰囲気を壊すためとはいえ、あまりの一言に開いた口がふさがらないシュバルツだった。




