占い
「私の願い、叶いますか」
女は聞く。男は飄々と答える。
「さぁ?」
「さぁ、って。占い得意なんですよね」
女は声を荒げ、苦笑する。「このあいだ、私の友達を占っていたじゃないですか」
男は痩せた白い顔で女を見上げた。
「彼女の未来に危険を予知したから忠告したまでです」
「ほら、未来、予知できるんじゃないですか。だったら、」
「未来は変わります」
「今のところは、どうなんですか」
女はイライラと腰に手を当てた。男は目を細め、笑う。
「叶いません、っていったら、どうするんですか」
「えっ」
「叶いますっていったら?」
「あの?」
「あなたは、今それを知ってどうするんですか」
女は言い返せず、仕方なく男を見つめた。
男も無言で女を見つめ返す。
しばしの沈黙。
「あなたの夢は叶いますよ」
と、男が不意に真顔で言った。
女は目を見開いたが、男は続ける。「今のところは」
「私が今伝えた事で、少なからず未来に変化は生じます」
「それ、先に言ってください」女は鼻を膨らませた。「せっかく叶うってわかったのに」
「だから、一つ言っておきますけど」
男はまた目を細めた。「未来は変わるんですよ」
「あなたの夢は、俺の一言で簡単に崩れてしまうようなものなんですか」
男はそう言うと女を指差した。
「あなたの未来はあなたが決めるんですよ」
数年後、女は作家になった。
そして一つの短編を書いた。
占いが得意な、不思議な男の話である。
ファンタジーばかり書いていた女には珍しい、ノンフィクションであった。