マトリョシカ
時計の、夜9時を知らせる時報が聞こえてきた。いつもなら、まだ勉強をするが今日は少し早く寝よう。
明日は大学受験当日だ。試験開始まであと少し、僕は今までやれることをやったんだ。自分に言い聞かせてみるが、出来なかったことやサボってしまったことだけが頭を回る。
布団に入ってみたが、いつもより何時間も早いためかなかなか眠りはやってこない。天井を見上げやがてそれにも飽きたので、ベランダに出ると遠くに星が見えた。その星に『おやすみ』とつぶやいて再び布団に着いたのはよる2時。いつもと変わらない時間だった。
朝、目が覚めると出発時刻の15分前だった。飛び起きて服を着て顔も洗わずに家を出た。緊張のあまり目覚ましをかけ忘れたらしい。もし、寝過ごしていたらと考えると体の震えが止まらなかった。
駅に少し早足で向かう。なんとか間に合うかもしれない。息をついてホームを歩いている時に、血走った目をしてこっちに向かってくる一人の男。手に持っている大きくて、不気味なマトリョシカを僕に押し付け、これを開けてくださいという。開けると案の定もうひとつのマトリョシカ。さらにもう一つ…ここまで大きいと何個出てくるのか…しかし、マトリョシカは3個しか出てこなかった。最後に出て来たのは、真っ赤に染まった何か。妙な形をした、見たことがないが、馴染みのあるもの。マトリョシカを渡してきた男をみると、胸元に大きな穴が空いていて、中かが空洞になっていた。これは心臓だった。思わず、マトリョシカを放り投げた。
発車のベルが鳴る。電車までの距離ざっと10m。走って飛び乗っろうとしたがために、バックだけが扉に挟まり体は入らなかった。手首からカバンの持ちてから抜けないが、車掌は気付かず電車は発車する。嗚呼、死ぬんだなと思った。心臓のない男がこちらを見て、少し笑った気がした。