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東方音楽人  作者: jackvaldy
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協奏曲・プリズムリバー三姉妹との出会い

次話投稿。書けるとは思わなかった。

三姉妹の口調とか、三姉妹についてはあまり詳しくないのでなんか変かも。そんときはごめん。


さてさて。このお屋敷、俺がお世話になっているお屋敷は白玉楼というらしい。

外の世界(俺的には元の世界というほうが俺の心情に近いが、この幻想郷ではそういうらしい)で何かの本で読んだ記憶がある、優れた文人が死ぬとこの白玉楼を訪れるらしい。楽士は言うまでもなく文人のうちだと思うので、著名な亡くなった音楽家に会えるかもしれない。ものすごく心躍る話だ、そのうち幽々子さんに聞いてみよう。

その幽々子さん、この白玉楼の主であるとともに冥界(!)の管理者であるらしく、実はすごい人なんだな、と思ったのを鮮明に覚えている。人は見た目では判断できない。

その幽々子さんに仕えているのが刀を持っていた魂魄妖夢。妖夢さん、と呼ぼうとしたら「妖夢で良いです」とのことだったのでさん、はつけない。

あともう一人あの場にいた紫さん。空間を切り裂いて現れたのはかなり驚くべきだったが、あのときの心境は何にも驚くことのできない心境だった。

とにかく、この白玉楼に住まわせてもらうのに必要な情報は得られた。住まわせてもらって、感謝感謝。


◇◆◇◆◇◆◇


とにかく、感謝を形にして恩を返そうと思う。


「妖夢、家事手伝いなどさせてもらえませんか?」

「何で名前は呼び捨てなのに口調は丁寧語なんですか」

「妖夢で良いとしか言われませんでしたから」

「普通呼び捨てにしたら丁寧語もしないと思うんですがね……。丁寧語もなしで良いですよ」


ふむ、そういうものか。額面どおりにしか言葉を受け取れないのは良くない。反省反省。


「え、でも妖夢は敬語じゃないか、俺も砕けた話し方で良いぞ?」

「うーんと、私はほとんど幽々子さまとしか話さないせいで、丁寧語しかほとんど話せなくて。基本誰にでもこうなんです。だから気にしなくて良いですよ」


ちょっと納得いかないな……まあ、いいか。


「それで、ただお世話になるのも良くないと思って。家事手伝いで、少しでも役に立てれば、と思うんだけど」

「あー、気持ちだけ受け取っておきます。確かに白玉楼にいるのは実は、私たち3人だけじゃないんです。家事は手伝ってくれる幽霊がいるんです」

「幽霊?」

「あ、幽霊、怖いとか思っちゃいますか?大丈夫です、すぐ慣れると思います。まあ生まれたときから幽霊や半霊と一緒の私だから幽霊を見慣れていない方のことは何も分かりませんけど」

「もしかしてたまに見る白くて浮かんでるのが……」

「はい、幽霊です。現世で死んだ人の魂ですね。あと、私のそばにいるのが半霊、私の半身です。私は半人半霊なので、このコと二人あわせて私なんです。半身だっていうのに、話もできないのが惜しまれますね」


妖夢が冗談っぽく笑う。俺もあわせて笑うが、あることに気付いた。


「その半霊、妖夢とシンクロしてたりする?」

「しんくろ?何です、それ?」

「あー、口で言うよりも実際にやったほうが分かるかな」


半霊に近づいて、撫でる。


「あっ……」

「どう?感触ある?」

「あります。へえ、こんな風になるんだ……」

「あれ、気付いてなかったっぽい?」

「今始めて知りました」


生まれてから一緒だといっても知らないことはあるんだな。

ちょっと半霊をつまんで引っ張ってみる。


「ふぁ!?ふぁふぃふるんふぇふか!?ふぉふぉひっふぁらはいれふははい!」


うん、何言ってるかわからん。

ただ妖夢の頬が勝手にのびている。


「きゃふっ!ちょ、奏人さ、ん、そんなこと、やめ、てください……ク、フフ、アハハハハハ!」


調子に乗ってくすぐってみる。今度は妖夢はくすぐったがり始めた。

半霊をかまっている俺は半霊をくすぐっているからわかるが、傍から見ると妖夢が腹の辺りを押さえて一人で笑い転げているように見えるだろう。頃合いと見て、俺はくすぐるのをやめた。


「はあ、はあ……やめてくださいよ奏人さん!笑い死にするとこだったじゃないですか!」

「ごめんごめん、おもしろくて」

「面白いで殺されたらかないませんよ!もうしないでくださいね!?」

「うん、もうしない。や、妖夢の様子がかわいくて止まらなかったんだ」


最後に一撫で。撫でると頭に感覚がいくようだ。妖夢の様子でそれが分かった。


「もうしないといったそばから……絶対そのうちまたやりますね」

「しないしない」


しかし妖夢の顔が赤い。ちょっとくすぐりすぎたな。


「で、話を戻すけど。その幽霊がいるから家事手伝いは要らないってこと?」

「悪びれもせず……。そのとおりです。実質私も食事作りぐらいしかやってませんから、掃除も食事作りの手伝いも幽霊たちがしてくれますし……庭師としての仕事も毎日するほどじゃありませんし」

「え、庭師?誰が?」

「わ・た・し・がです。言ってませんでしたっけ?この白玉楼の庭は全て私の管轄なんです」


妖夢は誇らしげに胸を張る。


「私の肩書きが『半人半霊の庭師』ですからね。剣を使うのはお庭番として必要だからです。幽々子さまに剣の指導をするのも私の仕事ですけど、最後の稽古は何年か前ですね……」

「庭師とお庭番ねえ……それって両立するものだっけ? 剣の指導もするって……

まあいいや、それで、結局俺のすることはないって事だよね」

「あ、はい。なので白玉楼に居続けないといけない、なんてことはないんです。自由にいろんなところへ行っていろんなことをしてきて良いんですよ。あ、でも」

「ん?なんかあるの?」

「いえ、その、なんと言うか……とりあえず説明しますね。

この白玉楼のあるのが冥界、それは良いですよね?で、こことは別にいろいろな世界があって……そのうちの一つが幻想郷です。幻想郷と冥界はつながっていて、歩いてでも行き来できます。その幻想郷は冥界よりはるかに広く、はるかに多くの者が住んでいます。人間、妖怪、妖精、天狗に河童。他にもたくさんいます。そして、気をつけてほしいのは、妖怪は人間を食べるということです」

「食……べる?」

「はい。暗闇に閉じ込めて食べるものもいれば、寒さを操ったり、それに吸血鬼もいます。弱肉強食の世界なんですよ、幻想郷は」


ふうん、とにかく怖いところだというのは分かった。しかし恐れるばかりでは何もできないじゃないか。


「まあ。とにかく外出を禁じたいわけじゃないので、不必要に恐れることはありません。ただ危機感を持ってもらいたいだけです」

「危機感だけじゃ何もできないだろ、妖怪の牙を逃れることもできない」

「だから、妖怪に襲われないために何かの策を講じる必要があるんです。当面は私がついていけば大丈夫ですが、いつまでもそんなこと続けられません。今すぐである必要がない代わり、考えておいてほしいということです」


妖怪、か。あったことないからわからないな。


「危機感のない顔してますね……言っておきますけど獣のような妖怪もいますがそれより一段恐ろしいのが少女をの形をした妖怪です」


は?少女?


「獣のような妖怪は頭が悪いので対処もそう難しくありません。切り伏せれば良いんですから」


おい。


「ですが少女の形をした妖怪は能力が使えます。なまじ強いより厄介ですよ」

「能力?」

「例えば私の能力は『剣術を扱う程度の能力』。幽々子さまは『死を操る程度の能力』。あまり能力は使われないですけど」


能力か。なんだかよく分からないがそういうものなんだろう。

しかし、気付けば、こっちに来てからずいぶんと人の言葉を鵜呑みにするようになったものだ。

良いことなのか悪いことなのか。


「……ということです。聞いてました?」

「あ、ああ。聞いてた聞いてた」


ホントは何言ってたか全く聞いてなかったけど。


「あやしいですね。じゃ、幽々子さまに許可取ってきます、出かける準備しておいてください」


そういって走っていった。そうか妖夢は出かける話をしていたのか。

しかし俺に準備って言ったってねえ……俺、着の身着のままここにいたんだぜ?


◇◆◇◆◇◆◇


「奏人さん、幽々子さまの許可をもらってきました、って、あ、出かける準備してないじゃないですか。やっぱり聞いてなかったんですね」

「違うって、ちゃんと聞いてたって。出かける準備ってったって俺、荷物なんて何も持ってないんだから。何も準備できないって」

「あ、そうですね。それは考えが至らずすみませんでした……で、ちゃんと話を聞いてたのなら今からどこへ行くか分かっているはずですね?言ってみてもらえますか?」


う、しまった。これはマズイ。

しかし言えばあたる確率もあるし……あてずっぽうでも言うしかない。


「えーと、人間の里?」

「ぶー。違います。やっぱり聞いてなかったんですね。幻想郷に行くとは言いましたが、どこへ行くとは言ってませんよ。やっぱり聞いてなかったんですね」


しまった、カマかけたか、策士め!


◇◆◇◆◇◆◇


「奏人さーん?もっと早く歩いてくださいよ、幻想郷につくころには日が暮れちゃいますよー?」


現在、妖夢の案内で冥界から幻想郷への道を歩いているのだが、


「遠すぎる……」

「奏人さん、何か言いましたか?」

「いや、もうちょっとゆっくり歩いてくれと言ったんだ」

「奏人さん、体力なさ過ぎですよ」

「妖夢がありすぎるんだ……」


どうしてこんなに長い道なのだろう。疲れた……


「これくらいの体力はつけないと妖怪に食べられちゃいますよ……

奏人さんは長い道だといいますが大抵の者は四半時もあればこんな道、端から端までいけますよ」

「いや、絶対ない、それはない」

「いえ、言い忘れてましたけど大抵の者は空を飛べるんで。奏人さんもがんばれば飛べるかも知れませんよ」

「空?ほんとに飛べるのか?」

「はい。幽々子さまも紫様も飛べます。紫様はスキマを使うので飛ぶ必要もないんですが」

「妖夢も?」

「もちろん。でも、私より上手に飛ぶ人たちがいるので、必要に迫られたときしか飛びません」

「その、どうやって飛ぶんだ?」


楽にこの道を抜けられる方法が見つかったと思ったのだが。


「どうやってといっても……物心ついたときにはできていたもので。どうやって飛ぶ、というのはどうやって呼吸をするのか、と問うぐらい答えに困る質問です」


かなりがっくり来た。


◇◆◇◆◇◆◇


しかし、そのあと少し歩いたところで、


「楽器の音がする……」

「音?ああ、あの三姉妹ですか……奏人さん、耳をふさいだほうが良いですよ、って走った!?そんな元気あるなら最初から走ってくれれば良かったじゃないですか!」


妖夢の声を後ろに聞きながら走る。

楽器の音を聞いて落ち着かないでいられるか!

誰が演奏しているのか、どんな演奏をしているのか、曲目は。

知りたくてたまらない。

走って、かなり音が近くなった、と思ったら3人組の姿が見えてきた。

もっと近づくと、それぞれの楽器も分かる。

トランペット、バイオリン(ヴィオラかと一瞬思ったが音域でバイオリンだと分かった)、それとキーボード。


「あら?ルナサ、誰か来たわよ?」

「人間?どうして冥界に?」

「というか、私たち数日前からずっとこの冥界の入り口にいるけど、人間なんて一人も入ってないよね?」


こっちに気付いたようで、演奏を止め、会話し始めた。

どうして止めるんだ、どうして聞かせてくれないんだ!


「何の曲を演奏していたのか、どんな演奏をしていたのか、聞かせてくれないか?!」

「奏人さん、三人とも引いてますよ……」

「演奏して聞かせてみてくれないか?!」

「あ、それはちょっと、やめたほうが……」


三人は楽器を構えてくれた。演奏してくれるんだな!

そして……




音は3つの楽器から出ているはずなのに、見事に一体化した一つの音になっている。

それもこじんまりして萎縮した残念な演奏ではなく、例えるなら流れる川のような。

揺れる、水かさが増える、細かく緩急がある、美しい山から流れる、それは正に川。




「すごい……」


意識しないうちに、俺は感嘆の声を漏らしていた。

ここまで整った音楽を生で聴いたのは初めてだ。ベルリンフィルは大人数ゆえに、音とは違う、個人々々からでる雰囲気というものがあり、どうもすっきりしない演奏だった。音は素晴らしいことこの上なかったが。

しかし、音量で音楽は比べられない。それを体感した。


「あの、あんた大丈夫?」

「これが大丈夫でいられるものか。こんなに良い演奏を聞かせてもらって感謝が絶えないくらいだ」

「いやそうじゃなくて。三人で演奏すると大丈夫だけど、今はバランスを少し変えて私が鬱になる様な演奏をしたから、あんたは鬱な気分になってないとおかしいんだけどね。どう見てもあんた鬱じゃないでしょう。知らない間に能力が入れ替わったなんてあるわけないし」

「鬱?何なんだそれは?」

「私の能力、鬱の音を演奏する程度の能力。聞いた人は鬱な気分になるの」

「私は躁の音を」


トランペットを持つ子が言い、


「私は幻想の音ね」


キーボードの子が言った。

あれ、キーボード浮いてね?


「そりゃ、私たちは騒霊だからね。楽器は触らなくても鳴らせるし、動かせる。浮かせても何の不思議もないんじゃない?」


いや、もんのすごい不思議だけど。でも、それがこの幻想郷なんだろう。


「自己紹介したほうが良いかな?私はルナサ・プリズムリバー。トランペット持ってるのがメルラン、キーボードがリリカ。姉妹だから、みんな名前にプリズムリバーがつくわ。そして、私たちは騒霊っていって、幽霊の一種よ。そんであんたは?」

「ああ、俺は長町奏人。音楽が何よりもすきな人間だ」

「私たちの音楽を聞いてただでいられるとか、ホントに人間?まあいいけど」


ルナサが肩をすくめる。

さっきから基本的にルナサが俺との会話を担当している。メルランとリリカは一言しか話していない。

そんなことより。


「さっき演奏していた曲は?聞いたところ14世紀後半のイギリスあたりの音楽に聞こえたけれど」

「さあ、いつの曲とか、どこの誰が作ったとかは全く知らないわ。聞いたことがある曲だから記憶のまま演奏しているだけ」

「そうなのか」


となるといつごろに死んだのか考える必要があるのだろうか。


「ところで、どれか楽器を貸してくれないか?」

「なんで?」

「お返しというと変だけど、素晴らしい演奏を聞かせてもらったんだ、こっちからも何か返したい。どれか、今だけ貸してくれないか?」


ルナサたちは目配せしてから、ルナサがバイオリンを渡してきた。


「じゃあ、楽器を借りて……。

 曲は、カントリー・ロード。」



歩いても歩いても終わりが無いこの冥界の道を。

先の見えない未来への期待を。

帰れない故郷を。

何より、音楽のある喜びを。

たった4本の弦で、心のままに音を奏でた。



◇◆◇◆◇◆◇



しばらく弾きまくって、メルランとリリカとの合奏になり、曲が終わるころには薄く汗を書いていた。演奏というのは体力を使うものだ。


「3人でお楽しみだったようで良かったわね。楽器の無い私は手持ち無沙汰だったわ」

「即興で歌詞をつければよかったじゃない」

「あんたの名前と違って私は歌詞を作るなんてできないのよ」


名前。リリカ。そういうことか。


「ま、完璧な観客に徹してたわけだけど。良いわね、あんたの演奏。

私たちはたいていここにいるわ。ライブでいないときもあるけど。何か楽器持って来なさい。一緒に演奏してあげるわ」

「「姉さん積極的ぃー」」

「うるっさい!!」


かしましい3人を見ながら。


「ありがとう。何度も来るよ。」


音楽の分かる人(?)がいて本当に良かったと思った。





「あ、そこの体育座りしてる庭師、ちゃんと持って帰りなさいよ」


ルナサに言われて後ろを見ると、鬱そうな顔で体育座りしている妖夢がいた。


ところで今まで書いた中で最高文字数、これ。

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