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僕の消滅魔法にひれ伏せ!!

ーーー


「………身体の損傷。

腕も脚も…動かない…!

なのに…力が溢れ…て…」



穴の空いたフィールドの中で彼は呟く。



ーーピキピキ。


鉄の硬いものにヒビが入る音。



「なんでだろ…。

こんな…死に…そうな、痛いのに…僕の力が……!!」



それは大きくなり、破壊音へと。



ーーバキンッ!


彼の体内にある南京錠の一つが破壊された音。瞬間的に溢れ出す力に、彼の動かないはずの脚、腕、体は自然と治癒されていこう。



「まさか、これが僕本来の力に近くなったっていうこと!?」



力は彼に魔法を与えよう。

身体能力強化魔法(ストレング・スニングス)以外の強力な魔法を。



消滅魔法(ロスタリア・マジック)……能力消滅(スキル・ロスト)!」


穴の空いたフィールドを宙に浮き、上から見下ろしているエトは異変に気がついた。

ズタボロで倒れていたはずのエゼルが見当たらないのだ。


魔法をモロに食らって消滅したかどうかは、自分の目で彼の生存を確かめた時点で疑うべきところではない。


ーー瞬間。

気配なき場所から、白く黒い残酷なオーラを纏った矢が彼の背中に突き刺さった。

大したダメージではないので特に気にもせず、そのまま背中から矢を抜き捨てる。



「な、何だよこれ…!

……ッ!?エッ、えええええ!?」



宙に浮いていたエトは、空中で身体を維持することが出来なくなり、穴の中へと落下していく。

咄嗟の出来事に頭で考えている余裕もなしに、彼は穴の空いたフィールドの壁。

ゴツゴツとした土と岩が入り混じる層に手をつけ、手の痛みに耐えながらも急ブレーキをかけながら地面へと何とか着地した。



「まさか……!?

治癒(ヒール)


……やっぱりか…!

魔法が使えない…」



治癒魔法が使えないことで確信がついたのか、彼は魔法が使えないことに気がついた。

恐らく、先程、背中に突き刺さった矢が原因であろう。


ーーだが、エゼルの姿はまるで見えない。

気配も消しているのだろうか、この感じは、そう。消滅だ。



「これが……僕の力…!

消滅魔法(ロスタリア・マジック)!」



魔法を失った魔人ほど、弱いものはいない。

身体能力が人間よりも上だとは言えど、エトが前にして敵として見ている相手は残念ながら立派な魔人で、それも自分の身体能力を自由に強化できる魔法の使い手だ。

何よりも問題なのは、"存在しないこと"



「姿形が見えない状況下で、魔法が使えない状態にされるのは……まずい。

コレじゃ、まるで誘導されてるみたいだ…!


けど、俺にはもう残された力はそれしかない。なら、望みを叶えてやるだけさ」



背中の紋章は、煌めきの光を灯そう。

光は力に、心も臓器も骨も体も全て、


魔王武器として進化を遂げる。



「諸刃の剣にして最強の矛!

今、俺の身体は朽ち果てようか!!


来い!軍神王(オーディン)

その力を示そうぞ!!」


彼の背中の紋章から生成される金色の鎧。

それらが全て、体の一部分から生成されるように装着されると、彼は臨戦態勢へ移行する。


今から、彼の目の前に現れた相手を簡単に抹殺するだけの力を携えて。




「いよいよ、本命!

エトの魔王武器との勝負は、きっと消滅を使っていても伝説という名の武器が、僕を見つけてしまうんだろうな…!


なら、正々堂々と消滅はナシさ」



完全装甲型(フルアーマー)の姿をしたエトと真逆の位置へ、彼は現れた。

自らの姿を、観客と全員の目へ。



「……ッ!?

極大魔法と俺の魔法を連続で喰らっておいて、何で無傷なんだよ!?


てか、その姿……お前、誰だよ」


彼の姿は、"いつものまま"とは一変している。

髪は黒から白に、眼の色も黒から白に。

地味な感じの彼は、普段から影が薄く、その存在を見失うほどのものだったが、今の彼にはそれがない。

観客席に座っている客もエトも全員が彼の顔を当たり前のように覗けるようだ。



「心外だな。

僕はエゼル・シスタだよ。


容姿に関しては、僕も正直驚いてるけど、影の薄さに関しては"それだけ"コントロール出来るようになったってこと。

僕はどんな時でも忘れられる存在じゃなくなった、影の薄さを失ったわけではないけれどね」



現在のエゼルは、自分自身の影の薄さをもコントロール下におくことが出来るので、前のような悩みはもう無い。

"勝手に消えてしまうのではないか"という深刻な悩みは。



「……僕の消滅魔法(ロスタリア・マジック)にひれ伏せ!!


消滅神よ、僕はもう消えない。

消滅することが生きる意味だった僕は、もう君と一生友達になれる権利を得たんだ!


だから安心して、僕に力を貸してよ!

消滅神(ロスト)!!!」



霧のような灰色の蒸気が彼の身を纏うかのように現れれば、目を疑う速度で「ソレ」は鎧に変化していこう。



消滅神(ロスト)


完全装甲型(フルアーマー)



枷が外れた影響か、鎧の形と色まで変わっていた。

白と黒が入り混じった蠢くオーラが纏わりつく、銀色の装甲はいつにも増して穏やかではない空気を周りに与える。


ーーー


完全装甲型(フルアーマー)同士の戦いは、完全に自分に宿る魔王のスペックで勝敗が決まる。この世界は残酷なんだよなあ。」


観客席付近の《涅槃の強者(ニルヴァリン)》特別席では、9人いるうちの二人だけが席に出席していた。

他の7人はどうやら任務があるようで、ミルキィ・テリーヌとセルシア・ブラッドのみが試合を閲覧していた。



「あら、そういうセルシアも魔王武器に関してだけで言うなら残酷な世界を創り上げてるようなものじゃない?

普段、使ってるのは、上級魔族の魔王武器だけど、自分の根白に隠されてるアレを出してきたら相当ヤバイわよ?」


やや苦笑めに彼は反論しよう。


「そういう、ミルキィも同じだ。

君の持ってるその刀、本物ではない…だろ?


本物はどこに隠してあるんだか知らないが、任務の時くらいはマトモなのを付けてきてくれると嬉しいよ、俺は。」


ムキィィィィ!!とお怒りになったミルキィを他所に、彼は試合を観戦しよう。

現在、相手の出方を両者が慎重に見計らい、硬直状態になっている試合を。



ーーー

エゼルの出方がわからない以上は迂闊に動けない。

普通の魔人で、慎重派ならそう考えるだろうが、今、フィールドに降り立つ少年らは違うようだ。

両者共に地面を蹴り、目標に向かって発進しよう。

速度は申し分なく、両者共に同レベルだが、戦闘能力はどうだろうか?


「はぁぁああああ!!!」



エトの鋭い拳は彼の顔面を捉え、確実に貫いたーーー


身体能力強化魔法(ストレング・スニングス)初伝…草薙の剣!」



ーーように見えただけで、彼は貫かれてはいない。

エトに見えたのは、初速による素早い動きで作り出された分身。

それはまるで本物のように見え、"捉えた"という状況を作り出し、相手を油断させてしまう。


ーーその瞬間に漬け込むために。



「僕は……極大魔法とか大きな物は出せないけど、やっぱり、この世で一番強いのは身体能力強化魔法(ストレング・スニングス)だから、僕はこの魔法で君にトドメを刺すよ!


はぁぁあああああああ!!!

身体能力強化魔法(ストレング・スニングス)、極伝……疾風迅雷(しっぷうじんらい)!!」



彼の速度はまさに疾風、拳を前に出して腹部がガラ空きになった無防備な相手を彼は逃すわけもなく、疾風の如き速度で彼の腹部を蹴り上げる。速度は重さ。

そして不思議なことに、エトの腹部へのダメージは完全装甲がないような程の極大なダメージだった。



「……ッ!!

ぐあっ……!!」


魔法が使えず、魔王武器による魔力供給はあるが、それも意味はない。

蹴り上げられて、ダメージを負ったエトに落下していこう姿で出来るのは、自分を負かす青年の勇姿を見届けることしかなかった。



エゼルは無防備なエトの背中に、雷を纏う迅雷の如き、かかと落としをお見舞いすると、砂煙と地面が割れる音が再び、会場を包み込んだ。



「はあ…はあ……!!」



「クッソ……なんで完全装甲が機能しない…!

ダメだ…もう立てない。


エゼル…負けたよ。

ありがとな…」



歴戦の猛者は眠ろう。

新たなる猛者の誕生を祝うように、ヒビの入った地面の中心で、彼は意識を手放した。



「かっ、かっ……勝ったぁぁああ!!」


あまりの嬉しさに拳を強く掲げ、彼は一思いに叫んだ。

観客席側からは拍手と歓声が鳴り渡り、速すぎて見えなかった勝負を呆然と見ることしかできなかった実況者勢はマイクを持って大きく震えた。



「しょ、勝者!!

エ…エゼル・シスタぁぁぁ!!!!」



この優勝から彼の夢は始まりを告げようか。


優勝は、エゼル・シスタ。

彼の豹変に驚く者もいたりが、

黒闇はどこかで不敵にも嗤った。


目醒めは容易だとーー。




涅槃魔闘演戯編の終了です。

次回からは打って変わって、少しだけシリアスになります。

次回突然シリアスになるかどうかはまだ分かりませんが、謎の多い司令官の……おっと、これ以上は言いません(笑)


レビューや感想、注意してほしい所などありましたら、twitterか感想欄、レビュー欄にお願いします。

ストーリーと文章評価の採点だけお願いしたいです。


長くなりましたが、これからも応援の方よろしくお願いします!

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