忘れられる自己紹介
マイペースに書き進めていきたいと思います( ´ ▽ ` )ノ
星降る夜、静寂に包まれた世界は忌まわしい何かによって一瞬で破壊された。
そう、宇宙からの突然の隕石落下によって。地球の人工衛星でも感知できなかった光のような速度で落下した隕石は東京都を中心に日本列島を海の藻屑と化させた。これを後に、魔王隕石と呼ぶ。
ーーーそれから百年後。
「今から魔王武器の所持を許可する試験を執り行いたいと思う。一番から順に名前と意気込みを言ってみろ!」
生い茂る木々に囲まれた心地よい日差しの当たる場所、魔法都市涅槃郊外では五人の魔人が横に一列に並び、軍服姿の司令官の命令を澄ました表情で聞いている。
「初っ端から俺かよ〜。俺は、キルス・エーベルヴァイト!意気込み?あー、強くカッコよく!これが女にモテる2か条だろ!まあ、俺はモテるけどなあ!」
金髪の髪を天まで続くバベルの塔の如く、長く鋭くさせた青年は司令官に対する礼儀の欠片もない口調と表情で簡単に言ってのけた。
「ふむ・・・こんなちゃらくても実は女性と話すこともできないほどウブな童貞なんだな・・」
司令官は個人の情報が書かれている資料を手に、彼の一番のコンプレックスでもあるDTの部分をサラッと言った。
「ちょ、それは個人機密だろ!こんなにチャラいのにまだチェリーボーイとか最高にダサいじゃねえか!女の子、見てないよね?ね?」
青年は辺りをキョロキョロと見回す、こんな場所に女性が来ているはずもないと内心ホッとした様子で胸を撫で下ろす。
「へぇ〜、童貞なんだ〜(笑)」
彼の隣に立っていた人物が嘲笑の表情で口元に手を翳して「ぷっ」と笑った。
青年は、イラっときたようで隣の人物に一言文句でも言おうかと首を傾ける。
「ん?どうしたの?童貞さん?」
彼の横に居るは、赤く長い髪を風に靡かせ、まさに100点の笑顔で彼の方を向く一人の少女だった。
「え・・・」
突然、彼の顔が真っ青になりーー次の瞬間、溢れんばかりの鼻血が彼の鼻から滝のように流れ出る。その勢いで少しだけ宙に浮き、白目を剥いたまま地面にうつ伏せの状態で崩れ落ちた。
「だ、だ、大丈夫ですか?!地面に血液が・・・この神聖なる場所に汚物が撒き散らされてしまって・・この白目を剥いたゴミはどうします?」
少女は青ざめた様子で彼ではなく、地面の心配をしている。因みに、表情と行動力から推測するに彼女は本気なのだと分かるが、彼女の行動に場の空気と他の人らは額に冷や汗を浮かべながら見続けている。
「まあ、彼はそのままにしておこうじゃないか。血液も後で私の部下が片付けておくから;」
司令官は、彼女のドSさに冷や汗を出しながら何かを察したように彼の方から視線を外して「さあ、気を取り直して次行こうか!」と場の空気を冷ますことなく、次の自己紹介に移らせた。
「え・・えーと、あっ、私は、サディ・エスティックです!意気込みは、力を付けてこの世にいる全ての男という人種を私の奴隷にしたい!ので頑張ります!」
この場にいた、キルスとサディを除く四名は"名前一括でサディエスティックじゃん。そのまんま!!"と突っ込みたい衝動を全力で押さえた。
司令官も最初は驚いていたが、今や完全にそのドSっぷりに呆れている様子だ。
「つ、次行ってみようか!」
「三番目だから俺だなァ。あ、あと言わせてもらうけどよ。二番目のサディだっけ?名前繋げたらお前の性格まんまじゃね?!おもしれーな!」
プツン。昔のブラウン管テレビの電源が切れるような音が周囲に響いた。
その音の原因は勿論、二番目に軽い自己紹介をしたサディである。
彼女は鬼のような形相を浮かべ、隣にいる男に全力の拳をお見舞いしようと試みた。
「あ?」
だが、か弱い女性の拳は男の大きい掌に鷲掴みにされて力と行き場を同時に失う。それと同時に怒り狂った彼女が最高の武器を手に男の顔面めがけてーーーー。
「危ねえ・・・どういうつもりだ!このサディエスト女!」
「・・・良いわねえ〜。貴方のその強気な性格ぅ〜♪グチャグチャに潰してあげたいわ〜!」
サディはどういう訳か、男の唇にキスをしようと口をおちょぼにして飛びかかっていた。男はそれを空いていた方の片手で防いでいる。
何とも凄い反射神経だ。
「取り敢えず、ゴホン。俺は、リグルス・ブラッド。半分吸血鬼、半分魔人かな。意気込みっつか、この女を俺の半径500メール以内に入れねえようにしてくれねえ?まあ、それ以外は、適度によろしく!」
「((このタイミングで自己紹介?!))」
司令官は彼の行動に驚愕しながら手に持っていた資料に目を移す。
(リグルス・ブラッド。血の関係は、父親が吸血鬼の高位能力者で母親は人間。
そのため、受けた傷もすぐに治る。
長所は、誰にでも優しく接する部分。
短所は、ドジ体質。)
「((ドジ?!オレオレ系の悪ボーイだと思ってたけどドジっ子属性もあんのかよ!どんだけ、腐り果てた女子達を興奮させりゃ気が済むんだ!!))」
司令官が目を離していた隙に、先程のDTチャラ男少年キルス・エーベルヴァイトが目を覚まし、司令官の方を恐ろしげに睨んでいた。
「お目覚めにどうしたよ。DT少年?」
「さっき俺の個人機密を喋る時、今みたいに心の声風に言ってくれればよかったのにいい!!」
キルスはお怒りだ、顔を真っ赤にして司令官の黒いサングラスに包まれたハードボイルドな瞳をマジマジと見つめている。そして、何故かその額には汗が流れている。
「ーーこんなことを言っていても影ではビビっている小心者なのだろうか。」
と心の中で言っていたつもりが口に出していた司令官は、驚いた顔をわざとらしくして口元を手で覆い隠した。
「ホントやめろって!!!もうまじおこ!!」
「へぇ〜?試験不合格にするよ?」
キルスが暴れようと服の袖をまくり、司令官に拳を向けていた最中ーー司令官の隣に謎の男が現れた。
軍服姿にサングラス、司令官と何ら変わらない姿をしているが何よりも驚きなのはゴツゴツとした筋肉とジャラジャラとついた服に付いている金色の勲章。
その勲章の多さから、男は只者ではないということがまずまず分かった。
「この場において、司令官は絶対的な存在だ。その人が何をしようがお前らは何もしてはいけない。現場判断は個人の判断から始まっていくものだぞ?まあ、どうせ、このバカ司令官がなんか言ってはいけないことを言ったんだろうけどな」
「馬鹿は流石に酷いですよ!ニゲル様!」
その場に居た全員が驚愕した、さっきまで地面の血をスコップで埋めていたサディすらも手を止めてしっかりと男の方を向いて敬礼のポーズを取るほどに。
男の名前は、ニゲル・カルヴァリン。
この世界で千年に一人の逸材が同時に集い最強と言われたチーム《涅槃の強者》に所属している九人のうちの一人だ。
「さあ、三人目まで終わったろう?最後の一人である四人目の君。自己紹介したまえ」
四人目の人物の隣にいる僕は、やれやれと呆れたように首を傾けた。
伝説の男とまで言われたニゲル・カルヴァリンは人の気配を察知してくれる有能な人物だと思ったがどうやら違うらしい。だから、僕は次の行動に出るしかなかった。
「ーー四番目のチトです。名前短いってよく言われるんですけど、本名全部で"チト"でs・・・」
白くて長い髪に薄ら桃色の宝石のような瞳。空中に漂い、ニゲル・カルヴァリンの背後を狙って光を超える閃光の速度で動いていた僕でさえも額を赤らめ、彼女の自己紹介を見届けたくなったーーしかし、僕が当たらないと予測してニゲル氏の頸を狙った攻撃は見事にクリーンヒットし、彼は意識を手羽してしまった。
「ニゲル様?!だ、誰だぁぁぁぁぁぁ!!!!!
司令官が怒鳴りつけたのは、僕ではなく誰もいない場所。謎にも手をブンブンと振って見えない何かと交戦しているように見える。
その様子を目の前で見ているニゲル氏を気絶させた張本人の僕はどうすればいいのやら。それが分からず、スタスタと歩いて自分の立っていた位置に戻った。
「よーし!コレで五人全員自己紹介したな!因みに君達五人は全員、合格だ!この神聖なる場所で私に対して自己紹介をしたら正式に魔王武器を所持するという許可が下りるわけだ。良いか!キルス、サディ、リグルス、チト・・・アレ?キルス、サディ、リグルス、チト・・?あと一人はどこだぁぁぁぁあああ!!」
司令官は僕の存在にやっと気づいたようで大声を上げた。
このまま忘れ去られてなれなかったらまたこの体質を恨んでいただろう。
僕は自分なりの大声を全力で出した。
「司令官様、僕のこと忘れてます!!」
もう日も落ち始めている夕方の森で、誰も予想だにしなかった場所からの叫びは長年の戦闘を積んでいた司令官でさえも飛び上がるほどに驚き、腰が抜けてしまったようだ。踏ん反り返ったようにで地面に座る司令官は試験直前の学園長の言葉を思い出し、動揺しながら言った。
「じゃ、じゃあ!君が五人目のエゼル・シスタか!この試験が始まる前に五人の顔をしっかり見て一人も忘れないようにしろと学園長から言われたのを忘れていたよ。すまない。君の自己紹介を聞かせてくれ!」
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