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孤独な姫君たちの蜜の駆け引き  作者: 和泉葉也


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宮廷の幕間(4)

 ニオブに呼ばれたエリヴァルが席を立つと、男たちの緊張はようやく解かれた。

 そこまで気を張っていたとは思わなかったリリスは驚き、布に冷水を浸して二人に手渡す。


「そんなに硬くなる、者なのですね。アキニム義兄様はわかりますけど、ウィードまでも」

「相手が王女殿下じゃ、マトモに接するのだけで精一杯だよ。シュテイン卿なんて呼ばれては居ても、単なる貴族の末席でしかないんだから。案外、呼び出しは口実で、オレたちのために部屋を出たのかもな」


 冷えた布で顔を拭い、ウィードはリリスの膝にもたれた。少しアキニムの表情が歪んだが、気にせずリリスは優しく額を撫でる。


「候補者のもう一人がお前で安心したよ。もう少し肝を強く持たないと、王族の相手は難しそうだ。

 しかし、噂以上の美姫だな。嫁がれた第一王女は対になる美しさと聞いていたが、リリスが惚れ込むのもよく分かる」

「元ご主人様としてお支え出来たのは、リリスティンの誇りです。多少はおてんばで言葉遣いが乱雑なのは、たまにキズですけどね……。甘いお菓子がお好きなので、当商会でのご相談もお待ちしております」


「そうさせて貰うよ、リリス。それにアキニム、今のうちに礼を忘れて粗野な言動を心得た方が良さそうだぞ。此処は思っていた以上の魔窟だ。下手に畏まって敬意なんか送っていたら、息も出来なくなる。この国の有力貴族が候補から退いて、末端の当家と元商家のそちらさんに矢が当てられたのも、オーカス将軍の怒りに触れて打ち捨てられかねないからだろうな」


「捨て駒の人数合わせとしては、僕らは最適だからね。こちらもウィードと呼ばせて貰うよ。王女殿下を呼び捨てにするには、少し慣れが必要そうだけどね」


 天下の王弟に他国からウェイクフィールドとロイヤルアゼールの王室、三人に対抗出来るのは後ろ盾の無さからくる安心感と野心だけ。


「こちらにはリリスを嫁に貰って、王女殿下には即位して貰うという奥の手も有る。まあ、妥協だがな」

「随分な言い分ですこと……」

「お前で我慢してやるから、有り難く思えという求愛の心だよ」


 ウィードは、先ほど踏みつけられた箇所を更に蹴り飛ばされる。靴の踵からぶつけているので、後で脛は青痣になるだろう。


「この間まで平民だった僕が言うのも何だけど、相手は侯爵令嬢。君はギリギリ伯爵位の家柄。反抗は無礼だよ」

「元商家無勢が、早速階級で差をつけてくるとは随分じゃないか。ティン侯爵令嬢、お前のところの義兄は貴族教育を学ばせた方がいいぞ」


「それを一番学ぶべきは、ウィードですけどね」

「階級は、現時点でオレが最下位だからな。せいぜいお貴族様に甘えさせて貰って学ぶとするさ」


 サーバースタンドから果実を取り、罰が悪そうに口に放り込む。蹴り飛ばされた脛をさすりつつ、再びリリスの膝に寝転んでアキニムを威嚇した。


「ーーーおや、随分と仲良しになってる」


 ニオブからの用を済ませたエリヴァルが戻ってきた途端、リリスから離されたウィードはソファーに投げ出される。先ほどの緊張はどこへやら、王女殿下を前に手を振り、逃げ腰なリリスの肩を引っ張って無理やり抱きしめた。


「リリスが侯爵令嬢となったから、過去の温情に縋ってるんだ」

「ちょっと、ウィード! 戯れもいい加減に」


「少し妬けるねリリス。新しい部屋の寝心地を確かめにでも行くのかい? ボクとあんなに愛し合った日々は夢のまぼろしかな」

「エリヴァル、嘘は結構ですから」


 アキニムに引き離され、ウィードはようやく元のように落ち着いた。婚約候補者の中では自分が2番目の階級と思っていたのが、まさかのルブライト家の特進で最下位になったのを自覚したのがショックだったらしい。


「居ない間に仲間外れみたいで、少し寂しいね。ちょっとだけ、挨拶代わりに……」


 腰掛けたままのウィードの頬に触れると、エリヴァルは囁くように唇を合わせた。驚きや呻きを上げる暇もなく、アキニムにも口付けて満足気に微笑む。


「おや、恋多きシュテイン卿の御子息のわりに初々しい反応だ。アキニムは、わりと慣れているようだね」

「お、お前。仮にも王女が……」

「民に祝福を贈り慣れているからね、キスをした相手は数えきれないよ。もちろん、リリスや姉上ともね」


 口元に指を当てると、ウィードの顔は更に赤くなっていく。その反応が気に入ったのか、2度目に向かう所でリリスが腰紐を引っ張って止めに入り、男たちはようやく安堵のため息を漏らした。


「歓迎の証し、とでも思ってくれると嬉しいよ。

 婚約候補者レースではあるけど、何しろボクは籠の鳥でおまけに姉上とも引き離され、傷心の身なんだ」


 すっかり席から立てなくなっていた男2人の頭を撫でながら、エリヴァルはニオブから受け取っただろうワインを振る舞う。

 顔合わせの歓迎方法としては強すぎる印象に、見たこともないような年代もののラベルと美酒。

 茶会の次は宴の席、と向かうにはまだ心構えが必要だった。

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