表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

長い帰り道

作者: 三日月 さよ
掲載日:2016/07/03



「東京都心部は今年初の猛暑日を迎えました。水分をしっかりとって熱中症に気をつけてください。」

猛暑日、か。

地元の北海道ではめったになることがなくて全然なじみがなかったけど

もう上京して四年。

あついあつい言いながら、涼しいビルに逃げこんで暑さをやりすごすのにも慣れた。

でも

このもわっとした暑さは、なんだか切なくなる。

あの夏みたいで。もう5年前の。戻れない夏。



「I dreamed a dream and time gone by~♪」

自転車をこぎながら

最近の自分的はやりの曲を歌う、いつもの帰り道。

いつも坂道をブレーキもかけずに風を切ってはしりぬける。

「ん?」

なんだか一瞬風が変わった気がしてまわりを見渡すと

なにも変わらない景色。街並み。家。空。

でもなんだか違う。

思わず自転車を止めた。

だって風がむわってして、変だ。

それに

ひとがいない。

うしろをむいても風と人以外は一緒。


「まあ、気のせいだよね。」

独り言をつぶやいてわたしはまた自転車を漕ぎ出す。

曲がり角を曲がって止まった。

というか止まらざるを得なかった。

だって

そこはな何もかもがちがったから。

「うそじゃん…異世界トリップってやつかよ…」


鮮やかすぎる街並み。

それに負けないくらいの色とりどりの髪、肌、目の人たち。西洋人っぽい。


でも

気づいた。

だれも動いてないし音もない。

おそるおそる自転車を置いて歩き出して驚いた。

私がいた一角だけが、いつもなじみのある街並みで

それ以外の場所は全部、異国みたいだった。ゴーストタウンみたいなだけで。

歩けど歩けどそんな調子でどうしたらいいかわからない。

一日ぐらい経ってもどこにも生きてる人はいなくて

おなかもすいてつかれきったわたしは座り込んだ。


「あ~もうなんなの。」

「夢なのかなーだったらはやくさめてよ…」

自分でもなんでこんなに平然としてるのかわからないけど

だって普通こういうときってパ二くるものじゃん?

わたしって肝が据わってるらしかった。

こんな土壇場で気づくなんてね。


「おい。」

「え?」周りを見る

(え、だれがしゃべって…?)

「きみはだれなんだ?」

むこうから綺麗な銀髪で、ブルーの瞳の男の人が走ってきた。

(第一村人発見だ…!)

「ここでなにをしているんだ?」

「えっと…あの…わたし、よくわからないんですけど…ここにどうやってきたのか」

「とりあえずここを離れたほうがいい。」

「いや、あの、わたし帰りたいんですけど。離れたらどこから来たのわからなくなるし。」

「…きみも自分の時間を止めたいのか?」

怒ってるっぽいけど

言ってることがわからない。

「え…?」

「とにかくはやく、こっちへ。」

シーツみたいなので包まれて、馬に乗せられた。

とりあえずよくわからない。

でももう訳わかんなくてどうしようもないし。

「詳しいことはちゃんと説明するから。きみはきっと”女神のきまぐれ”なんだろう。」

「あの…ここってどこなんですか?」「…」

馬を走らせている間、彼は無言で私も本当に久しぶりの人肌でうとうつしてしまった。


「ついたよ」

「あ、ありがとうございます。」

「俺の家だ。」

さっきの都市とはうってかわって、森の中のちいさなおうちだった。

彼はすたすたと先に家へと入っていった。

そろそろとあとをついていく。

「とりあえず座ってくれ。説明するから。」

「あ、はい。おねがいします。」

指示された椅子に座る。

彼も向かい合うように座って

「急に連れてきて済まない。あー俺の名前はアルフレッドだ。」

「わたしは優衣です。紺野優衣。」

「ユイか。きみは髪の色とか服装から見て”女神のきまぐれ”だ、と思う。黒髪はこの世界にはめったにいないんだ。」

「はぁ」

「”女神のきまぐれ”っていうのは、この世界に迷い込んできてしまった別の世界の人の呼び名なんだ。詳しいことはわからないんだけどね。」

「あの…」

「ああ、聞きたいことがあるのはわかるけど、俺の話を一通り聞いてもらってもいいかな。たぶんだいたいの疑問は解けるから。」

「あーはい。お願いします。」彼はなんだかすごく疲れているみたいで、すぐにうなずいた。

「この世界はね…」

彼の話を要約すると

ここは別世界らしい。あの時間の止まった街並みは、5年前のある出来事は原因らしい。

この国は王政なんだけど、賄賂だの、なんだの、政治が荒れていて有体言うと反乱が起きそうだったらしい。それに対して国王が片っ端からつぶしていってもうそれはひどかった。

この世界には神がいて、結構現実世界に影響力を持っていて、国王に干渉したらしい。止めるようにと。

でもやめなし逆に神殿やら神域やらを破壊していった。

神は怒り狂ってこの世界に試練を与えた。

でもその試練に失敗した結果、この国の時間は止まってしまった。本当に。

なんで彼が生きているかというと、人の時間が止まっていくのはランダムでいま残ってるのか彼って訳。神殿の手入れをして神に祈って、たった一人で生きているらしい。最後に人に会ったのは2年半前。世界中まわってさがしても生きている人には会えていない。

そんな話が終わって

「きみが2年半ぶりのひとなんだ。」ははっと笑う彼はうれしそうでそれでいて切なそうだった。

「きみはね、帰れるよ。というかきっと帰すから安心して。」

「あの、どうやってですか?」

「俺はもともと宮廷で”女神のきまぐれ”の研究をしていたんだ。きみのために俺はここにいるんだっていう気がするよ。ただ少し時間がかかるんだ。1か月くらいかかるかな。」

「きみはここにいればいいよ。」



こうして彼との

毎日が始まった。

彼は家事が本当に笑っちゃうくらいできなくて、そういうことをわたしに任せてもらった。

アルフレッドさんはいつも難しい顔で机に向かっていて、たまにふらっと出て行ったりするきまぐれな人だった。時間を忘れちゃう人で私が声をかけなかったら食事も忘れちゃうような感じだった。

(このひといままでどうやっていきていたんだろう…)

わたしのごはんをおいしそうに食べてくれて、たまにお花を摘んでわたしにくれたり、なんだか楽しかった。毎日があっという間で気づいたら明後日には約束の一か月が終わりそうになったある日。

いつも通り夜ご飯をつくっていると、ドアが乱暴にあいた。

(アルフレッドさんかなあ…でも彼ってもっと丁寧なひとなのにどうしたんだろう。)

玄関のほうに行くと、うずくまってるアルフレッドさんがいた。

思わず駆け寄って

「アルフレッドさん!どうし…」

口元抑えている手から赤い何かが見えた。血だ。

「なんで…はやく手当を!」

「まって…」

「なんですか?はやくベットに!」

「きみは明後日帰れるよ。女神が約束してくれたから絶対だ。」

それだけ言ったアルフレッドさんはわたしに倒れこんだ。

「そんなこと…!」


暖炉の前に引きずるようにしてつれていって、毛布をかけた。

それ以上何もできない自分に腹が立った。

(いつもこうじゃない!わたしはいつも人の流れに従うだけで。自分の気持ちも無視してただ人が用意してくれるレールを進むだけ。この人はこんな私のために命を懸けてくれるなんて。)

ふと彼のコートに入っている小さな本が目に入った。

「願いのかけ方」

(なんだろ、聖書みたいなことが書いてある…神がこの世界を作り出し…女神との間に人を生み出した…次々に試練を与える神はその息子、娘である人間に一つだけ助けの手さしのべた…その人間の魂が潜在的に叶えうる願いで人のためを思うものなら一生に一度だけ願いを叶える…命を引き換えに…)

「あぁ、その本を読んでしまったのか。」

「アルフレッドさん…!」

「俺は最初、国が元通りになることを願ったのに叶わなかった。魂の潜在的な力とやらが足りなかったらしい。だから君のために使うよ。国がこんなになる前もこんなに幸せな穏やかな一カ月はなかったんだ、君のおかげさ。」

「でも…わたしはあなたに命をかけてもらえるようなひとじゃない!会ったばかりだし。」

「ほんとに…?俺はユイのことをずっと知っていた気がするよ。」

「え…?」(わたしもそう感じるけど…)

「明日までの命だからいうだけ言わせてもらうよ、忘れてくれてかまわない。ユイ、君のことはずっと知ってる。前世で出会っていたのかもしれないね。

初めから大切に思ってるよ、そうじゃなかったらここまでしていない、だろう?

きみが好きだ。」

「アルフレッドさん。」おもわず顔が赤くなる。

「さ!君は早く寝たほうがいい。起きたら元の世界にいるよ。」

いとしいものでも見るかのような目で見つめられる。

その目を見つめていると、ひとつの言葉しか浮かばなかった。

この一カ月一度も泣きたくならなかったのも、最初についていったのも、全部この気持ちだったんだ。

「わたしも好きです。」

ここで気づくなんてばかだ

でもあと一日あるから遅すぎはしないと信じたい。

自然を唇が重なる。

「帰るまで…」

「ん?」

「帰るまで一緒にいてください…私に思い出をください。」

「…わかってて言ってる?」

「もちろん」

彼が泣きそうな顔した。

「ユイ…」

「アル…」

外では静かに女神の象徴の月が輝いていた。


屋上でぼーっとしていてそんな昔を思い出した。

優しく優しく私を抱いてくれた彼のその後はわからない。でもこれは夢じゃない。

あのときの自転車は戻ってきたらなくなっていて、私は数日道に倒れているところを発見されてこれから1カ月間眠っていたらしい。

「紺野さん~!もう昼終わりますよ。」

「あ、ありがとう。」

なぜか涙浮かんできて、慌ててぬぐう。

あれから四年間、自分のやりたいように一生懸命生きてきた。彼に愛してもらった自分を大切にできようになった。

もう一度会えるなら、また何度でも言いたい。

「好きです。」と。

そして私にも一生に一度の願いがあるなら願いたい。

「彼の世界の時間を動かしてほしい

彼の時間も止めないで、たとえわたしのことを忘れてしまっても。」と。


生ぬるい風が吹いて

彼と生き生きとした街並みが見えた気がする。

彼はびっくりしていて

「ユイ…!!」

痛いくらい強く手をつかまれて、そのぬくもりにわたしは微笑んだ。



聞こえた気がした。

『あなたの願いを聞き入れましょう。あなたのもとの世界での命を引き換えに。』


アルフレッドと唇が重なって一筋の涙が流れる。

泣きたいくらいに幸せ。ここがずっと昔から私の帰るところ、あなたの腕の中が。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ