自分の価値観で自分を責めるな!
「グォォォォォォォォオオオオオオ!!」
イグニールの咆哮は天にまで轟き、巨大な炎の渦を目の前に発現させた。
これであればどんなに見えない敵であろうと、隙のない渦に呑まれないことはない。
「あの渦厄介だな。っていつもの僕なら考えに考えて炎という物質を超えた速度で忍び込むことを考えるんだろうけど、今回の場合、それが必要ない!!
先手必勝で突っ込むのが一番の得策!」
彼の右手には刃の無いナイフが握られ、彼はそれを鉾に突き進むよう、炎の渦の中心に居るイグニールへと飛んだ。
「む・・!?」
炎の渦へエゼルが触れた瞬間、イグニールの視線と炎が威力を増してソコへ追跡してきた。
まずい!と思ったのか、天裁滅裂の速度の応用で攻撃のキャンセルと所定の位置への退避を実行する。
「まさか、あの炎が全体的に奴の五感と繋がってるのか!?
だとしたら、あの渦が大きくなるうちに僕の居場所なんて簡単にバレてしまう!
何か、秘策を考えなければ」
後ろへ後退し、なるべくイグニールの近くから逃れることに専念すると、一度、完全装甲を解いた。
消滅の状態は解いていないが、解かないことも解くこともなんら変わりは無い状態になりつつある。
それは、イグニールを中心に巨大さを増していく炎の渦だ。
「さあ、この私をこの形態にした貴様の力を見せてみろ!
炎に当たっても熱がブレても私は貴様の居場所を感知することができる。
どんなに見えず、気配が消えようが、物質という概念からは逃れられない!!
お前は一人なのだから、この状況から逃れることも不可能だ!!」
イグニールはどこかで見ているであろう敵へ威嚇の発言をした。
「僕は一人…?
そ、そうか!!何でこんな簡単な策が思いつかなかったんだろう!
感知されるなら感知させればいいんだ!」
思いつきに彼は行動へ移した。
「これは一か八かだけど絶対決まる!!
こんな所で僕が負けていいはずがない!」
先程と同じようにナイフを鉾とし、炎の渦へ飛び込む一歩手前でーー
「身体能力強化魔法-中伝-影分身!」
大量の気配と影が炎の渦の四方八方から突っ込もう。
そこで、一箇所のみ力の入らない場所の渦を掻い潜るとエゼルはイグニールの背後に侵入成功!!
「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!!
意識を消滅!!」
イグニールの背中へ突き刺した刃の無いナイフが光を灯し、ヤイバを生成させた頃。
彼の意識はおろか、能力さえも消滅した。
龍の姿から人の姿へと倒れる寸前に戻り、
そのまま、彼は地面へ前のめりに倒れた。
「か、勝った!!」
誰も予想だにしていなかった場所から出現したエゼルは倒れたイグニールからナイフを抜いた。
するとーー
「はっ!?
し、試合が終わっている…!?」
「イグニールさん、立てますか?
残念ながら僕の勝ちです」
彼の意識も能力も元に戻った。
「立てるが、どんな手品を使ったんだ…!
この私が負けるとは!!」
「それは言えません。
……僕は他人よりも能力が無いから狡い手で勝ち抜いていくしかないんです。
変な手を使ってごめんなさい」
すると、イグニールは怒ったような表情をして青年を怒鳴りつける。
「どんなに狡いと思っていようが、それはお前で出した価値観であって私の価値観ではない!
現に、私は、お前との戦いの中で一度たりとも狡いなどと言ったことは考えもしなかったし、一言でも口にしていないだろう?
自分で出した価値観で自分を責めるのはやめろ!苦しくなるのはお前自身だぞ!」
イグニールはそれだけ言って、会場から出て行った。
「自分で出した価値観……か。
この身体能力強化魔法も、元老院様からの修行に耐えてやっと身につけた代物、僕は自分自身に自信を持つことなんて出来ない。
だから、価値観で塗り固めてるんだ。
誰も僕のことは分からないんだよ」
彼の心はまだ開かない。
昔のことを考えるたび、胸が軋んで苦しくなる。自分自身に嫌気がさしてくる。
そんな想いを吹っ飛ばして、明日の準々決勝戦に臨もう。
"自分のことを考えるのは物事が片付いた後だ"
「あーあー、マイテスマイテス〜!
マイクのテスト中です〜!
おっけーです!
戦闘中に熱でオーディオが故障し、マイクの音量がゼロになっていました。
申し訳ございませんでした!!
次からの実況は気合い入れて頑張ります!」
カルラが治ったマイクで高らかに宣言した。
隣で実況をしたくてウズウズしているキルスも笑顔だ。
ーー会場外、王宮前広場にて。
試合を終えてそのまま根城に帰宅しようとしている最中、背後から声をかけられた。
「イグニール・ナイトヘッジだな?」
「だったらどうした…?
たった一人をそんな複数で取り囲んでどうする?
まさか、確保でもしようとしているのか?」
縦に黒白と分かれた奇妙な仮面を被った男が10人程、イグニールを取り囲んでいた。
「話が早くて助かるよ。
この仮紋章も時間が過ぎると解けてしまうからね。
早く確保しないと!!」
複数の仮面の男は取り囲んでいる状況から一度に四方八方から襲いかかった。
「やれやれ…。
時間がかかるような相手を何故選んだんだ、今は魔王武器の使用権限なんてものを学園長にお願いしている暇もないか。
仕方ない、、、先程の戦闘の続きを……あの高揚感が溢れる戦いをしよう!!」
イグニールは《炎帝》を取り出すと、男達へ一振りを。
朱色と眩い黄色が混ざり合い、
一つの衝撃波を生み出す。
衝撃波の熱量と威力は、仮面の男達を一瞬で涅槃の郊外に吹っ飛ばしてしまう程度。
「……ふう!!
危ないねえ、俺様の分身が何人か飛ばされちまったじゃねえか。
あんたの強さはコレで証明されたね。
ますます、俺達はあんたが欲しくなってしまったよ。
どうだい?
覇滅龍に来る気は?」
問答無用で放った一撃は仮面の男を鋭利に鋭く簡単に捕らえた。
首から上が切断されるも、男は笑っているようにさえ見えた。
まるで人形のように狂気に満ち溢れ。
「つまらぬ話を……!!
私は覇滅龍を許さない!」
何かの思入れがあるように、彼はその場から消えた。
その瞳はいつになく恐く、復讐心に駆られているような恐ろしい瞳の色をしていた。
ーーー
「さあ、気を取り直してお次の試合はこちらの二人です!」
白い蒸気から登場したのは、顔を仮面で隠した謎の女性と、男を平気で椅子にする最低ドS女王だ。
「貴女はどちらの人間…?」
「……言語の意味が理解できません。
私がその問いに対して応えたことによる利益はデータ上、発生しないと計算済み。
私は、α。
戦闘を統べるもの……です。」
彼女の声は高く、感情がまるでこもっていなかった。
例えるのであれば、機械のような、人間ではなく、人形のような。
彼女はぺこりとお辞儀をすると、右足を重心とした戦闘の構えで敵を迎え撃つ準備に、精神を咎める。
「そう。
私も情報を公開しないでいこうかしら。
貴女と戦うのはこれが初めてではない気がするから…」
彼女は魔王武器の鞭を展開させると、鞭を持ったまま腕を組んであからさまに見下している動作を取った。
「そ、それでは!!
第三回戦、スタートです!!」
第三回戦、戦いの火蓋は容易にも、切って落とされた。
謎の刺客を。
毎日投稿頑張っていきましょう!




