異国からの訪問者(3)
「ーーー宰相補佐官のニオブ・ウィラストンです。
皆さまに不出来な王女殿下に代わって、説明の補足を致します」
頭を抱えながらニオブが前に出る。エリヴァルは侍従二人に腕を押さえられ、不服そうにシャンパンを飲み干した。
「まずは、この暮らしのサポートをする者たちについてお伝えしておきましょう。
皆さまをご案内して来ました、背の高い方の従者が侍従長のノースです。国の財務を担っており、言わば金庫番のようなもの。その隣のタリアは、補佐役の経理監査を務める侍従。二人とも我が国の重役でも有り、財布の紐を握っている者たちのため、費用は惜しまない事をお約束します……」
「どうせ、ボクへの費用は惜しまれるんだろ……?」
「……ご存知の通り、我が国では貴族院が流行り病により激減した関係から、元老院のご老体が陛下の補佐役を務めております。しかしながら年長者が多い為、我々のような長老の息女が表立った財務を支えている事をお許し下さい」
エリヴァルの愚痴は無視して、ニオブは次の句を続ける。
「皆さまに詳細は事前にご説明しましたが、我が国では、女性優遇の王位継承を基本としており、王女が産まれた場合は第一王子より継承権が優先されます。
しかし、女王として一度即位するまでは婚姻を結ぶ事が出来ない為、仮の婚約をしておく必要があり、今回の同居案が持ち上がった次第です」
「ーーーあの。何故、王女の場合。即位前に結婚は出来ないのでしょうか…?」
フィンネルがそっと挙手をして質問をする。
同居となる経緯は聞いていたものの、結婚に至るシステムまではこちらも把握してはいなかった。
「夫婦の妻だけが即位する、という形になり対外的にも宗派的にも王としての威厳が失われるからです。
古い風習みたいなものに近いですが、女性優遇の継承順序だったため女王としての地位の方が男の国王より上、と考える国民が大半です……」
「……待ってください。つまり、エリヴァルは即位するまで誰とも婚礼を上げる事は出来ないのですか?」
急遽参加で、詳細を知らなかったリリスが飛び出してきた。婚姻を目的とした同居だと城で働く者たちは信じきっていたので、エリヴァルがそこまで婚約を嫌っていた理由がそこにあったとは思いもしなかった。
「ボクは、即位するまで誰とも結婚は出来ない。だから、婚約して誰かを繋ぎ留めるのは乗り気じゃないし、陛下の退位が間近でも、すぐに戴冠式を行えるわけでもない……それまでは、退屈な日々を過ごすクイーン候補。子を成しても、歳を取りすぎても、即位の準備を終えるまでは未婚の姫君になるのさ」
「ごめんなさい……。私、エリヴァルが新しい恋を探せるみたいに思っていたわ。私だけじゃなくて、侍女や小間使いの者たちまで夢物語みたいに……」
涙を流すリリスに駆け寄り、そっと目尻に口付けて指先で涙を拭う。エリヴァルの心境とは真逆だが、城下の者にとって、王女のロマンスは話題の的でしかなかった。
「……既にリリスも巻き込まれたのだから、今更気にしても仕方ないだろ。別に結婚が全てでもないし、ボクが恋に落ちる可能性だってあるからね。ニオブ、話を続けて……」
「ーーーはい、それでは続けます」
「……歴代の女王は即位前にある程度の候補を選んで、仮の婚礼を結び出産をしてから即位するケースが一般的でした。もっとも、そういった特殊な性質から、即位後も婚礼は行わず、同性の恋人を持つ女王が居たケースも多々有ったそうです……。
今回の同居案は、王位継承候補者が少なく、血筋を保つ目的もある為、特に期間を設けず、男性の候補の方の途中辞退も認める形で議会の方で成立致しました……」
「候補者の追加の可能性や、辞退による…。早い話がこの姫とは合わないと思ったら、家に帰っていいよ権が与えられている。という事さ、適当にボクたちの味見をして恩賞を受け取るのも自由だ」
「エリヴァルは、それでいいの……? そんな、お飾りのような役割……」
この条件では、明らかに姫君側が不利だ。男性が権力だけを握ってしまう可能性もある。
それを指摘しようと思ったリリスだったが、エリヴァルは承知の上だったのか手を掲げて静止する。
「……過去に婚礼が即位まで行えない事を理由に、歪んでしまった女王や王位を辞退する王女も少なく無かった。だから、言わば囲われたハレムのような状態ではあるけれど、一度実績を作っておけば将来的にも王室は安泰というわけさ」
「婚礼を行えない姫君のための、男たちを集めた場所……というわけね、元老院の長老達が得意げに語っている姿が容易に想像出来そうよ」
二人から軽蔑の眼差しを送られたニオブは、そっと目を逸らしてから説明を続けていく。
古傷に痛みを覚え、エリヴァルは首の後ろを撫でながら候補者の顔色を窺った。
突然の話では有ったが、退屈な日々となる女王候補の時間を誰か一人を選んで過ごす気にはなれなかったし、こんな機会にならなければリリスとも引き離されただろう。
よく練り上げられたご年配方の案に感服し、エリヴァルイウスからの心からの殺意を抱いた所で、顔合わせも兼ねた説明会は終わりを告げた。




