狭ばる脅威
「……エゼー!聞いてんの?」
「あっ、ごめんごめん。んで、何だっけ?」
「明日からの合同合宿の件だよ。エゼル隊の配属はルナール隊だってさ」
「ルナール?誰?」
「エゼル、ホントに言ってんの?」
少なくとも会議に参加しているエゼル以外の全員は知っているようで口をポカーンと開けて呆けていた。
「この都市最強の男よ?!あんたと仲良い、エトを差し置いての一位を取ったっていう……まあ、去年の決勝は不戦勝らしいけどとにかく強い人なのよ!」
「ルナール…?全く聞いたことのない名前だね…」
「だ!か!ら!幻の召喚士とも言われていて阿修羅の二つ名を持っているルナール・ディネーチェよ!!」
「……?」
きょとん。としているエゼルに完全に呆れたのか、サディは彼を無視して説明を続けた。
「んで、そのルナール隊との合同合宿なんだけど、明後日から来月の本戦に入る3日前までの予定よ。長いけど、この中で他の隊との触れ合いを大切にしてほしい!って司令官が言ってたわよ。」
じゃあ、なんでエト隊じゃないんだよ!という心からの叫びもあったが、彼は抑えて頷いた。今日は待ちに待ったメロンパンとの再会の日なのである。
会議の終わりと共に速度強化によって光の速度になった彼自身はメロンパンを預かってもらっている研究所へと向かった。
「よく来たね!!エゼル君!!」
「サイトウさんは僕のこと忘れないんですね。良かったですよホントに…」
「大丈夫!君らの司令官がよく知っているように僕はそれなりに強いからね!今はこんな配属だけど昔はあの司令官の……」
ゴツンッ!
淡々と喋るサイトウの頭上に拳が現れ、彼を強く叩きつけた。
「そんな昔話なんてどうでもいいから、さっさと仕事をしろ仕事を!!」
「ちぇっ!少しくらい良いじゃないか!!大体、なんで君がいるんだよ!今日は上との会議じゃなかったのか?!」
サイトウとエゼルの話に割って入ったのは、察しの通り司令官だ。
司令官は会議の話を聞くと、首傾げ、難しい顔をしながら、こう続けた。
「あー、その話なんだがな…。学園内の教員の殆どがルナールに刃向かった?ってので病院送りなんだよ…。そのせいで会議は延期。ルナールにも困ったものだな」
あっ!それでだ!と思い出した司令官はエゼルに近づいて、真に迫ったように言った。
「明後日から合同合宿だろ?!呉々もルナールの言うことだけは聞け!これは司令官命令だ!死にたくなければ俺の言う通りにしろよ!良いな!?」
「はい?」
「ホントに分かってるのか、分かってないのか。ハッキリしないやつだな…。とにかく!キルスやリグルスの馬鹿にも言っておけ!呉々も呉々も問題は起こすな!とな!」
「これを言いに来たんだった…。」と胸を撫で下ろした司令官は、「話を割ってすまなかった」と謝罪して疲れた顔のまま研究室を出て行ってしまった。
そんなにヤバイ人物なのだろうか?ルナールに関して全く情報の無い現時点では判断しづらいところではあるが司令官命令だ。
明後日からの合同合宿は大人しく楽しく終わらせよう。そう思った。
「ところで、サイトウさん。メロンパンは?」
「ああ!元気だよー!声かけてあげな!」
サイトウに指定された場所へ行くと小さめの転送魔法の魔法陣が貼られている場所へと飛び乗る。
暫くして景色が変わると、辺りは広大な草原に変わっていた。
「すごい…!」
辺り見渡す限りの大高原。涅槃にこんな場所があったのかと驚かされる程の雲ひとつない晴天とその中で活発に動き回る獣達に、圧倒されて、ぐらっと視界が揺らいだ。
「エゼル君大丈夫かい?!」
「あまりにも凄すぎて圧倒されちゃいました……ところでメロンパンはどこに?」
「ああ、ちょっと待ってね!」
サイトウはポケットの中から赤い無地の表紙の本を取り出した。
ペラペラとページをめくりながら、とあるページで、見つかったー!とでも言いたげに、手を止めた。
そしてーー。
「召喚術、転移魔法!」
サイトウの掌が赤光りし、地面をも発光させると、綺麗な魔法陣が浮かび上がっていた。
ボンッと大きな音と煙玉と共に現れたのは巨大な赤い龍だった。
「えっ?デカくない?!」
「ん?知らないの?龍って成長早いんだよ?一ヶ月で上限の大きさまで跳ね上がるんだから!」
「そ、そうなんですか…。あの可愛かったペットが見ないうちに立派なドラゴンに…」
成長したメロンパンは、エゼルに近寄るなり舌でペロペロと顔を舐める。
どうやら、この大きな龍はメロンパンで間違い無いようだ。
「それにしても大きくなったねー!久しぶり!!!」
「ガウゥ〜〜〜!」
一月前のメロンパンには出せないような大きな咆哮だ。
「明日からまた当分会えなくなるんだけどね。ごめんね、メロンパン…」
「ガウゥ…」
寂しげに吠えるメロンパンの頭をポンポンと撫でると、エゼルはサイトウに別れとお礼を言って研究所から去っていった。
「えーー!ぜーー!るーー!」
王宮から外へ出ると、そこにはニアとエトが居た。明日から始まる合同合宿の準備中らしい。
「エゼル達はどこの隊と合同合宿なの?」
「んーと、確かルナール隊…?だったかな?」
ッッッ!!その瞬間、エゼルは憎悪を感じた。それは間違いなくニアとエトのモノ。二人は怖い顔をして俯き、拳を強く握りしめている。
「えーと…?エト?ニア?」
「あっ、ごめん!ぼーっとしてたみたい…」
「ニアもかよ…気持ち悪いな。」
「なんだよ気持ち悪いって!!!」
「そんなことより、エゼルの話だろ?」
ニアはさっきとは正反対の真剣な表情で大きく頷いた。
エトは続ける。いつものおちゃらけたスタイルではなく、真剣そのものといった感じで。
「エゼル、ルナールの前で絶対に刃向かうようなことは起こすな!極力で良いんだ、あいつの言うことは絶対に聞いてほしい!もし、対立するようなことがあったらその時は……」
「その時は……?」
「その時は仲間が一人死ぬ…!」
涙篭った声は一瞬で分かった。何があったのか、分からないことではあるけれど恐らく今言った言葉の意味。
つまり、エト隊は一人失っている。
「エゼル。これから話すことはとても大切なことだから、俺の魔王武器で時間を止めさせてもらうね」
そう言ってニアは時計のついた手袋を取り出して、自分の手に嵌めた。
「ふぅ……完全時間停止!」
自分と自分が指定した相手以外の時を止めるという能力らしい。
鳥の囀りさえも聞こえず、王宮前の噴水の水が流れ落ちる音も聞こえない。
ーー彼ら以外の時は止まった。
「じゃあ、エトは今話せない状態だから俺が話すね。これは、エト隊が結成して間も無くの出来事だよ」
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