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不穏な影

「ここが、お前たちの言っていた龍研究所だ。見たところ、バリケードも壊されていないな・・」


司令官は何やら顔を横に傾けてブツブツと独り言を口にしながら考え事をしている。

恐らく、龍が消えた理由についての持論をまとめているのだろう。


「司令官、ここって入れないんですか?」


「嗚呼、ここは私有地だからな。ここの主の許可無しでは入れないんだ。まあ、特別に入る権利を持っているとするなら《元老院》くらいだ。」


エゼルは残念そうに肩を竦めた。

元老院に"頼る"のは最終手段、創造主が出来ないことはないからである。


「まあ・・空かないよね・・」


諦め気味でバリケードに手をついたエゼルは、何故かそのまま壁をすり抜けた。


「えっ、って、あれえええ!?!?」


他の五人からしてみれば、突然エゼルが消えたように見えたので心配で焦ったが彼の叫び声で状況を何となく把握して、胸を撫で下ろした。



「そ、そういうことか!」


司令官が全てを理解したような口ぶりで大声を上げる。

どうやら、幻影を見せられていたようだ。

となると、王宮前の噴水も同じだろう。

それに気づいた司令官は焦ったように声を上げた。


「なら、王宮前に俺の沈めた龍はまだ・・居る!それに、俺が犯人なら最大の敵が居ない時に龍を回収に行くだろ。今、王宮前に居るはずだ!」


「はい!」


直後、エゼルは、速度強化(スピード)を自らの足に纏わせ、一瞬でその場から消えた。

光り輝く閃光の如く、その速度は目で捉えきれず、彼が通った後は嵐のように突風が捲き起こる。

王宮前に到着すると、異変が無いか周囲を見渡すも異変は無し。

ただ、自分が今立っている場所が少しだけ宙に浮いているのが確認出来た。

結果的に分かることは、龍は自分の下にいて噴水も破壊されたままということ。

龍研究所と同じ幻影魔法での視覚妨害は間違いなさそうだ。


「犯人は居ない・・か」


ガサガサッと脇に生えている綺麗な四角い形に象られた植物の方から音がした。

中から出てきた黒いマントを身に纏う男は「ま、まずい!」と焦り、エゼルから逃げるように走り出す。


「あ、待て!!」


しかし、彼の現在の速度から逃げ切れるはずもなく、黒マントの男は以外とあっさり捕まってしまい、近くの木にロープで拘束されて、五人の到着を待つ彼から逃げる術が無いかを一生懸命考えていた。


そんなにあっさり逃れる方法が見つかるわけもなく。


「おう!エゼル、そいつが今回の犯人か?」


後から到着した司令官を含む五人に状況説明をすると、

司令官は納得したように頷き、木に縛られている男に拳を振り下ろそうと掲げた。


「ぼ、暴力はやめてくれ!お、俺は何もしてないんだ!龍なんか知らない、幻影魔法で幻を見せていたとかそんなことは決してしてないんだよ!」


一発殴って重要なことを吐いてもらおうと思っていたが、男の自爆で情報は掴めそうなので拳を男の眼の前で止めた。


「も、もう死んでも口は破らねえ!」


自分が嘘をつけない性格だと知っていてのフラグ立てなのだろうか。

男は、目を瞑って無心になった。これから受ける仕打ちを耐え凌ぐ一つの方法として。



「んで、お前は何がしたかったんだ?」


呆れたように一つ、問いかける。

返ってきたのは完璧なフラグ回収。


「い、いや、けっ、決してセルシア様の命令でお前らを殺そうとかそういうことはしてないんだぞっ!そういえば、お前は嘘をつけない性格だから絶対に捕まるなよって言われたなー。あっ!!!今のは全部、う、う、う、嘘だよ!信じるなよな!」


司令官はこの男の言った"セルシア"という名前には聞き覚えがあった。

会った回数は一度のみ、話した時間は五分ほどだろうか。頭の中でセルシアという名前の人物に該当するデータを掘り出し、次には可能性まで考え始めた。


「セルシアって誰ですか?」


「ああ、セルシア・シルディンと言ってな。昨日の面接で来てくださったニゲル様と同じ《涅槃の強者(ニルヴァリン)》の一人で、最悪の魔人(デビル)と呼ばれている。《無限人格》のセルシアって言って、相当な強者だぞ。」


((司令官にここまで言わせるか))

一同は、誰に狙われているかが明確になると辛辣な表情で俯いた。


「セルシア様はお強い方だ!未来の国王様と言っても過言ではない!ふはははは!お前らはセルシア様に目を付けられてしまった哀れな井の中の蛙だ!ざまあねえ・・・ぐふっ・・がはっ・・!や、やめ・・・!!」


彼らの俯いた表情を嘲笑し、調子に乗ってしまった男は煽り文句を吐き始めた。

この言葉が自分の運命を左右することになるとは知らずに。


「うるさいわねえええ!!」


周りが冷静になって煽りに乗らないように平然を装っていた最中、完全にブチ切れてしまった怒らせてはいけない女性が一人。


彼女は怒った表情で地面に腰を下ろし、手と身体を拘束された男の顔面に足を何回も何回も踏み下ろす。茶色い皮のブーツを履いている彼女の角ばった踵が直撃する度に男は嗚咽を漏らし、鼻血を垂らしている。


「・・・いや、も、もうっ、ほん、とごめんな、さい!ゆ、許してください!お願い・・げふっ、ぁぁぁぁ、ぐあぁぁぁぁ!!」


男も流石に命の危機を感じたのか、必死に命乞いを始めた。しかし、今更彼女に何か言葉が届くはずもない。

踏み蹴りは留まることを知らず、男は嗚咽と叫び声を上げながら白目剥き出しで気を失い、倒れた。


男の撃破に伴い、破壊された噴水とあらゆる靴跡が付いた真っ白な龍が伸びた状態で現れた。研究所のゲートも元に戻っただろう。


「もう終わり?つまらない男ね、もう少し私を楽しませてくれる男になったら、もっと踏みにじってあげるわ」


ふんっ!とそっぽを向いて長い髪を手で払う仕草をすると、伸びきった白い龍の上にポンと座り、足を組んで視線をどこかへ移した。



「なら、セルシアという方を僕達が倒せばいい話じゃないんですか?」


「それが出来りゃ一番いい考えだとは思うがな・・千年に一度の戦闘狂だ。数万人をワンパン出来る男だぞ?今のお前らでは束になっても勝てっこない!」


「そんなのは、やってみないとわからないですよ。それに僕達、やっと魔王武器(サタンウェポン)を身につけることが許されたんです。任せてください!」


それにしてはいきなりの相手が、《涅槃の強者(ニルヴァリン)》ともなると流石に司令官も許可を出せる範囲ではない。

顔をしかめて、無言になった。


「でも、僕らが行かなくてもどうせ来るんですよね?どうして目をつけられたのかは知らないですけど・・・」


「そうだな・・戦いは免れないな」


二人の会話を割って妨げるようにリグルスが恐怖に怯え、震え始めた。

表情も目線も俯き、肩と足はガクガクと震えている。


「おい、どうした!」


司令官が心配の声を上げても、彼には届かない。そして、彼は言った。

恐怖の原因を、震えの原因を。


「・・・セ・・セルシア・S(シルディン)・ブラッドは俺の兄貴です!彼奴は800年ぶりに殺しにくる・・なんでだ、どうして・・くっそおおお!!」


怒りと悔しさの混じった声は、さっきまで快晴だったはずの青い空を黒く染め上げていった。。


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