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家に幽霊がいるか判断する方法

家に幽霊がいるか判断する方法を知っていますか?

小学生のころ、流行った方法です。


これも、少し脚色していますが、

作者の実際に経験した実話です。

 深夜の研究室。

 クリーンベンチで昼間に仕込んだ培養液をスプレッドする。

 培養12時間後の菌数を測定する目的だが、植菌が昼過ぎになってしまったため、夜中の作業となってしまう。

 珍しくもない、毎度のこと。

 同じような仲間が大勢いて、0時を過ぎていても、うちの研究室は賑わっている。

 逆に、午前中の方が、授業で人が少ないくらい。

 昼間は、どこかかしこまった雰囲気の研究室も、夜中は学生の天下。

 独特の開放感に包まれる。


「家に幽霊がいるか判断する方法を知ってる?」


 隣で作業している、D1の先輩が話しかけてくる。


「あれでしょ、携帯の動画で撮影するヤツでしょ」

「もっと、簡単な方法があって・・・今からやる?」

「いや、オレ、幽霊とか苦手なんで」

「いいから、いいから。目をつぶって家の玄関を思い浮かべて」


 絶対、やらねぇと思っているのに、つい、目を閉じて玄関を思い浮かべる。


 ごく普通の戸建ての住宅。4LDK。

 玄関には、作り付けの下駄箱。

 その前には、下駄箱に収まりきれなくて無造作に置かれた靴。


「そのまま、進んで。何が見える?」


 2階に上がる階段があって。

 右手には、トイレ、その奥には洗面所と風呂場があって。


「リビングまで進んで」


 階段の手前の廊下を進みドアを開けるとそこはリビング。


「次は、台所にいって」


 リビングの横にはダイニングテーブルがあり、すぐ前には対面式のキッチン。

いつもの風景。


「じゃあ、2階に上がって」


 言われるままに、2階に上がる。


「手前の部屋から順番に入って」


 トイレがあって、手前は両親の寝室。

 ベッドとウォークインクローゼットがある。

 これもいつもの風景。


「その隣の部屋に入って」


 その隣は、妹の部屋。

 いつもの通り、散らかっている様子が思い浮かぶ。

 あいつ、ホント、女のくせに片づけないから。

 あんな部屋を彼氏がみたら、100年の恋も覚めるに違いない。


「その隣の部屋に入って」


 隣は、オレの部屋。

 ベッドがあって、ゲーム用のテレビがあって。

 今朝は急いでいたから、服を脱ぎ散らかしたままだ。

 妹の事を言えないと苦笑する。

 そして、ベッドの上には、


 なぜか包丁。


 待てよ、待てよ。

 そんなものあるはずない。

 もう一度、玄関から思い浮かべる。


 玄関には、バットがあって。


 バット?

 なんで?

 あるはずない。

 うちは、誰も野球をしない。


 いそいで、2階を駆け上がる。


 全身から、汗が噴き出る。


 オレの部屋は、

 オレの部屋は、どうなっている?


 勢いよくドアを開ける。


 オレの部屋には・・・・まだ、包丁がある。


 でも、さっきとは違う。


 ベッドの上ではなく、床。

 床の上に、血塗られた包丁が、無造作に落ちている。


 オレは、階段を駆け下りる。

 リビングは、リビングはどうなっている?


 廊下を抜け、突き当たりのドアを開ける。

 そして、そこで息をのむ。


 リビングには、大きな水たまりぐらいの血だまり。

 その中心には、人影。


 誰?


 ガクガクと脚が震えて、うまく近づけない。


 あと、もう少し。

 あと、もう少しで、顔が。


 思うようにならない体に、イライラもどかしく思いながら、その顔をみる。


 オレ?

 なんと、それは、オレだった。

 まぎれもなく、自分自身。


 思わず、閉じていた目を開ける。

 ここは、研究室。いつもの日常。

 荒い息を誤魔化すように、深呼吸する。


「どう?誰かに会ったり、人の気配しなかった?」


 間の抜けた声で、先輩は質問を続ける。


 今のは、何だったのか?

 夢?

 今見た禍々しいものを振り払うように、かぶりを振る。

 この動揺が滲み出ないように、殊更、のんびりと答えた。


「いや、全然」

「それなら、大丈夫。人の気配がした部屋には幽霊がいるんだって」


********************


 帰宅後、幼稚園からの腐れ縁のコーヘイに報告する。

 コーヘイは、眉根を寄せ、しばらくの逡巡の後、静かに言った。


「無いものが有るより、有るものが無い方が、意味がある」

「え?何?」


 含みのある微妙な表情で、オレの目を覗き込む。


「ばーちゃんは?」


 そこで、はたと重大なことに気付く。


 そうだ、何で?

 どうして、思い当たらなかったのか。

 幽霊と聞いて、真っ先に、連想するはずなのに。


 5年前に亡くなった祖母のことを。


 ジリジリと胃が締め付けられる。


 あの時、祖母の仏壇がある和室は、全く思い浮かばなかった。

 まるで、目隠しされたかのように。

 そこだけ、ぽっかりと跡形もなく、存在自体が消えて無くなっていた。


 これは、あまりにも不自然ではないか。


「知ってる?霊道って、異空間になってて、そこだけぽっかり抜けるんだよ」


 そういって、ニコリと笑った。

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