覚えててくれてありがとうおお!!
「アレ?みんな遅いな〜」
同時にスタートして扉を目指していたはずなのに、気がつけば周りに人影が見えなくなってしまったエゼルは一度止まって四人を待っていた。
ーー一方その頃。
「あいつ速すぎんだろ・・ゼェ、ゼェ、ハァ、ハァ・・」
「私、攻めるのは好きだけど攻められるのは嫌いなのよね・・」
「お前、それは攻めじゃなくて自分の体力の無さだぞ!」
「エゼル君速い・・私もうダメぇぇ」
四人はエゼルの速さについていけず、ギリギリの体力でもはや走りと言えるのかどうかという速度で"走っていた"。
「獲物四匹発見・・!」
「兄貴、4匹の方が見えやすいですぜ」
ダウン寸前の四人を狙うように忍び寄る背後からの影。
その陰にいち早く気づいたのは、エゼルだった。
「ヤバイ匂いがする・・・!」
瞬時に速度を閃光の速度に底上げし、来た道を戻る。
速度が速度のため、走っているというよりは浮いているのが正確だ。
「今晩の女王様への晩餐のオカズはニルヴァーナの生徒だァ!!」
「これは喜ばれますね!」
黒いマントに身を隠した男の一人が、もう一人の男から渡された一発の弾丸を貰い受け、自分の口径の大きい黒いスナイパーにセットし、敵の背中へ銃弾を撃ち込もうと引き金を引いた。銃弾は、走っている四人の速度を上回り、チトの足を射抜いた。
チトは突然の激痛に顔を歪めながら、うつ伏せに倒れ込む。
銃弾が彼女の足を射抜く光景が"視えた"サディは驚愕なまでに目を見開き、悲鳴を上げた。
「キャァァァァァ!!!」
その悲鳴は勿論、エゼルにも扉の前でかき氷を食べていた司令官の耳にも届いた。司令官は異常に気付き、本部に連絡をしながら自分も今の悲鳴を頼りに走り出した。
「一人射抜いたぞ!あの弾丸は特別製だ!いくら足の速い魔人でもこの弾丸は避けれない!!」
それを言ったが最後、チトの足を射抜いた男は突如として現れた閃光の輝きに気づくことなく、頸に蹴りを食らわされて気を失った。
「やっぱり、遅かった・・・!」
「だ、誰だお前!まさか、今兄貴を一撃で屠ったのはお前かあ!我々、ファフニールの戦士は例え命が奪われようとも一度標的にした敵は絶対に射抜いてやる!俺の錬成魔法で造った弾丸を喰らえ!」
パァンッ!
至近距離から発砲された銃弾はエゼルの身体を抉るように貫こうと回転しているーー腹部が貫かれるーーそれは否。
緑色のベールのようなものに包まれた彼の腹部で回転を続ける銃弾は潰れるようにひしゃげて地面に音も無く落下した。
「なっ!?その銃弾は俺の特製だぞ!?」
「ありがとう。僕の存在に気づいてくれて;;」
「え?」
彼は溢れる鼻水と涙に顔をぐしゃぐしゃにしながらお礼を言った。
主人公なのに登場が遅く、そして司令官にも忘れられていた青年の心は意外に脆く、ここに来て自分に気づいて銃弾を撃ち込んでくれた相手へ感謝の気持ちは半端なものではなかったのだろう。
「ーーだからその感謝を込めて僕は君を倒すよ。身体能力強化魔法初伝ーー天叢雲剣!」
一瞬、男の目の前からエゼルが消えたかと思うと閃光の速度で急接近し一刀両断し相手の背後に着地した。刀など手に持っているわけもなく、掌を細く鋭い剣のような形にしている。
刹那ーー"一発の一刀両断"が五十回の斬撃として飛び散った。
男はひたすらに切り刻まれ、地面に落ちながら白目剥き出しでドサッと重みのある音と共に意識を手放した。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
力を使い切った反動でかなりの疲労が溜まる。覚束ない足取りでみんなのいる場所に一歩一歩力強く歩き進む。
「・・・大丈夫です・・足を撃たれてしまっただけですよ。エゼル君。」
三人に囲まれた状態でこちらに笑顔を向けるチトの姿があった。当の三人はエゼル到着が今だったという感じに「遅〜い」などと抜かしている。そんな三人を放っておいて、普通ならばここで「良かった」などと言って肩を落とすだろう。
しかし、エゼルは違った。
「うううううぅぅ〜」
眼に沢山の涙を溜めて、チトの近くに泣きながら腰を下ろした。
地面に落ちる涙を手で拭いながら、彼はチトに感謝の気持ちを伝える。
「覚えててくれてありがとおお!!」
「「「力一杯の言葉がそれかよ」」」
三人のマジレスにややムキになったエゼルは「ほら行くよ!チトさんは僕が連れて行くからみんなは僕の速度についてきてよ!!遅いんだから!!」
「「「うるせええ!!」」」
チトを背中でしっかりと離さないように支えながら、閃光の速度で扉を目指す。
後ろの方で嫌味をぶつけてくる三人に視線を移すことなく速度をさらに上げた。
「お、おう。お前ら遅かったな。なんかあったか?」
気づかれないように偵察に行っていた司令官は、エゼルの戦闘シーンを見てから速攻でこちらに戻ってかき氷を早食いしていたようで頭がキーンとなりながら何もなかったかのように問う。
「司令官。僕が気づいてないと思うんですか?かき氷早食いは体に悪いからよくないですよ、後の三人なら大丈夫です。遅いながらにもうそろそろ到着すると思いますから。」
「やっぱり、かき氷早食いは競争の時のみにしたほうがよさそうだな;」
エゼルの背中で眠りについているチトは少し苦しんでいる様子だった。
「んくっ・・・」
「やっぱり、あの特製の銃弾って奴・・発熱魔法が仕込まれてたんじゃ・・・」
顔の赤いチトのおでこを自分のおでこに当てて熱を感覚ながらに測ってみると、凄い熱だった。司令官とエゼルは本部から呼んだ医療班にチトを預けると三人の帰りを椅子に座ってかき氷を食べながら待った。
ご要望がありましたら私に出来る限りで対応します(^ー^)ノよろです!