悪戯電話
朝方の電話って、それだけでドキドキしますね。
何年も前から我が家にかかってきている電話の話です。
廃村、廃墟マップは実際にあります。
訪れると、切なくなる。
幼稚園からの腐れ縁のコーヘイと、久しぶりに桃鉄をやろうと盛り上がる。
今は、朝4時半過ぎの96年目。
勝利宣言したところで、ハリケーンボンビーとスリの銀次にやられ、不動産も持ち金もすっかりなくなり、戦意喪失するオレ。
そんなところに、突然、固定電話の反応音が鳴る。
カチャ
プーッ、プーッ、プーッ
ベルは鳴らず、話中音のビジートーンが3回鳴った後、回線が切断される。
うちの固定電話は、電話機本体の設定で非通知の着信を拒否している。
本当に用事があるなら、番号を通知して、もう一度かけてくるはず。
耳を澄ますが、やはり、電話は鳴らない。
数か月に一度、この時間にかかってくる。
もう、何年も続いていて忘れた頃にかかってくる電話。
「ベルが鳴らないから実害はないけど、悪戯にしては変な時間だよな」
母は、我が家を気にする人間が生存確認していると主張するが、
はっきり言って、そんな奇特な人がいるとは思えない。
でも、嫌がらせには、時間が微妙すぎるのも事実。
オレたちは、気にせず、桃鉄を再開する。
もはや、消化試合。
すると、コーヘイが、何の脈絡もなく突然、ボソリと呟いた。
「あのさ、地図から消えた村って知ってる?」
「ゲームの話?」
桃鉄の話かと、画面上の地図を見ながら、尋ねる。
「いや、現実の話。地図の改定のたびに、村が消えるらしい」
「限界集落的な?」
見てはいなかったけど、そんな題名のドラマが放送されていたはず。
「限界集落がどんどん加速して廃村になるパターンや、ダムの底に沈むパターン、あ、そうそう、それ以外のパターンもあるな」
コーヘイが意味ありげに口の端を少し上げて言う。
げげ、それ以外のパターンって何だろう。
あらぬ想像に、背筋がゾクゾクする。
何かの原因で突然、村人全員がいなくなる。
何かの原因って、つまり・・・・。
「地図から消えた村を訪問する廃村マニアがいるらしい。てゆーか、僕だけど」
コーヘイが、悪い企み顔でニヤリと笑う。
「近場にも廃村あるよ。今から行ってみる?」
えーと、桃撤(桃鉄を徹夜でやること)なんですけど?
学校、あるんですけど?と、心の中で反論しつつ、
でも、まぁ、と思い直す。
出欠とらない授業だし。
夜じゃなくて朝だし。
心霊スポットじゃないし。
コーヘイは、ネットから拾った『廃村・廃墟マップ』を眺めている。
かなりの数の廃村が載っている。
「ほんじゃ、ま、今から出発しますか」
オレは、ポケットに財布を突っ込みながら立ち上がる。
「あ、そうそう、忘れないうちに」
と、コーヘイは、携帯を取り出すとどこかに電話する。
隣の固定電話が反応する。
カチャ
「恐れ入りますが、電話番号の前に186をつけて電話番号を通知しておかけ直しください」
プーッ、プーッ、プーッ
急に息苦しくなり、心臓の鼓動が早まる。
ドキドキ
そうだ、非通知の場合は、アナウンスが流れるんだった。
注意喚起の為に。
そうじゃないと、非通知の人は、延々と鳴らない電話にかけ続けることになる。
ドキドキ
では、今までのあれは、なんだったのだろう。
ずっとずっと、何年も前から続く、あれ。
ドキドキ
オレは、電話機に駆け寄り、確認する。
ドキドキ
非通知だと思っていたから、わざわざ確認することはなかった。
どうして、今まで、確認しなかったんだろう。
確かにかかってきたはずなのに・・・
コーヘイの履歴の前にあるはずの、4時半過ぎのあの着信の履歴はなかった。