待ち合わせのメッセージ(2)
城内に作られた居城は、全部で五つの部屋と従僕達の住まいがあった。
外と繋がる廊下には侍女と小間使い用の小部屋とバルコニー、作物を育てる庭と小さな庭園が備えられてる。
初老の侍女のナタリーは、ヘリティギア王に仕えるのが決まった時から外出を許されず、従僕の姉妹ニーナとレインはその一生涯を小さな城の中で過ごす。
従僕は世襲で決められ、ある程度の年齢が過ぎてから親元を離れ、行儀見習いを経て永遠に外には出られない。墓は庭園に造られ、勤めの最中に死んだとしても国王から離れる事は許されず、舌先に開けられたピアスから伸びた枷は、従僕たちから声を発する事を奪い、王に願いを告げる事も拒絶する事も出来ないように幼い頃から教育をされる。
長い歴史の伝統から生まれた、王とその伴侶にだけしか知られる事はない。隠された一族の呪縛のような絆。
一晩眠ると熱はすっかり冷め、診察をした医師からは懐妊から三か月目に入ったようだと伝えられた。
子供を産む瞬間でさえ我が子は王の居城に住まうのを許されず、出産の場所は城内に限られているらしい。
エリヴァルの荷物の整理に追われる姉妹の前で苛立ち、豪華な寝台を殴りつけても従僕は何も反応を見せない。訓練されているから、指名を果たすだけのための人形だから。
二人の髪には、女王が贈っただろう手作りの銀細工が飾られていた。母上は彼女たちを愛し、慈しんだ。そして、こんな悲しい二人の事は、誰にも知られたくはなかっただろう……。
姉妹は、ヘリティギア女王にもう会う事はない。母を何度となく慰めてきたナタリーも、それは同じだ。
最初に王宮へ送られて来た時、王妃に庇護されて教育を受けると聞いていた。
だから、この居城の入り口にある門は、何度も何度も助けを求めて叩き続けた場所でもある。
兵士達は決して誰も取り次がない、どんなに望もうとも小さな王女が懇願しようとも居城に王とその伴侶以外を住まわせる事はない。
入れるのは宮廷医師長と、最後の祈りを捧げる司祭のみ。小間使いたちでさえ、廊下の扉の前までしか入室を許されず、王自身がどんなに願っても伴侶以外の人間を招き入れる事は出来ない。
「ーーニーナ、レイン。お前たち二人は、王のどんな願いでも聞くように命じられているそうだね。ボクがお互いをナイフで刺して殺し合えと言えば決闘を始めて、そこの窓から飛び降りろと命じれば揃って死ぬのかい?」
大きく首を縦に振り、姉妹はその命令を待ちわびた。
ナイフを手渡せば手に取り、お互いの心臓に向けて構えるように伝えればすぐに従った。
こんな空間に、何年も母上は押し込まれていた……。自由に娘達に会う事も許されず、子爵令嬢が中継ぎの代理王として君臨し、話し相手は侍女一人だけ。
「ニーナは片足立ちをして、その場で跳ねてご覧。レインは口に指を当てて、腕を振りながら部屋の中を歩き回るんだ……」
一呼吸置いてからニーナは不器用に跳ね続け、レインは子供のように室内を駆け回った。
女の子達にこんな事をさせて、自由な意思を奪うのが王家の伝統。元老院が必死で守り続けていた血の絆。エリヴァルが即位しなければ、リリスがここに立っていたはずの、腐敗した居城。
二人に止めるように命じて、思い切り笑った。
何が伝統だというのだ、こんな物に縛られて、こんな場所に入りたくてカスティア伯母さまはボクや父上を苛め抜いたというのか……?
「ニーナ、レイン。ボクは、昨日からイウス女王として即位した。戴冠式こそ終えてないが、前王が宣言した瞬間からボクは王となったんだ。
この国で誰よりも偉くて、誰もが僕に跪かなくてはならない。ボクの命令する事は絶対だ、だから君たち二人はイウス王が決めた事に決して逆らってはならない。それを、今この場で誓えるね?」
力強く首を縦に振り、姉妹はエリヴァルの足元に膝を付けた。
レインにニーナを捕まえておくように命じて、その手を決して離すなと更に付け加える。
「ボクは、母上を除く歴代の国王が大嫌いな暴君なんだ。民からは、退屈なクイーンという愛称で呼ばれているくらいさ…。
孤独が嫌いなんだ、退屈な事が嫌なんだ。だから、君たちから言葉を奪うような枷も大嫌いなんだ。君たちは王のために生まれた従僕なんだから、わかるね……?
ボクの命令には、絶対に従わなくてはならない。君たちに言いつけた相手の言葉を優先してはならない。イウス王は、もうすぐ母となる。こんな腐った伝統に縛られた王室を、次代の御子に決して引き継がせたくはない」
「………………くっ、んっ!」
ニーナが身じろいだ。口を塞いで指先の侵入を拒み、全身で拒絶を繰り返す。
「レイン、絶対にお前はニーナを離してはいけない。ニーナは、王の命令に決して背いてはならない。口を開くんだ! 口を開いて舌を出して、私の前に見せよ」




