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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

彼女

作者: RK

 僕は某大学に通う2年次生だ。

 取り立てて頭がいいわけでもなく平凡。何処にでも居るような量産型のようなフツメン。ブサメンでなかっただけ親に、神に感謝している。

 そんな僕にも彼女が出来た。

 彼女は可愛い。どこが聞かれたなら僕は雰囲気と答えるだろう。

 僕と不釣り合いなほどに美少女と言う訳でもブサイクでもない。僕と同じく普通の女の子。そんな彼女の醸し出す雰囲気に僕は惹かれたのだ。

 彼女もまた、僕の外面ではなく内面に惹かれたと言う。どこが?と尋ねれば「ヒ・ミ・ツ」と可愛らしく言ってはぐらかす。僕はそんな彼女を見ると無理に聞こうと思わなくなる。だって可愛いじゃない。

 そんな彼女も僕が他の女の子と仲良くしていると少し雰囲気が変わる。

 あんまり他の女の子と仲良くしないでください、とは彼女の談だ。

 初めての彼女なので勝手がわからないのだが、普通の彼女はこうなのだろうか?

 僕は男友達に訊ねたことがある。

「そりゃ、男を独占してえんだろうよ」

 僕の友達の答えだ。

「束縛したい女はもっとすげえぞ。ありゃあ、やばい。まじやばい。他の女と話しただけで殺されるかと思ったぜ」

 僕の彼女にはそんな様子は微塵も見られない。可愛く唇を尖らせて「私が一番ですよね?」と聞いてくるくらいだ。僕はそんな彼女を見て頬を緩ませる。そして勿論!と答えるのだ。

 でも僕は女の子と話すことはやめなかった。僕にだって友達関係はあるのだ。急に話さなくなったりしたら感じが悪いし、なにより友達がたくさんいるのはいいことだ。彼女がいるのとはまた違うベクトルで大学生活を充実させてくれる。

 更に言えば高校は男子校だったので女の子の友達は新鮮なのだ。男とは違う考え方、男とは違う視線。

 家族とは違う関係は僕を楽しませてくれる。そればっかりは彼女の言い分を聞いてあげるわけにはいかなかった。

 彼女と付き合ってから1年。徐々に僕は彼女への好意を失いつつあった。

 理由は簡単だ。執拗に彼女以外の女性との交流を止めろと言ってくるのだ。

 付き合い始めはその姿に可愛さを感じていたが今では鬱陶しい。最近では僕と話していた女子の悪口を言ってくる始末だ。そして最後には「私が一番ですよね?」の一言だ。

 余りにもしつこい。僕の友達に言わせればこの程度の束縛は多めに見てやれと笑っていたがこれでは母親の小言と一緒だ。何度も何度も聞かされては耳にたこができる。

 その日も僕は彼女に同じことを言われた。

 我慢の限界だった僕は彼女に別れようと言った。

「どうしてですか…!?何か悪いことしましたか…!?」

 取り乱す彼女だったが、既に愛想を尽かしていた僕は彼女に対して可哀想だと思うことはなかった。

 涙で顔をグチャグチャにしていたのを見て汚いなぁとさえ思ったほどだった。

 好意の反対は無関心ではない。嫌悪だ。無関心はその人物を人として見ていない。空気なのだ。背景なのだ。

 ひとたび人間として認識すれば感情は好きか嫌いかのどちらかに振れる。今の僕は彼女のことが嫌いになっていたのだ。

 彼女の束縛してくるところが嫌い。友達の悪口を言うのが嫌い。小言が嫌い。笑い方が嫌い。喋り方が嫌い。

 あんなにもいいところだと思っていたところが一転して嫌悪感を感じてしまうものに変化する。

「お願いです別れないで…!」

 このしつこさも嫌いだった。僕は一方的に話を切り上げ、その場を後にした。彼女は泣いてその場に立ちつくしていた。

 それから暫く、彼女は大学に来なかった。数日たってクールダウンした僕は彼女に悪いことをしたと思っていた。

 メールを送っても、電話をしても返信も応答もなかった。何度か試みたがいずれも無反応だった。

 それから数日してからだろうか。当然、僕の女の子の友達が大学に来なくなった。

 他の友達も心配していた。皆でメールを送ったりしたがなんにも返って来なかった。

 なにかあったのか心配だったが気にし過ぎても仕方がなかったのでいつも通りに過ごすことにした。

 そう思った矢先に女の子友達からメールが来た。


 貴方の前には二つの箱があります。

 一つは大きくて、もう一つは小さい箱。

 貴方はどちらを選びますか?

 チャンスは一度だけですよ?


 件名は無く、本文はこれだけ。意味がわからなかった。

 どういう意味?と送るが「いいから選んでください」と返事がきた。

 頭に舌切雀の童話が思い浮かんだ。あれでは確か、大きい葛篭に妖怪が詰まっているんだったか?

 小さい方がいいだろう。

 僕はそう思って「小さい箱を選ぶよ」と返信した。

 返信を送ったが返事は返って来なかった。どういう意味だろうか?もしや僕にプレゼントを?と思ってしまったが大学に来ていなかった理由にはならない。

 とりあえず返信を待ったが来なかった。意味もわからないので友達にも言わず僕はメールの事も忘れて家に帰った。

 部屋の電気をつけると部屋に小さい箱が置いてあった。小さい、と言ってもサッカーボールが一つ入るくらいの大きさはある。

 なんだろうか?家を出る前にこんなものは無かった。

 それに、なんか金属臭い。まるで鉄のような臭いがする。

 疑問に思いながらも箱を開ける。

 保冷剤がぎっしり詰まっていた。何か腐りやすい食べ物でも入っているのだろうか?誰が?

 頭に疑問がたくさん浮かぶ。

 とりあえず中身を確認してみよう。保冷剤をどかす。すると繊維のようなものが見えた。それは縫い合わされているわけではない。毛糸玉という訳でもない。なんだろうと思って箱から出してみる。

 長さは60cm程だろうか。茶色の糸があった。それから大きさはサッカーボールくらい。箱と同じくらいの大きさ。二つのくぼみがある。そこには玉がはまっている。その下には出っ張りがある。出っ張りにも穴が二つある。大きさは指が一本入るくらいの直系だ。その下にはまた穴がある。


 そう、それはまるで人の頭のようだった。

 ソウ、マルデヒトノアマノヨウダッタ。

 コレハヒトノアタマダ。

 ボクノトモダチのオンナノコノアタマ。


 ごとり、と女の子の頭が地面に落ちた。

 僕の手が震えている。

 顔は強張っていることだろう。

 喉がしまって上手く声が出ない。悲鳴すらあげることができない。

 その時、僕のポケットに入っていた携帯が振動する。

 差出人は今目の前にある物体の名前が表示されている。

 一体誰が?なんで?パニックに陥る思考。震える手でメールを開く。

 

 プレゼントは届きました?


 添付ファイルがある。

 それは首から上を失った肉体。壁に張り付けにされたボロボロの肉塊。

 

 そしてまたメールが来る。

 

 今度の差出人はまた違う女の子。


 貴方の前には二つの箱があります。

 一つは大きくて、もう一つは小さい箱。

 貴方はどちらを選びますか?

 チャンスは一度だけですよ?


 本当なら連絡しない方がいいのだろう。

 だが、プレゼントは僕の部屋に置いてあった。

 そして、中身をみてからタイミングを計るようにメールが来た。

 僕は監視されている!

 ここで連絡をしないのはまずい!

 恐怖に染まった思考で考えた。

 小さい箱はまずい!

 大きい箱にしなければ!

 僕は大きい箱と返信する。


 暫くしてインターホンがなった。

 恐る恐る出ると、そこには誰もいなかった。外に出る。きょろきょろとあたりを見渡すが誰もいない。

 人の気配などなかった。

 部屋に戻ると大きな箱が置かれていた。

 開けてくださいとご丁寧に書かれた箱。

 大きさは旅行鞄二つ分くらいだ。

 箱を開ける。

 中は一面真っ赤。

 本来見えないはずであろう消化器系が全て綺麗に箱の壁面に張り付けてある。

 底には人の皮だろうか?綺麗に折りたたまれている。

 圧倒的狂気を感じる。

 

 警察に通報するということも考え付かない。僕は溜まらずその場を逃げ出した。

 玄関から出た瞬間、頭に強い衝撃が走る。

 意識を手放す直前に、笑顔の彼女が立っていた。


 

 目が覚めると僕は身動きが出来ない状態で椅子に座らされていた。

 両足は椅子の足の固定されていて、腕は肘かけに固定されていた。

 首は左右に動かすことすらままならない。

 

 目の前には僕の彼女。いや、この前別れたので元彼女が立っている。

 別れる前と変わらない笑みを浮かべている。だが、背後にはずたずたになって張り付けられた肉塊。

 胴体を失った頭部。

 そして、大きな箱と、小さな箱。

 狂気を感じる。

 彼女は狂っている!

「一体何が目的なんだ!?」

 僕は恐怖のあまり叫ぶ。叫ばずには居られない。

「結婚しましょう?」

 この状況には似つかわしくない言葉。 

「一体何を…」

 僕の疑問に答えぬまま彼女は行動する。

「婚約指輪を作ったの。邪魔な女。私と彼の仲を引き裂く女。それを使って作った指輪。大事にしてね」

 その指輪はまさしく指輪。指で作られた輪。

 それを僕の指にはめようとする。輪の大きさが指に合う訳がない。

「やめろ!」

 僕は拒絶する。だが、しっかりと固定された体は動かすことが出来ない。

「あら、あわないわ…」

 少女は僕の指に狂気的な指輪をはめられずに困っている。ぽん、と手を叩く。

 そのすぐ後に、僕に激痛が走る。指を折られた。

「これで指輪が落ちないわ!」

 輪投げの要領で僕の指に指輪をはめる。

「ああ、これで二人の愛は永遠ね!」

「な、何が永遠だ!こんなの監禁じゃないか!気持ち悪い!やめてくれ!僕はこんなとこに居たくない!お前と同じ空間にいられるか!」

 僕は叫ぶ。

「うるさいわ」

 そう言うや否や、僕の舌の感覚がなくなる。いや、痛みはある。だが、舌が根元から無くなっていた。

「そんな目で見ないで」

 視界が消える。激痛が走る。

「耳障り?ごめんねすぐに聞こえないようにするわ」

 音がなくなる。激痛が走る。

「あら、耳が聞こえなくなったら私の愛の囁きが聞こえないわね…」

 何を言ってるか聞こえない。なにをやってるか見えない。怖い怖い痛い痛い痛い!!!!

 肌に刻まれる。

 あいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてるあいしてる。

 僕は意識を保っていられなかった。 


 肌をに余すことなく書き続ける。

 いつのまにか彼は動かなくなっていた。

「やっと私の愛を受け入れてくれたのね!」

 私の愛をしまわなきゃ!大きい箱に!

 ゴミとは違う風に綺麗にラッピングしなきゃ!

 私だけが愛してあげる。

 いつまでもいつまでもいつまでもあいしてあげる。

 だから、私だけを愛してね?

 

 僕は箱の中にいる。

 僕の世界は箱の中で、唯一、彼女だけが僕を愛してくれる。

 愛しています(殺して下さい)愛しています(殺して下さい)愛しています(殺して下さい)

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