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吸血鬼リグルスの過去

「は!?リグルス、お前今何歳だ?」


「俺は永遠の18歳だ・・!」


現実逃避し、自分の年齢を認めたくない様子のリグルスは突然開き直ったようにキリッと司令官に年齢を告げた。

その直後に特大のげんこつが彼を襲ったのは言うまでもない。


「・・・本当の年齢は?」


「ふぁい・・・1800歳でふ・・」


「それはもう若いんだか、老いてんだかわからねえな。吸血鬼は一万年か不老不死と言われてるし、俺の知り合いのやつは一億歳なんて言ってやがるが・・・まあ、いい。

取り敢えず、お前の兄貴がセルシアなんだな?なら、俺らを狙う口実もできたわけだ。よし、エゼル。やっていいぞ!」


え?と疑問に思うような一言。

それもそのはず、さっきまで頑なに拒否を続けていた司令官が突然、優しい大天使のようになったのだから(エゼル目線)


「どうしてです?この危機的状況にまさか頭がいかれましたか・・・いい精神科を知ってるので教えてあげますよ」


「・・・おいコラ!違うわ!俺がさっきまで悩んでたのは、《涅槃の強者(ニルヴァリン)》を倒していい口実だ。

国が完全に保護してる奴らを理由もなくぶっ倒せばおれらは牢獄確実だ。

理由があんなら、リグルスを守るためにも俺らが身を守るためにもぶっ殺す必要がある!それに・・・自分の担当チームを守れねえようじゃ、ただのチン○スだろ!」


司令官は記憶を探りながら言葉を発しているように見える。その表情はどこか悲しげで、目は下を向いていた。


「なんでナレーション役の人は突っ込まないの!?チ○カスとか下品だよね?!僕、下ネタとか発作出るんだけどォ?!」


いやー、そこはスルーでいいかなって思ったんです。すいません、てへぺろ。


「そこで謝るんじゃなくてナレーションしてよ!まっっっったく!!」


とエゼルは憤怒の表情で独りでに話しているのだった。怖い。


「オイ!!!」



「エゼル君、何独りで寒い茶番劇してるんです?」


ぐさっ。


「いや、何でもないよ……取り敢えず、頑張ろう。何だっけ、セルシアだっけ。その人倒すためにさ!」


チトの何気ない毒舌を予期していなかったのか、エゼルの柔い心にクリーンヒットし、貫いたが、何とか持ち堪え、意識まで飛ぶことはなかった。


「意識までって・・・あっ、それで、リグルスは何で兄貴に殺さーー」


「え、ちょっと待て。リグルスとセルシアが兄弟?は?嘘だろ・・・嘘だと言えエエエエエエエ!!!」


今更ながらの司令官のツッコミ、もはや遅過ぎて誰も反応できなかったレベルである。若しくは、しなかったが正解であろうか。


「マジかよ・・一度だけ会って話したが彼奴がお前の兄貴?

吸血鬼って種族なのは知ってたが、血の繋がった兄貴ってのは初情報だな……んで、お前は何で兄貴に殺されるんだ?普通なら兄弟は愛すべき対象だろ」


「あっ、それ僕のセリフ!取るなよオイ!!!」


"司令官にタメ口とはどういうことだ"と頭に巨大なげんこつを食らったエゼルはさておき、リグルスは深呼吸して心を落ち着かせると話し始めた。


「すうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・うえっへっはぁ………」


「吸いすぎだわ!ナレーション通り動け!アドリブ酷すぎるだろお前!」


と全然フォローになってない司令官の一喝を受けた彼はその一分後に話し始めた。


((ナレーションの奴、ぶっ殺してやる))


殺気を感じた。怖い。


***



「実は俺が生誕一千年を迎えた時の誕生会の日に、家族で誕生日会をしたんだ」



ーー遡ること八百年前。



「生誕一千年となるとそろそろ我々高位種族の吸血鬼にとって成人として巣立ちが許される時になりましたな〜!さあ、誕生日会を始めるとしましょうか!」


この日、誕生日会の主人公になれた俺は舞い上がっていた。

今日だけは皆が俺を見てくれる、そんな気持ちさえあって浮かれていたのかもしれない。


「おめでとう!」

「良かったわね!これでお兄ちゃんを越せるわよ!」

「セルシアも祝ってくれてるわよ」


隣には自分の母親である人間。

取り囲むように父親、親戚の吸血鬼達が居て、彼らは全員一億歳を優に超える吸血鬼の中の貴族と呼べる高位の権利を持った者達だ。

全員、ワイングラスを片手に誕生日会を楽しんでいるようで俺は安堵した。


勿論、兄弟であるセルシアもその場にいて、貴族達と楽しそうに会話をしている。時折、此方を見て、笑顔で手を振り俺が飽きていないかの確認をしてくれていた。完全に飽きていたら外に連れ出してくれたのだろうか。


「セルシア!お前は私の跡取りとなる吸血鬼なのだからな!近いうちに人間共を狩り尽くして吸血鬼の有能さを世界に広めようではないか!」


「はい、お父様。」


俺の父は所謂、最強の吸血鬼にして種族の長とも言える存在で兄貴はよく、褒められていた。

兄貴であるセルシアは、何処かクールでそれでも優しく頼れる完璧人間のような兄貴。


ただ、誕生日会が終盤になるに連れて俺は飽きを始めていた。

兄貴は、どこかへ行っていたのかもしれない。ただ、その場にはいなかったと思う。



ーーその時だった。

自分の飲んでいたワインの味に違和感を覚えたのは。

自分の殺気が異常な程に湧き上がったのは。


気がつくと目の前に立っていた額に傷のある青年が不敵な笑みを浮かべて俺に一言。


「君はこの種族の滅びを願っている。

そうだよね?だって君の憎しみの心はこれだけ赤く黒く染まっちゃってるんだからさ」


彼の言葉が聞こえたと同時くらいに、俺は意識を手放していた。

意識を取り戻したのは、真っ暗で生臭い匂いを感じた時。

辺りを見回す限りでは、灯りの消えた誕生日会会場の宮殿の至る所には血液が飛び散り、ケーキも椅子もテーブルも壁も壊されて残酷な異臭と沈黙が辺りを彷徨っている。


その沈黙をかき消すように、兄貴が涙を流しながら嗚咽を吐き出し憎しみの様子で俺を見つめていた。

今でもあの目は忘れられない。



そして、自分の体に付着した大量の血液の中で吸血鬼としての俺は溺れ死んだ。

新たな道を歩もうと、魔人として生きることを決意した。

自身の力で、額に傷のあるあの青年を見つける。それだけを胸に秘めて。




***


「つまり、お前が意識を手放した間に種族を壊滅させたと?だから、憎しみを込めてセルシアはお前を殺したいってことか。

話の筋は分かったよ。

んじゃ、口実出来たな!」


彼は、司令官の嬉しそうな言葉に少しだけ疑問を覚えつつも、"ありがとう"と涙ながらに嗚咽の言葉を漏らした。


司令官に続くように他の四人も自分の言葉を述べ始める。


「僕もリグルスを守るよ。本当の兄弟なら話を聞いて分かってくれるかもしれない!その可能性にかけてみて、駄目なら戦えばいい!その傷の青年も気になるしね!僕は戦うよ!」


「私は、身内とか知らないけどリグルス君。同じ班の仲間でしょ?大丈夫、どんなにお兄さんが強くても皆で頑張れば大丈夫!チトも協力するよ!」


「こんなことになったのは俺のせいでもあるわけだからさ。勇気出せば女の子も強さも掴み取れるって!頑張ろうぜ!相棒!」


「昨日から思ってたことがあるの。

昨日初めて出会ったのに出来すぎじゃないかしら?友情なんだか知らないけれど、ここまで早く仲良くなっちゃう班があるんだから、ずっと過ごしてきたお兄さんが説得で絶対理解してくれないなんてありえないわよ。

私も協力させてもらうわ」


それぞれがそれぞれの本心を口にした。

昨日出来たチームだが団結力は高いようで、全員の目はまっすぐ前を向いている。


司令官は気合いを入れるように叫んだ。


「さあ!そうと決まれば、セルシアの住む城に特攻するぞ!殺られる前に殺れだ!」


と、言葉に合わせて拳を掲げる六人の様子を近くの気に止まっていた蝙蝠が見ていた。

眼の部分に小さな魔法陣が薄っすらと浮かび上がっており、蝙蝠が目に捉えた様子を水晶に中継で映像を回しているようだ。


巨大な城の塔には、巨大な水晶玉で映像を見ながら必死に笑いを堪えるも堪えきれずに吹き出してしまった男が一人。


「プッ・・・ククククク・・・ヒャハハハハ!!!あり得ねえ!たった六人で俺を倒す?お父様を超えた俺の力、一族の復讐心と共に彼奴に見せつけてやんよ!」


「あらあら・・・ダメよ。貴方が出るまでもないわ。今回は私達が協力しているのだから黙ってその小さな水晶で見つめているといいわ。あの六人の死に様をね!ふへへへへ」


赤色の長い髪を腰下まで伸ばし、彼女は妖艶に笑う。不思議にも彼女の瞳は左右対称で右が黒、左が赤い色をしている。

灯りの付いていない真っ暗な城からは赤と黒の忌々しい光と笑い声が飛び出て行った。



嵐のように吹き荒れ始める空。

まるでこれから起こることを予期しているようだった。

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