王の義弟(3)
ーーー状況を一度、整理してみよう。
前皇太子。エリヴァルの父は、即位前にお隠れになった。実子はエリヴァル1人のみで、前皇太子の姉弟は流行り病で亡くなっている。
元々、即位の予定も無かった関係で、娘エリヴァルへの帝王学指導や心構えも皆無。
現在、例外的な中継ぎとして即位したのは、エリヴァルの母。子爵の血筋だが、継承権的にも弱く、女王の義理の弟、遠縁の養子でもある王弟オーカスの地位は更に遠い。姉姫は前皇太子との実子ではなく、そもそも継承権が存在しない。
更に血縁を辿るなら、前国王の叔父の親戚にまで遡る事になってしまい、平民との間の妾腹ではあるが、その叔父の孫の侍女長リリスティンの方が遥かに継承権が高い。
既に高齢になった現女王に親戚筋を加えた御子を望むのは難しく、正式な継承権を持つ者はエリヴァルイウスただ1人。成人後にはイウス女王となる事は確定で、出来れば前王の叔父の親戚筋か王弟オーカスとの婚姻による御子が産まれるのが望ましい。もちろん、生まれたエリヴァルの子供は、これから出来るであろう姉姫の御子との婚姻がほぼ決まっている。リリスティンが縁談するなりして子供が生まれたりしたら、その子も婚約候補者の1人だ。
つまり、エリヴァルイウスは血筋を守るための政略結婚を強いられ、多少は無理強いされようとも、子供さえ産ませれば王家は安泰である。結婚相手は既に絞られていて、産まれた子供の相手先も候補が狭まっている。彼女に恋愛は求められず、子供にさえその自由は存在しない。
そんな状況ではエリヴァルが反発したくなるのも当然で、恋心を抱いていた愛しい姉姫は強制的に親戚筋に嫁がされて接触禁止。女王の即位後は王宮から出ることも許されず、提示されたカードの中からの恋人選びが続いていた。
「リリスが、陛下の養女になってくれたら、少しは気持ちが軽かったんだけど……」
血筋とはいえ、妾の娘。今のように一度前国王の叔父の親戚、商家ルブライト家の養女になってから王家に血筋を残す方が、対外的にも納得である。
「女王の親戚筋だが爵位は持たないルブライト家の長子、アキニム兄様。本命候補、女王の義弟オーカス・ウォム様。末端貴族だが、将来性は抜群のお金持ち、シュテイン・カーゲン家。末端の王族だが家柄は悪くない、ウェイクフィールド家。遠方の王族だが一応親戚筋の、ロイヤルアゼール家……」
「リリスのトトカルチョ候補者は、その五名か」
「まだ外縁の方々の候補者は定まっていませんが、恐らく各家の長子になるでしょうね。
まずは来週末から、シード選手のオーカス様が繋がりのお部屋。上階の隅に義兄様がお住まいになるそうです。とすると、お隣の日差しの良い部屋にロイヤルアゼール家。反対側にカーゲン家。上階の大部屋がウェイクフィールド家ですわね」
「完全に叔父上が、競走馬の監督役じゃないか。ボクの部屋に出走馬が入ってきたら、馬に鞭でも振るんだろ?」
「オーカス様は乗馬もお得意ですし、弓や鞭にも長けていらっしゃいますからね……」
「要するに、ボクの役割はぶら下がっている人参の役目と言いたいんだね」
継承者として育てられたわけでもない、女王と同様の中継ぎが精一杯の自分にとっての役割は、その程度だろう。
「人参なんてご無礼な。熊が欲しがる甘い蜜蝋が、我が愛しき姫君のお役目です」
「まだ、人参の方が救いがあったよ……。まずは小部屋の蝶番を壊して、隙間をコルタールで埋める対策から始めるとする」
「迫られると断れないエリヴァルが、そんな労力を費やしても防壁にすらならないと思うわ」
「断れないわけではないよ、ただその」
「甘えられると、寂しがり屋の姫様は気が緩むんですよね」
「ーーーねえ、リリスティン。繋がりの部屋から君が移ると言うことは、日差しの良い隣部屋の脇の小部屋が新しいお住まいだよね。それも、陛下のご指示での配置」
「もちろんですわ。私は侍女として、エリヴァルのトトカルチョを見届ける義務がありますし」
「と言うことは、熊が欲しがる甘い蜂蜜には、ノッデ・リリスティン・ルブライトも含まれているという事さ……」
絶句。とでも言い表すしかない程に、リリスは顔を歪ませてスカートの裾を握り締めた。
一人で苛めに合うよりも、犠牲者が居てくれる方がありがたかった。




